神様の仰せのままに

幽零

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無神機関編

36話

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『無神機関』


そもそも『無神機関』とは、「持たざる者」が穢れた神を相手に戦うために結成された秘密結社のようなものだ。

「神の無い世界を創る」ことではなく、「神など無くても我らが救う」


故に、『



その無神機関を束ねる真の長、総括指導者が今、偽りの長の前に君臨した。

「有山と六武衆から大体のことは聞いた。少しはしゃぎすぎたな」

総括指導者……止水は腰から変わった形をした刀を抜く。普通の日本刀よりも分厚く、長い。

止水の後には、御影と有山がいた。


「間に合った…訳ではなさそうですが。ともかく生きててよかったですが」


谷透は真陽と雹、そして蒼糸と共に後ろに下がる。


「とにかく、谷透さんと蒼糸さんはかなり重症のようですが。貴方、治せますか?えーと、有山さん?」

有山は御影の問いにうなづく。

「……あぁ、なんとかするさ……こう見えて、元は医者だ…」

「……それなら、こんな場所にいなくても生活はできそうですが?」

有山は指を消毒した後、手袋をつける。

「……妻子が今もいれば、そうしていたのだろうな…」

有山は谷透と蒼糸の治療に取り掛かった。




「御影、よかった。生きていたのね」

「姉さんも無事…ではなさそうですが、致命傷はなさそうですか」

「えぇ、谷透様…さんが庇ってくれたの」

「そうなんですか……それで、そっちの人は敵だったと思うんですが」

御影が雹を見ると、雹は氷のような目で言葉を返す。

「私はあの方に助けられた。あの方は覚えてないみたいだが……あの方の立っている場所が、私の立つ場所だ」

(え~っとつまりなんですか……この人も姉さんと同じで、谷透さんに好意を抱いているという事ですか?あの人は歩く女タラシなんですかね。英雄色を好むというか…あの人の場合、色に好まれてる感はありますが……)

御影は二人に気が付かれないようにため息をつく。安堵と呆れが混じったため息だ。




止水は抜刀し、シダマの前に立ちはだかる。そのまま部隊長や谷透達に向かって、言い放つ。

「悪いが、これは私がつけるべき決着だ。手出しはしないでくれ」

有山の前で横たわっている谷透は頷く。

「ありがとう」

谷透にそう返すと、シダマの方へと向き直る。


「………全く、せっかく良い感じに組織を乗っ取れかけてたのに…やれやれやれだよ」

シダマは両手をあげておどけてみせる。

「そうか、心配ない。貴様の命は今日で終わりだ」

「いやいや、1回捕まってるくせにいきがるなよ。総括」

「いきがってるのは貴様だシダマ」


その言葉を発端に、シダマは片側しか無くなったトンファーで止水に殴り掛かる。止水はそれを当然のように刀で受けた。


「こっちは神人、お前はただの人間。どうやっても勝てるわけないだろーよ」

「………どうかな」

止水は鋭い眼光でシダマを睨みつける。

「その程度の人間なら、はこの組織の頂点に立ってなどいない」


すると、何やら止水の刀の切っ先から、血管のように赤い模様が浮き出る。それが鍔の近くにはめ込まれていた玉へと繋がった。途端、その玉がした。


「視神経…接続完了。視界投影。『人造村正』解放」



遠目で見ていた御影は気味の悪いものを見るような目つきで言葉を発する。

「な、んですか…アレは……」

すると、雹が御影の問いに答えた。

「あれが総括を総括たらしめた武器だ。総括自身の眼球の片方を刀に埋め込み、もう1つの視点から視界を得る」

「な、なんて無茶な…そんな事をしたら視界がブレるに決まってますが……」

「それをやってのけるからあの男が総括なんだ」




「気持ち悪い武器を持ったところで、シダマには勝てんぞ?」

「勝ってからいえ、阿呆」

止水は片側の眼球を取り出し、刀にはめ込んだ。ふたつの視点から視界を共有できるように、神経そのものを刀に巡らせて、必要とあればそれを接続する。

総括が作った、彼の専用武器『人造村正』。



神すら殺せる狂気を宿すその武器を手に、止水はシダマへと向かう。


シダマはトンファーで迎え撃つ。しかし、止水は軽々とトンファーを受け流す。

(……チッ)

シダマは鬱陶しいものを見るような目で止水を睨む。ここまで上手くやってきたのに、それら全てが水の泡だ。



止水の脳内にはふたつの映像が流れている。ひとつは肉眼から流れる光景、そしてもうひとつは刀に埋め込んだ自分の片方の眼球。本来の視覚ではカバーできない範囲を刀で補うという狂気、しかしそれ以上にこの男のおかしい部分は、2画面を同時に見るような荒業をして、普通に戦闘と言う行為自体ができている事だ。

……だが、神人に人間が太刀打ちするには、足りない。


「死ね、止水」

投げたトンファーを止水は刀で弾くが、その隙にシダマが止水の首を掴む。

「いかに狂気にまみれても、神が人に勝てるわけが無いだろうが!」

止水はギリギリギリ……と、首を持たれたまま両足が浮き始める。


「死ね…死ね死ねっ!!計画をさんざん邪魔しやがって……ハハッ!これだ!この程度だろ!お前はァァァァッッッ!!」




「総括ッ!」

雹と蒼糸が武器を携え飛び出そうとするが、それを谷透は制する。

「な、何を……」

「見届けろ。お前らの長はあんなのに負けるタマじゃない」




「………ひとつ…勘違いしているな…」

「……あ?」

首を絞められているにも関わらず、止水の声は重く、鋭く響く。からん…と金属質な音が響く…止水が人造村正を手放したのだ。

はたから見たら降参しているようにも見えるだろう。しかし、止水はその手を自身の腰に回す。


「お前は神では無い………」



パァン……


乾いた音、あまりにも単調な音。それでいて、現実離れした音。



銃声だった。

「お前は、ただの小悪党だよ。神でも神人でもない。ただの小悪党だ」


シダマは脇腹を抑えて蹲る。


「な、…なん…だ……ま、まさか……ッ!?」

止水は絞められていた首を擦りながら、右手に持っているものの標準をシダマに合わせる。


持っていたのはただの拳銃。何の変哲もない拳銃だ。


「ここに来る前に、散々みて回った。お前は神人。神に模して創られた種族…だったか?ならこいつが効かない道理は無いな」

拳銃から飛び出る薬莢。その形は


「し、神殺弾……ッ!!?」


それは、シダマが斑目達に研究させていた、神を殺せる弾丸だった。


止水は人造村正を広いあげる。

「お前は、お前がしてきた事に殺される。小悪党には似合いの最期だ」


「や、やめ……」

人造村正がシダマの脳天を断ずる直前。





突如、粉塵が舞う





「……ッ!?なんだ!?」

谷透は手で砂埃を払う。近くにいた有山や雹、真陽と御影、蒼糸はすぐに確認ができた。

砂埃が晴れ、当たりを見るとシダマの姿が無かった。


いや、正確には、目の前には無かった。彼は持ち上げられていた。


……空中に、だ。


「な、なんだあれ……」

シダマを持ち上げていたのは、のようだった。


「おいおいおーい。


「………は?」

瞬間、谷透と真陽、御影は言葉を失う。


何故、


「全くさァ、一ノ門大社も落とし損ねるし、ここの組織をお前が掌握して、神社勢力とぶつけて同士討ちさせるってのもできなくなっちゃったじゃないか」

ボロ布をまとう男のような者の、フードが取れる。

ドス黒く、おぞましく、おびただしい闇をそこに感じる。


「わ、わざわざ申し訳ありません。『ゼシ』様。私を助けに……」

「え?違うよ?」

シダマが驚いた表情をすると、ゼシと呼ばれた者は、背負っていたシダマの顔を手のひらで掴むと続ける。



「…ッ!!!や、やめっ……」

直後。ぶじゅり…という果物を握りつぶしたような音が響き、ボタボタとシダマだった者が床に落ちていく音が聞こえた。


そこへ、斑目がヒミコと共に「無神機関」の部隊を率いて追いついた。

「すまない!部隊を説得するのに時間がかかった…シダマは………て…なんだ…あれは……」

そばにいたナイスバディな女性(内側から所々破れかけた患者服着用)がそれを見て、顔をひきつらせる。


「あれは……」

谷透や有山が斑目に気がつく。

「斑目…お前は……」

有山が言い終わる前に、斑目が頭を下げる。周りの部隊はどよめいた。

「………申し訳ない。私が間違っていた。部外者の言葉に踊らされ、研究に我を忘れていた……許してくれとは言わない…」

「………そうか」

有山は一言つぶやくと、続ける。

「ならば手伝いたまえ、何やらシダマ以上に厄介な物が出てきたようだ」


「あ、居たわ。良かった生きてて」

「……え、誰?」

「えぇ…自分が助けたオンナも忘れちゃったの?それとも、思い出せないぐらい貴方の周りにはオンナがいるのかしら?」

「いや、だから誰」

「貴方が助けた神人よ。ヒミコって言うの。覚えておいて」

「………は?」


助けた……神人………確かそれって結構幼い少女だったような……


「えぇぇぇぇぇぇ!!?アレがコレになったのかァァァ!?!?」

患者服を着ていた幼女が今や立派なレディ(破れかけ患者服着装)に大成長してるのだから当然の反応である。

「神人って成長どうなってんの…」

「成長?いや、自分の体だし。どうにでもできるでしょう?数千年も生きてれば」

「………」


だーめだこりゃ。規模というか概念というか、色々違いすぎる。


「で、悪い知らせなのだけど。アイツ…神人よ」

ヒミコが指さした『アイツ』とは、当然ゼシと呼ばれていたヤツの事だ。

「……また『神人』かよ…」

「でも、そうね。アレは……ちょっと…変ね…」

ヒミコが顔をしかめる。

「……変?」

谷透が尋ねる。

「……何か、こう…欲望の塊みたいな力がアイツに浸透してる感じがするわ」

「何話してんの?」

「「………ッ!!?」」


空中で漂っていたはずのゼシが、いつの間にかヒミコと谷透の間にちょうど挟まるように立っていた。


「あぁ、?えーっと、あぁそうか。君捕まって昏睡状態だったからか。これはさ…」


すると、谷透の体がくの字に折れて壁に叩きつけられた。ゼシはほんのちょっと手の甲で腹を撫でるような仕草をしただけだ。

「『穢れ』だね。神達にはキツいらしいけど、俺たち神人にとっては『効きが悪い』感じらしいね、俺たち神人はこの力を制御できるみたいだ」

蛇のように不快で下卑た声を響かせるゼシはゲラゲラゲラと笑う。

「谷透様ッ!」

「谷透さんっ!」

「「……ッッ!!」」

ここまで共に歩んできた、真陽、御影、雹と蒼糸が同時に4方向から仕掛ける。




………が、無神機関の幹部2人、一ノ門大社の六武衆2人の力を持ってしても。




吹き飛ばされたのは彼らの方だった。


「……嘘だろって感じぃ…」

「ゴボッ……ね、姉さん、怪我は無いですか?」

「えぇ、でも御影貴方口から血が……」

「……ごほっ…ごほっ」


御影はチラリと吹き飛ばされた谷透の方を見る。首はガックリと項垂れており、衝突した壁は谷透から蜘蛛の巣が広がるように歪んでいる。


……どう見てもわかる。致命傷だ。



谷透の復帰は挑めそうにない……そもそも生きているかすら分からないが。





ゲタゲタゲタと笑うボロ布をまとった神人『ゼシ』。神を狂わせる「穢れ」の力を制御した、神話時代の種族『神人』


こんなもの相手に、谷透を欠いた状態で勝てるのだろうか。




絶望感が広がる。足が囚われる。








そんな中、長たるもの声が号令のように響いた。


「『無神機関』全員に告ぐッ!現刻より目前の対象を最優先討伐目標と設定ッ!組織のあとの事は考えるなッ!」


総括指導者 止水の号令が大堂に響く。

声に弾かれるように、斑目や有山、その他部隊は一斉に動く。





果たして、「穢れ」を我がものにした神人に彼らは勝てるのだろうか。










……………そして








一方。

「…………またか」

じゃり……と、朽ちて果てた刀剣がそこら中に広がる、あの妙な空間で。




彼は目を覚ました。



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