神様の仰せのままに

幽零

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無神機関編

31話

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「………はぐれたようですか…」

御影は一人、通路のような場所に立っていた。先ほどの雹と呼ばれる女性の一撃で落下したが、特に外傷は負わなかった。刀を抜いて異能力を発動し透明になる。

この異能力は自身と自身の持っているものを透明にすると言ったものだ。発動してしまえば完全に背景に溶け込んでしまうので、見つけることは不可能だ。

……いや、あの男には可能だったが。

透明化は単純に強力な能力ではあるが、いつしか谷透に看破されたように質量そのものが消えている訳ではないのでどうしても足音など自ら発する音は出てしまう。そして、物体であるため光があたれば影が生まれてしまう。

……まぁ、とりあえず初見ではここまで見抜く事ができる人間はそうそういない……というか、初見でここまで見抜ける人間の方がおかしい。あの男、本当に人間か?


とりあえず、同じ轍は踏まないよう、足音に注意する。地下に落ちたようだが、灯りはあるのでそれだけ気をつけていれば、目の前を横切られてもぶつからない限りバレることは無い。

「……ッ!……ッッ!?」

(何やら話し声が聞こえますが……)

御影は通路を確認する。しかし、そこに無神機関の隊員らしき人影は無い。もう一度耳を澄ますと、どうやら壁の向こう側から聞こえてくるようだった。刀の先端で壁を叩いてみる。

「……?おい、今何か音がしなかったか?」

「はぁ?侵入者は今ごろ雹さんが倒してんだろ?ネズミじゃあねぇのか?第一、この通路がわかったところであの本棚以外入り口がねぇんだから別に構うことはないだろ」


(ご丁寧に隠し通路だと教えてくれて感謝しますが、どこまで不用心なんですか)


会話が筒抜けなのに隠し通路とは笑ってしまうが、もう隠しておく必要がないのかもしれない。もしシダマとかいうのが総括と呼ばれる人物よりも権力を持っていれば、何か後ろめたい事があっても隠すまでもない。

(さて、侵入と行きますか)


先ほど本棚の場所に通路の入り口があると聞こえたが、隠し通路のスイッチなどをご丁寧に探すつもりは毛頭ない。御影は刀で通路の壁を斬り、もう一つ出入り口を増やした。


死神の足音が、響き始める。






自分が、自分の部屋に軟禁されていると知っている機関員は一体どれくらいいるのだろう。シダマの策略で嵌められ、奴が組織を牛耳った。第一補佐という立場を利用して組織を私物化して、挙句の果て何やら『弾丸』なんてものを製作した。


いつも着ていた和装や武器も取り上げられてしまった。今は患者服のようなものを着せられている。

(…………見張り達が何やら騒がしいな…)

総括と言われた男は片側しかない眼で鋭く観察する。

「……おい。何やら今日は騒がしいな?」

嘲笑するように聞くと、見張りのひとりが苛立ちながら壁を殴りつける。

「う、うるせぇっ!人質は黙ってろ!!」

フッと鼻で笑うと、顔を下げて思考する。

(噛み付いて来るのは余裕が無い証拠だ……まさか…有山が私の状態に気がついたか?)

憶測に過ぎないが、こんな場所に乗り込んで来るなんて、よっぽどのド阿呆か組織の現状を知っている者ぐらいだろう。

(……もしかすると、千載一遇のチャンスかもしれんな……ん?)

途端、総括と呼ばれている男は何か気配を感じとった。嫌に静かで、それでいて殺意の溢れた気配。ここの見張りたちのものとは明らかに違う。異質な雰囲気。真水の水槽に海水が流れてきたような違和感。素人が見れば水と水、だが明らかに違う。

(…………?)

総括は片側の眼で部屋を注意深く観察する。天井、本棚、什器、見張りの装備や表情、そして床。

その目が床に向かった時、総括は「それ」に気が付いた。


床の絨毯が。そこに誰もいないのにだ。


瞬間、見張りの1人の胸部から、刀が突き出た。

「ッッ!?」

見張りの1人が床に倒れる。残った2人は何が起きたかも理解出来ていない。

「お、おぃ゛っ!?」

声を上げようとした1人は、次の瞬間に首が落ちた。

「し、しんにゅっ!?!?」

『侵入者だっ!』と叫ぼうとした最後の一人は途端に口篭り、胴体から真っ二つになる。

たった数秒、出来上がったのは死体が3つ。

そんな景色の中から、じわぁ…と、何かが浮き出ていた。


「……貴方が総括ですか?」

「………誰だ、お前は」

「一ノ門大社 六武衆が1人、御影ですが」

「………」

穢れた神を相手にしていのだ、「一ノ門大社」、そして「六武衆」。この二文字をこの界隈で聞いたことが無いと言えば、それは自分の名前も言えないぐらいの大馬鹿野郎と同位だ。

「……随分な大物が来たな」

「それでまだ質問の途中ですが?貴方が総括ですか?」

御影の問いに、男は答える。

「あぁ、私が『無神機関』総括指導者 止水シスイだ。とは言っても、今や組織はある奴に私物化されているがな」

「シダマ…ですか」

「……おや?なぜ知っている?」

「私はここの機関員である蒼糸という人物の提案にのり、ここに乗り込んで来ました」

「蒼糸……?たしか有山の部下だ…」

「どうやら、蒼糸の上司という男は賭けに出たようですが。組織が乗っ取られたなら敵に乗っ取り返して貰う。平たく言えば、その男はここを裏切ったという事ですが」


「………なるほど………フハッ…」


突如漏れた笑いに、御影は怪訝な顔をする。


「フッ…いや、昔から大胆な男だとは思っていたが……そうか…フハハハハハッ!組織の乗っ取り!それは愉快だ!」

止水は一通り笑ったあと、御影に向かって話す。


「話を戻そう。見てわかったと思うが、私は軟禁状態でね。武器も服もない。だが私がそこら辺を歩いていればそれはそれで厄介になるだろう。見張りの件はもう問題ないが、流石に丸腰のままここを出る訳には行かん。おそらく研究室と呼ばれる場所に私の装備の一式がある。取ってきてくれ」

「……それはつまり…」

御影の言葉に止水総括は頷く。

「あぁ、私が表だてば、まともな連中はこっちに付くさ。つまり……」

総括は無い方の目を擦りながら答える。

という事さ、六武衆。蒼糸か有山という男に会ったら伝えてくれ、総括が舞い戻るとな」


「……頼まれました」



御影は再び『透明化』を発動すると、研究室なるものを目指して歩いていった。


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