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うにおいくら

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クリスマスの頃の物語

安藤さんの店

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 他人に気を遣うという事は大人のたしなみだなと思う。
さり気ない気の使い方はとってもオシャレだ。大人の余裕さえ感じる。宏美はそこまでの余裕と経験がないが、仁美さんの動きを見て気がついて慌てて手伝っている。

 僕はそんな宏美の姿を見て実はちょっとホッとしていた。勘の鈍い気の付かない女の子では無くて良かったと。
ここで仁美さんの行動をただ眺めているだけの女子でなくて良かったと。

 僕がまだ小さい頃からオフクロに言われていた事があった。
「感性のある人になりなさい。感性を磨く事が大事。それは人を良く見る事よ」
ふと今ここでこの言葉を思い出した。
大人のたしなみとはこういう事に気が付く感性かもしれないとも思った。

 仁美さんの
「あら、ありがとう」
という一言で宏美はとってもいい笑顔でいられる。

 やっぱりこの人が結婚せずに独身というのは腑に落ちない。この人の感性はとっても繊細でオシャレだと思う。酔っ払った姿も可愛いのに……。


「ほぉ、そうなんや。それは楽しみやな」
安藤さんはオフクロと仁美さんが選んだ食器が届くのが楽しみの様だった。

 僕たちはオヤジと仁美さんに挟まれるように四人並んでカウンターに座った。

オヤジは
「CCロックかち割りで」
と注文した。流石にもうビールの時間は終わったようだ。

 仁美さんはそれを聞いて
「じゃあ、私はCCロックのクラッシュドアイスで」
と注文した。

「かち割とクラッシュドアイスってどこが違うんですか?」
僕が安藤さんに聞くと
「お前のオヤジが頼んだのはオヤジ臭漂うオッサンのちっこい氷が沢山入ったCCロック。仁美が注文したのはオシャレな大人の女性が爽やかに飲む宝石の様に砕いた氷が入ったCCロックや」
と説明してくれた。
「あ、CCってカナディアンクラブっていうウィスキーの名前やからな」
と最後にひとこと付け足して教えてくれた。

 目の前に現れた二つのグラスに違いは全くなかったが、オヤジのグラスは何故だか本当にオヤジ臭が漂っていそうな気がした。

「あのなぁ、亮平。これは同じ酒やからな。オヤジ臭なんかせえへんからな。安藤の戯言は聞き流してええからな」
とオヤジは言い訳がましく言ってからグラスを持ち上げ乾杯をした。


「いいえ。一平ちゃんのは間違いなくオヤジ臭がするわ。年寄りやもん」
と仁美さんがそう言うと
「同い年やろが!」
とオヤジが突っ込んだ。
分かっちゃいるがこのツッコミはお約束だ。様式美と言ってもいいかもしれない。

 僕と宏美は二人とも大人しく普通の氷が入ったジンジャエールを注文した。

仁美さんが安藤さんに僕達と出会ってからここに来るまで至った状況を話していた。

「そうかぁ、二人は今まで仁美に連れまわされとった訳かぁ。大変やったな。でもこのおばちゃん面白いやろ?」
と安藤さんは聞いてきたが、その瞬間に
「お姉さんね。これだから年寄りはいやなのよねえ」
と蔑んだように安藤さんに一瞥を喰らわしていた。

「だから、同い年やって」
と今度は安藤さんが突っ込んだ。

「近頃の大人はこれでもかと同じネタで落としてくるな。これって二段落ちか?」
と僕は宏美に小声で言った。

宏美は笑っただけで応えなかったが大人三人にはちゃんと聞こえていたようで睨まれた。どうやら僕はこの大人三人を少し敵に回したようだ。
オヤジギャグのトリを務めてしまった気分は最悪だが、何故か僕は小気味よかった。

「いや、でも仁美さんはオシャレな女性だなぁって思っていたんですよ。な、」
と僕は宏美に助けを求めるように話をふった。大人三人からの無言のプレッシャーに耐えられるほど僕は人生経験を積んでいない。

「はい。とってもセンスが良くて会話も物腰もオシャレで尊敬してます。なんでこんな素敵な女性を世の男性は放っておくのか分かりません」
と宏美は話継いでくれたが、最後の一言は軽くこの大人たちの琴線に触れたような気がした。

 それはオヤジと安藤さんが一瞬アイコンタクトをした事でも分かった。
宏美の一言で同級生三人に微妙な緊張感が生まれたようだ。

 そのさりげなく漂う緊張感の中、最初に口を開いたのは安藤さんだった。
「仁美は昔からモテとったよ」

「そうですよねえ」
と宏美は昔から見てきたかのように頷いていた。宏美はこの微妙な空気が全く読めていない様だ。
微妙な年齢の女性に微妙なネタ。

 オヤジは『もう俺の出番はないな。後は安藤に任せた』という感じで高みの見物を決め込んでいた。完全に猫の鈴は安藤さんの手に渡った……後は安藤さんがどうやって猫の首に鈴をつけるかを見て楽しむ魂胆が見て取れた。





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