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弦楽のためのアダージョ
朝練 その5
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そんな事を考えながら僕は二人に
「ファーストポジションで音程弾ける?」
と聞いてみた。
二人は一瞬顔を見合わせるとヴァイオリンを持ち直して弾き始めた。
G線から順番に『ラ・シ・ド・レ・……』とほとんど狂いなく弾いていった。
G線・D線・A線・E線への渡りもスムーズだった。
軽く驚きながらも
「いつの間にこんなに練習したん?」
と僕は聞いた。
「音楽の授業で毎週競わされているので家で練習していました。サードポジションまで練習してます」
「え? 『家で』ってヴァイオリン買(こ)ぉたん?」
「いえ。学校のヴァイオリンを借りて帰りました」
「え? そうなん?」
僕は驚いて聞き返した。
『冴子のオヤジはどんだけ学校にヴァイオリンを寄付したんだ?』と思わず声に出そうになった。
「器楽部員なら誰でも借りれますよ」
と伊藤美優が応えた。
「あ、そうか」
そうだった。器楽部員は担当楽器をもって帰っても良い決まりだった。
ここでは一度自分が使用する楽器を決めたら、卒業までその楽器を自分のものとして使える。
僕はヴァイオリンを所有しているので、器楽部で借りる事は無かったからそこまで思いが至らなかった。
「はい。器楽部員の特権です」
とまた伊藤美優が笑いながら応えた。
「そうやったなぁ……借り物とは言え、My楽器を手にした気分は?」
と僕が聞くと
「とても愛着が湧きました」
伊藤美優は笑顔で応え、時岡優菜は隣で何度も頷いていた。
「その内、伊藤も本当にMy楽器を買いたくなるかもね」
「かもしれません。それにこのヴァイオリンって私が初めて使うみたいなんです」
「え? そうなん?」
と僕は驚いて聞き返した。
「はい。まだ新品の手つかずのヴァイオリンが楽器庫に残っていますよ」
と伊藤美優は笑いながら応えた。
「へぇ……」
やっぱり冴子のオヤジは相当数の楽器を寄付していたらしい。恐るべきはブルジョワジーの財力だわ。いや、財閥と言うべきか?
「だから、もし買うんだったらこのヴァイオリンが良いです」
と伊藤美優はヴァイオリンを抱きかかえるようにして言った。
勿論、時岡優菜も同じようにヴァイオリンを抱きかかえ、さっきと同じように何度も頷いていた。
「う~ん。その気持ちは解るなぁ……」
それにしても冴子のオヤジはどれほどの楽器をこの学校に寄付したんだろう? 余計な事が気になって仕方ない。
「ま、兎に角、目標を持つことは良い事やから、それは忘れんように。ただ、今やるべき練習をせえへんと、そこにはたどり着けへんから頑張ってボウイングやろうねえ」
と僕は二人の顔を交互に見ながら言った。
「はい」
二人は声をそろえて元気に応えた。
気持ちいい返事だった。
朝からとっても気持ちのいい練習だった。こんな早朝練習なら何度付き合っても良いと思えた。
「ファーストポジションで音程弾ける?」
と聞いてみた。
二人は一瞬顔を見合わせるとヴァイオリンを持ち直して弾き始めた。
G線から順番に『ラ・シ・ド・レ・……』とほとんど狂いなく弾いていった。
G線・D線・A線・E線への渡りもスムーズだった。
軽く驚きながらも
「いつの間にこんなに練習したん?」
と僕は聞いた。
「音楽の授業で毎週競わされているので家で練習していました。サードポジションまで練習してます」
「え? 『家で』ってヴァイオリン買(こ)ぉたん?」
「いえ。学校のヴァイオリンを借りて帰りました」
「え? そうなん?」
僕は驚いて聞き返した。
『冴子のオヤジはどんだけ学校にヴァイオリンを寄付したんだ?』と思わず声に出そうになった。
「器楽部員なら誰でも借りれますよ」
と伊藤美優が応えた。
「あ、そうか」
そうだった。器楽部員は担当楽器をもって帰っても良い決まりだった。
ここでは一度自分が使用する楽器を決めたら、卒業までその楽器を自分のものとして使える。
僕はヴァイオリンを所有しているので、器楽部で借りる事は無かったからそこまで思いが至らなかった。
「はい。器楽部員の特権です」
とまた伊藤美優が笑いながら応えた。
「そうやったなぁ……借り物とは言え、My楽器を手にした気分は?」
と僕が聞くと
「とても愛着が湧きました」
伊藤美優は笑顔で応え、時岡優菜は隣で何度も頷いていた。
「その内、伊藤も本当にMy楽器を買いたくなるかもね」
「かもしれません。それにこのヴァイオリンって私が初めて使うみたいなんです」
「え? そうなん?」
と僕は驚いて聞き返した。
「はい。まだ新品の手つかずのヴァイオリンが楽器庫に残っていますよ」
と伊藤美優は笑いながら応えた。
「へぇ……」
やっぱり冴子のオヤジは相当数の楽器を寄付していたらしい。恐るべきはブルジョワジーの財力だわ。いや、財閥と言うべきか?
「だから、もし買うんだったらこのヴァイオリンが良いです」
と伊藤美優はヴァイオリンを抱きかかえるようにして言った。
勿論、時岡優菜も同じようにヴァイオリンを抱きかかえ、さっきと同じように何度も頷いていた。
「う~ん。その気持ちは解るなぁ……」
それにしても冴子のオヤジはどれほどの楽器をこの学校に寄付したんだろう? 余計な事が気になって仕方ない。
「ま、兎に角、目標を持つことは良い事やから、それは忘れんように。ただ、今やるべき練習をせえへんと、そこにはたどり着けへんから頑張ってボウイングやろうねえ」
と僕は二人の顔を交互に見ながら言った。
「はい」
二人は声をそろえて元気に応えた。
気持ちいい返事だった。
朝からとっても気持ちのいい練習だった。こんな早朝練習なら何度付き合っても良いと思えた。
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