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一部二章

再会からの……?

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 翠のスマホを通して話し、決まった訪問の日。今までのように店の扉……ではなく、レコード店に入った。何故か指定された場所がこの場所だったのだ。

 店の扉には〈closed〉のプレートがかけられており、怖気付きつつ入る。

「し、失礼します」

「待ってたよ蛍流ちゃーん!」
「わわっ、調さん!?」

 店の領地に足を踏み入れた途端、調から熱烈な歓迎の抱擁を受ける。身体の奥からいけないものが出てしまいそうになり、限界の声を上げれば調は慌てて離れる。

「ご、ごめんね! 嬉しさが先走りしちゃって……ささ、店の奥までどうぞ~。今日一日は店閉めるよう祖父にお願いしてるし、レコード店なだけあって防音対策はパーペキだから大騒ぎしても無問題だぜ!」
「大騒ぎするんですか?」
「いんや、特別その予定はないけど。ただ……ね、うん」

「な、なんですか!?」

 何やら意味ありげに苦笑いされ不安を煽られる。ストリートで音楽をやる際の説明、それに加えて特別な贈り物があると言われていたがこれから何があるのか。

 用意された席の上で身構えているとリラックスを狙ってか紅茶を差し出された。

「まずはストリートでのルールみたいなのを話しておこうかな。まあやってる内に慣れるだろうけど、一応ね」
「は、はい!」

「あ、メモとか結構だよ。そんな複雑じゃないから。一応、取りたいってならそれでいいけどね。……まず第一に、ストリートで事前申請なしで腕前を競うのはご法度。これを破ったら最悪、二度とここで芸術ができないと思って。……まあバトルなんてここのみんな滅多にやらないから安心して頂戴」

 事前に用意していたメモ用紙に内容を書き込む。バトルと聞くと物騒だが、腕前を競うとなれば実力を磨けそうな有意義な機会に思える。
 人と比べるのは得意じゃないが成長に繋がるならそういったことも視野に入れておいた方がいいのかもしれない。勿論、言われた通り勝手にやるだなんてしないが。

「次に、ストリートでのパフォーマンスは、まあそりゃあ場所を使う。街路でもあるから、人が多過ぎる時は順番を守ってね」
「はい」

「いい返事。後はー……ひたすら練習! うん、今の話はそれからって感じだね。まず練習、それである程度実力を付けて、そしたらストリートで音楽をできるから。……初心者でもできないことはないけど、あんまりお勧めはしないかな。ここの人って耳も目も、まあいろんな感覚が肥えちゃってるから初心者の付け焼き刃じゃ全く通用しないって話」

「あんなにすごい人たちが毎日のようにパフォーマンスしていますもんね……」

 厳しく言えば、常に上澄みのものを楽しんでいるのだから底の澱みが受け入れられるわけがないということだろう。

「慢心してる初心者には結構いい教訓になるから敢えて話さないんだけどねー。蛍流ちゃんはそういうとこないから、特別。……それと――日々の練習にあたって、一つ」


「ちょっとそこで待っててね。今呼んでくるから」


 調から少しの間待つよう告げられ、席を立った彼女を待つこと数分。

 関係者専用の扉から待ち人と、それともう一人が入ってきた。

「お待たせお待たせー」

「失礼するよ」
「透さん? どうして……」

 ウェイター姿を見るに先程まで隣店で給仕をしていただろうに、何故オーナーに引っ張られてここに来たのか。そして何故罰が悪そうに、私と頑として目を合わせようとしないのか。

「ところで蛍流ちゃん、シュトレンのライブって見たことある?」
「はい! 一回だけ。八年くらい前、兄に連れられた貴山校の文化祭で見たことがあります。でも始まる直前に会場に行ったからとても混んでいて、メンバーの顔もぼんやりとしか見れなくて……あ、それでも本当に最高なライブでしたよ! 特にギターが印象に残ってますね」


 何故だろうか、私がシュトレンの良さを語るたびに彼は更に気まずそうにその端正な顔を苦くしていく。何故だろうか、また嫌な予感がする。

(そういえば、透さんをどこかで見たことあるような……)

 いつ、どこで見たのだっけか。ずっと昔な気がする。そう、例えば先程話したライブくらい前の――

「……あれ」

「お、もしかして気付いた?」


 そう、そうだ。そういえばあのライブの後、連れと逸れてしまった私を見つけ兄の元まで連れて行ってくれた人がいた。
 当時の私はそれまで泣きじゃくっていたのに、彼に声をかけられた途端唖然となって兄と合流するまで夢か現実かの区別がつかなくなるほど驚いていて。

 何故そこまで驚いたのか、それは、そうだ。だって彼は先程まで会場の上に立っていたはずの、私が遠くから目を輝かせて見ていたはずの人で。


「今更紹介しまーす。こちら、元シュトレンメンバー、ギター担当だった本導ほんどう透くんと言います」


 今目の前にいる彼は、思い出せばその姿にそっくりだった。
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