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無神機関編
35話
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「はぁ……はぁ……」
封神剣の未来予知モドキ、そして霊体化を持ってして、シダマと相対していた。
しかし、追い詰められているのは、谷透の方であった。
「………はぁ…はぁ……」
「人の姿してるから勝てるとか思った?バカだろ、バカでしょ。『神人』ってのは神を模して創られた存在だぞ。簡易化した神のようなものだ」
シダマはケラケラと言葉を発しながら、トンファーをぐるぐると回す。
「もう終わりにしちゃうか、そうするか」
シダマのトンファーが谷透の頭目掛けて振り下ろされる。この勢いは殴るなんてもんじゃない。そのまま頭を粉砕するような勢いだ。
…………しかし
しかしだ。
谷透の頭は砕けなかった。
「………あれ?」
シダマの腕に何か糸のようなものが絡んでピキリと動きを止めていた。
奥からカツンカツンと革靴の音が聞こえてくる。
「いやぁ、遅くなってごめんって感じぃ。このふたり中々喧嘩やめなくてねぇ……」
「谷透様ッ!ご無事ですか!」
「谷透さん、今助けます」
「……蒼糸…真陽…雹……」
「………ちっ……」
シダマが蒼糸のワイヤーを引きちぎろうとした時、真陽が召喚した巨大な腕と、雹が生成した氷の礫がシダマに襲いかかる。
「大丈夫ですか?谷透様」
「真陽か……助かった…」
「谷透さん、大丈夫ですか」
「雹もありがとな」
すると真陽が、身を乗り出していた雹を抑えるように前に出る。
「雹さん?私が先に谷透様を助けたのですよ?」
「あ?アバズレメンヘラ女は黙ってろ」
「おーい…お二人さーん。いがみ合ってる場合じゃ無いって感じぃ……ほら、この程度で倒れる相手じゃ無さそうだしー」
蒼糸が指さした先には、服こそ破れているが、体の方はほぼ無傷の状態でシダマが立っていた。
「3人とも聞いてくれ、アイツは人じゃない。『神人』だ……」
「『神人』ッ!?」
「……なんだそれ?」
「あー、僕にも分からないって感じぃ」
神社に属している真陽は流石にわかるようだが、無神機関所属の2人はピンと来ていないようだった。
「ま、平たく言えば神の模造品とかだそうだ。人間を相手にしてると思わない方が良い」
「へぇ~、じゃあ例えばこんなのも耐えられるかなぁっとッ!!」
蒼糸は指先からワイヤーを射出する。その風切り音がブゥゥゥゥン……と重低音を響かせているように感じた。
シダマがトンファーでそれを受けようとするが、なんと鋼鉄で出来ているトンファーがワイヤーによって切断されてしまう。トンファーが使い物にならないと思うや、シダマはワイヤーを素手で掴んで床に叩きつける。
「んぁー、この攻撃さ、電ノコと同じぐらいの威力のはずなんだけど……」
蒼糸が射出したワイヤーは、彼の技術で細く振動させ電動ノコギリのような威力になっていたのだが、それすらシダマは素手で掴んだ。
「……もういいか?」
ゾッとする。
その言葉に反射するように真陽と雹が同時に仕掛ける。しかし、土煙の中からはニタリと笑うシダマが出てきた。
「そういえばだけどさ」
シダマが片方しか無くなったトンファーを回しながら話す。
「お前らが本当の事を吹聴して回ろうとしても、この組織の全体にそれが行き渡った訳じゃないよねぇ?」
途端に、後ろから銃を構える音が連続して聞こえる。
その場の全員が振り返ると、そこにはこちらに銃口を向けている無神機関の部隊が居た。
「ご無事ですか!シダマ第一補佐!」
隊長らしき男が叫ぶ。
「あぁー助かったよ。こいつら、有山の部下に誑かされてさ、雹と蒼糸は組織を裏切ったから、好きにやっちゃってー」
有山の部下である蒼糸、そして直接対峙した雹はともかく、正しい情報が広い組織全体に行き渡っているはずも無く。
彼らから見れば、谷透達は未だ侵入者なのだ。
「………っっの野郎ッ!!」
「撃てーッ!!」
制圧射撃が開始される。
瞬間、真陽は召喚した腕で壁を造り、4人はそこに隠れる。
「とりあえずのしのぎでしかありません……いつまでも持つものではありませんが…」
「いや十分だ、真陽」
「あぁ……谷透様…」
上着を脱ぎ始めた真陽を、雹と蒼糸が取り押さえる。
「発情してる場合じゃねぇだろ六武衆ッ!」
「いやぁ…それよりもどうすんだって感じぃ」
「…………」
袋のネズミ。曰く、逃げ場無し。
「谷透様っ……もう……」
真陽の限界が来たようだ。
「ちっっ!!」
腕が蜂の巣にされ始める。谷透は力の限り叫んだ。
「雹ッ!冷気で床を凍らせろッ!」
弾かれるように雹は異能力を駆使して、床全面を一時的に凍結させた。
「蒼糸ッ!ワイヤーを低い位置で連中に発射しろっ!」
「……ッ!りょーかいって感じぃっ!」
凍結した床を舐めるように蒼糸のワイヤーが這っていく。
直接的な攻撃力が無くとも、ワイヤーに足を取られる。一旦バランスを崩した先にある床は、凍結している。
「うぉぉぉっ!?」
隊列を組んでいた部隊がいっせいに転ぶ。
(苦肉の策で絞り出したにしては上々…)
谷透はその隙を逃さない。
(よしっ!今のうちに遮蔽物に隠れっ……)
……当然、シダマもその隙を逃がさない。
「忘れてたのかなー?」
「ッッ!?」
ワイヤーで咄嗟に回避した蒼糸はともかく、真陽と雹はその場に残っている。彼女たちを庇うように谷透は身を乗り出す。シダマのトンファーが深くみぞうちにめり込む。
「ゴホッッ!」
体内からメキメキッ…と嫌な音が響き、床を転んでいく。
「く……そ……」
封神剣は手元にある。だが、立ち上がり振るえる力がなければ意味が無い。
蒼糸は天井を蜘蛛のように動き、真陽と雹を回収しようと試みるが、そのワイヤーをシダマに掴まれてしまい、天井から床へと叩きつけられる。
「ぐはっ!!……」
「前から思っていたが、鬱陶しいな、お前は」
「……チッ…」
全身を強打した蒼糸を見下すようにシダマは言い放つ。
「その鋼線の使い方と言い、逸材であったのに。有山なんかについていなければ、今頃左団扇だったかも知れないのになぁ」
「………うるせぇよ」
「全く、あんな落ち目の幹部側なんかに着くからそうなるん……」
「五月蝿ェッつってんだよッッッ!!」
身体中を叩きつけられたはずの蒼糸が、叫びと共にグンッと勢いよく立ち上がる。
頭から血を流し、垂れた血が右目に入っている。
『殺し屋一家の跡継ぎ……?』
『あぁ、一家を逃げ出してきたらしい』
『……なるほど』
『………』
『なぁ、少年。君、私の部下にならないか?』
『……あ?』
『おい!正気か!』
『正気だとも、いかんせん立ち上げたばかりの組織、右腕が欲しかったところだ。どうだい?君のその両手を、誰かから奪って殺すためじゃあなくてね……』
若い男は少年の両手を掴む。
『奪われた誰かを守るために使って見ないかい?』
「なんで俺があの人に付いてるのか、テメェの沸いた頭にも解るように言ってやるッ!!1回2回死んだ程度で、返せる恩じゃねぇからだッ!」
蒼糸は自分の指もちぎれる程の力でワイヤーを手繰る。
「………ま、精神論はどうでもいいけどねぇ…現実を見ろよ、見ろって」
シダマは後ろの部隊に合図する。
「そこの3人を守りながら、このシダマと戦えるのかい?」
「………」
全身を強打している上、頭から血を流している。そんな状態で制圧射撃から3人を守り、シダマと戦うなど無理だろう。
だが、相打ちならば。
シダマの合図に合わせて、部隊の隊長が叫ぶ。
「全体……射撃かい……」
『いや、そこまでだ』
ビクンッ!!と肩を揺らしたのは、部隊の隊長……だけではない。
蒼糸の視線の先にいるシダマもだ。
キュッ…キュッ…と軍用ブーツが床を擦る音が響く。
片目に眼帯をし、腰に刀を刺した和服の上から、軍用コートを羽織っている。
この組織で、知らない者はいない。
男は、部隊長の肩に手を乗せる。
「制圧射撃はただちに中止。これより本官は前線へ復帰する。長らく待たせた。これより目標を伝達する。目標、第一補佐 シダマ。当官は組織を私物化及び総括指導者の監禁をした。この命令は……」
男はコートをバサリと靡かせて声高々に叫ぶ。
「総括命令だ」
『無神機関』総括指導者 止水
組織を束ねる真の長が、この場に君臨した。
封神剣の未来予知モドキ、そして霊体化を持ってして、シダマと相対していた。
しかし、追い詰められているのは、谷透の方であった。
「………はぁ…はぁ……」
「人の姿してるから勝てるとか思った?バカだろ、バカでしょ。『神人』ってのは神を模して創られた存在だぞ。簡易化した神のようなものだ」
シダマはケラケラと言葉を発しながら、トンファーをぐるぐると回す。
「もう終わりにしちゃうか、そうするか」
シダマのトンファーが谷透の頭目掛けて振り下ろされる。この勢いは殴るなんてもんじゃない。そのまま頭を粉砕するような勢いだ。
…………しかし
しかしだ。
谷透の頭は砕けなかった。
「………あれ?」
シダマの腕に何か糸のようなものが絡んでピキリと動きを止めていた。
奥からカツンカツンと革靴の音が聞こえてくる。
「いやぁ、遅くなってごめんって感じぃ。このふたり中々喧嘩やめなくてねぇ……」
「谷透様ッ!ご無事ですか!」
「谷透さん、今助けます」
「……蒼糸…真陽…雹……」
「………ちっ……」
シダマが蒼糸のワイヤーを引きちぎろうとした時、真陽が召喚した巨大な腕と、雹が生成した氷の礫がシダマに襲いかかる。
「大丈夫ですか?谷透様」
「真陽か……助かった…」
「谷透さん、大丈夫ですか」
「雹もありがとな」
すると真陽が、身を乗り出していた雹を抑えるように前に出る。
「雹さん?私が先に谷透様を助けたのですよ?」
「あ?アバズレメンヘラ女は黙ってろ」
「おーい…お二人さーん。いがみ合ってる場合じゃ無いって感じぃ……ほら、この程度で倒れる相手じゃ無さそうだしー」
蒼糸が指さした先には、服こそ破れているが、体の方はほぼ無傷の状態でシダマが立っていた。
「3人とも聞いてくれ、アイツは人じゃない。『神人』だ……」
「『神人』ッ!?」
「……なんだそれ?」
「あー、僕にも分からないって感じぃ」
神社に属している真陽は流石にわかるようだが、無神機関所属の2人はピンと来ていないようだった。
「ま、平たく言えば神の模造品とかだそうだ。人間を相手にしてると思わない方が良い」
「へぇ~、じゃあ例えばこんなのも耐えられるかなぁっとッ!!」
蒼糸は指先からワイヤーを射出する。その風切り音がブゥゥゥゥン……と重低音を響かせているように感じた。
シダマがトンファーでそれを受けようとするが、なんと鋼鉄で出来ているトンファーがワイヤーによって切断されてしまう。トンファーが使い物にならないと思うや、シダマはワイヤーを素手で掴んで床に叩きつける。
「んぁー、この攻撃さ、電ノコと同じぐらいの威力のはずなんだけど……」
蒼糸が射出したワイヤーは、彼の技術で細く振動させ電動ノコギリのような威力になっていたのだが、それすらシダマは素手で掴んだ。
「……もういいか?」
ゾッとする。
その言葉に反射するように真陽と雹が同時に仕掛ける。しかし、土煙の中からはニタリと笑うシダマが出てきた。
「そういえばだけどさ」
シダマが片方しか無くなったトンファーを回しながら話す。
「お前らが本当の事を吹聴して回ろうとしても、この組織の全体にそれが行き渡った訳じゃないよねぇ?」
途端に、後ろから銃を構える音が連続して聞こえる。
その場の全員が振り返ると、そこにはこちらに銃口を向けている無神機関の部隊が居た。
「ご無事ですか!シダマ第一補佐!」
隊長らしき男が叫ぶ。
「あぁー助かったよ。こいつら、有山の部下に誑かされてさ、雹と蒼糸は組織を裏切ったから、好きにやっちゃってー」
有山の部下である蒼糸、そして直接対峙した雹はともかく、正しい情報が広い組織全体に行き渡っているはずも無く。
彼らから見れば、谷透達は未だ侵入者なのだ。
「………っっの野郎ッ!!」
「撃てーッ!!」
制圧射撃が開始される。
瞬間、真陽は召喚した腕で壁を造り、4人はそこに隠れる。
「とりあえずのしのぎでしかありません……いつまでも持つものではありませんが…」
「いや十分だ、真陽」
「あぁ……谷透様…」
上着を脱ぎ始めた真陽を、雹と蒼糸が取り押さえる。
「発情してる場合じゃねぇだろ六武衆ッ!」
「いやぁ…それよりもどうすんだって感じぃ」
「…………」
袋のネズミ。曰く、逃げ場無し。
「谷透様っ……もう……」
真陽の限界が来たようだ。
「ちっっ!!」
腕が蜂の巣にされ始める。谷透は力の限り叫んだ。
「雹ッ!冷気で床を凍らせろッ!」
弾かれるように雹は異能力を駆使して、床全面を一時的に凍結させた。
「蒼糸ッ!ワイヤーを低い位置で連中に発射しろっ!」
「……ッ!りょーかいって感じぃっ!」
凍結した床を舐めるように蒼糸のワイヤーが這っていく。
直接的な攻撃力が無くとも、ワイヤーに足を取られる。一旦バランスを崩した先にある床は、凍結している。
「うぉぉぉっ!?」
隊列を組んでいた部隊がいっせいに転ぶ。
(苦肉の策で絞り出したにしては上々…)
谷透はその隙を逃さない。
(よしっ!今のうちに遮蔽物に隠れっ……)
……当然、シダマもその隙を逃がさない。
「忘れてたのかなー?」
「ッッ!?」
ワイヤーで咄嗟に回避した蒼糸はともかく、真陽と雹はその場に残っている。彼女たちを庇うように谷透は身を乗り出す。シダマのトンファーが深くみぞうちにめり込む。
「ゴホッッ!」
体内からメキメキッ…と嫌な音が響き、床を転んでいく。
「く……そ……」
封神剣は手元にある。だが、立ち上がり振るえる力がなければ意味が無い。
蒼糸は天井を蜘蛛のように動き、真陽と雹を回収しようと試みるが、そのワイヤーをシダマに掴まれてしまい、天井から床へと叩きつけられる。
「ぐはっ!!……」
「前から思っていたが、鬱陶しいな、お前は」
「……チッ…」
全身を強打した蒼糸を見下すようにシダマは言い放つ。
「その鋼線の使い方と言い、逸材であったのに。有山なんかについていなければ、今頃左団扇だったかも知れないのになぁ」
「………うるせぇよ」
「全く、あんな落ち目の幹部側なんかに着くからそうなるん……」
「五月蝿ェッつってんだよッッッ!!」
身体中を叩きつけられたはずの蒼糸が、叫びと共にグンッと勢いよく立ち上がる。
頭から血を流し、垂れた血が右目に入っている。
『殺し屋一家の跡継ぎ……?』
『あぁ、一家を逃げ出してきたらしい』
『……なるほど』
『………』
『なぁ、少年。君、私の部下にならないか?』
『……あ?』
『おい!正気か!』
『正気だとも、いかんせん立ち上げたばかりの組織、右腕が欲しかったところだ。どうだい?君のその両手を、誰かから奪って殺すためじゃあなくてね……』
若い男は少年の両手を掴む。
『奪われた誰かを守るために使って見ないかい?』
「なんで俺があの人に付いてるのか、テメェの沸いた頭にも解るように言ってやるッ!!1回2回死んだ程度で、返せる恩じゃねぇからだッ!」
蒼糸は自分の指もちぎれる程の力でワイヤーを手繰る。
「………ま、精神論はどうでもいいけどねぇ…現実を見ろよ、見ろって」
シダマは後ろの部隊に合図する。
「そこの3人を守りながら、このシダマと戦えるのかい?」
「………」
全身を強打している上、頭から血を流している。そんな状態で制圧射撃から3人を守り、シダマと戦うなど無理だろう。
だが、相打ちならば。
シダマの合図に合わせて、部隊の隊長が叫ぶ。
「全体……射撃かい……」
『いや、そこまでだ』
ビクンッ!!と肩を揺らしたのは、部隊の隊長……だけではない。
蒼糸の視線の先にいるシダマもだ。
キュッ…キュッ…と軍用ブーツが床を擦る音が響く。
片目に眼帯をし、腰に刀を刺した和服の上から、軍用コートを羽織っている。
この組織で、知らない者はいない。
男は、部隊長の肩に手を乗せる。
「制圧射撃はただちに中止。これより本官は前線へ復帰する。長らく待たせた。これより目標を伝達する。目標、第一補佐 シダマ。当官は組織を私物化及び総括指導者の監禁をした。この命令は……」
男はコートをバサリと靡かせて声高々に叫ぶ。
「総括命令だ」
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組織を束ねる真の長が、この場に君臨した。
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