北野坂パレット

うにおいくら

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お正月の頃の物語

屋台

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「はい。あけましておめでとう」
 そう言うとオヤジは冴子にもお年玉を渡していた。

このオヤジの準備の良さは一体なんなんだ?
僕達と会うのを予想していたのか? それとも正月はこうやってお年玉を用意して持ち歩いているのか? とっても不思議だった。
 冴子はとても嬉しそうにオヤジに抱きつていた。僕のオヤジに気安く抱きつくんじゃないとちょっと思った。

「お、ありがとうな。気を使って貰って。じゃあ、これな」
と今度は鈴原さんが僕と宏美にお年玉をくれた。
代わりに僕が鈴原さんに抱きつこうかと一瞬思ったが流石にそれは止めた。

 しかし今年は年の初めから幸先よく集金が出来る。
とっても嬉しい。昨年オヤジと出会っていて良かったと初めて心の底から思った。

 そして今日もオヤジに声をかけて正解だったと、僕は心の中で自分の判断を自画自賛していた。
それにしてもうちの両親達や周りの大人は手際が良い。お年玉を用意して歩いてくれているなんて、なんてすばらしい人たちなんだ。僕は心の中で感動していた。

「キャサリンはもうお年玉貰ったんか?」
と僕が聞くと
「お前、その呼び方するなって言うたやろ」
冴子がドスの効いた低音ボイスで突っかかって来た。
でも、僕も宏美もそれを笑いながら聞き流した。

「今年は、お前らも二年参りか?」
オヤジは鈴原さんにそう聞きながら厚揚げに辛子を塗りたくっていた。

「ああ、どうせ安藤は仁美と一緒でこたつに入って仲良く飲んでいるだろうから、独りぼっちに放り出された一平を慰めてやろうと思って来てみたら、このざまや……家族団らんやんか」
と呆れたようにそして笑いながら、オヤジから日本酒が入ったグラスを奪うとそれを一息に飲んだ。

「アホ。さっきまでそのお二人さんと一緒に安ちゃんの店で飲んどったわ」
とオヤジは言って厚揚げを頬張った。

 そしてオヤジは無言で僕が狙っていた卵に箸を刺して、器用に二つに分けた。
僕は無言で残りの半分になったゆで卵をすかさず奪取した。
オヤジは案外よく食べるなぁと感心しながら……。

「え? そうなんや」
鈴原さんは意外そうにオヤジに聞き返した。

「ああ、あいつら気を使って俺に何も言わんから、さっさと引き上げてきた」
とオヤジは『いかにも自分は気が付く大人だ』と言わんばかりにどや顔で言った。

「そうかぁ。あいつららしいな」
オヤジのどや顔は気も留めずに、そう流すと鈴原さんは店員に
「おい、こっちにテーブル回してくれ」
と指示していた。店長らしい人が飛んで来て慌ててテーブルの用意をした。

「おお、サンキュー。あ、それと瓶ビール三本ぐらい持ってきてくれるか」

「はい、すぐにお持ちします」

鈴原さんはその店長らしき人の肩を軽く叩き労をねぎらいながら注文を出していた。
屋台のテントの中は多くのお客さんで混雑していたが、店員の動きは機敏ですぐにテーブルは用意された。

 子供たち三人の前に大人が四人……いや、鈴原さんはお誕生日席で両サイドから三人に挟まれるように座っていた。

 外は寒いが屋台のテントの中は、足元は若干冷えるけど案外暖かい。
「それでは改めて、あけましておめでとう」
今度は鈴原さんの音頭で今度はビールで乾杯だった。勿論僕たちはウーロン茶だった。
二杯目のお屠蘇を少し期待していた僕は残念だった。

 ひと段落つくと
「で、お前はいたたまれなくなって、安ちゃんの店から逃げ出してきたという訳やな?」
鈴原さんはさっきの話を続けた。

「まあな、『お前いつまでここにおんねん。邪魔や! 早よ帰れ!』ちゅうオーラがガンガン飛んでくるからな」
オヤジが笑いながらそう言ってビールを煽った。

「そりゃそうやろう。二十何年越しの愛やからな。邪魔したらアカン」
と鈴原さんも大きく頷いて笑いながら同じようにビールを飲んだ。

 他人をネタに飲む酒は本当に旨そうだった。
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