神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

64話

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「………利斧め…弓羅はともかく、穢神と交戦しているだと……ッ!?あれほど防衛に集中しろと言ったのに…ッ!!武神が穢れれば一大事だぞッ!!わかっているのかっ!?」

三ツ谷で籠城している阿剣はぎしりと歯を噛む。

「まぁよ…出来ねぇことはねぇんだろ?まぁ連中は………刀谷様に似てるとこあるからなぁ……」

「……昔から勝手をする連中だ、利斧も弓羅も。恐らく支部の救援要請だろう?責める事は出来んぞ。……それにしても、いざこうなってみると、刃紗羅様は実に偉大だったのだと感じる」



『武神』

神々の脅威に対する、神々の切り札。


………の筈だが。





「ふむ……『穢れ』に飲まれた分、通常の神よりは弱いみたいですね。この様子だと、信者が居ないのでしょうか?いや…だとすれば存在が維持出来ない筈……」

支部の傍らで、穢神相手に戦斧を突き立ててまるで解剖するようにグチャグチャと中身を弄る武神が一人。


「……成程。『穢れ』そのものが神としての認知を保たせていると……道理で「消えかけ」と似ているのでしょうか?報告にあるシキヨという上位個体は、つまるところ『穢れ』を克服した存在……成程、理解しました」

「あ、あの…利斧様…」

「何でしょう?」

支部の神守は恐る恐る尋ねる。

「何を…しているのです?」

「ん?あぁ、。好奇心と言えば良いでしょうか?」

利斧は穢神の四肢を杭のようなもので固定し、殺さず生かさずの状態で、戦斧を使って、解剖していた。




「あ、あの…弓羅様…」

「ふぁ~……何だね?」

相変わらず鳥居の上で寝そべっている弓羅は欠伸をしている。

「北の支部より救援が……」

「ふぁ~あ…」

「弓羅様ァァ……」

「焦るな焦るな。相変わらずせっかちだなぁ」

そもそも世界の危機に欠伸をしている弓羅がおかしいのだが、本人に自覚は無いのだろう。

「刀谷様も、相変わらず読書してんのかなー?刃紗羅様と仲良しだったみたいだし?利斧のヤローが言うには鍛冶師みたいなことやってるらしいけど」

弓羅は伸びをしながら、弓を大きく構える。

「あぁ、これは自論だが「相変わらず」って良い言葉だと思わないかい?何せ言葉を変えれば……」

弓を放つ風切り音に続いて、弓羅の艶やかな声が響く。

「『愛変わらず』、浪漫があるよな。まぁどっちみちあの方はあのしか眼中に無いだろうけど」

この時放った弓羅の矢は、北に50キロ離れた支部にいる穢神の頭部を正確に撃ち抜いていた。





「……あの、阿剣様…ご報告が…」

「なんだ?」

巫女が近寄ると、気まずそうに続ける。

「支部からのご報告で……その……利斧様が…生け捕りにした穢神を解剖していると……」

阿剣は額を抑えて項垂れる。





「うーん…これはちょっとなぁって感じぃ」

三ツ谷に駐屯している蒼糸は、何故か三ツ谷にある御神木に縛られていた。

「喧しい。貴様私が傷を癒していた時に勝手にここに留まるように言ったそうだな?」

「いや、だからさそれ言ったのは主なんだって…」

「黙れ、あの方は今や白獅子。神社の神守総大将だ。お前が悪い」

「えぇ~…」


無論こんなことをしている余裕は無いはずだが、盾岩の結界の外では無神機関の部隊が神殺弾を用いて防衛に専念している。こちらまで穢神が来ることがあんまり無いのだ。


「あ、満。前、前見て」

「なんだ?」

満がふと目を離した隙に、蒼糸はワイヤーを用いて拘束を解き、宙へと浮く。

「あッ!?貴様ァッ!!」

「あのさぁ…もうちょっと仲良くしようよー。有山さんの部下同士じゃないかー」

「その部下を切り捨てたのは貴様らだろうが」

「………いやまぁ……悪かったって」

そんなやり取りをしている中、前方が少し騒がしくなる。すると、蒼糸のイヤホンに有山の通信が入った。

『蒼糸ッ!穢神を一体討伐した!だが、死ぬや否や、人間のサイズに分裂して、包囲網をすり抜けられた!』

「……了解って感じぃ」

少しして、有山が言っていた通り、人間のような姿をした穢神が、何体もこちらに走ってくるのが見えた。

「うへぇ…超きしょ」

蒼糸は手首を鳴らしながら、ワイヤーの射出準備をする。

「下がっていろ蒼糸。あの数だとお前には無理だ」

「いや、満も万全じゃないでしょうって感じぃ」

蒼糸がやれやれと言うと、満は舌打ちをした後に刀を構える。

「だからなんだ。私は神守としての使命を果たす」

蒼糸が無言で髪を掻くと、手首からワイヤーを発射し満を拘束する。そのまま満を引き寄せる。

「なッ!?蒼糸ッッ!!貴様何をッ!?」

「あのさぁ…

蒼糸が拘束した満の顔を掴み唇が接触するほど近寄る。

「……死んでもらっちゃ困るんだよね。個人的に」

「……何を企んでいる……蒼糸ッ!!」

こうしてる間にも、人型の穢神は盾岩の結界の網目をすり抜けてこちらに近づいてきている。

「わかんない?僕は君が







「………はぁえ?」






2秒遅れて、満が真っ赤になりながら素っ頓狂な声を出す。

「だからさぁ、そんな君を戦わせたくない訳。理解したって感じぃ?」

茶番らしいやりとりをしている間に、複数体の穢神が今まさに蒼糸に飛びかかろうとしていた。




次の瞬間には、全て細切れになっていた。




返り血のようなものが、蒼糸と満の顔にかかる。



「惚れた相手を戦わせたくねぇんだよ。わかったな?」

いつものおちゃらけた表情では無く、怒気を孕んだ顔と声。あまりの威圧感に、満は声が上手く紡げなくなっていた。

「……ま、だからちょっと後になるけどさー」

いつものトーンに戻った蒼糸はワイヤーを器用に使って、満の左手の薬指に輪っかをつくる。

「一緒に来てくんない?伝えたいのはこれだけって感じぃ」

拘束が解かれた満は、力無くぽすんと蒼糸の胸元に寄っ掛かる。

「………退屈させたら殺す」

「超怖いOKサインだなって感じぃ」



血まみれの二人は、しばらくの間そうしていた。




ちょっとした後に、蒼糸は耳元のイヤホンに向かって言葉を紡ぐ。

「……って訳だからさぁー、有山さんご祝儀宜しくって感じぃ」

「……おい待て、そのイヤホンもしかして通信繋げたままなのか?」

「いや、ついさっき繋げた」

「殺す!!貴様は殺す!!絶対殺す!!!」

真っ赤になった満は殺す気で蒼糸に斬りかかるが、蒼糸はワイヤーを使って空中に逃げる。

世界の危機を目の前に、二人は身内で殺し合っていた。





盾岩の結界の外、隊列を立て直した部隊は、迫る穢神に向けて発砲していた。

「………」

「有山さん?どうしました?」

隊員の一人が尋ねると、有山はため息がてら言葉を紡ぐ。

「蒼糸と満が結婚するらしい」

「「「えええぇぇ!?!?」」」


聞いていた隊員全員がびっくり仰天。

有山は、一人寂しそうに呟く。

「………おめでとう蒼糸、幸せになりなさい」


息子が結婚する時の親の気持ちは、おそらくこういう感じなのだろう。


「さて、蒼糸たちの門出だ!隊員!オチオチ死んでもいられんぞ!派手にやってやれ!」

そばで様子を見ていた斑目と雹は、ボソボソと話す。

(なんか嬉しそうだな有山)

(まぁ、父親の心情なのだろう。ま、お前には一生わからん感情だろうがな)

(なぜ決めつける…)

(そりゃあ、お前が研究だなんだって言って小さいヒミコの体弄って遊んでたロリコンパイナポーヘッド野郎だからだよ斑目)

(…………ぐぬぅ)


語弊はあるものの、地味に本当なので、結構強烈に刺さった。


「そういうお前も、谷透という若者に振り返って貰えてないだろうが……」

ボソリというと、斑目の首元にヒヤリとした鉄の感触が……

「わかった、貴様の辞世の句はそれで決まりだ」

「うぉぉぉぉ悪かった!」










「…………」

「どうしました?ヒミコ……様」

「ヒミコでいいわ。私は神様じゃあないもの」

「そ、そういう訳にも……」

口籠る巫女を見て、ちょっと意地が悪かったかと反省するヒミコ。

「ごめんなさいね。ただ、ちょっと…あの人が死んでしまったって事が、意外と私を落ち込ませていてね……」

三ツ谷の神社内部で巫女たちの手伝いをしていたヒミコは、心の中に何か澱みのようなものが落ちていく感覚があった。

「数百年生きてて、ようやく自分と同じ神人に会えて…そしてすぐにお別れ…私は意外と悲しんでいるのかもしれないわね」

力ない笑顔を見せたあと、思い出したようにヒミコは続ける。


「……ところで、彼女が見当たらないのだけど?」

「……彼女?」

巫女の問いかけにヒミコはジェスチャーをしながら続ける。

「ほら、これくらいの小さい…のほほんとしたあの子よ……名前は確か……」

ヒミコは思い出したように手を打つと答える。

「仄って言ってたかしら?」

「………え!?!?」












「………うーん」

仄は、ダボダボのパーカーを着ながら、谷透たちの進軍していた後をついて行っていたのだが……

「谷透さん達速すぎて置いてかれちゃったのですー」



……迷子になっていた。







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