政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏

文字の大きさ
5 / 20

⑤親友の結婚

しおりを挟む
⑤親友の結婚

夏の終わりに、ユリアの結婚が決まった。嫁ぎ先はレイモンド王国の侯爵の子息アーサー・レイノルズ。名を持ってわかる通り、ソフィアの父の甥にあたる青年だ。
ソフィア自身もレイモンドにいた頃は、何度か面識があったし、ユリアと縁戚になれるのも嬉しい。けれど、心の拠り所にもなっている友が遠くに去ってしまうのは、言いしれようもなく寂しい。

まだ婚約の段階で、ユリアが行ってしまうのは、年が明けて暖かくなってからのことなのだが、ため息の増えた妻に、セオドアは心配そうに聞いてきた。

「ソフィー、どうした?」
「あ、いえ…何でもありません」
「ユリア嬢のこと?」

それもあるがそれだけでもない。ソフィアが答えあぐねているど、セオドアは意外なことを言ってきた。

「ユリアの送別会を開くのはどう? 君も日ごろお世話になってるのだから」

ソフィアの塞ぎこんでいた心に、少しだけ光がさした。

「素敵です、殿下」

考えてみれば、ユリアは結婚して異国の地に行くのだから、おめでたいことではあるのだ。笑って送り出してあげたい。そして不安ならば、背中を押してあげたい。
嫁ぎ先こそ違うが、ユリアはいわば、ソフィアと同じ立場になるのだ。それに、レイモンドならばソフィアの祖国。アーサーは従兄だ。国の事情も夫となる人の人となりも、ソフィアはよく知っている。パーティー以外にも、ユリアにしてあげられることは多そうだ。


ユリア自身が、あまり大げさなのを好まないので、お別れのパーティーはソフィアの主催で、親しい仲間だけで行われることになった。
招待状から当日の料理のメニューの選定まで、すべてソフィアが仕切ることになった。招待客は全部で20名くらいの小規模なものだが、それでも忙しく、あっという間にその日はやってきた。





「ラベンダーとコバルトブルー、どちらのドレスがいいと思う?」

焦りながら、ソフィアはメイドのカレンに尋ねる。もうすぐ招待客が来てしまう時間なのに、まだドレスも決まっていない。


「どちらもお似合いですよ、ソフィア様」

カレンはにっこり笑う。

ラベンダーの方が大人っぽく見えるが、ブルーの方が肌の色に合っている気がする。

「僕はラベンダーを推すね」
「殿下!」

いつの間に。すっかり正装したセオドアがソフィアの横に立って、ソフィアが右と左に持っていたドレスのうち、ラベンダーの方を手にし、ソフィアの肩口に合わせてみる。

「…ほら。すごく綺麗だ」

こんな風に断言されてしまうと、ブルーのドレスが褪せて見えてしまう。ソフィアはカレンに手伝ってもらい、ラベンダーのドレスを着て、髪を結い、メイクを施してもらう。

「素敵です、王太子妃殿下」

仕上がってから、カレンはそう言って、恭しくお辞儀をした。
いつもはソフィア様、と名を呼ぶのに、身分を言われて、気持ちが引き締まる。

セオドアは後で顔を出すと言っているが、今日のメインのホストはソフィアだ。
集まってくれたみんなが楽しめるように、そして何よりユリアの餞になるように…。


気心知れた仲間と身内。ささやかなパーティーは、なごやかに進んだ。
婚姻を控えたユリアは、一段と艶やかになっていて、女のソフィアでさえため息が出てしまうほどだった。

「ユリア様、お綺麗。アーサーが羨ましいわ」
しばらく顔を見ていない従兄の顔も自然に思い出してしまう。

「ありがとう。ソフィア様。アーサー様ってどんなお方? お年は殿下と同じくらいなのよね」

落ち着いているように見えたが、ソフィアと二人きりでの歓談の時には、ユリアもふと心細げな面を覗かせる。酔い覚ましを理由に、ソフィアはユリアを誰もいないバルコニーの方に誘う。

星の灯りが無数に煌めき、2人を照らし、優しく吹き抜ける風が、ワインに火照った頬を冷やしていく。


「アーサーは乗馬が趣味なの。それにとってもおしゃれな方ね」
「やだ、こんな山国の貴族の娘なんて、さぞや垢抜けないとお思いでしょうね」
「そんなことないわ。レイモンド王国にだって、ユリア様みたいにお綺麗な方、そうはいないわ」
「婚姻が決まったのは嬉しいのだけれど、うまくやっていけるか不安で…。でも、ソフィア様は、私よりももっと幼い頃に、この国にいらしたんですものね」
「…幼かったから、怖いもの知らずだっただけですわ」

そう言って、ソフィアはくすっと笑った。
本当に、世間知らずの怖いもの知らずであったと思う。と、同時に傲慢でもあった。
セオドアに愛されてかしずかれ、王太子妃として、幸せな日々が待っていると思っていた。それなのに、未だ女性としては顧みられていない。こんな寂しい未来は、想像しさえしなかった。

「…殿下とは…まだ…?」

扇で口元を隠し、ユリアがこっそりと尋ねる。

「ええ。でもいいんです。お傍にいられるだけで幸せです」

与えられないものを嘆くよりも、今、手にしてる幸せを感じていた方がいい。オリバーとの件を疑い、殿下を責めたてたあの日以来、ソフィアはそう気持ちを切り替えていった。


「ソフィア様はお強いですね、私も見習わないと」

「ありがとう」と素直に受け止めて、広間の方に戻った。二人が戻ると、パーティーの雰囲気ががらりと変わっていた。
ある一人の男の出現によって。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

処理中です...