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クリスマスの頃の物語
仁美さんからの誘い
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「父さんはなに? 仁美さんとデート?」
と僕がオヤジに聞くと
「そうなのよ。亮平君は宏美ちゃんに取られたからねえ……仕方がないからこれで我慢してんのよ」
とさっきまで慈母のような目で笑っていた仁美さんは、小悪魔のような表情でオヤジを横目で一瞥した。
「俺は亮平の代わりか? とっても失礼な話やな」
と一応憤ってみましたけど……みたいなノリでオヤジがツッコんでいた。
仁美さんはオヤジのツッコミには応えず、僕たちに笑いかけながら
「今日はね、ユノに頼まれた買い物に付き合って貰ってんのよ」
と言った。
「え? 母に?」
「そうよ。お母さんがクリスマスで使う食器を選んでほしいって」
「そんなもん自分で買いに行けば良いモノを……」
僕は呆れ気味に仁美さんにそう言った。横でオヤジも激しく何度も頷いていた。
でも仁美さんは「『あんたのセンスは良いから、お願いって』って言われたからねえ」とまんざらでもない表情だった。間違いなくオフクロに上手く乗せられている。
「そんな取ってつけた……」
と言いかけてオヤジの顔を見ると眉間に皺を寄せ首を小さく振った。
それは
『そんな判り切った事は敢えて言うな。本人はそれに気が付いていないんだから……寝た子を起こすな』
という意味だとすぐに理解した。
どうやらオヤジも思う事は同じの様だ。しかしここは大人の事情みたいなもんがあるのだろう。
なので
「まあ、あまり母を甘やかさないでください」
と言うだけにしておいた。
仁美さんはそんな僕の取ってつけたような言葉は耳には届かなかったかの如く
「あ、そうだ。あんた達も来る? クリスマスパーティ」
と聞いてきた。
「え?いつどこでですか?」
急な話の展開についていけずに僕は聞き返した。
「クリスマスイブに安ちゃんの店よ。毎年やってんの。あ、そうだ! 今年は冴ちゃんも多分来ると思うわ」
仁美さんは足を止めて僕たちの目を交互に見て言った。
何故か目の前で上から目線で僕たちを見下ろしている冴子の姿が見えた気がした。
「僕たちが行ってもエエの?」
と確認するようにオヤジの顔を見ると
「エエんとちゃうか?……あと友達おったやろ? 連れて来てもエエぞ」
とオヤジは事も無げに言った。
「和樹やシゲルも呼んで良いの?」
「ああ、エエで。毎年、イヴにどこにも行く当てのない寂しい奴等の集まりやけどな」
オヤジは笑いながら言った。
「あ~ら、私は忙しいのに敢えて時間を作って行ってるんですからね」
仁美さんはオヤジの顔を軽くにらんで言った。
そうだった。仁美さんはまだ独身だった。オヤジの不用意なひとことは軽く仁美さんの地雷を踏んだかもしれない。
オヤジはそれには答えずに笑って誤魔化していた。
「あ、そうだ。どうせ行く当てもないウィンドウショッピングだったら、今からあんた達も付き合わない?」
仁美さんは急に思いついたように僕達を誘った。
「それともデートの邪魔かな?」
と悪魔のような微笑で僕達を見た。
僕はその微笑から目を反らしてオヤジを見た。
大人の女性のこういうねちこい視線を跳ね返すにはまだまだ修業が足りない。
『どっちでもエエぞ』
というように顎を軽く動かして答えてくれた。多分オヤジはオヤジで話題が変わってホッとしてるんだろ。
宏美を見ると何故か楽しそうに頷いてくる。断る理由もないので
「はい。行きます」
と僕は答えた。
「お父さんも良いよね。この二人を連れて行っても」
仁美さんはオヤジに改めて確認を取るように同意を求めたが
「全然」
と、ひとこと答えただけだった。オヤジは本当にどっちでも良いようだった。
結局僕たちは四人で元町の百貨店へ向かった。
「食器ってそのクリスマスパーティで使うんですか?」
そう聞きながらオフクロの趣味の食器が百貨店に行ってすぐに見つかるとは思えなかった。
あんな偏屈な母親の趣味に合う食器が百貨店にあると考えるのは、安直すぎないか? とさえ思っていた。
オフクロの性格をその長い付き合いで知り抜いている仁美さんらしくないなとも思っていた。
「そうよ。今年の担当はユノだからね。インテリアコーディネーターとしては力が入っているみたいね」
「店に食器があるのに……」
「そこが彼女の拘りなのよ」
ほとんど仁美さんは母の代弁者になっている。でも拘っている割には他人任せとはこれ如何に? と僕は思う。
――それで百貨店とはねぇ……――
「その割には仁美さんに食器を頼むって……」
と僕が呟くと
「あの子も今忙しいからね」
と仁美さんは応えたがどこか楽しそうだった。
いや、やるからには楽しまなければならないと思ているようにも見えた。
と僕がオヤジに聞くと
「そうなのよ。亮平君は宏美ちゃんに取られたからねえ……仕方がないからこれで我慢してんのよ」
とさっきまで慈母のような目で笑っていた仁美さんは、小悪魔のような表情でオヤジを横目で一瞥した。
「俺は亮平の代わりか? とっても失礼な話やな」
と一応憤ってみましたけど……みたいなノリでオヤジがツッコんでいた。
仁美さんはオヤジのツッコミには応えず、僕たちに笑いかけながら
「今日はね、ユノに頼まれた買い物に付き合って貰ってんのよ」
と言った。
「え? 母に?」
「そうよ。お母さんがクリスマスで使う食器を選んでほしいって」
「そんなもん自分で買いに行けば良いモノを……」
僕は呆れ気味に仁美さんにそう言った。横でオヤジも激しく何度も頷いていた。
でも仁美さんは「『あんたのセンスは良いから、お願いって』って言われたからねえ」とまんざらでもない表情だった。間違いなくオフクロに上手く乗せられている。
「そんな取ってつけた……」
と言いかけてオヤジの顔を見ると眉間に皺を寄せ首を小さく振った。
それは
『そんな判り切った事は敢えて言うな。本人はそれに気が付いていないんだから……寝た子を起こすな』
という意味だとすぐに理解した。
どうやらオヤジも思う事は同じの様だ。しかしここは大人の事情みたいなもんがあるのだろう。
なので
「まあ、あまり母を甘やかさないでください」
と言うだけにしておいた。
仁美さんはそんな僕の取ってつけたような言葉は耳には届かなかったかの如く
「あ、そうだ。あんた達も来る? クリスマスパーティ」
と聞いてきた。
「え?いつどこでですか?」
急な話の展開についていけずに僕は聞き返した。
「クリスマスイブに安ちゃんの店よ。毎年やってんの。あ、そうだ! 今年は冴ちゃんも多分来ると思うわ」
仁美さんは足を止めて僕たちの目を交互に見て言った。
何故か目の前で上から目線で僕たちを見下ろしている冴子の姿が見えた気がした。
「僕たちが行ってもエエの?」
と確認するようにオヤジの顔を見ると
「エエんとちゃうか?……あと友達おったやろ? 連れて来てもエエぞ」
とオヤジは事も無げに言った。
「和樹やシゲルも呼んで良いの?」
「ああ、エエで。毎年、イヴにどこにも行く当てのない寂しい奴等の集まりやけどな」
オヤジは笑いながら言った。
「あ~ら、私は忙しいのに敢えて時間を作って行ってるんですからね」
仁美さんはオヤジの顔を軽くにらんで言った。
そうだった。仁美さんはまだ独身だった。オヤジの不用意なひとことは軽く仁美さんの地雷を踏んだかもしれない。
オヤジはそれには答えずに笑って誤魔化していた。
「あ、そうだ。どうせ行く当てもないウィンドウショッピングだったら、今からあんた達も付き合わない?」
仁美さんは急に思いついたように僕達を誘った。
「それともデートの邪魔かな?」
と悪魔のような微笑で僕達を見た。
僕はその微笑から目を反らしてオヤジを見た。
大人の女性のこういうねちこい視線を跳ね返すにはまだまだ修業が足りない。
『どっちでもエエぞ』
というように顎を軽く動かして答えてくれた。多分オヤジはオヤジで話題が変わってホッとしてるんだろ。
宏美を見ると何故か楽しそうに頷いてくる。断る理由もないので
「はい。行きます」
と僕は答えた。
「お父さんも良いよね。この二人を連れて行っても」
仁美さんはオヤジに改めて確認を取るように同意を求めたが
「全然」
と、ひとこと答えただけだった。オヤジは本当にどっちでも良いようだった。
結局僕たちは四人で元町の百貨店へ向かった。
「食器ってそのクリスマスパーティで使うんですか?」
そう聞きながらオフクロの趣味の食器が百貨店に行ってすぐに見つかるとは思えなかった。
あんな偏屈な母親の趣味に合う食器が百貨店にあると考えるのは、安直すぎないか? とさえ思っていた。
オフクロの性格をその長い付き合いで知り抜いている仁美さんらしくないなとも思っていた。
「そうよ。今年の担当はユノだからね。インテリアコーディネーターとしては力が入っているみたいね」
「店に食器があるのに……」
「そこが彼女の拘りなのよ」
ほとんど仁美さんは母の代弁者になっている。でも拘っている割には他人任せとはこれ如何に? と僕は思う。
――それで百貨店とはねぇ……――
「その割には仁美さんに食器を頼むって……」
と僕が呟くと
「あの子も今忙しいからね」
と仁美さんは応えたがどこか楽しそうだった。
いや、やるからには楽しまなければならないと思ているようにも見えた。
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