上 下
497 / 520
夏休み編 8月

夏休みにて 番外編2

しおりを挟む
 夏休みのこと。

「真面目に勉強しよっか」
「そうね」

 いつもなら誰にでも邪魔をされないのをいいことにいちゃついているここねと菜々美ななみなのだが、今日は真面目に勉強をすることにする。

 元来真面目の部類に入る二人。真面目に勉強すると決めたのなら、真面目に勉強するのだ。

 勉強する場所は今日も芹澤せりざわ家、ここねは夏の強い日差しが苦手なためだ。

 かなり広い部屋で二人は向かい合いながら勉強する。部屋の隅には涼香の誕生日会で使用する機材が積まれてある。

 二人の学力はそれ程高くなく(涼香りょうかよりは高い)、真ん中ぐらい、進学先も無理せずに合格できる場所だ。

「もう一年も……無いんだね……」

 勉強する手を止めたここねがぽつりと零す。

 突然どうしたんだと、菜々美は手を止めてここねを見る。

「そうね」
「色々あったね」
「ええ」

 まだ感傷に浸るには早い気もするが、こうして先に進む準備をしていると、どうしてもこうなってしまうのだろうか。

 その気持ちは菜々美にも解る。だからしばらく、ここねと話そうとする。

「本当に……たった三年。だけど、私達高校生からすれば長い三年。色々あったわ」

 学校行事もそうだが、なによりも一番は――。

「この学校生活、いつも中心には涼香ちゃんがいたね」
涼音すずねちゃんが入学してからはかなりマシになったけど、一年生の頃は凄かったわね」

 菜々美達三年生は水原みずはら涼香を中心として繋がりができているといっても過言では無い。菜々美とここねもそうだが、みんななにかしら涼香に影響を受けている。

 ――三年生は全員仲がいい。

 他の学校や、他の学年ではありえない奇跡のようなものだ。

「涼香がいたからみんな繋がれた。でも、進学すれば離れ離れになるのよね」
「その先……涼香ちゃんがいなくなったら、みんなバラバラになっちゃうのかな?」
「……どうなのかしら」
「分からないよね」

 先のこと、それに、人の心など知る由もない。それは涼香であってもだ。

「でも、涼香が私達の見えない場所に行ってしまうのは嫌ね」
「わたしも、涼香ちゃんがわたしの知らない人達と一緒に過ごしているのを考えると、もやもやしちゃうな」

 そんな感情を持つことを恥じるべきだという気持ちを持ってしまい、俯いたここねだが、菜々美はそんなここねの頭を優しく撫でる。

「その気持ちはここねだけじゃないわよ。私もそう、それにみんな思っているわよ。そうじゃなければ、誰も涼香のやらかしをフォローしないわよ」

 独占欲がなければ、誰も他学年に本当の涼香を見せないようにと動くはずがない。

 菜々美の言葉にここねは顔を上げて微笑む。

「私達みんな、涼香ちゃんのことが大好きなんだね」
「そうね、本人はどう思っているか分からないけど」

 先に向かって歩めば、どうしても終わりが見えてしまう。

 そんな人生の中で、変わらないもの、変えたくないものそして、絶対に変わってしまうものがある。

 それを守り、手に入れ、受け入れていかなくてはならない。

 だけど変わってしまうものはどうしようもない、だからせめて、今は既に手に入っているものを守ろう。

「菜々美ちゃん」
「どうしたの?」
「大好き。ずっと一緒にいようね」
「ええ、私も離れる気は無いわ」

 二人は互いの目を見て微笑むのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~

楠富 つかさ
青春
 落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。 世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート! ※表紙はAIイラストです。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...