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さよならコンサート
別れの言葉
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「それでは最後に今回卒部される三年生からのひとことをお願いします」
と琴葉が少しかすれた声で言った。
石橋さんが一歩前に出た。
コントラバスと花束を抱えたまま石橋さんが話し出した。
「今日はこんな楽しい卒部会を催してくれてありがとう。心からお礼を言います。知っている人もいると思うけど、俺は二年の秋までラグビー部におりました。首をいわしてもうて二年の途中で部活を辞めたんやけど、千龍と彩音が『一緒にやらへんか?』と言って誘ってくれたんがそもそもの始まりやった」
そう言えば千龍さんと石橋さんは同じ中学校の出身で、どちらも吹奏楽部に所属していたという話を聞いた事があった。
「三人で放課後、部活でもないのに残って演奏をしていたりしてたんやけど、そこへ瑞穂と哲也と亮平がやって来て器楽部ができた。この三人が来てくれなかったら器楽部は無かったと思う。それに俺は高校に入ってからラグビーしか頭に無くて、それができなくなって何もやる気が起きなかった時に無理やりに引きずり込んでくれた千龍、彩音、ありがとう。
器楽部を作るきっかけをくれた瑞穂、哲也、亮平。お前らもありがとう。中途半端な時期の部員募集やったのに、入部してくれたみんな。ホンマにありがとう。
そして器楽部を立ち上げる事を勧めてくれて顧問もしてくれた美奈子先生、ありがとうございました。感謝しかありません。ホンマに新学期からの皆さんの活躍を期待しています」
石橋さんは部員への感謝の言葉で締めくくって頭を深々と下げた。
あのバサさんがこんなまともな最後の挨拶をするなんて思ってもいなかった。僕はいつもおちょくられていたような気がするがとてもいい先輩だった。存在感が中途半端ではなかった。最後の最後までギャップ萌えする人だった。
続いて彩音さんが一歩前に出て、頭を深々と下げてからゆっくりと頭を上げたが顔は俯いたままだった。
「バサが似合わん事を言うから、何も言えんやんかぁ……」
と明らかに声が詰まっていた。
全くもってその通りだ。先輩たちの『スティング』よりも想定外だし予想もできない裏切り行為だ。
俯き加減の彩音さんが意を決したように顔を上げた。既に頬はうっすらと涙に濡れていた。
「泣かへんつもりやったのに……バサのバカぁ……」
このひとことで女子部員の涙腺は全て崩壊した。
「……ホンマに短い一年にも満たない部活やったけど、器楽部を立ち上げて良かったです。受験がある三年生になってから部活するなんて狂気の沙汰やと言われたけど、どうしても何かを残したかった。ホンマにやって良かった。春に初めて瑞穂、立花君、亮平君と会った時『これで器楽部が作れる』と思ってとても嬉しかったのをこの会の間ずっと思い出していました。
ホンマに一緒について来てくれてありがとう。私の場合、短い部活の上にコンクールがあったりして皆さんと何も関われずに教える事も出来なかった事が残念でなりません。本当に頼りがいの無い先輩で済みませんでした」
と言って彩音さんは頭を下げた。
「そんな事無いですぅ」
と言う声がどこからか聞こえた。
彩音さんの耳にもその声は届いたようで、顔をあげると少し微笑んだ。
そして一度周りを見まわしてから言葉を続けた。
「そんな私の代わりにメンバーや後輩の面倒を見てくれた瑞穂、琴葉、シノンや二年生のみんな、ありがとう。おかげで心置きなくコンクールに打ち込む事出来ました。本当にもっともっとみんなと色々の事をやりたかったけど、できなくてごめんなさい。私も石川君と同じで感謝の気持ちしかありません。
新学期からは新しい体制での部活が始まりますが、とても期待しています。新しい三年生を中心に更に良い部活にしてください。私はそれを願っています。本当にありがとうございました。冴子、瑞穂、千恵あとはよろしくね」
と最後はいつもの彩音さんだった。彩音さんが受験直前にも拘わらずこの新春コンサートに僕や他の後輩達と組んで演奏したのは、後輩のためにやり残した関りを少しでも取り返すためだったのかと気が付いた。やはり彩音さんの腹の座り方は凄いと改めて思い直した。
女子部員の涙腺は崩壊し、決壊したままだったが、冴子は
「はい。任せてください」
と気丈に応えていた。
その冴子の姿を見て彼女も僕と同じ様に、彩音さんの言葉を受け止めたんだろうなと感じた。
それと同時に彼女は僕の知っていた冴子から、どんどんか変わっていこうとしている事にも気が付いた。
多分、彼女は自分自身でももっと人間的に成長したいと思っているのだろう。その目標の一つが彩音さんである事は間違いない。
そんな冴子を瑞穂が肩を支えるように抱きついていた。
ああ、そうだった。瑞穂が僕に会いに来る切っ掛けを作ったのも冴子だった。そんな事をこの二人の様子を見て僕は思い出していた。
と琴葉が少しかすれた声で言った。
石橋さんが一歩前に出た。
コントラバスと花束を抱えたまま石橋さんが話し出した。
「今日はこんな楽しい卒部会を催してくれてありがとう。心からお礼を言います。知っている人もいると思うけど、俺は二年の秋までラグビー部におりました。首をいわしてもうて二年の途中で部活を辞めたんやけど、千龍と彩音が『一緒にやらへんか?』と言って誘ってくれたんがそもそもの始まりやった」
そう言えば千龍さんと石橋さんは同じ中学校の出身で、どちらも吹奏楽部に所属していたという話を聞いた事があった。
「三人で放課後、部活でもないのに残って演奏をしていたりしてたんやけど、そこへ瑞穂と哲也と亮平がやって来て器楽部ができた。この三人が来てくれなかったら器楽部は無かったと思う。それに俺は高校に入ってからラグビーしか頭に無くて、それができなくなって何もやる気が起きなかった時に無理やりに引きずり込んでくれた千龍、彩音、ありがとう。
器楽部を作るきっかけをくれた瑞穂、哲也、亮平。お前らもありがとう。中途半端な時期の部員募集やったのに、入部してくれたみんな。ホンマにありがとう。
そして器楽部を立ち上げる事を勧めてくれて顧問もしてくれた美奈子先生、ありがとうございました。感謝しかありません。ホンマに新学期からの皆さんの活躍を期待しています」
石橋さんは部員への感謝の言葉で締めくくって頭を深々と下げた。
あのバサさんがこんなまともな最後の挨拶をするなんて思ってもいなかった。僕はいつもおちょくられていたような気がするがとてもいい先輩だった。存在感が中途半端ではなかった。最後の最後までギャップ萌えする人だった。
続いて彩音さんが一歩前に出て、頭を深々と下げてからゆっくりと頭を上げたが顔は俯いたままだった。
「バサが似合わん事を言うから、何も言えんやんかぁ……」
と明らかに声が詰まっていた。
全くもってその通りだ。先輩たちの『スティング』よりも想定外だし予想もできない裏切り行為だ。
俯き加減の彩音さんが意を決したように顔を上げた。既に頬はうっすらと涙に濡れていた。
「泣かへんつもりやったのに……バサのバカぁ……」
このひとことで女子部員の涙腺は全て崩壊した。
「……ホンマに短い一年にも満たない部活やったけど、器楽部を立ち上げて良かったです。受験がある三年生になってから部活するなんて狂気の沙汰やと言われたけど、どうしても何かを残したかった。ホンマにやって良かった。春に初めて瑞穂、立花君、亮平君と会った時『これで器楽部が作れる』と思ってとても嬉しかったのをこの会の間ずっと思い出していました。
ホンマに一緒について来てくれてありがとう。私の場合、短い部活の上にコンクールがあったりして皆さんと何も関われずに教える事も出来なかった事が残念でなりません。本当に頼りがいの無い先輩で済みませんでした」
と言って彩音さんは頭を下げた。
「そんな事無いですぅ」
と言う声がどこからか聞こえた。
彩音さんの耳にもその声は届いたようで、顔をあげると少し微笑んだ。
そして一度周りを見まわしてから言葉を続けた。
「そんな私の代わりにメンバーや後輩の面倒を見てくれた瑞穂、琴葉、シノンや二年生のみんな、ありがとう。おかげで心置きなくコンクールに打ち込む事出来ました。本当にもっともっとみんなと色々の事をやりたかったけど、できなくてごめんなさい。私も石川君と同じで感謝の気持ちしかありません。
新学期からは新しい体制での部活が始まりますが、とても期待しています。新しい三年生を中心に更に良い部活にしてください。私はそれを願っています。本当にありがとうございました。冴子、瑞穂、千恵あとはよろしくね」
と最後はいつもの彩音さんだった。彩音さんが受験直前にも拘わらずこの新春コンサートに僕や他の後輩達と組んで演奏したのは、後輩のためにやり残した関りを少しでも取り返すためだったのかと気が付いた。やはり彩音さんの腹の座り方は凄いと改めて思い直した。
女子部員の涙腺は崩壊し、決壊したままだったが、冴子は
「はい。任せてください」
と気丈に応えていた。
その冴子の姿を見て彼女も僕と同じ様に、彩音さんの言葉を受け止めたんだろうなと感じた。
それと同時に彼女は僕の知っていた冴子から、どんどんか変わっていこうとしている事にも気が付いた。
多分、彼女は自分自身でももっと人間的に成長したいと思っているのだろう。その目標の一つが彩音さんである事は間違いない。
そんな冴子を瑞穂が肩を支えるように抱きついていた。
ああ、そうだった。瑞穂が僕に会いに来る切っ掛けを作ったのも冴子だった。そんな事をこの二人の様子を見て僕は思い出していた。
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