異常さんの日常

幽零

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私と破戒僧

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今日も昨日も今年1番の暑さだと言うセリフから始まりました。恐らく明日もでしょうね。

「しかし、いいお天気です。買い物日和ですね」

ザンカさんも買い物に誘いましたが、んな面倒な事するかと一言、来ませんでした。

それにしても…この街は本当に心霊が多いのですね。ザンカさんにそういうものを見えるようにしてもらって以来、様々な人外さん達が見えるようになりましたねー。退屈しないし、結構新鮮な気分です。

よく見る浮遊霊はふわふわ人について行ったり、自由に浮かんでいたりする。

「ん?何だろうあれ?」

そんな中、道端に佇んでいるガリガリの小さい鬼のようなものが目に付いた。

「えーと、話せる?どうしたの?」

子供のような姿なので、あまり警戒心も持たなかった。子供の姿をした鬼はギギィ…と、弱々しい声を出している。

「えと、大丈夫…なのかな?」

するといきなりその鬼に顔を鷲掴みにされた。

「え!えっとちょっと!?」

「ギヒヒィ…ギヒャヒャヒャ!!!!」

子供の姿をした鬼の顔を見ると、先程までの弱々しさはなくなり、歪んだ笑顔を見せていた。

……え、コレまずいかな…?

徐々に掴まれる力が強くなる。え?私死んじゃう?

そう思いかけた時、掴まれた腕がいきなり剥がされ、子供の鬼から開放された。

「……っと、大丈夫かい?嬢さんよ?」

見ると、そこには黒い袈裟をはおり、編笠をかぶった僧侶のような人がいた。声は低く、編笠で目元は見えないが、髪は白く、少し結んでいる。それと一番目に付いたのは、僧侶さんなのに煙草を咥えている。

あぁー…この人か、前に知り合いの僧侶がいると言っていましたが、それがこの人だ。
僧侶なのに煙草とお酒を愛している堕落した破戒僧。

「あなたでしたか、業臥(カルマガ)さん」

「ん?何だ、誰かと思えばあの時の嬢ちゃんじゃないか」

業臥さんは今更気付いたみたいです。この人と初めて会ったのはある山道でしたね。私が友達と山菜狩りに行ってはぐれてしまった時に、偶然道端でお腹を空かせて倒れていたのを見つけたのがきっかけだったかな?



『…で、何故こんな所で寝ているのです?』

『あぁー…嬢ちゃんよ何か食いもんないかい?俺ァ寝てるんじゃなくて…まぁ行き倒れって奴だ』

『まぁ、ありますけど』

『ん、ありがとよ。にしても嬢ちゃんこんなとこで何してんだい?』

『いえ、友人と山菜狩りに来ていたらはぐれてしまって』

『なるほどねぇ、はぐれた…か。そうだ嬢ちゃん。食いもんの礼だ、俺が魔法をかけてやるよ』

『…はい?』

『目ぇつぶって真っ直ぐ歩きな、そうすりゃ嬢ちゃんの友達と会えるぜ』



その後、言われた通り目をつぶって真っ直ぐ歩いたら本当に友人に会えて驚いた。出来すぎた夢だと思う事にしたが、いつの間に手には紙切れが握らされており、その中にはこう書かれていた。

『俺ァ業臥ってんだ。お礼したくなったら俺の名前念じながら街中歩きな、そうすりゃ会えるぜ』

その紙切れは何か怪しいから、帰って捨てたはずなんだけど、何で念じてもないのにこの街で出会ったのかは謎だ。まぁ助かった。

「で、嬢ちゃんよ?何であんな奴に襲われそうになってたんだ?」

業臥さんは口に咥えた煙草をユラユラ揺らしながら聞いてきた。

「いえ、何かうずくまってたのでどうしたのかなと思って」

そう言うと、業臥さんはフワァッと煙を吐き出しながら話始めた。

「あのなぁ嬢ちゃん。ああ言う人外は自分を弱く見せて襲い掛かるんだよ。霊が見える人間なんて滅多にいないけどな」

「あぁ、そうだったんですか。それでアレはなんて言う人外なんですか?」

私が聞くと業臥さんは右手で先程の鬼の頭をつかみながらそれを前に出して話し始めた。

「コイツァ餓鬼って言う鬼さ、自分の欲望のために人間襲ったりしやがる奴だよ」

「餓鬼」と呼ばれた鬼はビクビクしながら震えている。少し可哀想だ。

「あの、業臥さん。その子許してあげてくれませんか?」

「あん?嬢ちゃんよ、こいつに襲われたってのに良いのかい?」

「もう反省してるでしょうし、大丈夫だと思うんです」

そういうと業臥さんはそーかい、と言って餓鬼を離してくれた。

「嬢ちゃん、人外に情けをかけるってのは慈悲深くて良い事だ。だがな、それが毎回良い結果になるかは分からないぜ?」

「構いませんよ」

変わった嬢ちゃんだなぁと言うと業臥さんは煙草を口からプッと吐き出し、腰に下げているヒョウタンの栓を開けて飲み始めた。

「なんですか?それ?聖なる水的なものですか?」

そう聞くと業臥さんは呵々っと笑って一言

「うんにゃ、酒」

「良いんですか?僧侶様がそんなもの飲んで」

「人生楽しんだもん勝ちよ。俺ァ破戒僧だからねー」

自分で言うんだ…それ。

「ま、これからはあぁいう奴らにゃ気をつけな」

それだけ言うと業臥さんは煙に突然囲まれ、煙が晴れると既にいなくなっていた。相変わらず不思議な人だ。本当に人かも少し怪しいが。

「とりあえず、帰りますか。何か買い物って気分でも無くなりましたし」


家に帰るとザンカさんの姿が見当たらなかった。どこに行ったのでしょう?いつもは暇そうに空中に浮いていたりするのですが…

部屋の机を良く見ると、フワフワと文字だけ浮いているのが見えた。死神って面白い力があるんだなぁ。その文字はこう書かれていた。

『何か冥界でトラブったらしい。面倒だが俺が行くことになった。数日居なくなるが気にするな』

なるほど、冥界と言うのは前に言っていた通り、ザンカさんや他の死神達にとっての故郷のようなものだろう。そこでのイザコザに引っ張り出されたって感じかな?そう思うとザンカさんはかなり位の高い死神だったりするのだろうか?

ザンカさんがいない部屋は静かに感じます。今まで居た人がいなくなるとこんなに静かになるものなのですね。うーん、少し寂しいかも…

そんな事を考えていたら、突然ギギィ…と聞き覚えのある声が聞こえた。

見ると、傍らに小さい鬼のようなものがいた…えーと、餓鬼とか言ったっけ?

「ついてきたの君?」

「ギィ~…」

餓鬼は少し寂しそうな顔をしている。1人が嫌だっんだろうか?

「じゃあ、一緒にいようか?いつもいる死神さんは今日から何日かいないみたいだから」

そういうと餓鬼はギギィー!と傍から見てもわかるぐらい喜んだ。少し可愛いかもしれない。

餓鬼は大して何もしてこなかった。それどころか親切だった。捜し物をしていると見つけてきてくれるし、荷物を運んでくれたりもする。

「君、いい子だね」

「ギギィ~!」

業臥さんはあぁ言っていたけど、この子もちゃんと反省してるみたいだし、ザンカさんが帰って来るまでここにいさせてあげよう。

「さて、夕飯でも作りますかね。手伝ってくれる?」

「ギーギギィー!」




……その様子を遠巻きに見ている影が一人。

「やっぱり、そうなるかァ……」

電柱の上に立っていた影は口元から煙を吐き出していた。風に当たるとその影は煙のように消えてしまった。


翌日、餓鬼と一緒に散歩に行く事にした。後ろをテチテチついて来て割と可愛い。すると再び見覚えのある破戒僧が見えた。

「よォ、嬢ちゃん。何だ餓鬼と一緒かい」

「えぇ、この子良い子ですよ?色々手伝ってくれるし」

そう言うと業臥さんは編笠を傾けて、そうかいと笑った。

「嬢ちゃんの慈悲が通じたのかね?珍しい事もあったもんだ」

「えぇ、業臥さんにやられたことで大分反省してるみたいですよ?」

「そいつァ悪ぃな、だがそれが俺の本来の仕事だからねー」

「破戒僧が何言ってるんですか」

そう言うと業臥さんは呵々ッと笑って再び一瞬で消えてしまった。



その日の深夜、すやすやと眠るミコトの前に少しづつ近づく小さい影がひとつ。

「…ギィーギィ?」

その影は餓鬼だった。餓鬼はミコトが起きてないかを確認している。ミコトは熟睡しており、起きる気配はない。すると餓鬼は手の形をみるみる変形させ、鋭いナイフのような形になった。

「ギギィ!!」

餓鬼は寝ているミコト目掛けてその手を振り下ろす。グサッとミコトの胸部に手が刺さるが、手が刺さった瞬間、ミコトは煙のようにぼやけて消えてしまった。

「ギ!?ギギィ!?」

餓鬼は狼狽え始めた。すると餓鬼の背後に黒い袈裟をはおり、編笠をかぶり、口元で煙草を揺らしている僧侶が現れた。

「やっぱりなァ…手前ェが狙った獲物はどんな下劣な手ェ使っても殺す…それがお前ら餓鬼だよなぁ…」

いきなり背後から聞こえた声に餓鬼は驚き、そして敵意を剥き出しにした。

「ギギ!!ギギギギィ!!!」

餓鬼は業臥に襲いかかろうとする。しかし業臥はその場所から1歩も動かず、あろう事か避ける素振りも見せない。

餓鬼の腕が業臥を切り裂くが、業臥は煙のようにぼやけて全く効いていない。

「諦めなァ…テメェにゃ俺ァ倒せねぇよ」

業臥は咥えている煙草を吸うとフッと煙を餓鬼に向けて吐き出した。煙は餓鬼の体を締め付けるように巻きついた。

「ギ!?ギギィ!?ギギャーー!!!」

餓鬼はみるみるうちに煙に囲まれ、苦しそうに悶えだした。

「煙に巻かれて消えちまいなァ…」

業臥は指をならして再びフッと息を餓鬼に吹きかけると、餓鬼は煙と一緒に消えてしまった。



翌日、目が覚めると餓鬼はいなくなっていた。何故か昨晩寝た部屋とは別の部屋で起きたのだけど。

「…あの子はどこいったのだろう?」

ボソリとつぶやくと、部屋に煙が立ち込めてきて、中から業臥さんが出てきた。

「何してるんですか、業臥さん?不法侵入ですよ」

「呵々ッ!相変わらずだなぁ、嬢ちゃんよ」

業臥さんは相変わらず煙草を揺らしている。

「あの、餓鬼がいなくなっていたしまったんですけど、業臥さんは餓鬼の行方を知ってますか?」

そう言うと業臥さんは何故か編笠を深くかぶり直して、少し笑いながら話し始めた。

「…嬢ちゃん、あいつァは多分、居るべき場所に戻ったんだと思うぜ?鬼が本来居るべき場所は地獄だ。故郷が恋しくなったんだろうよ」

そうか…餓鬼は故郷に帰ったのか…少し寂しい気もしますが、仕方のないことなのだろう。

少し俯いていると、目の前に手が差し出された。

「嬢ちゃんよ、こいつを持っとけ」

業臥さんが差し出したのは変な文字が書かれた煙草だった。

「私は吸いませんよ?」

「そうじゃねぇさ、俺の事呼びたくなったらそいつを燃やしな。俺ァいつでも暇だからよ」

そう言うと、業臥さんは手を構えた。すると何もないところから錫杖が現れ、それを使って床をトントンと叩いた。すると辺りからまた煙が立ち込めて来た。

「って訳で嬢ちゃん。俺たァ一旦さよならだ。」

「?どこに行くんですか?」

「ほら俺ァ破戒僧だからよ。」

そう言うと業臥さんは編笠を抑えながら振り向きニッと笑うと

「人生を楽しみに行くんだよ。それにな?俺は早く居なくなんねぇといけねぇ。嬢ちゃんの待ち人がそろそろ来る見てぇだからよ」

……え?

業臥さんの言葉に動揺していると、いつの間にか業臥さんは消えていた。

……私が待ってる人?

業臥さんが最後に言った言葉の意味を考えていると、目の前にヌッと見覚えのあるどす黒いローブを来た人が現れた。

「…ったくよ。あれぐらい自分達で何とかして欲しいものだな……ん?あぁお前か、久々だな。」

「何だ、戻って来たんですか。そのまま冥界に帰るものだとてっきり…」

「お前なぁ、自分から約束しといてそれはないだろ…」

「え?私とそこまで一緒に居たいんですか?」

「違うわ!俺はな!…ってもういい…お前にツッコんでもキリがねぇ」

ザンカさんはいつも通り空中で足を組んでフワフワと浮かび始めた。

「あ、そうだ。ザンカさん」

「何だ?」

何故だか分からないけど、ひとまずこの言葉を言いたかった。

「おかえりなさい」

「おう」

ザンカさんは気だるげに答えた。

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