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第10話 ミラの弟クロト②
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『ぼく、大きくなったらお姉ちゃんの騎士になる!』
クロトは昔から私の側付きになるんだって、口癖のように言っていた。
お姉ちゃん、お姉ちゃんって甘えん坊だったのに、
最近は成長期に入ったのか、どんどん逞しくなっている。
小さい頃は可愛かったなぁ、と思わなくもないけれど、自慢の弟の成長に将来が楽しみだった。
今でも夢は変わっていないようで、『姉さんは俺が守る』なんて、凛々しい顔で言うものだから、少しドキッとした。
騎士は貴族の誉れ。
夢に必死で頑張る弟の姿に、いつしか私も励まされていた。
でも、一月前のあの日、悪夢が、クロトを襲った。
何の変哲もない、いつも通りの日だった。
クロトは普段と同じように騎士学校に行き、私は高飛車だから冒険者学校に通う。
未来は明るいはずだった。
――――――――――――――――
『ただいま~』
いつも通り、明るく声を出す。
これを聴くとクロトは嬉しそうな顔で駆け寄ってくれるものだから、やりがいを感じていた。
でも、あの日は―――
私が帰宅して、屋敷のエントランスに入ったときには、僅かな異変を感じていた。
...おかしい。いつもだったらクロトの元気な声が聴こえるはず。―――『姉さん、おかえり!』って、凛々しくも優しげな声音で。
それが、...きこえない。
靴はあったから、帰ってきているはず。
それに、屋敷が嫌に静かだった。...不気味なほどに。
『私に気づかなかったな~、クロトめ、これじゃ騎士失格ね』
自然と、そう口に出していた。まるで、不安を押し殺すように。
気づいた時には、私は泣き崩れていた。
私はいつの間に自分の部屋に入ったのか、記憶が無い。
目の前には倒れて意識のないクロトがいる。
号泣しているのに、クロトが倒れているのに、他人事のように現実感が無かった。
俯瞰的に自分をみているような感覚。
すぐに別邸にいるメイドに医者の手配を伝え、
クロトの呼吸及び心臓の脈動確認を行う。
幸い、脈はあるようで危急ではないようだった。
号泣している自分も、それでも冷静に対処している自分も、全て他人事。自分が自分でない感覚。
その後医者によってクロトの診察が行われ、命に別状は無いとのこと。
原因は不明で、一時的に意識を失っているが、次第に意識を取り戻す。
そう言われた。
...次第っていつ?
今日?
アシタ?
あさって?
混乱した思考が、頭をぐるぐると駆け巡る。
......。
両親が帰ってきたときに、私は我を取り戻した。
『幸い命に別状は無い。まずはクロトを信じて待とう。父さんのツテで腕の良い医者を探してみるから』
パパにそう諭された私は、ゆっくりとだけれど、状況を飲み込むことができた。
寝ているクロト...。
ケガは無い。痛くも無い。でも...、意識もない。
私は信じてクロトを待った。
まだか、まだかと待った。
最初の3日は学校を休んだ。
それ以降は両親に言われて渋々学校に行ったけれど、授業が終われば飛ぶように帰宅してクロトを待った。
両親も手を尽くした。
名医はもちろん、闇医者、万能薬、民間療法だって、ありとあらゆるものを試した。
それでも、クロトは目を覚まさなかった。
今から思えば、効果なんか無くて、詐欺だったものもあると思う。
...あるとき、父はとある占い師を連れてきた。
その占い師はとても高名で権威のある方だという。
見目は妙齢のきれいな女性。有名な冒険者の間で引っ張りだこらしい。
最初は胡散臭く思った。
でも話しているうちに、彼女の凄さが分かった。
私しか知らないことや、意識を失っている弟の最近の成績までズバリ言い当てた。
弟のテストが返却されたとき、ぴったりその通りだった。
それ以来私は彼女に縋った。
弟を、クロトを助けたい一心で。
最初、彼女は首を横に降っていた。
『この者を助けるには、あまりにも運命が閉ざされている』
そう言っていた。
それでも私は諦めなかった。
クロトを助けるためなら何でもすると、覚悟を決めて。
『この者には邪悪なる物怪が取り憑いている。これは私でも見たことのないほどの相当な存在だ。
貴方だけの運命では足りない。
もっと、有力な、未来あるものでなければ』
私は叫んだ。クロトを助けて欲しいと、必死に叫んだ。
『死ぬ覚悟は出来ている...ですか。...わかりました。覚悟があるというのなら、私の名誉に賭けて、この者の道を切り拓いてみせましょう』
私の想いが通じたのか、
それから彼女は三日三晩かけて、クロトを助ける方法を占ってくれたんだ。
クロトは昔から私の側付きになるんだって、口癖のように言っていた。
お姉ちゃん、お姉ちゃんって甘えん坊だったのに、
最近は成長期に入ったのか、どんどん逞しくなっている。
小さい頃は可愛かったなぁ、と思わなくもないけれど、自慢の弟の成長に将来が楽しみだった。
今でも夢は変わっていないようで、『姉さんは俺が守る』なんて、凛々しい顔で言うものだから、少しドキッとした。
騎士は貴族の誉れ。
夢に必死で頑張る弟の姿に、いつしか私も励まされていた。
でも、一月前のあの日、悪夢が、クロトを襲った。
何の変哲もない、いつも通りの日だった。
クロトは普段と同じように騎士学校に行き、私は高飛車だから冒険者学校に通う。
未来は明るいはずだった。
――――――――――――――――
『ただいま~』
いつも通り、明るく声を出す。
これを聴くとクロトは嬉しそうな顔で駆け寄ってくれるものだから、やりがいを感じていた。
でも、あの日は―――
私が帰宅して、屋敷のエントランスに入ったときには、僅かな異変を感じていた。
...おかしい。いつもだったらクロトの元気な声が聴こえるはず。―――『姉さん、おかえり!』って、凛々しくも優しげな声音で。
それが、...きこえない。
靴はあったから、帰ってきているはず。
それに、屋敷が嫌に静かだった。...不気味なほどに。
『私に気づかなかったな~、クロトめ、これじゃ騎士失格ね』
自然と、そう口に出していた。まるで、不安を押し殺すように。
気づいた時には、私は泣き崩れていた。
私はいつの間に自分の部屋に入ったのか、記憶が無い。
目の前には倒れて意識のないクロトがいる。
号泣しているのに、クロトが倒れているのに、他人事のように現実感が無かった。
俯瞰的に自分をみているような感覚。
すぐに別邸にいるメイドに医者の手配を伝え、
クロトの呼吸及び心臓の脈動確認を行う。
幸い、脈はあるようで危急ではないようだった。
号泣している自分も、それでも冷静に対処している自分も、全て他人事。自分が自分でない感覚。
その後医者によってクロトの診察が行われ、命に別状は無いとのこと。
原因は不明で、一時的に意識を失っているが、次第に意識を取り戻す。
そう言われた。
...次第っていつ?
今日?
アシタ?
あさって?
混乱した思考が、頭をぐるぐると駆け巡る。
......。
両親が帰ってきたときに、私は我を取り戻した。
『幸い命に別状は無い。まずはクロトを信じて待とう。父さんのツテで腕の良い医者を探してみるから』
パパにそう諭された私は、ゆっくりとだけれど、状況を飲み込むことができた。
寝ているクロト...。
ケガは無い。痛くも無い。でも...、意識もない。
私は信じてクロトを待った。
まだか、まだかと待った。
最初の3日は学校を休んだ。
それ以降は両親に言われて渋々学校に行ったけれど、授業が終われば飛ぶように帰宅してクロトを待った。
両親も手を尽くした。
名医はもちろん、闇医者、万能薬、民間療法だって、ありとあらゆるものを試した。
それでも、クロトは目を覚まさなかった。
今から思えば、効果なんか無くて、詐欺だったものもあると思う。
...あるとき、父はとある占い師を連れてきた。
その占い師はとても高名で権威のある方だという。
見目は妙齢のきれいな女性。有名な冒険者の間で引っ張りだこらしい。
最初は胡散臭く思った。
でも話しているうちに、彼女の凄さが分かった。
私しか知らないことや、意識を失っている弟の最近の成績までズバリ言い当てた。
弟のテストが返却されたとき、ぴったりその通りだった。
それ以来私は彼女に縋った。
弟を、クロトを助けたい一心で。
最初、彼女は首を横に降っていた。
『この者を助けるには、あまりにも運命が閉ざされている』
そう言っていた。
それでも私は諦めなかった。
クロトを助けるためなら何でもすると、覚悟を決めて。
『この者には邪悪なる物怪が取り憑いている。これは私でも見たことのないほどの相当な存在だ。
貴方だけの運命では足りない。
もっと、有力な、未来あるものでなければ』
私は叫んだ。クロトを助けて欲しいと、必死に叫んだ。
『死ぬ覚悟は出来ている...ですか。...わかりました。覚悟があるというのなら、私の名誉に賭けて、この者の道を切り拓いてみせましょう』
私の想いが通じたのか、
それから彼女は三日三晩かけて、クロトを助ける方法を占ってくれたんだ。
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