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オーケストラな日常
理由
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「吹部の二年以上は皆それを知っとぉ。だからたっくんの気持ちを慮って辞めるのを引き留めなかったんや。一応、建前上は辞めて市民オケに行くって事にしてたんやけどな。たっくんは気ぃ使いぃやからなぁ。そんな理由わざわざこじつけんでもええのに……」
と哲也が拓哉の話を補足してくれた。
「なんや? 北田もそんな状況を知ってて、たっくんにいちゃもんつけて来たんかぁ?」
「まあ、そう言う事になるかな。でもな。北田がたっくんに怒ったのは『器楽部に行くんやったら、なんで吹部に戻ってこなかった』という事なんとちゃうか?」
「あ、そっかぁ。それは一理あるなぁ……うん、俺もそう思う」
僕は哲也の説明に納得した。話の流れ的にはこれが一番腑に落ちる理由に思えた。
「ホンマはな。市民オケもどうでも良かったんやけど……まあ、だいぶ気持ちも落ち着いて、またコンバスをやりたくなって年末からホンマに市民オケ行ってん。流石に吹部には戻る気にはなれんかったからな」
と今度は拓哉が口を開いた。拓哉を市民オケに誘ったのは先に参加していた早崎や霜鳥だったようだ。
「そしたら、学校で『器楽部ができる』って言うから覗きに行ったら、千龍さんや彩音さんとか瑞穂とかおるやん。こんな人たちと演奏てきるんやと思ったら入部するしかないやん?」
さっきまでと違って拓哉の口調が軽かった。
それが気にかかって
「いや、別にそのまま市民オケに居れよ」
とわざと僕は突き放したようにツッコんだ。
「なぜそこで吹部に戻らんかってん?」
と哲也までにもツッコまれていた。これには僕も同意見だ。流石に哲也も器楽部に入部した理由までは聞いていなかったようだ。
「まあ、ホンマは戻っても良かってんけど、こっちの方が楽しそうやん?」
「そうかぁ? 吹部の方が大会もちゃんとしたもんあるし、性格的にはそっちの方が向いているんとちゃうか? 第一、宮田や北田との約束もあるやろう?」
という哲也の意見に僕も頷いた。
「まあなぁ……正直に言うとこのメンツや無かったら吹部に戻ったかもしれん」
「せやろなぁ」
と哲也と僕は同時に同じ言葉を呟いた。
「お前ら仲ええなぁ」
と笑いながら拓哉が言った。
「うるさい! お前が言うな」
と哲也がツッコんだ。
「で、宮田には吹部に戻らんと器楽部に行くっていう話は、もちろん前もってしていた訳やな?」
と僕は拓哉に確認した。
これぐらいの気遣いができないような拓哉ではないと思っていた。
「ああ。栄だけには言うた」
「で?」
「『分かった。あのメンツなら一緒にやってみたいやろうなぁ』ってそん時は言うてくれたわ」
と申し訳なさそうに拓哉は言った。
「宮田は大人やん」
と僕が感心すると
「うん。あいつはホンマにええ奴や」
と拓哉が言った。
「それに比べてこの拓哉の無責任な事……」
と哲也が呆れたように言った。
思わず僕も
「うん。なんか腹立ってきた」
と言葉が口から洩れた。
「なんでやねん」
と拓哉が反論を試みたが、僕と哲也が
「あぁ? 何かぁ?」
と睨むと口をつぐんだ。
そして小さい声で
「……って、まあ、お前らのいう事も分かるけどな」
そう言うと拓哉は少し考えてから話し出した。
「言うつもりはなかったんやけど、器楽部に入った理由な……メンツの件もあるんやけど……実はうちのオトンな……ジャズピアニストやってん」
と何か言いにくそうに僕たちの顔色を窺うように言った。
「ホンマに?」
僕は驚いて思わず聞いた。まさか拓哉の父親がピアニストだとは想像もしていなかった。
「ホンマや……亮平、お前がこの前弾いてくれた『PIANO MAN』あれな、オトンが好きで良く弾いて曲やねん。で、たまたま話の流れで哲也が『楽譜がを持っている』っていうから『持ってきて』って頼んだんや。で、お前がピアノを音楽室で弾いてくれたやん。あれはホンマに感動しててん」
そう言いながらも拓哉の顔は少し寂しそうに見えた。
「まさか……それを弾きたくて、器楽部か?」
僕は思わず聞いてしまった。
「まあな。『いつか息子と一緒に弾くんや』ってオトンが言うとったって事故の後にオカンに聞いてたからな。どうしても弾きたかってん。
吹部じゃな、あれは無理や。だから器楽部に入ったら弾けるかなぁ……とは思ってたわ。まさかお前らと一緒に弾くとは思わんかったけど……ホンマにあれは良かったわ。流石に全国行くだけあるわ。オトンもあんな感じで弾いたんかなぁってちょっと思ったわ」
そう言うと拓哉は息を一度大きく吸い込んた。
「そうやったんや……そこまでは俺も初めて聞いたわ」
と哲也が呟いた。
「ジャズピアニストかぁ……」
僕はあの時、哲也が楽譜を持ってきた時の事を思い出していた。一緒に三人で『PIANO MAN』を演奏した状況が脳裏に蘇った。あの時は初見で楽譜通りに弾いたが、拓哉の父親ならどう弾いただろうか? と考えていた。
多分アレンジも入れてもっと違う弾き方をしたと思う。
僕がそんな事を思い出していると
「あ、そうや。これ渡さなあかんかったんや」
拓哉は急に思い出したようにカバンを開けて何かを探し出した。
そしてクリアファイルに入った楽譜を取り出した。
と哲也が拓哉の話を補足してくれた。
「なんや? 北田もそんな状況を知ってて、たっくんにいちゃもんつけて来たんかぁ?」
「まあ、そう言う事になるかな。でもな。北田がたっくんに怒ったのは『器楽部に行くんやったら、なんで吹部に戻ってこなかった』という事なんとちゃうか?」
「あ、そっかぁ。それは一理あるなぁ……うん、俺もそう思う」
僕は哲也の説明に納得した。話の流れ的にはこれが一番腑に落ちる理由に思えた。
「ホンマはな。市民オケもどうでも良かったんやけど……まあ、だいぶ気持ちも落ち着いて、またコンバスをやりたくなって年末からホンマに市民オケ行ってん。流石に吹部には戻る気にはなれんかったからな」
と今度は拓哉が口を開いた。拓哉を市民オケに誘ったのは先に参加していた早崎や霜鳥だったようだ。
「そしたら、学校で『器楽部ができる』って言うから覗きに行ったら、千龍さんや彩音さんとか瑞穂とかおるやん。こんな人たちと演奏てきるんやと思ったら入部するしかないやん?」
さっきまでと違って拓哉の口調が軽かった。
それが気にかかって
「いや、別にそのまま市民オケに居れよ」
とわざと僕は突き放したようにツッコんだ。
「なぜそこで吹部に戻らんかってん?」
と哲也までにもツッコまれていた。これには僕も同意見だ。流石に哲也も器楽部に入部した理由までは聞いていなかったようだ。
「まあ、ホンマは戻っても良かってんけど、こっちの方が楽しそうやん?」
「そうかぁ? 吹部の方が大会もちゃんとしたもんあるし、性格的にはそっちの方が向いているんとちゃうか? 第一、宮田や北田との約束もあるやろう?」
という哲也の意見に僕も頷いた。
「まあなぁ……正直に言うとこのメンツや無かったら吹部に戻ったかもしれん」
「せやろなぁ」
と哲也と僕は同時に同じ言葉を呟いた。
「お前ら仲ええなぁ」
と笑いながら拓哉が言った。
「うるさい! お前が言うな」
と哲也がツッコんだ。
「で、宮田には吹部に戻らんと器楽部に行くっていう話は、もちろん前もってしていた訳やな?」
と僕は拓哉に確認した。
これぐらいの気遣いができないような拓哉ではないと思っていた。
「ああ。栄だけには言うた」
「で?」
「『分かった。あのメンツなら一緒にやってみたいやろうなぁ』ってそん時は言うてくれたわ」
と申し訳なさそうに拓哉は言った。
「宮田は大人やん」
と僕が感心すると
「うん。あいつはホンマにええ奴や」
と拓哉が言った。
「それに比べてこの拓哉の無責任な事……」
と哲也が呆れたように言った。
思わず僕も
「うん。なんか腹立ってきた」
と言葉が口から洩れた。
「なんでやねん」
と拓哉が反論を試みたが、僕と哲也が
「あぁ? 何かぁ?」
と睨むと口をつぐんだ。
そして小さい声で
「……って、まあ、お前らのいう事も分かるけどな」
そう言うと拓哉は少し考えてから話し出した。
「言うつもりはなかったんやけど、器楽部に入った理由な……メンツの件もあるんやけど……実はうちのオトンな……ジャズピアニストやってん」
と何か言いにくそうに僕たちの顔色を窺うように言った。
「ホンマに?」
僕は驚いて思わず聞いた。まさか拓哉の父親がピアニストだとは想像もしていなかった。
「ホンマや……亮平、お前がこの前弾いてくれた『PIANO MAN』あれな、オトンが好きで良く弾いて曲やねん。で、たまたま話の流れで哲也が『楽譜がを持っている』っていうから『持ってきて』って頼んだんや。で、お前がピアノを音楽室で弾いてくれたやん。あれはホンマに感動しててん」
そう言いながらも拓哉の顔は少し寂しそうに見えた。
「まさか……それを弾きたくて、器楽部か?」
僕は思わず聞いてしまった。
「まあな。『いつか息子と一緒に弾くんや』ってオトンが言うとったって事故の後にオカンに聞いてたからな。どうしても弾きたかってん。
吹部じゃな、あれは無理や。だから器楽部に入ったら弾けるかなぁ……とは思ってたわ。まさかお前らと一緒に弾くとは思わんかったけど……ホンマにあれは良かったわ。流石に全国行くだけあるわ。オトンもあんな感じで弾いたんかなぁってちょっと思ったわ」
そう言うと拓哉は息を一度大きく吸い込んた。
「そうやったんや……そこまでは俺も初めて聞いたわ」
と哲也が呟いた。
「ジャズピアニストかぁ……」
僕はあの時、哲也が楽譜を持ってきた時の事を思い出していた。一緒に三人で『PIANO MAN』を演奏した状況が脳裏に蘇った。あの時は初見で楽譜通りに弾いたが、拓哉の父親ならどう弾いただろうか? と考えていた。
多分アレンジも入れてもっと違う弾き方をしたと思う。
僕がそんな事を思い出していると
「あ、そうや。これ渡さなあかんかったんや」
拓哉は急に思い出したようにカバンを開けて何かを探し出した。
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