神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

73話

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私は、私が凡人である事を理解している。


それは、とても幼い時の記憶がきっかけだった。書庫に閉じ込められているも同然だったのだと、今でこそわかる。



優秀な兄が居たらしい。それも朧げだ。わかる事は、自分が凡人である事、そして……




かつての師が、今敵として前に立ちはだかっている事だ。




「……どうやら、あちこちで始まっているようですね。しかし……谷透…いえ、今は『白獅子』でしたね。君とは犬猿の仲のように見えましたが…どうやら、今の君はそうでも無いようですね」

目の前に立つ、かつての師が微笑む。

「………貴方は処す。師であったとしても、もはや関係ない」

「ふふっ…その目、そっくりですね…彼に」


破狩は懐かしむような眼差しで、風切を見る。



ゆっくり解魔槍を構えると、片手に刀を持ち続ける。


「……きっと、貴方はもう少し別のやり方があるだろうと、言うのでしょうね」

「……興味は…無いッ!」


風切は抜いた刀で破狩に仕掛ける。だが……



「……やれやれ…その剣技は、一体誰が教えたと思っているのです?」

「……ッ」



全て見切られている、当然だ。一体いつからこの人に剣を教わっていたのか、それは自分が一番よくわかっている。


「……はぁ…六武衆となり、少しは成長したかと思っていましたが…どうやら私の思い違いだったようですね」

ドンっと刀で鳩尾を殴られ、解魔槍で頭を殴られる。

「…貴方の兄は非常に強い方でした……今どこで何をしているのやら……」

「はぁ…はぁ…」

頭から血を流しながらこちらを睨む風切を、微笑みながら見下す破狩。


「貴方は知らないでしょう…あの人が…悠斬さんがどれほどの思いで貴方を守っていたのか…」

ゴッ!と横たわる風切の腹部に蹴りが入る。

「悠斬さんが、必死の思いで繋いだ命…それを淡々ととして処理する一ノ門」

立て続けに、蹴りが入る。

「そして、神の脅威に備える同士であるというのに、三ツ谷を軽んじ、貶めるその意地汚さ」

強めに蹴りが入り、風切の体は地面を滑る。

「……果たして、そんな組織を守る意味はあるのでしょうか?」

破狩はフーッと一息吐くと、刀を納刀して続ける。

「ここまで痛めつけて置いてどの口が、と言われそうですが……」

破狩は屈みながら、風切へと手を差し出す。

「出来れば私は貴方を殺したくは無い。一緒に神社を滅ぼしましょう。その後で、私はゼシに対抗する」


破狩の目的はあくまで、『今の神社』の存在を瓦解させること。つまり、残存している組織の神守や六武衆を滅ぼすことを目標としている。


「神守や武神の方々も滅ぼすつもりでした…何せ神社にとっての強大な力なのですから……しかし、風切さん…貴方は別です。私のように『穢れ』を扱える人間になれば、貴方はきっと……そうですね…フヌゥムの首にも手が届くでしょう」

言った後に、破狩は思い出すように話す。

「あぁ、君はまだ面識がないのでしたね。『四堕神』と言われるゼシの手駒がいるのですが、その中でも最強の神、それが『フヌゥム』です。全力の私でも五分でしょう。君はきっとそんな存在になれる」

破狩は、穏やかな表情で言葉を流し続ける。

「そうなれば、君はもう『非才』でも『凡人』でもない…紛れもない『強者』へとなれるのですよ?」

「………」







『1回だけだ。1度だけ私が教えてやる」

『……へぇ?』

最初はどこの馬の骨かと思っていたが、どうやらそこそこやる奴だと感じたことを覚えている。

『御前試合』の前の晩、三ツ谷の面々や、六武衆の方まで来ていたことを覚えている。


「……なぁ、優等生サマよ」

「無駄口を叩くな。私の気が変わっても良いのか野蛮人」

「…まぁ、それは困るが、ちょっと気になってな。アンタ、持ってるだろ?『異能』」

「………何?」

風切は怪訝な顔をして答える。

「最初から不思議だったんだよ…いや、今でこそか?アンタはあの三ツ谷の中の神守で一番強かったはずだ。その神守が三ツ谷を空けて……穢れた神だかなんだかしらねぇが、それを殺しに同行している事だよ」

行ったんだ」

……この男は…頭が悪そうな立ち振る舞いの割によく頭が回る。

「アンタ、式神でも持ってるんだろ?神社を見張らせるような簡易的な奴を」

谷透は続ける。

「……お前、

「…何?」

「何をどう思ってるのかは知らねぇが、使える手を使ってねぇことだよ」

谷透は剣を収めると横目で風切を見ながら続ける。

「まだお前について詳しい事は知らねぇが…お前は多分、不確定要素を徹底的に考慮しないな。むしろその他の要素を過剰に避けて、確定した事項でのみ物事を判断してるように感じるぜ?」

剣を地面に刺して、その上に手を置きながら続ける。

「評価が低いのはかまわねぇけどな。手札を持ってるくせに切らないのはただの阿呆だぞ」

「五月蝿いぞ野蛮人」

「……ま、俺には関係ねぇか。ま、気が向いたら最大限やってみろよ…きっと楽しい」

「……私には理解できんな」

「あーそーかよ」


この時の態度に、何故腹が立たなかったのだろう。


……いや、解っている。解っていた。

響いていたのだ、この男の言葉が。






風切はゆらりと立ち上がる。

「……おや?どうされましたか?」

「…………」

風切は胸元を探るような動作をすると、何かを取り出した。破狩は警戒するように1度距離を取る。



「………………~~…」

「……?」

風切が何を呟いていた。

「……~~…………~~……」

(……何を言っているんでしょう?)

……錯乱したのだろうか?それにしても様子がおかしい。





幼い頃、父親に書斎に閉じ込められていた事を覚えている。自分から入っていた記憶は無いが、居心地がよかったのは覚えている。

何も煩わしさを感じず、ただただ耽っていた。本の中の知識に。

今でも、本を取る習慣は抜けていない。







………




この国の神社の特徴や伝承、民俗的知識に至るまで。全て。


そこでふと目が止まった頁があったのを、覚えている。



と呼ばれる、三大神社に属していない神社において。


巫女は、式神を呼び出す際に小さめの和紙を用いるのだそうだ。

合理的だと感じた事を覚えている。



かさばらず、それでいて持ち運びが容易。



そして、切る、濡らす、破く、燃やす。如何様にも術的意味を持たせる事が可能。


……………………



……私は凡人だ。その理解は変わっていない。






「……白獅子を継いだあの男のように、逸材や天才は必ず現れる……私は凡人だ」

「……いきなりなんの話しです?」

「だが……組織が組織として存在する以上、それを動かすのは私のような凡人だ…」


風切は、胸元から取り出したを目の前に出す。



「ならば私は……」



パチリと、静電気が和紙に伝わった。



「私は……その、最たる模範であり続けるッ!!」


風切は、矢継ぎ早に何かを詠唱していた。


「民間伝承より、稲妻を虎と表した一文を1部引用」

「民俗的文学より、稲妻を雷と表現変更」

「伝説より、雷を纏う虎を1部引用」

「調伏過程……

風切は息を吸い込み、高々に叫ぶ。



「来いッ!雷虎ライコッ!!」




バチリッ!!と和紙が激しく点滅し、それから1匹の大柄な虎が飛び出す。


「グッ!?」

和紙から飛び出した虎は、雷を纏って突進して来た。直撃は免れたが、纏っている雷で手足が痺れる。


(何故だっ!?風切さんにこのような力は無いッ!!そもそも、雷虎なんて式神は聞いたことが……ッ!!?)


先程、彼はなんて言っていた?



1



(まさか………)

破狩は、ここに来て初めて冷や汗を垂らす。

(まさか……!?伝承や伝説から文章を引用して…!?)

破狩は、距離をとるように後ずさりする。

(っ!?)


つまり…風切が行ったのは。



膨大な知識に物を言わせた、式神の『理論構築』


(だが…召喚したとして…調伏は……)

言って、ハッとする。風切はこうも言っていた。


『調伏過程、


つまり、「後で必ず正式な調伏をする」という契約の元、一時的に調伏過程を飛ばして従えた。


「……なんて才能を…君はやはり逸材です…」

破狩は笑いながも、冷や汗が止まらない。


「……有難う雷虎」

風切は雷虎に寄り添うと、雷虎は唸る。低く響くような声で、風切にだけ雷虎の声が聞こえる。


《力を貸してやるのは良い…後で必ず調伏をしろよ。俺を呼び出した責務は果たせ》

「……わかってる」

《ならば良し。契約の保留を受け入れよう。今は俺を使え、いや、使ってみせろ

「……あぁ…!!」

すると、再び雷虎は突進してきた。


(……突進までが速いが、避けるのはいくらか容易い……問題は……)


突進を外した雷纏う虎は、ゆっくりと旋回し、こちらを見据えた。

(問題は…虎の纏っている電気…本体から放出されているようだが、何度も食らうとこちらが痺れて動きが鈍るッ!!)



かつての師を見据え、凡人は、凡人の代表であり続けると誓い。


その覚悟を、その決意を胸に。



穢れに堕ちた裏切り者の前に、凡人は立ちはだかる。


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