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うにおいくら

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クリスマスの頃の物語

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 メニューを受け取りながら仁美さんは
「プリモピアットはどうするの?」
とオヤジに聞いた。

「スープは要る?」
とオヤジは聞き返した。

「どっちでも良いわ」
と仁美さんは軽く首を振って応えた。

「じゃあ、パスタだけにしとこか?」

「そうね」

 この二人が何を言っているのかまるで分からなかったが、どうやらスパゲティにありつけることだけは判った。

僕と宏美のニ人の頭上を、全く意味不明の言語がオヤジと仁美さんの会話が行き交いしているように感じた。

 仁美さんは天井を見上げて
「セコンドピアットは決まったっでしょう。内容はミケーレにお任せにするとして……ドルチェは後で注文しても良いわよね?」

「ああ、後でええんちゃう」
 オヤジのどうでも良さげな返事に仁美さんは頷くと僕たちに
「他に何か食べたいものはある?」
と聞いてきた。
 
 僕達は二人そろって
「いえ、何もないです」
と首を振った。
聞かれても答えられない。残念な事にオヤジ達の会話があんまり理解できていなかった。

 頭の中ではまだアナなんちゃらかんちゃらという言葉が響いていた。
スパゲティ以外には『ピザが食えそうだ』というところまでは理解したが……。
僕達二人は本当にドメスティックな二人だった。


「でも食べ盛りだもんねえ……スープ注文しないからリゾットでも注文しよっか?」
と仁美さんは僕たちの事を気遣って聞いてくれた。

「ああ、それでええんとちゃう。俺も少し食いたい」
と注文には興味が無くなったはずのオヤジが代わりに応えた。それは僕たちの事を気遣って答えてくれた訳ではないという事だけは解った。

「じゃあ、それで決まりね」

仁美さんがカウンターの前に立っていたミケーレさんに向かって
「Scusi(スクーズィ)」とイタリア語で声を掛けていた。
ミケーレさんはすぐに気が付いて笑みを浮かべでテーブルに近づいてきた。

 仁美さんのイタリア語を耳にして
「あれはどういう意味?」
宏美が僕に小声で聞いてきた。
当然
「知らん」
と僕も小声で応えた。

 それを聞いて
「ちょいとそこのオーナーはん、注文取りにきてぇなって言う意味や」
とオヤジも小声で教えてくれた。



「ちょっとなによ、その変な大阪弁は……」
と苦笑いしながら仁美さんは話に割り込んできた。
そして
「もう、折角、雰囲気出してんのに……」
と笑いながらオヤジを睨んでいた。

「あ、悪い」
とオヤジは謝ったが、全然悪いとは思ってない事は僕にも宏美にも分かった。

 仁美さんは注文を取りに来たミケーレさんにメニューを片手にイタリア語で注文していた。
他にお客さんがいないからできる技で、他に居たら『なにをいちびった嫌味な家族なんだ』と思われただろう。

 でも、なんだか本当にミラノのバールにいるみたいで、それだけで楽しかった。
イタリア語で注文を出している仁美さんは恰好良かった。とっても自然だった。

「あ、ワインは何にする?」
仁美さんは大切な事を忘れていたという感じ慌ててオヤジに聞いた。

「赤いのなら何でもええわ」
その割にはオヤジの対応はいつも通りのどうでも良さげな砕け散ったオッサンの対応だった。

「じゃあ、大好きなソアーヴェにする?」
「大好きな訳ではない……が確かに嫌いではない」
「だよねぇ……シャブリが飲めない時はこれを飲んでいたもんね」
「嫌味やな。それにそのワインは白や。分かってて聞くな」
オヤジは苦虫を潰したような顔で窓を見た。
 オヤジにはこのワインに苦い想い出でもあるのだろうか?

「おや? ソアーヴェがお好みですか?」
ミケーレさんがオヤジに尋ねた。

「いえ、お金がない時はよく飲んでたワインなんです。まあ、僕はこのワインが嫌いではないんやけど……結構、味のばらつきは大きいワインでしたねえ……」
 オヤジは昔を思い出す様に話をした。イタリアに居る頃に飲んでいたんだろうか?どうやらそれほど高いワインではない様だ。

 それよりもオヤジはいつイタリアに住んでいたんだ?僕はそっちの方に興味が湧いていた。

「近頃のソアーヴェは良いワインも出てきましたよ。味も安定しています。ソアーヴェ・スペリオーレなんかはいいワインです」
ミケーレさんはレシートに注文を書く手を止めてオヤジに言った。




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