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6月

涼香の部屋にて 10

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 ある日の涼香《りょうか》の部屋でのこと。

「ねえ涼音《すずね》、今度のプレゼンテーション用の資料を作ったの」

 ローテーブルに向かい合っていた二人、なんの前触れもなくそんなことを言い出した涼香だったが。

「へえ、そうなんですか」

 まあいつものことだと、涼音は適当に流す。

「確認してほしいわ」

 そう言って涼香がスマホを差し出す。

 涼音はスマホを受け取ると、画面には一つの動画が映っていた。

「その動画を見てほしいの」

 頷いた涼音が画面をタップ。

 すると、スマホからなんかそれっぽい、意識が高そうな音楽が流れ始める。

 そして音楽が止まると同時に画面に文字が浮かび上がる。

『涼音の可愛いところ』
「消去ですね」

 すぐさま動画を止めて動画を消去しようとする涼音の手を、恐ろしいものを見たような表情の涼香が止める。

「待って! これを作るのに苦労したのよ」
「知りませんよ。ていうかあたしがこういうの嫌いって知ってますよね?」
「知っているわ、でもどうしてもこの気持ちを抑えることができないの」

 睨んでくるの涼音に負けじと涼香は言い返す。

「お願い涼音。消してもいいから一度だけ見てほしいの」

 ちょっと涙目の涼香だった。

 消してもいいのなら、と涼香に免じて見てあげようかと思った涼音、大きなため息をつくと動画を再生する。

『ギャップが凄い!』

 ギャップが凄いとはどういうことなのか、いまいちピンとこない涼音だった。

『まずは普段の様子から。※音声だけでお楽しみください』

 画面が暗転して、流れてきたのは涼香の声だった。

「涼音のもひと口食べたいわ」
「えぇ……嫌だ」

 それだけ流れると、再び画面に文字が表れた。

『可愛いわ』

 動画を消したくなってきた涼音だが、頑張って、気力を振り絞って動画を見続ける。

『次は二人っきりの時よ。※音声だけなのが残念だわ』

 再び画面が暗転する、そして流れてきたのは涼音の声だった。

「はい先輩、一口あげます」

 そして画面に文字が表れる。

『K・W・A・I・I』

 もう限界だった。涼音は動画を止めると、ローテーブルに突っ伏す。

「あとどれぐらいですか……?」

 息も絶え絶えの涼音が、なんとか言葉を発した。

「動画自体はこれで半分よ、けれどまだまだよ、この程度では涼音の魅力の一割にも満たないわ」
「あと半分も……⁉」

 今度こそ限界、涼音は容赦なく動画を消してスマホを涼香に返した。

「本当に消した……の……⁉」

 スマホ確認した涼香が、突っ伏す涼音を恐ろしいものを見たような表情で見る。

「当たり前ですよ。あたしは先輩のものなので……」

 あまりの衝撃に普段絶対言わないようにしていることを言ってしまった涼音だったが、涼香は動画を消されたショックで聞いていなかったし、言った本人である涼音も自分の言ったことを覚えていなかった。
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