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エゴイストとピアニスト
コンサートその1
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二日間の三年次の実力考査が終わった次の日、僕は文化ホールにダニーと共にいた。
とうとうやってきたコンサート当日。
実力考査の前も試験中も僕はほとんどピアノの前に座っていた。試験勉強は全くしなかった訳ではないが、ほぼピアノに集中していたと言って良い。
「なんちゅうタイミングでコンサートやってくれんねん」
と思わなくもなかったが、考査後の試験休みの当日がコンサートというのはある意味絶妙なタイミングだとも言える。
何故ならこのコンサートに招待された器楽部の部員を中心とした我が校の生徒が、試験明けの解放された晴れ晴れとした気持ちでこのコンサート会場に足を運ぶことができるからである。
正直に本音を語れば、僕は試験前から現実を敢えて直視せずにこのコンサートでの演奏を楽しみにしていた。それでも試験はそこそこできたと思う……いや、そう思いたい。
それにしてもこんな大きなホールで大勢の人の前でピアノを弾くのは、今年の一月のガラコンサート以来だ。
ましてやプロのオーケストラと共演なんか初めての経験だ。
やはり僕としては実力考査よりもこちらの方が優先度は高い。
僕は楽屋でダニーと二人で出番を待っていた。
今回のコンサートのメインステージの指揮を、今僕の目の前にいる世界の巨匠ダニエル・バレンタインが務める事になっていた。
そう。今回はダニーは名誉音楽監督ではなく客員指揮者としてタクトを振る事になっていた。
そしてこのオーケストラでの最初の演奏に僕をピアニストとして指名してくれた。
本当にありがたい。
「準備は良いですか?」
とダニーは聞いてきた。
いつもとは見慣れないタキシード姿のダニーからは『世界の巨匠』と言う威厳と言うか雰囲気が伝わってくる。
部活で指導してもらっている時にも感じた事がない威圧感みたいなものを感じた。
「はい」
僕は応えた。
声は上ずってはいない。大丈夫だ。
「うん。いい表情してます。今日は目一杯楽しんで演奏しましょう」
とダニーは笑顔を見せた。それはいつも部活で見せる笑顔だった。
「はい」
と僕も笑顔で頷いた。
それを確認するかのように二度ほど頷くとダニーは立ち上がって
「そろそろ行きましょうか」
と明るい表情で言った。
僕もその笑顔につられるように立ち上がった。
ステージの袖へと続く廊下をダニーの背中を見つめながら僕は歩いた。
今僕は世界の巨匠と一緒に歩いている。同じステージに立つために。
――これが僕のプロデビューか?――
ここに来て余計な事を思い出した。心地よい緊張感が漂ってきた。
オヤジの余計なひとことが腹立たしい……がそんな自分を感じて何故か笑みがこぼれた。
――これがオヤジが言っていた『斜め上から自分を見つめる』って事かぁ――
とオヤジが言っていた言葉をここで体感するとは思わなかった。そんな事を考えていたら、今僕の感じていた緊張感は解きほぐれてしまった。
――うん。確かに他人事のように思えたら面白いかも――
とオヤジの言った言葉をまた思い出していた。
そしてこれ以上難しい事は考えるのは止めた。
『プロとかアマとか、デビューなのかそうでなくいつもと同じなのかなんて今考えても仕方ない事だ』と割り切った。
ダニーはステージの袖で一度立ち止まった。
そして僕に『先に行け』と言うように笑顔で促した。
僕は黙ってうなずくと先にステージに進んだ。僕のすぐ後をダニーが歩く。
とうとうやってきたコンサート当日。
実力考査の前も試験中も僕はほとんどピアノの前に座っていた。試験勉強は全くしなかった訳ではないが、ほぼピアノに集中していたと言って良い。
「なんちゅうタイミングでコンサートやってくれんねん」
と思わなくもなかったが、考査後の試験休みの当日がコンサートというのはある意味絶妙なタイミングだとも言える。
何故ならこのコンサートに招待された器楽部の部員を中心とした我が校の生徒が、試験明けの解放された晴れ晴れとした気持ちでこのコンサート会場に足を運ぶことができるからである。
正直に本音を語れば、僕は試験前から現実を敢えて直視せずにこのコンサートでの演奏を楽しみにしていた。それでも試験はそこそこできたと思う……いや、そう思いたい。
それにしてもこんな大きなホールで大勢の人の前でピアノを弾くのは、今年の一月のガラコンサート以来だ。
ましてやプロのオーケストラと共演なんか初めての経験だ。
やはり僕としては実力考査よりもこちらの方が優先度は高い。
僕は楽屋でダニーと二人で出番を待っていた。
今回のコンサートのメインステージの指揮を、今僕の目の前にいる世界の巨匠ダニエル・バレンタインが務める事になっていた。
そう。今回はダニーは名誉音楽監督ではなく客員指揮者としてタクトを振る事になっていた。
そしてこのオーケストラでの最初の演奏に僕をピアニストとして指名してくれた。
本当にありがたい。
「準備は良いですか?」
とダニーは聞いてきた。
いつもとは見慣れないタキシード姿のダニーからは『世界の巨匠』と言う威厳と言うか雰囲気が伝わってくる。
部活で指導してもらっている時にも感じた事がない威圧感みたいなものを感じた。
「はい」
僕は応えた。
声は上ずってはいない。大丈夫だ。
「うん。いい表情してます。今日は目一杯楽しんで演奏しましょう」
とダニーは笑顔を見せた。それはいつも部活で見せる笑顔だった。
「はい」
と僕も笑顔で頷いた。
それを確認するかのように二度ほど頷くとダニーは立ち上がって
「そろそろ行きましょうか」
と明るい表情で言った。
僕もその笑顔につられるように立ち上がった。
ステージの袖へと続く廊下をダニーの背中を見つめながら僕は歩いた。
今僕は世界の巨匠と一緒に歩いている。同じステージに立つために。
――これが僕のプロデビューか?――
ここに来て余計な事を思い出した。心地よい緊張感が漂ってきた。
オヤジの余計なひとことが腹立たしい……がそんな自分を感じて何故か笑みがこぼれた。
――これがオヤジが言っていた『斜め上から自分を見つめる』って事かぁ――
とオヤジが言っていた言葉をここで体感するとは思わなかった。そんな事を考えていたら、今僕の感じていた緊張感は解きほぐれてしまった。
――うん。確かに他人事のように思えたら面白いかも――
とオヤジの言った言葉をまた思い出していた。
そしてこれ以上難しい事は考えるのは止めた。
『プロとかアマとか、デビューなのかそうでなくいつもと同じなのかなんて今考えても仕方ない事だ』と割り切った。
ダニーはステージの袖で一度立ち止まった。
そして僕に『先に行け』と言うように笑顔で促した。
僕は黙ってうなずくと先にステージに進んだ。僕のすぐ後をダニーが歩く。
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