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いざ、異世界へ
《円卓会議》
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ではここで、事の結末を語るとしよう。
”人類国家”である”ディエルバ王国”と”魔神族”であるゴブリン軍との戦争は、ゴブリン軍のリーダーこと、ヴァルゴの敗北によって終結することとなった。
一体誰がヴァルゴを倒したんだ?、という噂が国中で囁かれ、実は俺――超能寺 才己がやったんじゃないかと噂されたが、”ディエルバ王国”の王女――アンナがそれを全面否定した。
どうやら俺は、自分がゴブリン達に喧嘩を売ったことを後悔し、宿屋の隅っこで怯え続けていたらしい。恐らく、俺の深~い事情を察してか、アンナが気を使ってくれたらしい。後で礼を言っとかなきゃな。
……とまぁ、そんなこんなで”魔神族”を退けた”人類族”の偉業――いや、この場合は悪行と言った方が正しいかもしれん――は瞬く間に全世界に轟いた。
その日を境に、”ディエルバ王国”は”他種族”から相当のバッシングを受け、非難の手紙や釘を刺された所謂呪いのワラ人形がどさっと送られてきた。
終いには、ある令状が届けられることとなった。その内容とは――
「いや~この文章から相当の怒りを感じますわ~。ここに書かれてる場所に行ったら何をされるんだろう。うひょ~怖ぇ怖ぇ」
イマイチその令状がどういうものなのか知らない俺は、ケラケラと笑う。
そんな俺の態度に、隣を歩くアンナは絶叫を上げる。
「ちょっと! ヘラヘラしないで頂戴! これは一大事なのよ!? まさか、この世界の代表者が集う《円卓会談》から召集が掛かるなんて……。絶対に先日のいざこざが原因よ! あぁ、もう生きて帰れないかも……」
「大袈裟だなぁ、アンナ。ただちょっとした集まりに顔を出すだけだろ? 少ーし怒られそうな雰囲気だが、スンマセン(笑)って頭ペコペコさせとけばなんとかなろだろう?」
「そんな軽々しくなーい!」
ゴワッ、という風圧を出すくらいに噴出されたアンナの大声に、俺は目をパチクリとさせた。
その言葉に妙な重みを感じた俺は、眉間にシワを寄せる。
「……それもこれも、この世界の情勢が関係しているのか?」
「えぇ、そうよ」
そしてアンナは『そういえば説明はまだだったわね』と言って、この世界の状況について語り始めた。
「今この世界はね、とても過酷な身分制度の上に立っているの」
「要は、貴族と平民とその……奴隷みたいに分かれている感じか?」
「そのくらいで済んだらどれだけ良かったか……」
アンナは哀愁漂う顔を見せながらも話を続ける。
「遥か昔、”人類族”の間ではサイコが言った身分制度があったのは確かよ。けどその身分の差はピラミッド型――つまり、絶対的な君主の数はとても少なかったから、それ程苛烈な圧制にはならなかった。けれど、現状はそんな甘ったれた状況じゃない。……この世界は九割の強者が残り一割の弱者を一方的に支配する世界なの」
「アンナやヴァルゴの物言いから薄々そういう感じじゃねぇかなとは思っていたが、まさか本当にそうだったとは。だから俺がゴブリン達に反抗したのは、相当ヤバイ行いだったってことだな」
つまり俺がやったのは、一割の力または数しか持ち得ない雑魚なのにも関わらず、残りの九割を誇る連中に対して歯向かったということだったらしい。
……改めて文面にしてみるとエライこっちゃな。そう考えると、ヴァルゴ共に喧嘩を売った時、”ディエルバ王国”の住民達にフルボッコにされたのも頷ける。
「――で、普通なら負けるだろって思われていた下馬評を俺達”人類国家”は覆した。それに下僕扱いしてる奴らがストライキを起こしたとあっちゃ、上で踏ん反り返る野郎共は黙っちゃおらんよな」
だから、その騒動を起こした”ディエルバ王国”のトップであるアンナを糾弾したく、《円卓会談》とやらに呼びつけたのだろう。
アンナにしてみれば、とても恐ろしいことかもしれないが、俺からしてみれば好都合であった。
「アンナ、そう怖がんなって。いざとなれば俺が助けてやるしよ。それに今回の件は丁度良いと思ってる」
「? どういうこと?」
「ただちょっとした視察が出来るな~って思ってよ」
「うわ~……またヤバイこと考えてるよ、この人……」
アンナは俺の表情にドン引きする。
そんなこんなで歩き続けること十数分。俺らはある場所に到着をした。
「なんだ、ここ? 洞窟か?」
こんな薄暗い所で会議なんてやんのか?、と思う俺を無視しアンナはその中に入っていく。
俺はその後を黙って付いていく。
おぼつかない足取りで洞窟を進んでいると、少しだけ開けた空間に出た。
見た感じ、RPGにおける洞窟ステージの最奥にあるような祭壇が設置されていた。
「サイコ、こっち来て」
アンナは慣れた手付きで、祭壇の中央にあった錠を解き、俺を手招きする。
「ちょっと酔っちゃうかもしれないけど、我慢してね」
「あん? それはどういう――」
「さぁ、行くわよ」
そう言ってアンナは、祭壇の中身を開けた。
その瞬間、俺の視界がグルン、と半周した。いや、回ったのは視界じゃない。実際には俺の身体が半周したのだ。
「うぉい!?」
さらにその回転は収まることを知らずさらにグルグルと回り続ける。さらに、身体が引っ張られる感覚にも陥った。
多分、俺は前方の祭壇に吸収されているんだ。
摩訶不思議な現象に見舞われた俺が次に意識を取り戻したのは、さっきの場所とは全く異なる場所であった。
「う……うぅ~……」
ちょっとだけ酔った頭を振りながら、周囲を確認する俺。
そこは、壁も天井も全面真っ白の空間であった。
さらに、その空間の中央にはまたまた真っ白なオブジェクト――丸い巨大な円卓が存在した。
『どうやら時間を守れるくらいの脳はあるらしいな』
ふと円卓の方からノイズ掛かった声がした。
その声の方を向くと、円卓から五つのモニターが現われ出でた。
そのモニターの画像は鮮明ではなく、辛うじてそこに人物像があるということだけがわかった。
そんなおぼろげなモニターの奥で、唾を吐き捨てる者がいた。
『わたくしはお主ら”人類族”なぞに時間を使いたくはありませんことよ。弁解なんて聞く余地なし。さっさと死刑宣告を与えるからそこで跪きなさいな』
声がしたモニターに対し、アンナが言葉を返す。
「お待ちください、<人魚姫>様! 確かに我々はしてはいけないことをしました! ですが、こんな世界の有りようは間違っています! それにもう私達は支配されるだけの存在ではありません! どうかまた手を取り合って――」
『黙れよ、ゴミカス!』
また別のモニターから荒々しい男の声がした。
『あぁ、やっぱウゼェわ、”人類国家”はよ~。弱い癖に出しゃばって俺らの手を煩わせるんだからよ~。ぶっちゃけここに居る奴らの意見は完全一致してんだよ~。だから早く死ね!』
男の乱暴な言葉に反応するように、背後から気配がした。
そこにはまたまた真っ白の装いをした騎士がゾロゾロと入ってきた。
『あひゃ~、相変わらず容赦ないっスね、<オオカミ>の旦那は!』
『いいじゃねぇか、<一寸法師>の小坊主。なぁ、ここいらで一つ賭け事をしないか? アイツらが何秒生きられるかさ。俺はそうだな……期待を込めて一分と見た!』
『にゃは! それメッチャ面白そうっスね。じゃあオイラは……三十秒に賭けるっス』
『おい、<人魚姫>と<かぐや姫>も混ざれよ!』
『相変わらず無粋なことをお考えになって。……二十五秒』
『……そんなことに思考回路割きたくないから、私はパス。……というかもう何秒でもいいよ、早く終えてお昼寝の続きしたいし』
『<かぐや姫>は相変わらずだな~。して、<笛吹き>の爺さんは?』
『お前達の見込みは甘過ぎる。”人間”なぞ本当に取るに足らぬ存在だということをもう一度弁えよ。儂の予想は零秒だ。どうせ戦う事などせず、そこで許しを乞うておるに違いな――』
<笛吹き>と呼ばれる老人の言葉は遮られた。
そう。俺の言葉と、吹き飛ばされた騎士がモニターを通り抜けることによって。
「はい! 正解は一秒未満でした! そこのおっちゃんにはニアピン賞として、もう動かなくなった鉄の塊を贈呈~!」
『『『『『…………』』』』』
辺りがシンとした。
俺はそんな静寂を破るように高笑いを上げる。
「おいおい、どうしたよ皆! ここは《円卓会談》の会場だろ? なら、つまらないお人形遊びなんかじゃなくて、楽しくお話しようぜ!」
俺がそんなことを言うと、五つのモニターから殺意の視線が送られてきた。
それに捕らえられ、身体を硬直させるアンナを背に隠し肩を竦める俺。
「というかこの場所って神聖な場所だろ? その場所に顔を出さないっつうのは失礼なんじゃね?」
『チッ! おい、人間。調子に乗るのもいい加減に――』
「少し黙っていたまえ、引きこもり女よ」
私は遠くの物体に干渉できる超能力<サイコキネシス>で、<かぐや姫>とやらの姿をモニターとして投影していた石を叩き割った。
私は失望から大きなため息を吐き出す。
「ハァ……この《円卓会談》には世界のトップが来ると聞いて少し期待していたが、どうやら私の思い過ごしだったらしい」
『ヌ? それはどういう――』
私は続けて、<一寸法師>のモニターを叩き潰す。
「わざわざ言わせるな。こぞって顔も出せぬ腰抜け共よ」
『ハァ!? 冗談も程々に――』
私は続けて、<かぐや姫>のモニターを叩き潰す。
「お前達もあのヴァルゴと一緒だ。『”人間”なんかに負けやしない』というつまらんプライドと『”人間”なんて何もできない無能』だとかいう先入観で身を滅ぼす運命なのだろうな。……上位種など言われてはいるが、高が知れるよ」
『オイ、テメェ……自分が言ってることの意味わかってんのか?』
「もちろんわかっているとも。臆病者君」
『アァ……ッ!? ……オイ、テメェそこで待ってろ、今すぐ喉元引き千切って――』
私は続けて、<オオカミ>のモニターを叩き潰す。
こうして、ここに残るモニターは<笛吹き>のみとなった。
その<笛吹き>は一呼吸置き、冷静に言葉を紡いだ。
『……ふむ、貴様のその物言いと行動はこの世界における最恐最悪の罪に値するな。はてさて、その処遇、どうするべきか……』
「そんな考えることかよ? あのヴァルゴみたいに攻め込んで来いよ? 全部”人類族”が完膚無きまでに返り討ちにしてやっからよ」
『フ……フフフ……ハハハ! そうかそうか、成る程成る程。何故あの<ゴブリンリーダー>が貴様らの挑発に乗ったのか分かった気がするぞ。名は確か……サイコと申したか。ならサイコよ、お望み通り”人類族”と全面戦争をするとしよう。きっと他の種族も反対せぬだろうからな』
「そうか、それは良かった。じゃあ是非とも面白いゲームを楽しもうぜ……」
『アハハ! ゲームになればいいがな』
その言葉を最後に、<笛吹き>を映し出す映像がぷつりと消えた。
そして、最終的に《円卓会談》会場に取り残された俺とアンナ。
さっきまで怯えていたアンナはどうなっている?
そう思った俺は、ゆっくりと後ろを振り向いた。
俺は、そこにいた少女の姿を見て、ど肝を抜かれた。
「ア、アンナ?」
そこには、生気を完全に失い『終わった……終わった……』とだけ呟く廃人の姿があった。
そしてその後、ぶっちゃけ帰る方法を知らなかった俺は、アンナが意識を取り戻すまでの間……時間にして約半日の時間を《円卓会談》場で過ごすこととなった。
なんて日だ!?
”人類国家”である”ディエルバ王国”と”魔神族”であるゴブリン軍との戦争は、ゴブリン軍のリーダーこと、ヴァルゴの敗北によって終結することとなった。
一体誰がヴァルゴを倒したんだ?、という噂が国中で囁かれ、実は俺――超能寺 才己がやったんじゃないかと噂されたが、”ディエルバ王国”の王女――アンナがそれを全面否定した。
どうやら俺は、自分がゴブリン達に喧嘩を売ったことを後悔し、宿屋の隅っこで怯え続けていたらしい。恐らく、俺の深~い事情を察してか、アンナが気を使ってくれたらしい。後で礼を言っとかなきゃな。
……とまぁ、そんなこんなで”魔神族”を退けた”人類族”の偉業――いや、この場合は悪行と言った方が正しいかもしれん――は瞬く間に全世界に轟いた。
その日を境に、”ディエルバ王国”は”他種族”から相当のバッシングを受け、非難の手紙や釘を刺された所謂呪いのワラ人形がどさっと送られてきた。
終いには、ある令状が届けられることとなった。その内容とは――
「いや~この文章から相当の怒りを感じますわ~。ここに書かれてる場所に行ったら何をされるんだろう。うひょ~怖ぇ怖ぇ」
イマイチその令状がどういうものなのか知らない俺は、ケラケラと笑う。
そんな俺の態度に、隣を歩くアンナは絶叫を上げる。
「ちょっと! ヘラヘラしないで頂戴! これは一大事なのよ!? まさか、この世界の代表者が集う《円卓会談》から召集が掛かるなんて……。絶対に先日のいざこざが原因よ! あぁ、もう生きて帰れないかも……」
「大袈裟だなぁ、アンナ。ただちょっとした集まりに顔を出すだけだろ? 少ーし怒られそうな雰囲気だが、スンマセン(笑)って頭ペコペコさせとけばなんとかなろだろう?」
「そんな軽々しくなーい!」
ゴワッ、という風圧を出すくらいに噴出されたアンナの大声に、俺は目をパチクリとさせた。
その言葉に妙な重みを感じた俺は、眉間にシワを寄せる。
「……それもこれも、この世界の情勢が関係しているのか?」
「えぇ、そうよ」
そしてアンナは『そういえば説明はまだだったわね』と言って、この世界の状況について語り始めた。
「今この世界はね、とても過酷な身分制度の上に立っているの」
「要は、貴族と平民とその……奴隷みたいに分かれている感じか?」
「そのくらいで済んだらどれだけ良かったか……」
アンナは哀愁漂う顔を見せながらも話を続ける。
「遥か昔、”人類族”の間ではサイコが言った身分制度があったのは確かよ。けどその身分の差はピラミッド型――つまり、絶対的な君主の数はとても少なかったから、それ程苛烈な圧制にはならなかった。けれど、現状はそんな甘ったれた状況じゃない。……この世界は九割の強者が残り一割の弱者を一方的に支配する世界なの」
「アンナやヴァルゴの物言いから薄々そういう感じじゃねぇかなとは思っていたが、まさか本当にそうだったとは。だから俺がゴブリン達に反抗したのは、相当ヤバイ行いだったってことだな」
つまり俺がやったのは、一割の力または数しか持ち得ない雑魚なのにも関わらず、残りの九割を誇る連中に対して歯向かったということだったらしい。
……改めて文面にしてみるとエライこっちゃな。そう考えると、ヴァルゴ共に喧嘩を売った時、”ディエルバ王国”の住民達にフルボッコにされたのも頷ける。
「――で、普通なら負けるだろって思われていた下馬評を俺達”人類国家”は覆した。それに下僕扱いしてる奴らがストライキを起こしたとあっちゃ、上で踏ん反り返る野郎共は黙っちゃおらんよな」
だから、その騒動を起こした”ディエルバ王国”のトップであるアンナを糾弾したく、《円卓会談》とやらに呼びつけたのだろう。
アンナにしてみれば、とても恐ろしいことかもしれないが、俺からしてみれば好都合であった。
「アンナ、そう怖がんなって。いざとなれば俺が助けてやるしよ。それに今回の件は丁度良いと思ってる」
「? どういうこと?」
「ただちょっとした視察が出来るな~って思ってよ」
「うわ~……またヤバイこと考えてるよ、この人……」
アンナは俺の表情にドン引きする。
そんなこんなで歩き続けること十数分。俺らはある場所に到着をした。
「なんだ、ここ? 洞窟か?」
こんな薄暗い所で会議なんてやんのか?、と思う俺を無視しアンナはその中に入っていく。
俺はその後を黙って付いていく。
おぼつかない足取りで洞窟を進んでいると、少しだけ開けた空間に出た。
見た感じ、RPGにおける洞窟ステージの最奥にあるような祭壇が設置されていた。
「サイコ、こっち来て」
アンナは慣れた手付きで、祭壇の中央にあった錠を解き、俺を手招きする。
「ちょっと酔っちゃうかもしれないけど、我慢してね」
「あん? それはどういう――」
「さぁ、行くわよ」
そう言ってアンナは、祭壇の中身を開けた。
その瞬間、俺の視界がグルン、と半周した。いや、回ったのは視界じゃない。実際には俺の身体が半周したのだ。
「うぉい!?」
さらにその回転は収まることを知らずさらにグルグルと回り続ける。さらに、身体が引っ張られる感覚にも陥った。
多分、俺は前方の祭壇に吸収されているんだ。
摩訶不思議な現象に見舞われた俺が次に意識を取り戻したのは、さっきの場所とは全く異なる場所であった。
「う……うぅ~……」
ちょっとだけ酔った頭を振りながら、周囲を確認する俺。
そこは、壁も天井も全面真っ白の空間であった。
さらに、その空間の中央にはまたまた真っ白なオブジェクト――丸い巨大な円卓が存在した。
『どうやら時間を守れるくらいの脳はあるらしいな』
ふと円卓の方からノイズ掛かった声がした。
その声の方を向くと、円卓から五つのモニターが現われ出でた。
そのモニターの画像は鮮明ではなく、辛うじてそこに人物像があるということだけがわかった。
そんなおぼろげなモニターの奥で、唾を吐き捨てる者がいた。
『わたくしはお主ら”人類族”なぞに時間を使いたくはありませんことよ。弁解なんて聞く余地なし。さっさと死刑宣告を与えるからそこで跪きなさいな』
声がしたモニターに対し、アンナが言葉を返す。
「お待ちください、<人魚姫>様! 確かに我々はしてはいけないことをしました! ですが、こんな世界の有りようは間違っています! それにもう私達は支配されるだけの存在ではありません! どうかまた手を取り合って――」
『黙れよ、ゴミカス!』
また別のモニターから荒々しい男の声がした。
『あぁ、やっぱウゼェわ、”人類国家”はよ~。弱い癖に出しゃばって俺らの手を煩わせるんだからよ~。ぶっちゃけここに居る奴らの意見は完全一致してんだよ~。だから早く死ね!』
男の乱暴な言葉に反応するように、背後から気配がした。
そこにはまたまた真っ白の装いをした騎士がゾロゾロと入ってきた。
『あひゃ~、相変わらず容赦ないっスね、<オオカミ>の旦那は!』
『いいじゃねぇか、<一寸法師>の小坊主。なぁ、ここいらで一つ賭け事をしないか? アイツらが何秒生きられるかさ。俺はそうだな……期待を込めて一分と見た!』
『にゃは! それメッチャ面白そうっスね。じゃあオイラは……三十秒に賭けるっス』
『おい、<人魚姫>と<かぐや姫>も混ざれよ!』
『相変わらず無粋なことをお考えになって。……二十五秒』
『……そんなことに思考回路割きたくないから、私はパス。……というかもう何秒でもいいよ、早く終えてお昼寝の続きしたいし』
『<かぐや姫>は相変わらずだな~。して、<笛吹き>の爺さんは?』
『お前達の見込みは甘過ぎる。”人間”なぞ本当に取るに足らぬ存在だということをもう一度弁えよ。儂の予想は零秒だ。どうせ戦う事などせず、そこで許しを乞うておるに違いな――』
<笛吹き>と呼ばれる老人の言葉は遮られた。
そう。俺の言葉と、吹き飛ばされた騎士がモニターを通り抜けることによって。
「はい! 正解は一秒未満でした! そこのおっちゃんにはニアピン賞として、もう動かなくなった鉄の塊を贈呈~!」
『『『『『…………』』』』』
辺りがシンとした。
俺はそんな静寂を破るように高笑いを上げる。
「おいおい、どうしたよ皆! ここは《円卓会談》の会場だろ? なら、つまらないお人形遊びなんかじゃなくて、楽しくお話しようぜ!」
俺がそんなことを言うと、五つのモニターから殺意の視線が送られてきた。
それに捕らえられ、身体を硬直させるアンナを背に隠し肩を竦める俺。
「というかこの場所って神聖な場所だろ? その場所に顔を出さないっつうのは失礼なんじゃね?」
『チッ! おい、人間。調子に乗るのもいい加減に――』
「少し黙っていたまえ、引きこもり女よ」
私は遠くの物体に干渉できる超能力<サイコキネシス>で、<かぐや姫>とやらの姿をモニターとして投影していた石を叩き割った。
私は失望から大きなため息を吐き出す。
「ハァ……この《円卓会談》には世界のトップが来ると聞いて少し期待していたが、どうやら私の思い過ごしだったらしい」
『ヌ? それはどういう――』
私は続けて、<一寸法師>のモニターを叩き潰す。
「わざわざ言わせるな。こぞって顔も出せぬ腰抜け共よ」
『ハァ!? 冗談も程々に――』
私は続けて、<かぐや姫>のモニターを叩き潰す。
「お前達もあのヴァルゴと一緒だ。『”人間”なんかに負けやしない』というつまらんプライドと『”人間”なんて何もできない無能』だとかいう先入観で身を滅ぼす運命なのだろうな。……上位種など言われてはいるが、高が知れるよ」
『オイ、テメェ……自分が言ってることの意味わかってんのか?』
「もちろんわかっているとも。臆病者君」
『アァ……ッ!? ……オイ、テメェそこで待ってろ、今すぐ喉元引き千切って――』
私は続けて、<オオカミ>のモニターを叩き潰す。
こうして、ここに残るモニターは<笛吹き>のみとなった。
その<笛吹き>は一呼吸置き、冷静に言葉を紡いだ。
『……ふむ、貴様のその物言いと行動はこの世界における最恐最悪の罪に値するな。はてさて、その処遇、どうするべきか……』
「そんな考えることかよ? あのヴァルゴみたいに攻め込んで来いよ? 全部”人類族”が完膚無きまでに返り討ちにしてやっからよ」
『フ……フフフ……ハハハ! そうかそうか、成る程成る程。何故あの<ゴブリンリーダー>が貴様らの挑発に乗ったのか分かった気がするぞ。名は確か……サイコと申したか。ならサイコよ、お望み通り”人類族”と全面戦争をするとしよう。きっと他の種族も反対せぬだろうからな』
「そうか、それは良かった。じゃあ是非とも面白いゲームを楽しもうぜ……」
『アハハ! ゲームになればいいがな』
その言葉を最後に、<笛吹き>を映し出す映像がぷつりと消えた。
そして、最終的に《円卓会談》会場に取り残された俺とアンナ。
さっきまで怯えていたアンナはどうなっている?
そう思った俺は、ゆっくりと後ろを振り向いた。
俺は、そこにいた少女の姿を見て、ど肝を抜かれた。
「ア、アンナ?」
そこには、生気を完全に失い『終わった……終わった……』とだけ呟く廃人の姿があった。
そしてその後、ぶっちゃけ帰る方法を知らなかった俺は、アンナが意識を取り戻すまでの間……時間にして約半日の時間を《円卓会談》場で過ごすこととなった。
なんて日だ!?
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強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
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