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7月
休み時間にて 9
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ある日のこと。くるくると黒板消しが宙を舞う。
「うゔぇあ‼」
「菜々美ちゃーん!」
そしてたまたまというか、いつも通り涼香のクラスにやって来た菜々美がそれを顔面で受け止めた。
白いチョークの粉がぶわっと撒き散らかる。
「ナイスキャッチ」
「ナイスキャッチじゃないわよ!」
菜々美がほぼ確実にこの黒板消しを放った犯人であろう涼香(なぜかクラスメイトに支えられていた)に吠え掛かる。
どうしてこうなったのか、それは単純なことだった。
この学校の黒板の前――教師が立つ場所は、教室の床から一段高くなっている。涼香はそこで躓いたのだ。
なぜかこの休み時間、涼香は板書を丁寧に消していた。この時点でクラスメイト達は涼香がやらかすことを予測していた。しかし、もう涼香も高校三年生なのだ。クラスメイトとしては、ここで涼香を止めて自らの安全を確保するのではなく、涼香の成長を促すため、涼香が怪我をしないように見守るのが最善だと判断したのだ。
そんなことでクラスメイト達は、いつでも涼香の手助けができるように注意を払っていた。だから躓いた涼香は怪我をしていなかった。
しかしまあ、菜々美は災難としか言いようがなかった。
菜々美が入って来たのは、ここねの席に近い黒板とは正反対の後ろのドアからだった。いくら涼香がドジだとしても、まさか躓いた拍子に射出された黒板消しがそこまで飛ぶなんて、恐らく涼音であっても予想できないのではないか。
クラスメイト達が展開していたのは黒板周りのみ。一応、窓ガラスが割れないように教室内の全ての窓をカバーできる位置にも何人か展開していたのだが、窓から離れている、尚且つ教室の最後方にいる菜々美に当たるのを防ぐことはできなかった。
「ごめんなさいね」
涼香は謝りながら落ちた黒板消しを拾いにやって来た。
「え、あ、うん」
「ねえここね、ウェットティッシュ持っているかしら?」
「うん、持ってるよ」
ここねがウェットティッシュを取り出して涼香に渡そうとする。床に付いた粉を拭き取るためだろう。しかし菜々美はなぜかここねが涼香にウェットティッシュを渡すのが許せなかった。だからそのウェットティッシュを奪ってやろうと思ったのだが、そうすればここねが悲しんでしまうのではないかと思い、伸びかけた腕を止める。
――深呼吸。
「菜々美ちゃん大丈夫?」
「え――⁉」
立ち上がったここねが、菜々美の顔に手を伸ばす。
ここねの小さくて暖かい手が、優しく菜々美の頬を撫で、頭を撫でてくれる。菜々美の顔や頭に付いたチョークの粉を払ってくれているのだが、菜々美はそんなこと頭になかった。ただここねに触れられているという事実だけが頭の中でファイヤーダンスを踊っている。
「あっああああああああ……‼」
もう涼香のことなどどうでもよかった。
「さて、爆発しないうちに避難でもしようかしら」
拭き終えた涼香がゴミ箱にウェットティッシュを捨てに行く。そして、涼香を含めたクラスメイト達はぞろぞろと教室の外へ出ていく。
避難が完了すると、涼香は壁にもたれながらため息をつく。
「全く難儀なものね、もはやテロよ、テロ」
近くにいた若菜がそれっぽくニヒルな笑みを浮かべる。
「よく続いてるよね、ここねの方も」
「……? そうね、大したものだわ」
若菜の言っていることがいまいちピンとこない涼香だったが、若菜に倣い、それっぽく返すことにしたのだった。
「うゔぇあ‼」
「菜々美ちゃーん!」
そしてたまたまというか、いつも通り涼香のクラスにやって来た菜々美がそれを顔面で受け止めた。
白いチョークの粉がぶわっと撒き散らかる。
「ナイスキャッチ」
「ナイスキャッチじゃないわよ!」
菜々美がほぼ確実にこの黒板消しを放った犯人であろう涼香(なぜかクラスメイトに支えられていた)に吠え掛かる。
どうしてこうなったのか、それは単純なことだった。
この学校の黒板の前――教師が立つ場所は、教室の床から一段高くなっている。涼香はそこで躓いたのだ。
なぜかこの休み時間、涼香は板書を丁寧に消していた。この時点でクラスメイト達は涼香がやらかすことを予測していた。しかし、もう涼香も高校三年生なのだ。クラスメイトとしては、ここで涼香を止めて自らの安全を確保するのではなく、涼香の成長を促すため、涼香が怪我をしないように見守るのが最善だと判断したのだ。
そんなことでクラスメイト達は、いつでも涼香の手助けができるように注意を払っていた。だから躓いた涼香は怪我をしていなかった。
しかしまあ、菜々美は災難としか言いようがなかった。
菜々美が入って来たのは、ここねの席に近い黒板とは正反対の後ろのドアからだった。いくら涼香がドジだとしても、まさか躓いた拍子に射出された黒板消しがそこまで飛ぶなんて、恐らく涼音であっても予想できないのではないか。
クラスメイト達が展開していたのは黒板周りのみ。一応、窓ガラスが割れないように教室内の全ての窓をカバーできる位置にも何人か展開していたのだが、窓から離れている、尚且つ教室の最後方にいる菜々美に当たるのを防ぐことはできなかった。
「ごめんなさいね」
涼香は謝りながら落ちた黒板消しを拾いにやって来た。
「え、あ、うん」
「ねえここね、ウェットティッシュ持っているかしら?」
「うん、持ってるよ」
ここねがウェットティッシュを取り出して涼香に渡そうとする。床に付いた粉を拭き取るためだろう。しかし菜々美はなぜかここねが涼香にウェットティッシュを渡すのが許せなかった。だからそのウェットティッシュを奪ってやろうと思ったのだが、そうすればここねが悲しんでしまうのではないかと思い、伸びかけた腕を止める。
――深呼吸。
「菜々美ちゃん大丈夫?」
「え――⁉」
立ち上がったここねが、菜々美の顔に手を伸ばす。
ここねの小さくて暖かい手が、優しく菜々美の頬を撫で、頭を撫でてくれる。菜々美の顔や頭に付いたチョークの粉を払ってくれているのだが、菜々美はそんなこと頭になかった。ただここねに触れられているという事実だけが頭の中でファイヤーダンスを踊っている。
「あっああああああああ……‼」
もう涼香のことなどどうでもよかった。
「さて、爆発しないうちに避難でもしようかしら」
拭き終えた涼香がゴミ箱にウェットティッシュを捨てに行く。そして、涼香を含めたクラスメイト達はぞろぞろと教室の外へ出ていく。
避難が完了すると、涼香は壁にもたれながらため息をつく。
「全く難儀なものね、もはやテロよ、テロ」
近くにいた若菜がそれっぽくニヒルな笑みを浮かべる。
「よく続いてるよね、ここねの方も」
「……? そうね、大したものだわ」
若菜の言っていることがいまいちピンとこない涼香だったが、若菜に倣い、それっぽく返すことにしたのだった。
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