神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

71話

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初めは祓い屋にでもなるのかと思っていた。目に見えてしまう家系だったから。


だけど、俺は異能を持っていないも同然だった。


今でこそわかるが、異能力者を殺さないと使えない異能力なのだから、誰かを殺さなければ使えないのだ。

工具箱だけ持っていても、工具が無ければ意味が無いのと同じ。



だから、人を殺した。




父親は無能力者にも関わらず、見えてしまう家族を守るため戦い、今やその体はボロボロだった。母は元から病弱で、床に伏せたままほとんど動けない。

そんな両親を守りたい一心で、異能力者を殺して回った。

無論、世間に明るみに出る事は無い。慎重に事に及んでいるのだから。




そんな中、妹が産まれた。


目を合わせたら動きが止まってしまうと言う異能力だった。

幼いながら、持って産まれたもの差を感じる。


両親は、これで安全に妖達から身を守れると喜んだ。


あぁ、そうだな。妹の異能力はシンプルで、それ故に強力だ。なんせ、目を合わせるだけで何も出来なくなるのだから。


あぁ、そうだ。そうだな。これで安心だ。






…………じゃあ、俺は?







今まで、何の為に人殺しをしたんだ?家族を守る為だったはずだ。


貴方たちの為に、この手で人を殺して来た。何度も死にかけた。異能力者相手に戦ってきたんだから、当たり前だ。


でも、それらは妹によって全て無意味になった。




……この頃から、妹への殺意は積もっていった。






だが、それと野望これはまた別。




力が欲しかった。最初に人を殺したその日から、自分が強くなるのが快感だった。

だけど、どれだけ行っても自分は異能者…あくまで人間だ。鬼でも神でも、ましてやどっちつかずでも無い。


なら………







燼人は、不可視の剣を構えながら、首の関節の調子を確かめるように片手を首元に添える。


(正直、『縮地』も『認識阻害』も条件厳しいんだよね~)


『縮地』、かつて剣の達人が用いたと言われる異能。

文字の如く『縮地』を相手にした者は、地面を縮められたような感覚に陥る事からこの名がつけられた。

発動条件は、両足が地面に着いている事。有効距離は詰めるも離すも等しく10メートル程度が最大距離。それ以上は距離を伸ばせない。それに点移動じゃ無くて線移動だ。あくまで超高速で動いているに過ぎない。

『認識阻害』も同じ。使う対象の意識から一度外れないと異能が適応されない。別の人間に見られていたらその人間に『認識阻害』は発動しない。物音や声を出したらその時点で気が付かれる。




『透過』は………

……まぁ向こうが勝手に警戒してくれるものだから、勝手に消耗してくれるのはありがたい。




「……さーてと、僕は早く終わらせたいんだけども。君達中々しぶといねー」


「……なんとでも言いなさいよ」


ヒミコは猿谷と眞雉、戌亥と共に攻めているが、この男中々隙を見せない。



少しの間の後、再びの衝突。


他の忍者が向かっていくが、もはや燼人の相手にはならない。

他の忍者を捌いた後、燼人はヒミコに向かう。構えからして不可視の剣を振りかぶっている。

ヒミコは懐刀で受け止める構えをとる。


……しかし


「………ッ!?」

視界から、燼人が一瞬で消えた。


ったかな」


(意識誘導ブラフ……ッ!!)



不可視の剣をあたかも使っているように見せかけて、選択した異能力は『縮地』。この男、どこまで不意をついてくるのだろうか。

シンプルだが、騙される。


背後に回られたヒミコは回避が間に合わず、鎖骨の辺りにナイフが直撃する。

追いついた猿谷が燼人に反撃したので、燼人は一度距離を取った。


「………おや~?なんだ。貴女も人間じゃないのか」


薄々気が付いていたのか、あまり驚かずに燼人は微笑む。


「えぇ……神の模造品、『神人』よ。貴方より年上なのだから、敬意を払って欲しいのだけど?」

「………神人……?」


燼人はここで初めて怪訝な顔をする。何かを思い出しているようだった。


「あぁ……


「……ッ!?」


ヒミコは警戒した。なぜこの男からゼシの名前が出てきたのだろうか。


「……貴方、ゼシを知っているの?」

「まー、知ってるも何も。俺はそっち側だしね」


ジャックナイフを取り出して、カチンカチンと刃を出したりしまったりしながら、燼人は続ける。


「異能者を殺して回ってたら、目をつけられてさ。と言っても、つい最近だけどね。『神代戦争』が起きれば、遥かな戦争になるだろ?そこで神を殺して恐怖を集める…恐怖が一番はやいだろうしね」


「待って……まさか貴方…」


ヒミコは声を震わしながら続ける。



「まさか、?」

「まぁ、俺は半分妖になれたしさ。『武神』を殺せば、簡単に信仰も集められるんじゃない?妖辺りから。なんせ『神々の切り札』とか言われてるんだろう?もってこいじゃあないか」




燼人の目的、それは……



神々を殺し、畏怖を集めて自分が神になることだった。




「え~っとね、『四堕神』っていう肩書き?みたいなのがあるんだけどさ。そこの一人…一柱って言うべき?それが神社に侵入したら舐めプして返り討ちにあったみたいでね。その空いた穴に俺が入ったんだよ……ま、俺は勝手に動いてるし、向こうも俺のことなんて眼中になさそうだけどね。まぁ、つまり……」

燼人はジャックナイフをしまって不可視の剣を顕現させると、続ける。

「今の俺は、『四堕神』燼人って事。まぁ、神代戦争が起こってくれればそれで良し、起こらなかったら俺が他の神でも殺して回るよ。流石に『武神』と正面切っては戦えないだろうしさ」

「……アンタ、イカれてるわ…」

ヒミコが引き気味に話すと、燼人は再び三日月のように笑い続ける。

「人間の欲望ってのは底なしだよ、人だって殺せる。『神代戦争』を起こすのがゼシの目的らしいけど、俺にとっては手段に過ぎない」

「それを止めに、あの人は動いているのよ。だから、それを手伝う為にアンタの妹ちゃんは後衛を抜け出して前線に出ていったの」

「だけどもう死にかけだろ?いい加減トドメを刺させて欲しんだけどね」

「……させないわよ」


ヒミコの声に続いて、猿谷たちが燼人の前に立ちはだかる。その様子を見た燼人は項垂れ、ため息混じりに話す。


「……はぁ…仕方ないなぁ…さっさと終わらせよう」


燼人は不可視の剣を持ちながら、


「……もう終わりにしようか……





瞬間、視界が爆ぜた。





轟音、真っ白になるような衝撃。気が付けば、口から血を吹いていた。

「……ゲホっ……ゲホっ…何よ……これ……」

今までとは全然違う、体の内側から破壊されるような衝撃。ヒミコが周囲を見ると、仄を抱いてた忍者は既に死んでいた。だが、間一髪眞雉が仄を受け取り、なんとか耐え抜いていた。猿谷と戌亥も生きていたが、もう戦えそうな状態じゃない。

燼人を見ると、彼の左肩のあたりに女性の顔があった。背後から抱きつくような姿勢で燼人のそばに見えるそれは、気配が人間では無かった。


「……アァ……アッ……アァァ…」

「ありがとうシトド。大丈夫だって、俺は生きてるだろう?」

人間の姿をしているし、薄ら見える顔はかなり端正だ。だが、人間の言語を話しているとは思えない。

燼人は不可視の剣を構えながら、立ち上がるのがやっとのヒミコへ歩みを進める。

「彼女はシトド、『泣き女』って知ってるかい?バンシーとも言われる妖精の類なんだけど」

燼人は左肩にある『シトド』と呼ぶ女の顔を撫でながら続ける。

「聖人とも言われる女性が、誰かが死ぬ時に大声で泣くんだってさ。あぁ、彼女とは主従契約を結んでいてね、俺の異能じゃないんだよね。彼女は俺に心底惚れててさ……」

燼人は、シトドの口に指を突っ込み喘がせると、三日月のように笑いながらさらに続ける。

「知ってるかい?コレは夜、

「……最低ね…」

軽口を叩くが、正直足に来ている。内臓そのものに響くような衝撃波。『泣き女』と言う妖精、察するに音響的な攻撃手段。


(防ぎようが無いじゃないッ!!)

「察してると思うけど、シトドにさせてるのは音響による高周波の衝撃。まぁ、『殺人音波』みたいな感じだね。あぁ、僕はコレと契約してるから影響無いよ」

嘲笑うような表情を浮かべ、燼人はシトドの首を絞め、耳元で囁く。

「シトド、

途端、木々が軒並み倒される程の衝撃が放たれる。



「……あれ?」


燼人は怪訝な顔を浮かべる。

目の前には、土で作ったかまくらのようなものが出来ていた。


「土遁……土籠……ゲホゲホッ……」

戌亥の決死の忍法で掻い潜ったようだ。地中ならば音が伝わりにくい。その性質を利用して、土で防壁を作った。

猿谷は、戌亥を下がらせ、眞雉とともに防戦に専念させる。仄は未だ目を覚まさないが、ヒミコが死なない限り希望はある。


「休んでる暇ないよー?」

燼人がシトドと共に不可視の剣で襲いかかってくる。ヒミコは剣の方を弾き、シトドの衝撃波を避けようとする…………が…


「良いのかなー、避けたら当たるけど?」


燼人はヒミコの後ろを指差す。そこには、仄を含む、枯葉里の三人……もはや死に体、回避できる体力はないだろう。


「………ッッ!!」


「仲良しだねー。まぁ好都合かな」


ヒミコの全身に、容赦無くシトドの衝撃波が放たれた。




ビキリッ




その音は、衝撃波の中だというのに嫌に鮮明に聞こえた。


「ゴボッ……ゲホ……」


ボタボタッ…と、嫌に重い音を立てながら、口から血を吐き出すヒミコ。

(……核…が……)

良くわかった、数百年共にした肉体だ。大事な箇所が損傷した。


神人は神の模造品として生み出されたものだが、弱点もある。神人の心臓とでも言うべき、『核』だ。




それをやられた。わかる、もう長くは持たない。




………だけど





チラリと後ろにいる忍者たちを見る。眞雉の腕には、仄がしっかりと抱き抱えられている。

せめて、あの子は助ける。見ててわかる、あの子は谷透 修哉あのひとの心の支えなのだと。


フヒト亡き今、谷透まで失う訳にはいかない。



「いやー、結構頑張ってたね。シトドまで出したのは久々かな。じゃあね」

燼人は自分の肩に乗っているシトドの頭を撫でると、シトドは再び喘ぐ。



もう、あれを喰らって立っていられる自信は無い。




「シトド、鳴……」















キィィィンッッと、澄んだ金属音がなった。
















燼人が、飛んできた何かを弾いた音らしい。

目線の先には、一人の男。


「いや~、利斧の気配感じたから、もう直接古巣に向かおうとか思ってたけどさ~」



男は、着物をまとっていた。



「にしても何、君。どうやってになったんだよ~」






男は、吸い込まれそうな漆黒の瞳をしていた。






「まぁ、いいか。どう見ても放っておける感じじゃあないからね~」






男は、ヘラヘラ笑っていた。






(何……この男…妙な気配…神…いや妖……?)

ヒミコは腹部を押さえながら立ち上がると、新たに現れた男を警戒する。

(……新手か)

燼人はさりげなく不可視の剣を手に持ち、その男の様子を見る。



「全く誰ですかー?俺は今忙しいんですけど?」

燼人の問いに、着物の男はヘラヘラ答える。

「いやー、古巣の危機に歩いて来たんだけどさ~。オイラの嫌いな奴がいて遠回りしてたら、君らを見つけたって訳」



「ちょっと見過ごせなさそうだしさ~、首突っ込ませてもらおうかな~。あ、そうそう「誰だ?」って質問に答えて無かったかな」


着物の男は、欠伸の後に伸びをしながら続ける。





「オイラは雨谷ウコク、妖さ」








そして、伝説が追い付いた。









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