神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

60話

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三ツ谷神社の『穢祓い』である、谷透 修哉が白獅子の名を継いでから2日、三ツ谷神社では、盾岩による結界の補助と、残存戦力の確認を行った。非戦闘員である巫女達は盾岩の結界を補助する役割を担った。




「……『穢神ケシン』?」

服を新調し、髪型も整えた風切が言葉を発す。

「あぁ、一々『穢れた神』っていうのも面倒だろう。この名称の方が伝わり易いしな」

「……文句を言うにも…文句を言いそうな一ノ門は、今は無いしな」

慣れていないのか、上げた前髪を気にしながら風切は話す。それを聞いた谷透は、目を丸くして意表をつかれたような声で答える。

「驚いた。優等生からそんな言葉が出るとはな。俺はてっきり『この野蛮人が!一ノ門大社無き後うんぬんかんぬん…』とか言うと思ったぞ」

服が変わり刀を下げる位置も変わっているのか、しきりに鞘の位置を確かめながら風切は答える。

「確かに伝統は大切に受け継ぐべきだが、悪習はさっさと捨てるに限る。それと、お前も『白獅子』を名乗るであれば、せめて自分の事は「私」と言え。お前に従う神守達に示しがつかん」

「……硬いこと言うなって。ま、考えておくぜ」


谷透 修哉……もとい、『二代目白獅子』は風切の肩を叩きながら続ける。


「……そろそろ気を引き締めろよ。穢神はまだ一ノ門から外に出ちゃあ居ないが、時間の問題だ。……頼りにしてる、六武衆『鳴神 風切』」

「……あぁ」



谷透が白獅子を襲名した後、ショック状態になっていた富太の代わりに、風切を推薦した。聞けば、風切は元々、代々一ノ門に仕える名家の出自だったのだが、過去に事情があって取り壊しになったらしいのだ。

本人は当時かなり幼かったようで、その理由もはっきりとは覚えていないらしい。




「さて、準備をしておけよ。いつ穢神ヤツらとの戦争が始まるか分かんねぇからな」


「…あぁ」








三ツ谷神社の外、そこには三大神社でただ一人生き残った神主、三ツ谷 結が立っていた。


今や谷透は、三大神社全ての神守を束ねる立場である。方や自分は、親がいなくなった埋め合わせに神主になったような人間だ。




しかし。




『……わ、私が…神主を……?』

『それが今取れる最善策だ』

『……私は…ここにいる皆様の神主になれるような……』

谷透が白獅子を襲名した夜、神社の生き残りを統括できる神主が現状結しか残っていなかった。

その重さに俯いていると、突然視界に封神剣が現れる。

ハッとして前を見ると、谷透が視線を合わせてくれていた。

『お前1人に、重荷は背負わせない。お前が望むなら、俺がお前の剣になる。それに……』

「顔を上げろ」と言われて、見えた景色は、こちらをむく幾人もの顔。


『お前を…独りにはしない』








「今出来る事は、神主としての務めを果たすこと……」

まだ幼さが残る少女の瞳が、並々ならぬ覚悟で染まる。

そこに…


「ゆ、結ちゃーん…」


富太がすごすごと現れる。全身ボロボロ、もはや見る影も無い。


「ね、ねぇもう逃げようよ……い、一緒にさ……ね、いいだろぅ……なぁ…」

「………」

一ノ門の神主の跡継ぎだと吹いて回っていたというのに。七光りが無くなればこんなものか。

「……お断りします。私は神主の務めを果たします」

「こ、断る?い、一ノ門に逆らってっ……!!」

「ならばこそ、神主を継ぐべきはアナタでは?」

「い、嫌に決まってるだろ!お、俺は死にたくないっ!」


……………






……………………………………







…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は???




『死にたく無い?』



今までどれだけの人が一ノ門に尽くして死んで行ったと?

シキヨや無神機関との戦いで、谷透さんは何度も死にかけながら戦ったと言うのに?
 

結は無言で富太の方へと向かっていく。


「…………」

「お、おお、なぁんだ結ちゃんも逃げたいのかーだったら…」

そこで、富太の言葉が途切れる。何故なら、結がその細腕で富太の胸ぐらを掴んだからだ。


「私の両肩には、神社の未来と、世界の行く末がかかっている」

もう片方の拳を握る。


「そもそもッ!死ぬ覚悟もねぇヤツが神主の跡継ぎを名乗ってんじゃねェェェェェッッ!!」


ズンっと、結の細腕が、富太の顔面にめり込む。富太は鼻血を出しながら亀みたいにひっくり返って、結を見上げる。結はゴミを見るような目で富太を睨んだ。


「富太だか、ブタだか知りません。ですが、アンタの七光りは、もう私には通じない」

「ひ、ヒィィッ!?」


結の目からは光という光が消え、ピッと頬についた返り血を拭う。その表情は、かつて彼女の母が、魔淵に向けた表情を彷彿とさせる。


「己の無力を呪いながら、惨めに踞れ。そこで見ていろ」


結が吐き捨てると、上から笑い声が聞こえてきた。

「アーッハッハッハッハッー!こりゃーすげぇんですわっ!あの三ツ谷神主の大大大下克上ッ!愉快痛快爽快ってヤツですわーッ!!」

「んねぇ~てか、あの口の悪さたにとーの移ったんじゃない?てかあんなにブチギレる三ツ谷神主見るのも初めてだにぃ~」

「いや、元々内々に溜まってたものがあったんだと思うんですが?」



結が視線を上にやると、六武衆の四方、花車、御影がそこに立っていた。


「神主、旦那からの言伝で。一ノ門には明日の明朝に進撃するとのことらしいですわ」

「わかりました。あなたがた六武衆の活躍を、期待します」

「……ッ!了解ですわ」

四方は…ゾクリと背筋で感じとる。目の前の少女が大成する瞬間を、その覚悟が宿る瞬間を、その肌で直接感じ取った。





もう幼いとも未熟とも言わせない。


結は、……三ツ谷神主 三ツ谷 結は、覚悟が決まった表情で、未来を見据えた。













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