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第11章使節団(おまけ)

経験者の力

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それを見てイツキは
「じゃあ、一度経験者同士の戦いを見せようか?」
イツキは柴田からヒノキの棒を受け取るとシラネに対峙した。

「本気でいって良いですか?」
シラネは口元に笑みを浮かべながらそう言った。
彼はイツキと対戦できるのが楽しい様だった。

「良いよ」
軽く右手で持ったヒノキの棒をシラネの前に突き出してイツキは応えた。

「では」
その言葉と同時に周りの空気が震え出した。
フルパワーの気迫が周りの空気を揺るがしている。
その気迫を受けているイツキは、いつものように自然体だった。
ただ口元が少し緩み、イツキはこの場の雰囲気を楽しんでいるようだった。
イツキの持つヒノキの棒の先が少し揺れた。まるでシラネを誘うかのように。

 それを認めたシラネは一気にイツキに突きかかった。
次の瞬間、シラネの持ったヒノキの棒は空高く舞い上がり、シラネの喉元にはイツキの構えたヒノキの棒の先が押し付けられていた。
シラネの懐にイツキは一瞬で入ってしまっていた。

「ま、参りました……」
シラネは喉をごくりと鳴らして両手を上げた。

「今のはちょっと僕を舐め過ぎだろう?」
イツキはシラネの顔を見上げて愉快そうにそう聞いた。

「いえ、これしかチャンスは無いと思いましたから……」
シラネは『こんなミエミエの誘いにシラネが乗るはずがない』とイツキが思って気を抜いた瞬間の隙をついたつもりだったのだが、それはあまりにも見え透いた手だった。
しかしシラネにしてみれば、元々適う相手でもないイツキには通常では手も足も出ない訳なので、彼にしてみれば捨て身のイチかバチかの一撃だった。

「ふ~ん。そうなのか」
そう言うとイツキはヒノキの棒をシラネの喉元から引いた。
そして振り返って柴田に聞いた。
「どう?」

「どうって言われても……何も見えませんでした。シラネさんが突きを出したところまでは分かりましたが、そのあとが全然見えませんでした」

「シラネの突きが見えただけでも大したもんだよ。でも、彼は突きの後に3手ほど手を出していたんだけど、それは分かったかな?」

「そうなんですか? あれから更に攻撃を加えていたんですか?」

「そうだよ」

「それは気が付きませんでした」

「多分、君も少し訓練したらこれぐらいの事は造作もなくできると思う。しかし今はまだ自分の力の使い方が分かっていない」

「そうなんですね」

「そう。だからチートだけというのは、ここではいいカモだと言ったんだよ」
「とてもよく理解できました。これからもご教授、ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
と言って柴田は頭を下げた。

「なんか難しい言葉を知っているなぁ……うん。兎に角、飲み込みが早くて助かるよ。流石チートだ」
イツキは笑いながら答えた。


「でもね、十年ぐらい前なら、チートだけでのし上がれたんだよねえ……今じゃねえ……この世界、何かのテンプレかのように同じようなヒッキーが転移してくる。そっちの世界で何かあったのか?と勘繰りたくなるほどやって来る。というわけでチートなんてその辺にごろごろいるよ。要するにどんなにチート持ちでも経験が浅いとそこを狙われる。だからチート持ちの未経験者は格好のカモだよ。時代が悪かったな。本当に残念」
と慰めるようにイツキは柴田に言った。

柴田は黙ってうなずいた。

「そういう訳で暫くはシラネのところで修行してから、冒険に出た方が良いな……あっという間に死にたくなければ……」
とイツキは柴田の肩をポンと叩いてそう言った。

「はい。そうします。よろしくお願いします」

「今のところ、君のチートは剣術レベルと力、敏捷性ぐらいみたいだけど、まだ出てくるかもね」
イツキは彼の肩に手を置いたまま耳元でそう言った。

「え? そうなんですか?」
柴田は驚いたようにイツキの顔を見た。



「うん。確証はないけど、そう言う事はよくあるよ。兎に角、暫くはシラネのところで修行すると良いよ……シラネはそれで良い?」

「イツキさんのお墨付きのチートですからね。断る理由なんでないですよ」
とシラネは笑いながら頷いた。

「じゃあ、今から登録しようか?」
イツキはマジックバックから書類を取り出すと、彼を騎士として登録した。
新しい名前は「シバ」と決まった。

ここにめでたく一人の騎士が誕生した。
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