北野坂パレット

うにおいくら

文字の大きさ
上 下
44 / 406
レーシー

人形

しおりを挟む
 目が覚めた。
朝だった。

――ああ、今日は休みだった――

 僕は天井を見上げなら今日が休日である事を思い出した。続けて昨日の夜の出来事も思い出していた。
オヤジと爺ちゃんとの会話が頭の中を駆け巡る。まだ完全に僕の頭は機能していない。
こうやってベッドの中で色々考えるのも嫌いではない。もう少し寝ていたいような気もしていたが、そうこうしている間に完全に目が覚めてしまった。

 僕はベッドから起き上がり顔を洗ってからリビングに行った。
オフクロは既に起きてキッチンで朝食の用意をしていた。
僕の顔を見ると
「ご飯食べる?」
と聞いてきたので僕は黙って頷いた。

 僕はいつも座るリビングの椅子ではなく、なんとなく視野の中に入って来たピアノの前に行きピアノ椅子に座った。

 僕は黙って鍵盤蓋を上げた。
ぼぅとピアノを眺めていてふとある曲が浮かんだ。頭に浮かんだのは確かなのだが、それよりもこのピアノがこの曲を今弾かれたがっている様に感じた……と言った方が、今の場合は正確な答えに近い。そして僕はそっと鍵盤の上に指をおいた。

 僕の指が奏でたのはパッヘルベルのカノンだった。

何故僕が『このピアノがこの曲を弾かれたがっている』と感じたのかは分からないが、この曲は僕がまだ小さかった頃に好きで良く弾いていた曲だった。このピアノで何回いや何十回いやいや何千回弾いただろうか……。
弾きながら懐かしさがこみ上げて来る。

 やっぱりこの曲はいい曲だ。
この頃、全然弾いていなかったが、やっぱりいい曲だと思う。

――僕はこんな音で弾いていたっけ?――

いつもの僕の音とは違うような気がする。いつもより優しい音がする。

 そんな事を感じながらカノンを弾いていた僕は、何気にピアノの屋根の上の人形が置いてある事に気がついた。

――こんなところに人形なんか置いてあったっけ?――

 そう、背丈が30㎝ぐらいの人形がピアノの屋根の上にちょこんと座っていた。本当に自然に昔からそこにあったように当たり前の様に座っていた。

 その人形はピアノの音を心地よさそうに聞いているように見えた。しかしこの人形を見るのは初めてだ。オフクロがこのピアノの上に置いたのか?

――オフクロにそんな趣味あったっけ?――

 誰かにプレゼントやお土産で人形をもらったことぐらいはあるあkも知れないが、オフクロがピアノの上に人形を飾る事など僕には記憶が無い。

 魔女が被りそうなとんがり帽子を浅くかぶり、気持ち良さそうな不思議な表情をした人形……オフクロの趣味ではない……と言うかそもそもこの家に人形なんてあったのか? 等と考えていたらその人形は旋律に合わせて頭を左右に振り出した。

――やっぱり人形でも心地いいんだ……え? 頭を振っているって? おい! それはおかしいだろう?――

 その人形は僕の目の前で僕の弾くピアノの音に合わせて、間違いなく頭を振ってリズムをとっている。
とっても楽しそうだ。電動式のおもちゃか? と思ったがそうではなさそうだ。

 いやこれは人形では無い……そう思ってから一瞬遅れて息が止まりそうになった……そうだ。これはこの世のものではない。

――もしかしてこれがお嬢と会った影響か?――

と僕は瞬時に悟った。
 
 もう少しでピアノを弾く指が止まりそうになった。お嬢にはあの夏に一度……いやオヤジと一緒にもう一度あったから二度会っている……が、たった一日に続けて会っただけだ。それなのに……。

 でも目の錯覚ではなさそうだ。確かに目の前にいる。それは何度見ても得体の知れないものだ。なのに怖いもの見たさで僕は目が離せないでいる。

 その得体の知れないものが気持ち良さそうに僕のピアノの音色を聞いているのを見て、僕の指は何度も止まりそうになった。いやその前に驚いて心臓が止まりそうだった。しかしその何度も止まりそうになった指を何とか動かして僕はピアノを弾いた。

 僕はピアノを弾くのをやめられなかった。演奏を止めたらどうなるのか分からなかったし、この得体の知れないものが気持ち良さそうにしているのを邪魔しちゃ悪いようなそんな気持ちにもなっていた。

 僕はピアノを弾きながらもこの得体の知れない物を観察していた。ここまで来ると僕もじっくりと見る余裕も出てきた。
それは白雪姫に出てくる小人のようにも見える。でもここに白雪姫はいない。人生に白けたオカンなら今キッチンにいるが……。明らかに僕の感情は動揺している。

 その微妙な僕の感情にの揺れに気づいたのだろうか? その得体のしれない顔のでかい物体と僕は目が合ってしまった。

案外可愛い目をしている。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

処理中です...