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水族館編 夏休み 8月

水族館にて 11

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「タカアシガニ⁉ 見なさい涼音すずね! タカアシガニよ!」
「でっか……⁉」

 二人がやってきたのは、他の水槽とは違い、暗くなっている『日本海溝』の水槽だ。

 その水槽では、太陽の光が届かない、水深が二百メートルを超える世界を再現しているとのこと。

「タカアシガニ型の枕っていいと思わない?」
「なんで枕なんですか」
「そうね。タカアシガニは食べきれないわね!」
「えぇ……」

 なにを言いたいのかいまいち分からないが、涼香りょうかが楽しそうでなによりだ。

「大人になったら食べるわよ!」
「あ、はい」


 一方その頃。

「ごめんね菜々美ななみちゃん。もう大丈夫だよ」

 水族館の入口で休んでいたここねは、もう大丈夫だと心配してくれている菜々美に笑顔を向ける。

「本当? 無理してない?」

 だけどその言葉を鵜呑みにせず、ここねの心配をする菜々美。

「うん!」

 頷くここねの笑顔を見て、ようやく安心した菜々美はここねに手を差し伸べる。

 えへへと笑ったここねはその手を取り立ち上がる。

「なんだか、懐かしいね」
「え?」

 唐突にそう言ったここねに、菜々美はなんのことだと一瞬考える。

「ああ、あの時ね」

 すぐにいつのことかを思い出した菜々美。

 微苦笑気味に、二年前のなんてことない出来事を思い出す。

「あの時は菜々美ちゃん、私の手を取ってくれなかったよね」
「だってあの時は……まだ……でも、次の日はちゃんと手を取ったわよ!」

 あれは確か入学式の時だ、水原みずはら涼香無双期間(入学式含め三日間)、新入生達は涼香の姿を一目見ようと集まり、その集まりが廊下に壁を作っていた。

 そしてその壁を抜けるため、壁に突っ込む菜々美とここね、小柄なここねはするすると人の間を縫っていけたが、菜々美はもみくちゃにされてズタボロになっていた。

 菜々美も最初はここねへの申し訳なさに、差し出される手を遠慮したのだが、次の日も同じことになり、ここねの言葉に甘えて手を取った。

「えへへ」

 慌てる菜々美を見て嬉しそうなここね。

「ほら、行くわよ」

 そう言って先に進もうとした、耳を赤くした菜々美に追い打ちをかけるように、ここねは菜々美の腕に抱きつく。

「あっあああ……ああぁぁぁ!」

 菜々美が爆発しそうになるとすぐに離れるここねであった。
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