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ヴォーカリストとギタリスト
翔の乱入
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翔が僕から主旋律を奪いながら舞台に上がってきた。歓声が沸き上がる。
そのまま翔はロック調に軍楽行進曲を高らかに響かせ、一気に十六音符のパッセージへと突入した。
――ここで入ってくるかぁ……――
何かを仕掛けてくるなとは思っていたが、予想通りの展開で笑いそうになった。
翔がおとなしく他人の演奏を聴いているとは思ってもいなかったが、打ち合わせも音合わせもなくこうやって唐突に入ってこられると心地よい緊張感が身体を突き抜ける。
とりあえず主旋律を翔に好きなように任せて、僕は伴奏に専念しながら翔の奏でる音を聞いていた。
そのギターの音を聞きながら翔の音に負けない様に僕の左手も力が入る。音が固くならない様に注意しながら軽く強く弾く。
翔のギターは僕のピアノに合わせるように音を奏でる。
――もしかしたら翔はピアノを習っとったんかもしれんなぁ――
ギターの音色はロック調ではあるが、それとはなく楽譜に書かれている演奏記号通りに弾こうとしていることに僕は気が付いた。
―― 一度身体に染みついた音の衣はすぐには消えない――
ふたたびイ長調の軍楽行進曲を奏でた後は僕もギターの旋律に絡んでみた。
全ての主導権を翔にくれてやるつもりは全くなかった。
翔もそれを心得たかの如く軽やかな優しい音の粒を生み出していた。
もっと過激な音を入れてくるのかと思ったら、あえて抑え目で原曲の雰囲気を残しながら翔は正確なピッキングで優しい旋律を奏でていた。
最後はピアノとギターのユニゾンで僕たちのトルコ行進曲は終わった。
客席からは拍手と歓声が上がった。
「美味しいところを持って行きやがって」
と僕は翔を詰(なじ)った。勿論本気ではない。
翔もそれを分かった上で
「ごっつあん」
と笑った。
「まあええわ。それよりもお前、この曲ピアノで弾いた事あるやろ?」
と僕は翔に手招きをして呼び寄せて彼の耳元で小声で聞いた。
「え? なんで分かったん?」
と翔は少し驚いたように聞き返した。
「でなかったら、即興で弾かれへんやろが?」
「あ、そっかぁ……せやねん。実は俺も習っててん」
と翔は頭を掻きながら素直に認めた。
しかしその笑ってごまかそうとする姿がなんだか気に入らん
「ふん! セコイ真似しやがって……」
と僕が呆れたように言うと
「いや、流石にお前の前で『俺もピアノ習っていてん』ってよう言わんわ」
と言い訳した。
まあ、責め立てるほどの事でもないので、僕もこれ以上この話題に触れることは止めた。
それよりも翔の顔を見るとまだセッションやりたそうだったので、僕は席を立たずに客席を見渡した。
客席のほとんどを埋めた軽音楽部員達も、まだ僕達のにわかセッションを聞きたそうな顔をしていた。
僕は翔の顔を見上げた。
――これが目的やったんやろ?――
と翔に視線を送った。
翔は黙って頷いた。言わずとも彼には伝わった。
僕は左手でブルースの典型的なブルースコードを弾いた。
翔はすぐに察したようで
「Fコードね」
と笑ってピアノから離れてステージの中央へと向かった。
その姿は『ここが俺のポジションだ』と主張しているようにも見えた。そこでしばらく翔は僕のピアノの音を聞いていた。
僕がブルースのフレーズを弾き始めたのがとても嬉しそうだった。
そして
――お前がどんなブルースを弾くのか聞いてやろ――
とでも言いたげな表情で僕の弾くピアノにギターの音を合わせて来た。
そのまま翔はロック調に軍楽行進曲を高らかに響かせ、一気に十六音符のパッセージへと突入した。
――ここで入ってくるかぁ……――
何かを仕掛けてくるなとは思っていたが、予想通りの展開で笑いそうになった。
翔がおとなしく他人の演奏を聴いているとは思ってもいなかったが、打ち合わせも音合わせもなくこうやって唐突に入ってこられると心地よい緊張感が身体を突き抜ける。
とりあえず主旋律を翔に好きなように任せて、僕は伴奏に専念しながら翔の奏でる音を聞いていた。
そのギターの音を聞きながら翔の音に負けない様に僕の左手も力が入る。音が固くならない様に注意しながら軽く強く弾く。
翔のギターは僕のピアノに合わせるように音を奏でる。
――もしかしたら翔はピアノを習っとったんかもしれんなぁ――
ギターの音色はロック調ではあるが、それとはなく楽譜に書かれている演奏記号通りに弾こうとしていることに僕は気が付いた。
―― 一度身体に染みついた音の衣はすぐには消えない――
ふたたびイ長調の軍楽行進曲を奏でた後は僕もギターの旋律に絡んでみた。
全ての主導権を翔にくれてやるつもりは全くなかった。
翔もそれを心得たかの如く軽やかな優しい音の粒を生み出していた。
もっと過激な音を入れてくるのかと思ったら、あえて抑え目で原曲の雰囲気を残しながら翔は正確なピッキングで優しい旋律を奏でていた。
最後はピアノとギターのユニゾンで僕たちのトルコ行進曲は終わった。
客席からは拍手と歓声が上がった。
「美味しいところを持って行きやがって」
と僕は翔を詰(なじ)った。勿論本気ではない。
翔もそれを分かった上で
「ごっつあん」
と笑った。
「まあええわ。それよりもお前、この曲ピアノで弾いた事あるやろ?」
と僕は翔に手招きをして呼び寄せて彼の耳元で小声で聞いた。
「え? なんで分かったん?」
と翔は少し驚いたように聞き返した。
「でなかったら、即興で弾かれへんやろが?」
「あ、そっかぁ……せやねん。実は俺も習っててん」
と翔は頭を掻きながら素直に認めた。
しかしその笑ってごまかそうとする姿がなんだか気に入らん
「ふん! セコイ真似しやがって……」
と僕が呆れたように言うと
「いや、流石にお前の前で『俺もピアノ習っていてん』ってよう言わんわ」
と言い訳した。
まあ、責め立てるほどの事でもないので、僕もこれ以上この話題に触れることは止めた。
それよりも翔の顔を見るとまだセッションやりたそうだったので、僕は席を立たずに客席を見渡した。
客席のほとんどを埋めた軽音楽部員達も、まだ僕達のにわかセッションを聞きたそうな顔をしていた。
僕は翔の顔を見上げた。
――これが目的やったんやろ?――
と翔に視線を送った。
翔は黙って頷いた。言わずとも彼には伝わった。
僕は左手でブルースの典型的なブルースコードを弾いた。
翔はすぐに察したようで
「Fコードね」
と笑ってピアノから離れてステージの中央へと向かった。
その姿は『ここが俺のポジションだ』と主張しているようにも見えた。そこでしばらく翔は僕のピアノの音を聞いていた。
僕がブルースのフレーズを弾き始めたのがとても嬉しそうだった。
そして
――お前がどんなブルースを弾くのか聞いてやろ――
とでも言いたげな表情で僕の弾くピアノにギターの音を合わせて来た。
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