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後
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赤茶色の髪の毛を撫でると、うっすらとおでこの傷が見える。魔族討伐で、私を庇って出来た傷。お兄様は、いつも私の心配ばかり。
始めて出会った時、開口一番「かわいい…」と惚けたように呟いたクリス。物心ついてから、そんな言葉を言われた事がなかったエミリアは、今思うと、その時初めて人間扱いをされたような気がする。
隣で眠る暖かな体温、目が覚めてしまったけど、まだ寝ていていい時間。世界で一番大切な人の寝顔を眺める。「ん…」クリスが僅かに身じろぎしたが、起きる気配はない。
「ごめんなさい…」
陰の気を受け取るための口づけの他にしている事を、エミリアは知っている。身体を制御することはできないけれど、膜を隔てたように、ぼんやりと意識がある。最初は夢だと思っていたが、呪いを受けたままならない身体が、憎らしい。
けれど、それに対応してくれる兄があまりに色っぽくかっこよく優しくて、ときめいてしまう自分も居る。普段、妹であるエミリアには決して見せない、切なげな表情に。
あの行為を喜んでいる、そんな浅ましい私を知られたくない。
それまでの境遇を覆すように、クリスはエミリアをお姫様のように扱ってくれた。心を閉ざしていた幼い私に、根気よく、人を信じられるよう導いてくれた。
初めて親鶏を目にした雛のように、エミリアの心はいつもクリスの側に在った。
時には正義とは何か悩み、心が疲弊する魔族討伐も、クリスが居るから戦えている。
お兄様の理想の妹で居たい。この想いを知られてはならない。
この呪いの事を兄に相談したのは、もしかしたらという気持ちがあったからかもしれない。
幻滅されたらどうしよう、と怖い気持ちもあったが、他の人に触れられるなんて絶対に嫌だった。クリスはいつものように真剣に話しを聞き、出来ればお兄様にお願いしたいと告げると戸惑いながらも引き受けてくれた。
流石に精液をとは言えず、体液と言ったら舌を絡めるキスをすることになった。
兄は、私のことを妹としてしか今も見て居ないだろう。欲に流されて、抱いてくれたらいいのにと時々思う。けれど、それだともう終わってしまうから。
いつかは終わりが来るけれど、この行為が続けばいいなと思ってしまう。
「お兄様…大好き…」
ぎゅっと抱きつき、温かい体温に身を任せ、エミリアは再び眠りについた。
エミリアが14歳の時から始まった、魔族討伐が一応の決着を迎えた。魔族側に王が誕生し、人間と不可侵条約を結ぶ。魔族と言っても、ひとくくりに出来るものでもなく、課題は山積みだ。
ブルーム侯爵家は、兄妹の功績を讃えられ、新たに魔族との境を領地の1つとして与えられた。体良く、見張れ、という事でもある。領地が増えた事もあり、クリスは跡取りとして、いよいよ身を固めなければならない。
クリスは25歳、エミリアは18歳になっていた。
魔族討伐が一段落したということは、そろそろゲームのエンディングだろうか。思い出したゲームの記憶とは少しずつズレているので、今が誰のルートなのかはわからない。だが、わからないならそれでいいかと思う。
これは現実、ゲームのようにエンディングを迎えてそこで終わるわけではなさそうだ。クリスとしての人生は続いていくのだから。
段々と前世の人格は薄れ、今やただのシスコンのクリスである。しかし、前世が女性だったから、もう一人のエミリアの誘惑にも、最後の一線を超えずにいられたのかもしれない。
これからも、エミリア最推し、エミリア至上主義、エミリアの幸せを見届けることを、前世の自分に誓う。
目下の悩みは、エミリアの想い人は誰なのかという事。どうやら、誰か居るようなのだが、それを聞くと暗い顔をして、目を伏せてしまう。
かわいい妹には、幸せになってほしい。相手には嫉妬を覚えるが、エミリアの想いが伝わればいいと願う。
そのために、この不毛な行為をやめなければ、、、。
「ん……」
くちゅ…と舌を絡め合う。この行為も、既に何年になることか。
数日後には、王家の開く戦勝パーティーが開催される。討伐に関わった者たちは、一様に適齢期か適齢期を過ぎつつあり、王子を始めとする武功をたてた者たちの、熾烈な婚約者候補たちの戦いが始まる。
ブルーム兄妹も例外なくその中に居る。
エミリアは誰かに求婚されるかもしれない。
クリスは出来れば独身を貫きたいところだが、跡取りの事を考えるとそうも言っていられないだろう。だが、まずは妹の幸せを見届けねば。
長い睫毛を僅かに濡らし、荒い息を整えるエミリア。ここ数年で随分と、大人っぽく女性らしくなった。
「もう、この行為はお終いにしよう」
「……」
「好きな人が、居るのだろう?」
エミリアは、黙って聞いている。そっとその柔らかな頬に触れた。
「想い人が居ながらこの行為をするのは、辛かったろう。明日、その相手と結ばれる事を祈っているよ」
「おにいさま………」
ホロリ、と流れるエミリアの美しい涙を見て、この行為に、仄暗い喜びを持っていた自分を恥じる。
指先で、目尻の涙を優しく拭い、潤んだ瞳で見つめるエミリアを、思わず抱きしめる。
「エリーは、幸せになって良いんだよ」
暗い目をしたエミリアが、笑顔を見せるようになり、一緒に過ごした穏やかな日々から、再び辛い魔族討伐の日々へ。
抱きしめ、瞼を閉じるとエミリアとの思い出が蘇ってくる。
ただただ、エミリアの幸せを願う。これまで側に居れた事の幸せに、改めて感謝する。
まだ相手も決まっていないのに、まるで嫁に出すような気分だ。
こんなにかわいいエミリアを拒否する輩など居ないと思うが、もしその相手がエミリアの想いを受け取らなかったら、決して許さない。
「今日、一緒に寝てもいいですか…?」
抱きしめているエミリアは、僅かに震えて、泣いているようだ。
「ああ、それも、最後にしよう」
「………」
エミリアは、頷かなかったが、クリスにぎゅっとしがみついた。
「エリー、いい夢を」
ベッドに入り、じっとクリスを見つめるエミリアの髪を撫でる。
「…はい」
そのまま撫でていると、ゆっくりと目を閉じたエミリアは、静かな寝息を立て始めた。
今夜は、もう1人のエミリアは出てこないかもしれない。出てこないといいと思う。本人の預かり知らぬところで、好きな男との行為の前に、兄に淫らな事をされているなんて、かわいそうだ。
この秘密は墓場まで持って行くと誓う。
「おにいさま…」
そんな期待も虚しく、第二のエミリアが目を覚ましてしまった。身を起こし、クリスに跨り、虚ろな目をうっとりと細めながら、クリスを見つめる。
今日は早くいかせて、満足させてやろう。クリスは、口づけを落としてきたエミリアの細い腰に手を回し、ぐっと自分に密着させた。指で臀部の割れ目をなぞって行く。
「あっ…!」
敏感な身体は、少しの刺激にも反応する。夢中で舌を絡めていたのを離して、くったりとクリスの肩にしなだれかかる。
臀部を辿り、既に濡れているところを優しくなぞる。一番感じる突起はすでに硬くなっていて、身体がビクっと揺れた。
今日はいつになく濡れているのが気にはなったが、構わず続ける。
エミリアが、クリスの股間に股を擦り付け始めたが、間に手を入れ、感じるところを刺激してやる。
「あんっ…ああっ…おにいさま、すきっ…すき…っ…」
自ら腰を振って快楽を貪るエミリアは、うわ言のように好きだと言う。ブルっと身体を震わせて、達したのがわかり、ほっとする。
力が抜けて、クリスに身を預けたままのエミリアの背中をあやすように撫でる。
いつも流され一線を越えたい自分を律してきた。今夜は、言い方は悪いが、エミリアの性欲処理に徹することが出来た。
願わくば、相手の男にエミリアのこの姿をすんなりと受け入れてもらいたいものだが…。サターナスにうまく説明してもらうしかないな。
「おにいさま…すき…」
ぼんやりと考えていると、エミリアが囁く。エミリアは身を起こすと、また口づけをしてきた。
「んっ…エリー…っ」
驚いていると、クリスの衣服を肌けさせ、口づけをしていく。身をずらして、下半身に手が伸びたのに気付き、腕を掴んで静止する。
今まで、一度熱を放ったら落ち着いていたのに。
顔を見ようと身を起こすと、虚ろだった筈の瞳がはっとしたように見開かれる。
「エリー、まさか」
「おにいさま……」
「意識があるのか?」
「あっ…」
いや、虚ろなあの瞳は、意識の無い顔だったはずだ。最初からだった筈はない。
エミリアは顔を真っ赤にして、大きな瞳から次から次へと涙が溢れた。
「おにいさま、、私、わた…し…」
かわいそうなエリー。ずっと気が付かなければ良かったのに。かわいそうで、胸が苦しくなる。
「エミリア、お前は悪くない…」
真っ直ぐにエミリアを見つめる。肩に触れようとすると、ビクッと身を震わせた。そうだ、エミリアは被害者で、私が加害者。
信頼していた兄に、キスばかりか、身体まで触れられていたとは。触れられるのも嫌に違いない。いくらかわいそうだったからとはいえ、やはりこんな事はやるべきではなかった…。
何と声を掛けていいのかわからない。泣きじゃくるエミリアを呆然と見つめる。
「お、おにいさまは、ひっく、私のことが、ひっ…嫌いになりましたか…うっ…」
「…………?」
「あ、浅ましい…。おにいさまを誘惑して、困らせて、ひっ、ひっく…」
「…エリー」
「おにいさまはっ、、優しい、から…っ」
「エリー、違う、私が全て悪いんだ!」
嗚咽混じりに自分を責めるエミリアは、どこまでも人がいい。
「お前は、淫魔の呪いのせいで、何も知らなかったのだ。誓って、最後まではしていないから…」
言い訳をすればするほど、許されない事をしてしまったと思い言葉に詰まる。顔を手で覆い、泣きじゃくっているエミリアは、クリスが何か言うたびに首を振る。
「いえっ…おにいさまは悪くありません…っ…私が、私が…っ…」
「いや、私が悪いのだ…妹に人に言えない事をしてしまった…」
そもそも、兄妹でキスしている事がすでに…なのだが。
「私は、、、修道院に入ります」
「なっ、何を…」
「最初から決めていたのです」
「最初からとは…」
「この国に来て、聖女に選ばれてからです…」
エミリアの唐突な告白に、動揺してしまい、クリスは何も言えなくなってしまった。
「ですから、ですから、おにいさま、これは、二人だけの秘密です。永遠に」
涙ながらに真剣にクリスを見つめるエミリアをだだ見つめる。
「私、私、、、お兄様に触れてもらえて、う、嬉しかったから…いいのです。こんな妹で、ごめんなさい…」
クリスの胸に衝撃が走る。
エミリアは、どこまでも美しく、潔い…
愚鈍な兄の先を行く。
「エ、エミリア…」
「お兄様は、私との事は忘れて、奥様を迎え、幸せになってください」
さっぱりとした顔で笑うエミリアに、己を恥じる。エミリアを思いやりながら、なんと自分勝手だったかと。
「エミリア…」
「エミリア、私もお前が好きだ」
言われた意味がわからないのか、エミリアがぽかんとした顔になる。涙も止まったようだ。
「妹ととして…ですよね」
「いや、一人の女性として」
「…え?…」
「…………?」
もしかして、そういう意味では無かったのか…?想いが一緒だとわかって背徳と高揚で、わけがわからなくなってつい言ってしまった。エミリアの怪訝な顔に、嫌な汗が流れてきた。
「…夢、まだ私は夢を見てる…」
「エリー、、、その、お前の言った意味を、私が間違えていたのならすまない。兄に、このような事を言われて気持ち悪く思っただろう。忘れてくれ」
「いえ、いえ、忘れません。夢でも、お兄様が私を好きだと…嬉しい…」
再び、美しい瞳から涙が溢れ、もう我慢も限界だった。どちらからともなく、口づけを交わす。
「…っ…はっ…」
口づけはどんどん深くなり、二人に今までの比では無い官能を呼び覚ます。
「おにいさま…」
「エミリア、愛してるんだ…」
「私もです…お兄様」
抱き締めると、エミリアの身体がビクビクと震えた。
「お兄様…私…身体が変…あんっ…」
少し背中を撫でただけで、ビクッと跳ねる身体。エミリアの目の中にハートが見える。今まで、理性で何とか蓋をしていた淫魔の呪いが活性化している。
「おにいさま、好き…すきです…」
ちゅっ、ちゅく、ペロペロ…エミリアがクリスの唇にむしゃぶりつく。先程の行為と同じ事を、意識のある、しかし淫魔の呪いで理性は効かないエミリアが強請って腰を押し付ける。
「エミリア……触っていいか…?」
思いが通じ合ったからなのか、はたまた呪いのせいなのか、クリスも我慢の限界だった。
触れたい…もっと触れあいたい…。
痛いくらいに股間は張り詰め、スラックスを押し上げている。クリスの目に、エミリアのハートの瞳が映り込み、身体中が熱くなる。
「お兄様がほしい…お願い…お兄様、エミリアを抱いて、中で出して、呪いを解いてくださいっ」
かわいい、かわいいエミリア…!!!!!
「はぁ…はぁ…エミリア、エミリア…!」
今まで我慢してきたものが一気に爆発する。唇を貪り、胸をまさぐり、身体じゅうに口付ける。下着を脱がせ、足を開かせて既に愛液が垂れる割れ目をゆっくり舐め上げた。
「あっんんっ…おにいさま、きもちい…ああっ」
愛液をからめてエミリアの中に指を入れながら、敏感に硬くなった芽を舐めると、更に溢れてきた。身体が熱い。
淫魔の気に、クリスもすっかり当てられて発情している。
「ダメだっ…エミリア、こんな…ううっ我慢できないエミリア…っ」
「我慢しないで…お兄様。いつも欲しかったの…お兄様のを中に…」
大胆になったエミリアがクリスのスラックスを寛げて、大きくなったそれを指で撫でると、ブルンと勢いよく勃ち上がった物が腹につく勢いで飛び出す。
「お兄様のを直に…やっぱり硬くて大きい…」
乳房を揉みあげ、ピンクに色付く場所を舐る。硬くなった自身をエミリアの割れ目を辿るように当てると、ぐちゃぐちゃと愛液が絡まり気持ちがいい。
「お兄様ぁ…んんっ…はっ…」
浅く入口に差し入れると、潤んでも狭く躊躇いを感じる。欲望に流されそうな己を僅かばかりの理性が引き止める。
「エミリア…痛いなら…」
「お願い…最後までしてっ…痛くてもだいじょぶだから…やめないで…中が切なくて…中にほしいの…!」
ズキュン!!かわいすぎて辛い…尊い…!
「…うっ…すまない…そんな事を言われたら…もう…」
涙を流しながら懇願する健気なエミリアに、胸が苦しくなる。ゆっくりと押し広げるように入れて、最後まで入ったところで一旦止まる。
「挿入った…」
「おにいさま…やっとおにいさまとひとつに…」
エミリアの中に入れてしまった。浅ましく快楽を感じてしまう身体の、罪悪感に押し潰されそうなのは、前世の自分か、兄としての自分か。
クリスを求めるエミリアに、深く口づけをしてどちらともわからない唾液が交わる。どこもかしこも気持ちいい…
「エミリア、かわいい…好きだ…エミリア…っ」
「おにいさま…すきっ…あんっあっあっんっ…んっ!」
繋がった快楽で淫魔の呪いが更に活性化し、熱に浮かされたように交わった。いつも清楚な妹だったエミリアの、しどけない姿にまた欲情してしまう。
エミリアも、禁欲的な兄の雄々しい姿にドキドキして、愛路は潤み痛みはそれほど無く快楽に身を任せた。
「おにいさま、中に出して…エミリアの子宮に子種を注いでください…っ」
「エミリア……!」
中に出すのは躊躇ったが、元来、淫魔の呪いは子宮に精液を注ぐ事で解除されるのをクリスは知っていた。もう一人のエミリアが、そう言っていたから。
奥までクリスで満たされて、エミリアは淫魔の欲が満たされたのを感じた。
「エミリア…すまない…無理をさせて…」
はっと気付くと、首元には赤い花のような鬱血痕が、シーツには処女だった証の血痕がついている。
清楚だったエミリアの、事後の狂おしい程に色っぽい姿。歓喜に震える心と、罪悪感とが押し寄せる。
「大丈夫です。お兄様と一つになれて幸せです…」
キラキラと涙で潤む瞳で微笑み、エミリアから軽いキスをする。
「お兄様が、私に他に好きな人が居ると思っているのが哀しかった。好きでもない人にこんな事を頼む女だって思うんだって…やっぱり妹としてしか見られてないんだってわかってて…だから妹にこんなことをさせてお兄様に申し訳なくて…」
「違うんだ…必死にそう思わないようにしてきたんだ。妹に邪な想いを抱くなんて気持ちわるいだろう?…信頼される兄で居たかったから…」
「…きっと、そんなお兄様だから好きになったんです」
「幻滅してないか…?」
「いえ、素敵でした。幸せだった…お兄様、大好きです」
「私も、エリーを愛してる」
ベッドに横になって向き合い、エミリアがクリスの頬を撫でる。その手を掴み、そっと口付けた。
「本当に、私でいいのか?」
「お兄様がいいんです…!」
翌朝、両親に報告し、パーティで婚約を発表した。二人の血の繋がりが無いのは知られていたし、共に闘ってきた仲間たちからは、やっとかーという顔をされ祝福された。
サターナスは、よくあれに耐えましたねぇ。やっと解けてよかったです。と2人にこっそりと告げると、何の話しだ?とアルバートとライナスが近寄ってきた。
こっちの話しだと誤魔化すと、真面目な顔でサターナスが「また滋養強壮薬が必要でしたら、ご用意します」などと言うものだから、2人して赤面する。
アルバートとライナスが生温かい目で微笑む。
「サターナス、祝いの品はそれにしたらどうだ?」
「案外、早く後継ぎが産まれそうだね」
「…ゴホン…揶揄うな…」
エミリアは照れながらも嬉しそうに微笑む。
和やかな雰囲気に、前世の自分だったらやっぱこのゲーム最高!と叫んでいるだろうな、とふと思う。
愛おしい君に、悠久の誓いを捧げよう。
始めて出会った時、開口一番「かわいい…」と惚けたように呟いたクリス。物心ついてから、そんな言葉を言われた事がなかったエミリアは、今思うと、その時初めて人間扱いをされたような気がする。
隣で眠る暖かな体温、目が覚めてしまったけど、まだ寝ていていい時間。世界で一番大切な人の寝顔を眺める。「ん…」クリスが僅かに身じろぎしたが、起きる気配はない。
「ごめんなさい…」
陰の気を受け取るための口づけの他にしている事を、エミリアは知っている。身体を制御することはできないけれど、膜を隔てたように、ぼんやりと意識がある。最初は夢だと思っていたが、呪いを受けたままならない身体が、憎らしい。
けれど、それに対応してくれる兄があまりに色っぽくかっこよく優しくて、ときめいてしまう自分も居る。普段、妹であるエミリアには決して見せない、切なげな表情に。
あの行為を喜んでいる、そんな浅ましい私を知られたくない。
それまでの境遇を覆すように、クリスはエミリアをお姫様のように扱ってくれた。心を閉ざしていた幼い私に、根気よく、人を信じられるよう導いてくれた。
初めて親鶏を目にした雛のように、エミリアの心はいつもクリスの側に在った。
時には正義とは何か悩み、心が疲弊する魔族討伐も、クリスが居るから戦えている。
お兄様の理想の妹で居たい。この想いを知られてはならない。
この呪いの事を兄に相談したのは、もしかしたらという気持ちがあったからかもしれない。
幻滅されたらどうしよう、と怖い気持ちもあったが、他の人に触れられるなんて絶対に嫌だった。クリスはいつものように真剣に話しを聞き、出来ればお兄様にお願いしたいと告げると戸惑いながらも引き受けてくれた。
流石に精液をとは言えず、体液と言ったら舌を絡めるキスをすることになった。
兄は、私のことを妹としてしか今も見て居ないだろう。欲に流されて、抱いてくれたらいいのにと時々思う。けれど、それだともう終わってしまうから。
いつかは終わりが来るけれど、この行為が続けばいいなと思ってしまう。
「お兄様…大好き…」
ぎゅっと抱きつき、温かい体温に身を任せ、エミリアは再び眠りについた。
エミリアが14歳の時から始まった、魔族討伐が一応の決着を迎えた。魔族側に王が誕生し、人間と不可侵条約を結ぶ。魔族と言っても、ひとくくりに出来るものでもなく、課題は山積みだ。
ブルーム侯爵家は、兄妹の功績を讃えられ、新たに魔族との境を領地の1つとして与えられた。体良く、見張れ、という事でもある。領地が増えた事もあり、クリスは跡取りとして、いよいよ身を固めなければならない。
クリスは25歳、エミリアは18歳になっていた。
魔族討伐が一段落したということは、そろそろゲームのエンディングだろうか。思い出したゲームの記憶とは少しずつズレているので、今が誰のルートなのかはわからない。だが、わからないならそれでいいかと思う。
これは現実、ゲームのようにエンディングを迎えてそこで終わるわけではなさそうだ。クリスとしての人生は続いていくのだから。
段々と前世の人格は薄れ、今やただのシスコンのクリスである。しかし、前世が女性だったから、もう一人のエミリアの誘惑にも、最後の一線を超えずにいられたのかもしれない。
これからも、エミリア最推し、エミリア至上主義、エミリアの幸せを見届けることを、前世の自分に誓う。
目下の悩みは、エミリアの想い人は誰なのかという事。どうやら、誰か居るようなのだが、それを聞くと暗い顔をして、目を伏せてしまう。
かわいい妹には、幸せになってほしい。相手には嫉妬を覚えるが、エミリアの想いが伝わればいいと願う。
そのために、この不毛な行為をやめなければ、、、。
「ん……」
くちゅ…と舌を絡め合う。この行為も、既に何年になることか。
数日後には、王家の開く戦勝パーティーが開催される。討伐に関わった者たちは、一様に適齢期か適齢期を過ぎつつあり、王子を始めとする武功をたてた者たちの、熾烈な婚約者候補たちの戦いが始まる。
ブルーム兄妹も例外なくその中に居る。
エミリアは誰かに求婚されるかもしれない。
クリスは出来れば独身を貫きたいところだが、跡取りの事を考えるとそうも言っていられないだろう。だが、まずは妹の幸せを見届けねば。
長い睫毛を僅かに濡らし、荒い息を整えるエミリア。ここ数年で随分と、大人っぽく女性らしくなった。
「もう、この行為はお終いにしよう」
「……」
「好きな人が、居るのだろう?」
エミリアは、黙って聞いている。そっとその柔らかな頬に触れた。
「想い人が居ながらこの行為をするのは、辛かったろう。明日、その相手と結ばれる事を祈っているよ」
「おにいさま………」
ホロリ、と流れるエミリアの美しい涙を見て、この行為に、仄暗い喜びを持っていた自分を恥じる。
指先で、目尻の涙を優しく拭い、潤んだ瞳で見つめるエミリアを、思わず抱きしめる。
「エリーは、幸せになって良いんだよ」
暗い目をしたエミリアが、笑顔を見せるようになり、一緒に過ごした穏やかな日々から、再び辛い魔族討伐の日々へ。
抱きしめ、瞼を閉じるとエミリアとの思い出が蘇ってくる。
ただただ、エミリアの幸せを願う。これまで側に居れた事の幸せに、改めて感謝する。
まだ相手も決まっていないのに、まるで嫁に出すような気分だ。
こんなにかわいいエミリアを拒否する輩など居ないと思うが、もしその相手がエミリアの想いを受け取らなかったら、決して許さない。
「今日、一緒に寝てもいいですか…?」
抱きしめているエミリアは、僅かに震えて、泣いているようだ。
「ああ、それも、最後にしよう」
「………」
エミリアは、頷かなかったが、クリスにぎゅっとしがみついた。
「エリー、いい夢を」
ベッドに入り、じっとクリスを見つめるエミリアの髪を撫でる。
「…はい」
そのまま撫でていると、ゆっくりと目を閉じたエミリアは、静かな寝息を立て始めた。
今夜は、もう1人のエミリアは出てこないかもしれない。出てこないといいと思う。本人の預かり知らぬところで、好きな男との行為の前に、兄に淫らな事をされているなんて、かわいそうだ。
この秘密は墓場まで持って行くと誓う。
「おにいさま…」
そんな期待も虚しく、第二のエミリアが目を覚ましてしまった。身を起こし、クリスに跨り、虚ろな目をうっとりと細めながら、クリスを見つめる。
今日は早くいかせて、満足させてやろう。クリスは、口づけを落としてきたエミリアの細い腰に手を回し、ぐっと自分に密着させた。指で臀部の割れ目をなぞって行く。
「あっ…!」
敏感な身体は、少しの刺激にも反応する。夢中で舌を絡めていたのを離して、くったりとクリスの肩にしなだれかかる。
臀部を辿り、既に濡れているところを優しくなぞる。一番感じる突起はすでに硬くなっていて、身体がビクっと揺れた。
今日はいつになく濡れているのが気にはなったが、構わず続ける。
エミリアが、クリスの股間に股を擦り付け始めたが、間に手を入れ、感じるところを刺激してやる。
「あんっ…ああっ…おにいさま、すきっ…すき…っ…」
自ら腰を振って快楽を貪るエミリアは、うわ言のように好きだと言う。ブルっと身体を震わせて、達したのがわかり、ほっとする。
力が抜けて、クリスに身を預けたままのエミリアの背中をあやすように撫でる。
いつも流され一線を越えたい自分を律してきた。今夜は、言い方は悪いが、エミリアの性欲処理に徹することが出来た。
願わくば、相手の男にエミリアのこの姿をすんなりと受け入れてもらいたいものだが…。サターナスにうまく説明してもらうしかないな。
「おにいさま…すき…」
ぼんやりと考えていると、エミリアが囁く。エミリアは身を起こすと、また口づけをしてきた。
「んっ…エリー…っ」
驚いていると、クリスの衣服を肌けさせ、口づけをしていく。身をずらして、下半身に手が伸びたのに気付き、腕を掴んで静止する。
今まで、一度熱を放ったら落ち着いていたのに。
顔を見ようと身を起こすと、虚ろだった筈の瞳がはっとしたように見開かれる。
「エリー、まさか」
「おにいさま……」
「意識があるのか?」
「あっ…」
いや、虚ろなあの瞳は、意識の無い顔だったはずだ。最初からだった筈はない。
エミリアは顔を真っ赤にして、大きな瞳から次から次へと涙が溢れた。
「おにいさま、、私、わた…し…」
かわいそうなエリー。ずっと気が付かなければ良かったのに。かわいそうで、胸が苦しくなる。
「エミリア、お前は悪くない…」
真っ直ぐにエミリアを見つめる。肩に触れようとすると、ビクッと身を震わせた。そうだ、エミリアは被害者で、私が加害者。
信頼していた兄に、キスばかりか、身体まで触れられていたとは。触れられるのも嫌に違いない。いくらかわいそうだったからとはいえ、やはりこんな事はやるべきではなかった…。
何と声を掛けていいのかわからない。泣きじゃくるエミリアを呆然と見つめる。
「お、おにいさまは、ひっく、私のことが、ひっ…嫌いになりましたか…うっ…」
「…………?」
「あ、浅ましい…。おにいさまを誘惑して、困らせて、ひっ、ひっく…」
「…エリー」
「おにいさまはっ、、優しい、から…っ」
「エリー、違う、私が全て悪いんだ!」
嗚咽混じりに自分を責めるエミリアは、どこまでも人がいい。
「お前は、淫魔の呪いのせいで、何も知らなかったのだ。誓って、最後まではしていないから…」
言い訳をすればするほど、許されない事をしてしまったと思い言葉に詰まる。顔を手で覆い、泣きじゃくっているエミリアは、クリスが何か言うたびに首を振る。
「いえっ…おにいさまは悪くありません…っ…私が、私が…っ…」
「いや、私が悪いのだ…妹に人に言えない事をしてしまった…」
そもそも、兄妹でキスしている事がすでに…なのだが。
「私は、、、修道院に入ります」
「なっ、何を…」
「最初から決めていたのです」
「最初からとは…」
「この国に来て、聖女に選ばれてからです…」
エミリアの唐突な告白に、動揺してしまい、クリスは何も言えなくなってしまった。
「ですから、ですから、おにいさま、これは、二人だけの秘密です。永遠に」
涙ながらに真剣にクリスを見つめるエミリアをだだ見つめる。
「私、私、、、お兄様に触れてもらえて、う、嬉しかったから…いいのです。こんな妹で、ごめんなさい…」
クリスの胸に衝撃が走る。
エミリアは、どこまでも美しく、潔い…
愚鈍な兄の先を行く。
「エ、エミリア…」
「お兄様は、私との事は忘れて、奥様を迎え、幸せになってください」
さっぱりとした顔で笑うエミリアに、己を恥じる。エミリアを思いやりながら、なんと自分勝手だったかと。
「エミリア…」
「エミリア、私もお前が好きだ」
言われた意味がわからないのか、エミリアがぽかんとした顔になる。涙も止まったようだ。
「妹ととして…ですよね」
「いや、一人の女性として」
「…え?…」
「…………?」
もしかして、そういう意味では無かったのか…?想いが一緒だとわかって背徳と高揚で、わけがわからなくなってつい言ってしまった。エミリアの怪訝な顔に、嫌な汗が流れてきた。
「…夢、まだ私は夢を見てる…」
「エリー、、、その、お前の言った意味を、私が間違えていたのならすまない。兄に、このような事を言われて気持ち悪く思っただろう。忘れてくれ」
「いえ、いえ、忘れません。夢でも、お兄様が私を好きだと…嬉しい…」
再び、美しい瞳から涙が溢れ、もう我慢も限界だった。どちらからともなく、口づけを交わす。
「…っ…はっ…」
口づけはどんどん深くなり、二人に今までの比では無い官能を呼び覚ます。
「おにいさま…」
「エミリア、愛してるんだ…」
「私もです…お兄様」
抱き締めると、エミリアの身体がビクビクと震えた。
「お兄様…私…身体が変…あんっ…」
少し背中を撫でただけで、ビクッと跳ねる身体。エミリアの目の中にハートが見える。今まで、理性で何とか蓋をしていた淫魔の呪いが活性化している。
「おにいさま、好き…すきです…」
ちゅっ、ちゅく、ペロペロ…エミリアがクリスの唇にむしゃぶりつく。先程の行為と同じ事を、意識のある、しかし淫魔の呪いで理性は効かないエミリアが強請って腰を押し付ける。
「エミリア……触っていいか…?」
思いが通じ合ったからなのか、はたまた呪いのせいなのか、クリスも我慢の限界だった。
触れたい…もっと触れあいたい…。
痛いくらいに股間は張り詰め、スラックスを押し上げている。クリスの目に、エミリアのハートの瞳が映り込み、身体中が熱くなる。
「お兄様がほしい…お願い…お兄様、エミリアを抱いて、中で出して、呪いを解いてくださいっ」
かわいい、かわいいエミリア…!!!!!
「はぁ…はぁ…エミリア、エミリア…!」
今まで我慢してきたものが一気に爆発する。唇を貪り、胸をまさぐり、身体じゅうに口付ける。下着を脱がせ、足を開かせて既に愛液が垂れる割れ目をゆっくり舐め上げた。
「あっんんっ…おにいさま、きもちい…ああっ」
愛液をからめてエミリアの中に指を入れながら、敏感に硬くなった芽を舐めると、更に溢れてきた。身体が熱い。
淫魔の気に、クリスもすっかり当てられて発情している。
「ダメだっ…エミリア、こんな…ううっ我慢できないエミリア…っ」
「我慢しないで…お兄様。いつも欲しかったの…お兄様のを中に…」
大胆になったエミリアがクリスのスラックスを寛げて、大きくなったそれを指で撫でると、ブルンと勢いよく勃ち上がった物が腹につく勢いで飛び出す。
「お兄様のを直に…やっぱり硬くて大きい…」
乳房を揉みあげ、ピンクに色付く場所を舐る。硬くなった自身をエミリアの割れ目を辿るように当てると、ぐちゃぐちゃと愛液が絡まり気持ちがいい。
「お兄様ぁ…んんっ…はっ…」
浅く入口に差し入れると、潤んでも狭く躊躇いを感じる。欲望に流されそうな己を僅かばかりの理性が引き止める。
「エミリア…痛いなら…」
「お願い…最後までしてっ…痛くてもだいじょぶだから…やめないで…中が切なくて…中にほしいの…!」
ズキュン!!かわいすぎて辛い…尊い…!
「…うっ…すまない…そんな事を言われたら…もう…」
涙を流しながら懇願する健気なエミリアに、胸が苦しくなる。ゆっくりと押し広げるように入れて、最後まで入ったところで一旦止まる。
「挿入った…」
「おにいさま…やっとおにいさまとひとつに…」
エミリアの中に入れてしまった。浅ましく快楽を感じてしまう身体の、罪悪感に押し潰されそうなのは、前世の自分か、兄としての自分か。
クリスを求めるエミリアに、深く口づけをしてどちらともわからない唾液が交わる。どこもかしこも気持ちいい…
「エミリア、かわいい…好きだ…エミリア…っ」
「おにいさま…すきっ…あんっあっあっんっ…んっ!」
繋がった快楽で淫魔の呪いが更に活性化し、熱に浮かされたように交わった。いつも清楚な妹だったエミリアの、しどけない姿にまた欲情してしまう。
エミリアも、禁欲的な兄の雄々しい姿にドキドキして、愛路は潤み痛みはそれほど無く快楽に身を任せた。
「おにいさま、中に出して…エミリアの子宮に子種を注いでください…っ」
「エミリア……!」
中に出すのは躊躇ったが、元来、淫魔の呪いは子宮に精液を注ぐ事で解除されるのをクリスは知っていた。もう一人のエミリアが、そう言っていたから。
奥までクリスで満たされて、エミリアは淫魔の欲が満たされたのを感じた。
「エミリア…すまない…無理をさせて…」
はっと気付くと、首元には赤い花のような鬱血痕が、シーツには処女だった証の血痕がついている。
清楚だったエミリアの、事後の狂おしい程に色っぽい姿。歓喜に震える心と、罪悪感とが押し寄せる。
「大丈夫です。お兄様と一つになれて幸せです…」
キラキラと涙で潤む瞳で微笑み、エミリアから軽いキスをする。
「お兄様が、私に他に好きな人が居ると思っているのが哀しかった。好きでもない人にこんな事を頼む女だって思うんだって…やっぱり妹としてしか見られてないんだってわかってて…だから妹にこんなことをさせてお兄様に申し訳なくて…」
「違うんだ…必死にそう思わないようにしてきたんだ。妹に邪な想いを抱くなんて気持ちわるいだろう?…信頼される兄で居たかったから…」
「…きっと、そんなお兄様だから好きになったんです」
「幻滅してないか…?」
「いえ、素敵でした。幸せだった…お兄様、大好きです」
「私も、エリーを愛してる」
ベッドに横になって向き合い、エミリアがクリスの頬を撫でる。その手を掴み、そっと口付けた。
「本当に、私でいいのか?」
「お兄様がいいんです…!」
翌朝、両親に報告し、パーティで婚約を発表した。二人の血の繋がりが無いのは知られていたし、共に闘ってきた仲間たちからは、やっとかーという顔をされ祝福された。
サターナスは、よくあれに耐えましたねぇ。やっと解けてよかったです。と2人にこっそりと告げると、何の話しだ?とアルバートとライナスが近寄ってきた。
こっちの話しだと誤魔化すと、真面目な顔でサターナスが「また滋養強壮薬が必要でしたら、ご用意します」などと言うものだから、2人して赤面する。
アルバートとライナスが生温かい目で微笑む。
「サターナス、祝いの品はそれにしたらどうだ?」
「案外、早く後継ぎが産まれそうだね」
「…ゴホン…揶揄うな…」
エミリアは照れながらも嬉しそうに微笑む。
和やかな雰囲気に、前世の自分だったらやっぱこのゲーム最高!と叫んでいるだろうな、とふと思う。
愛おしい君に、悠久の誓いを捧げよう。
応援ありがとうございます!
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