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20年後のラブレター

WEBサイトの完成

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 夜遅くにそのWEBサイトは完成した。
麻美の立ち上げたサイトは、言ってしまえば失恋の愚痴を書き込めるサイトだった。
あるいは自分の恋愛が成就するように書き込める乙女チックなサイトでもあった。
デザイン的には改善の余地がまだまだありそうだが、彼女にとっては、これが今出来得る最高の出来栄えだった。

 個人的には達成感もあり満足していたが、誰も書き込んでいない掲示板は味気ない。それに、そんな誰も書き込んでない掲示板に最初の書き込みをする酔狂な人間もいるとは思えなかった。
麻美は自分が他のサイトに書き込んだ例のコメントを、ここにも書き込んだ。

 その書き込みを見ながら麻美は
「これがキューピーちゃんとの出会うきっかけだったんだよなぁ」
と独り言を呟いた。
あれから麻美はキューピッドに会っていなかった。

「どうしているのかな?……」


「呼んだ?」

 背後から声がした。
振り向くとそこにはベッドの上に座ったキューピッドが居た。
この前と同じようにベッドに座って抱き枕を撫でていた。

「急に出てこないでよ……びっくりするから……で、全然呼んでないけど、ちょうど良かったわ」
麻美はふうとため息をつくとキューピッドにそう言いながら、あれからまだ枕カバーが洗濯できていない事が少し気になっていた。

「呼んでないけど、ちょうど良かったって?」
キューピッドは首をかしげながら尋ねた。

「これよ。あんたのために作ったのよ」
麻美はパソコンのモニターに映った自分が作ったサイトをキューピッドに見せた。

「なにこれ?」

「あんたのために『恋のお悩み相談室』を作ってあげたんじゃない」
麻美は恩着せがましく上から目線でキューピッドに言った。

「本当に作ったんだ!」
キューピッドは驚きながらも感心してPCのモニターに映っているサイトを覗き込んだ。

「これってもしかして僕?」

「そうよ。相当美化しているけどね」

「いや、逆だろう?劣化していないか?」
 キューピッドは明らかに不満足そうだった。そのイラストからは殿上人の神々しさが微塵も感じられなかった。

「じゃあ、写真でも張る? 撮ってあげるよ」
そう言うと麻美はスマホを取りだしてキューピッドを写そうとした。

「ばか、やめろ!魂が抜かれる!」
とキューピッドは慌てて逃げた。

「魂抜かれるって、あんたは江戸時代の人間か?」
と麻美は呆れながらスマホをしまった。

「まあ、魂は抜かれる事はないけど、多分、写らないと思うよ」
とキューピッドは麻美がスマホをしまうのを確認しから、またベッドの上に戻って来た。どうやらキューピッドは写真に撮られるのが好きではないようだ。

 そしてパソコンのモニターを再び覗き込んで
「ふぅ、でも、こんなサイト誰が見るの?」
と至極当然な質問を麻美にぶつけた。


「それはあんたが何とかしなさいよ。あんた、一応神様なんでしょ」
と麻美は冷たく突き放す様に言った。

「一応って……何か安っぽく聞こえるなぁ……」
と愚痴っぽくキューピッドは応えた。

「何ともならないの?神様のくせに」

「いや、何とかなるけど……そんな言い方されたら神様だって気分が悪い」

「え?そうなの?」

「そうだよ。ギリシャ神話を読んだことない? 直ぐにへそを曲げる神様ばかりだから」
 そう、ギリシャ神話に登場する神は何かと人間臭い……と言うかこの世の中に登場する神は、大抵そんなもんだったりする。

「へぇ。知らなんだ。今度読んでみる」
麻美は、案外神様って俗物なんだと思い直した。彼女は本気で何を言っても許されると思っていた様だ。そしてギリシャ神話を読むことは今後絶対に無いと自覚していた。


「僕はまだ神様連中の中では人格者と言われている」
とキューピーは胸を張って言った。

「へぇ~そうなんだ。でも神様のくせに人格者っておかしくない?」

「え?」

「それって神の方が人より下にいる事にならない?」
もっともな意見だった。人が人格者となって神に近づくなら分かるが、神が人格者になるという事はよくよく考えてみるとランクダウンのような気がする。

 麻美は案外そう言う事には目ざとく気付くタイプの様だ。

「ま、モノの例えだよ……た・と・え……人間だって『飢えた狼のように』って動物に例えたりするでしょ?」
とキューピッドはそう言って誤魔化した。
麻美の思わぬツッコミに焦りを隠せなかった。

「あ、もういいわ。そんな話。それより、何とかなるのならないの?」
 麻美はそれほどこの話題に執着せずに話を元に戻した。というか、もうどうでも良かった。
ただ、キューピッドに対する上から目線には変わりはない……と言うか、更にその傾向が強まる予感が言葉の端々に漂っていた。

「何とかなるけど」
口ごもりながらキューピッドは応えた。

「じゃあ、何とかしなさいよ」
麻美はあっさりとそう言い放った。
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