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一部一章
喪った夢を 3
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「お膳立てまでしてやったのになーーーーーんで保留にするかねぇ!?」
「うっ……っ、ひたいひたい! ほほほふへははいへ!」
単純に痛いだけではなく爪が頬に食い込み二次被害が発生している。確かにあの流れで保留だなんてヘタレ以外の何者でないと思うがそこまで怒られるのに納得いかない。
「折角あんたの夢が叶うかもしれないのに、いいわけ?」
私以上に悲しそうな翠。深緑の目は伏せられ、今にも泣き出してしまいそうな表情で私はといえば他人事のようにそれを眺めている。そう表現すると冷たく思えるが、これには訳が一つあるのだ。
「……ずっと思ってたんだけど、翠ちゃんはどうしてそんなに私のことを気にかけてるの? というか、私のことをよく知ってる……知り過ぎてる、っぁだ!?」
「こんの馬鹿野郎!」
殴られた。拳の形で上から下に、頭めがけて振り下ろされた攻撃の威力はとんでもないもので。痛みのあまりうずくまると罵倒が投げかけられる。
「ひ、ひどい……」
「酷いのはどっちじゃ! どうせ忘れてんだろうなぁとは思ってたけどさぁ……!!」
「……忘れてる?」
どういうことだと顔を上げれば、夕陽の逆光を受けてより暗く見える翠が映る。
(あれ……?)
その姿が別のものに移り変わる。しかしそれは一瞬のもので、思い出そうとしても頭に靄がかかったようにハッキリしない。――まさか後遺症だろうか。
「はぁ……まあそこはいいや。おいおいね。んで、何で保留にしたん? あんだけ好評だったんだから二つ返事で了承すりゃいいじゃんか」
「うーん……」
「とぼけても無駄だぞ。納得のいく理由を話して貰えるまで今日は帰さないからなコンニャロ」
理由、挙げようと思えば幾つか思い当たるものがある。けれどそのどれも彼女が仕方ないと思うものではないだろう。さてどうしたものかと悩みつつ、話さなかったらそれはそれで二度目の暴力が来そう。
「……約束」
「やくそく?」
「うん、約束。……破っちゃったから、今更やっても遅いと思うんだ」
駅前に着く。駅近くの大きな看板、広告にはよくテレビでも見る面々がおり、そこに見知ったものを幾つか見つけて息をついた。
「……青玉求って知ってる?」
「そりゃまあ、今この国一番の人気アイドルだとか言われてるあの……」
「私の幼馴染なんだよね。彼」
広告の内一つに話題の彼を見つける。そういえば新しくアルバムを発売したとか、そんなことを姉が話していたか。デビューして四年ほど経つが変わらず、いやそれ以上の人気ぶりに手を叩くことしかできない。
「はああああ!?」
「予想の範疇過ぎる反応だ」
「は、ちょっ待……はぁ!? なに、つまりあんたどの業界からも引っ張りだこな人気俳優に熱狂的なファンが多すぎて若干引くレベルのモデルの兄姉に加えてあの青玉求とも接点あんの? 芸能人ホイホイかよどうなってんの!?」
改めて口に出されると兄も姉も、幼馴染も随分と高い地位を得ているなとしみじみ思う。あの面々の中では私がよく浮いていて、平凡な私が異物として数えられる状況は意味が分からないと自分自身よく感じており動揺している翠に心の内で同意を返す。
「青玉くんとはお家が隣で、丁度同じ年に産まれたこともあって赤ちゃんの頃から一緒に過ごしてたんだ。だからほぼ家族みたいな感じ」
「はえー……妄想オタクが見てる夢とかではなく?」
「現実だよ。……それで、彼とある約束をしていたんだけど……私がそれを破っちゃって。それ以来疎遠なんだよね」
「妄想限界オタクが見てる夢とかではなく?」
「現実。私の夢って、その約束がそうだったから。……自分から破ったから、もう叶うことなんてないよ」
「妄想限界ガチ勢オタクが見ている夢ではなく?」
「現実」
「信じられね~~~」
何度も言うが事実なのである。確かに彼のファンからすれば羨ましい立ち位置かもしれないが、国民的アイドルの幼馴染という肩書きが譲れるものならすぐに抽選会でも開いて譲りたい所存だ。
「うっ……っ、ひたいひたい! ほほほふへははいへ!」
単純に痛いだけではなく爪が頬に食い込み二次被害が発生している。確かにあの流れで保留だなんてヘタレ以外の何者でないと思うがそこまで怒られるのに納得いかない。
「折角あんたの夢が叶うかもしれないのに、いいわけ?」
私以上に悲しそうな翠。深緑の目は伏せられ、今にも泣き出してしまいそうな表情で私はといえば他人事のようにそれを眺めている。そう表現すると冷たく思えるが、これには訳が一つあるのだ。
「……ずっと思ってたんだけど、翠ちゃんはどうしてそんなに私のことを気にかけてるの? というか、私のことをよく知ってる……知り過ぎてる、っぁだ!?」
「こんの馬鹿野郎!」
殴られた。拳の形で上から下に、頭めがけて振り下ろされた攻撃の威力はとんでもないもので。痛みのあまりうずくまると罵倒が投げかけられる。
「ひ、ひどい……」
「酷いのはどっちじゃ! どうせ忘れてんだろうなぁとは思ってたけどさぁ……!!」
「……忘れてる?」
どういうことだと顔を上げれば、夕陽の逆光を受けてより暗く見える翠が映る。
(あれ……?)
その姿が別のものに移り変わる。しかしそれは一瞬のもので、思い出そうとしても頭に靄がかかったようにハッキリしない。――まさか後遺症だろうか。
「はぁ……まあそこはいいや。おいおいね。んで、何で保留にしたん? あんだけ好評だったんだから二つ返事で了承すりゃいいじゃんか」
「うーん……」
「とぼけても無駄だぞ。納得のいく理由を話して貰えるまで今日は帰さないからなコンニャロ」
理由、挙げようと思えば幾つか思い当たるものがある。けれどそのどれも彼女が仕方ないと思うものではないだろう。さてどうしたものかと悩みつつ、話さなかったらそれはそれで二度目の暴力が来そう。
「……約束」
「やくそく?」
「うん、約束。……破っちゃったから、今更やっても遅いと思うんだ」
駅前に着く。駅近くの大きな看板、広告にはよくテレビでも見る面々がおり、そこに見知ったものを幾つか見つけて息をついた。
「……青玉求って知ってる?」
「そりゃまあ、今この国一番の人気アイドルだとか言われてるあの……」
「私の幼馴染なんだよね。彼」
広告の内一つに話題の彼を見つける。そういえば新しくアルバムを発売したとか、そんなことを姉が話していたか。デビューして四年ほど経つが変わらず、いやそれ以上の人気ぶりに手を叩くことしかできない。
「はああああ!?」
「予想の範疇過ぎる反応だ」
「は、ちょっ待……はぁ!? なに、つまりあんたどの業界からも引っ張りだこな人気俳優に熱狂的なファンが多すぎて若干引くレベルのモデルの兄姉に加えてあの青玉求とも接点あんの? 芸能人ホイホイかよどうなってんの!?」
改めて口に出されると兄も姉も、幼馴染も随分と高い地位を得ているなとしみじみ思う。あの面々の中では私がよく浮いていて、平凡な私が異物として数えられる状況は意味が分からないと自分自身よく感じており動揺している翠に心の内で同意を返す。
「青玉くんとはお家が隣で、丁度同じ年に産まれたこともあって赤ちゃんの頃から一緒に過ごしてたんだ。だからほぼ家族みたいな感じ」
「はえー……妄想オタクが見てる夢とかではなく?」
「現実だよ。……それで、彼とある約束をしていたんだけど……私がそれを破っちゃって。それ以来疎遠なんだよね」
「妄想限界オタクが見てる夢とかではなく?」
「現実。私の夢って、その約束がそうだったから。……自分から破ったから、もう叶うことなんてないよ」
「妄想限界ガチ勢オタクが見ている夢ではなく?」
「現実」
「信じられね~~~」
何度も言うが事実なのである。確かに彼のファンからすれば羨ましい立ち位置かもしれないが、国民的アイドルの幼馴染という肩書きが譲れるものならすぐに抽選会でも開いて譲りたい所存だ。
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