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夏休みのお出かけ編 3
ここねの部屋にて 4
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「きゃー」
飛んで行ったここねはベッドに着地、若菜は再びダンゴムシのように丸まって無事だった。
クローゼットから出てきた涼音。案の定、クローゼットは対爆使用だった。それと同時に、ここねの部屋に物が少ない理由も理解する。
「菜々美ちゃんが起きるまで、言ってた盗撮動画でも見よっか」
爆発した菜々美が回復するまで、件の盗撮動画を見ようと提案したここね。
「え、なに盗撮動画って?」
「菜々美ちゃんがわたしのために歌ってくれた時の動画なんだ」
「そんなのあるんだ……」
そう言いながら、取り出したSDカードをカメラに差し込み、モニターに映像を映す。
早速映った映像は、菜々美達が一年生の時の映像だ。
「秋だね」
「懐かしい。この時の菜々美って今と違ったよね」
「そなんですか」
映像は屋上から撮られている。この頃から既に屋上は立ち入り禁止のため、無断で侵入したのだろう。映されているのは音楽室。普段は吹奏楽部が使っているはずなのだが、この日は休みだったのだろう。
音楽室では、挙動不審な菜々美とここねがいた。
確かに若菜の言う通り、今の菜々美と動きが違う気がする。
映像がズームされ、画面いっぱいに音楽室が映し出される。
「こんなにズームしてるのに、映像が荒くならないんだよ」
ここねが説明をしている最中も映像は流れる。微かに音が聞こえだす。
『えっと、芹澤さん。勝手に入っていいのかしら……?』
「芹澤さん呼びじゃん‼」
『うん! 今日は吹奏楽部は使わないみたいなんだあ』
そう言った画面の中のここねが、菜々美に近づく。
『だから今日、柏木さんの歌、聞きたいなあ』
「柏木さん呼び‼」
「若菜ちゃん、この頃のわたし達知ってるでしょ?」
「知ってるけど殆ど関わり無かったもん」
そんなやり取り中も映像は進む。
丁度ここねが菜々美を壁に追い詰めているところだ。しかし、ここねが菜々美を壁に追い詰めると、屋上からの角度では二人の姿が見えなくなってしまう。カメラは一旦暗転、すぐに元に戻ると、撮る場所が変わっていた。
画面の中では、菜々美が歌い始めるところだった。徐々に音声も聞えてきた。
スピーカーから流れてくるのは、菜々美の歌声だ。
「ほんっとうに上手いよね」
伴奏も無い、菜々美のアカペラなのだが、伴奏が無いおかげで、菜々美のどこまでも伸びる声の伸びや息継ぎの瞬間が分かる。聞いている涼音と若菜も耳が心地良いと感じる歌声を、映像の中のここねは目を閉じ、身体を揺らしながら、聴き入っている。
そしてそのまま菜々美が歌い終える。涼音と若菜が拍手をしようとした時、画面の中のここねがこちらを見た。
――そこで映像は終わっていた。
拍手をしようとしたまま固まっている涼音と若菜。たっぷり溜めた後、若菜が言う。
「……気づいてたんだ?」
恐ろしく画質の良い映像には、最後カメラの方を見たここねの表情がハッキリクッキリ映っていた。
そこらの恐怖映像より怖かった。
「えへへ」
ここねはなにも答えず、満面の笑みを浮かべるのだった。
飛んで行ったここねはベッドに着地、若菜は再びダンゴムシのように丸まって無事だった。
クローゼットから出てきた涼音。案の定、クローゼットは対爆使用だった。それと同時に、ここねの部屋に物が少ない理由も理解する。
「菜々美ちゃんが起きるまで、言ってた盗撮動画でも見よっか」
爆発した菜々美が回復するまで、件の盗撮動画を見ようと提案したここね。
「え、なに盗撮動画って?」
「菜々美ちゃんがわたしのために歌ってくれた時の動画なんだ」
「そんなのあるんだ……」
そう言いながら、取り出したSDカードをカメラに差し込み、モニターに映像を映す。
早速映った映像は、菜々美達が一年生の時の映像だ。
「秋だね」
「懐かしい。この時の菜々美って今と違ったよね」
「そなんですか」
映像は屋上から撮られている。この頃から既に屋上は立ち入り禁止のため、無断で侵入したのだろう。映されているのは音楽室。普段は吹奏楽部が使っているはずなのだが、この日は休みだったのだろう。
音楽室では、挙動不審な菜々美とここねがいた。
確かに若菜の言う通り、今の菜々美と動きが違う気がする。
映像がズームされ、画面いっぱいに音楽室が映し出される。
「こんなにズームしてるのに、映像が荒くならないんだよ」
ここねが説明をしている最中も映像は流れる。微かに音が聞こえだす。
『えっと、芹澤さん。勝手に入っていいのかしら……?』
「芹澤さん呼びじゃん‼」
『うん! 今日は吹奏楽部は使わないみたいなんだあ』
そう言った画面の中のここねが、菜々美に近づく。
『だから今日、柏木さんの歌、聞きたいなあ』
「柏木さん呼び‼」
「若菜ちゃん、この頃のわたし達知ってるでしょ?」
「知ってるけど殆ど関わり無かったもん」
そんなやり取り中も映像は進む。
丁度ここねが菜々美を壁に追い詰めているところだ。しかし、ここねが菜々美を壁に追い詰めると、屋上からの角度では二人の姿が見えなくなってしまう。カメラは一旦暗転、すぐに元に戻ると、撮る場所が変わっていた。
画面の中では、菜々美が歌い始めるところだった。徐々に音声も聞えてきた。
スピーカーから流れてくるのは、菜々美の歌声だ。
「ほんっとうに上手いよね」
伴奏も無い、菜々美のアカペラなのだが、伴奏が無いおかげで、菜々美のどこまでも伸びる声の伸びや息継ぎの瞬間が分かる。聞いている涼音と若菜も耳が心地良いと感じる歌声を、映像の中のここねは目を閉じ、身体を揺らしながら、聴き入っている。
そしてそのまま菜々美が歌い終える。涼音と若菜が拍手をしようとした時、画面の中のここねがこちらを見た。
――そこで映像は終わっていた。
拍手をしようとしたまま固まっている涼音と若菜。たっぷり溜めた後、若菜が言う。
「……気づいてたんだ?」
恐ろしく画質の良い映像には、最後カメラの方を見たここねの表情がハッキリクッキリ映っていた。
そこらの恐怖映像より怖かった。
「えへへ」
ここねはなにも答えず、満面の笑みを浮かべるのだった。
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