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コンクールの二人
二学期の転校生
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二学期が始まった。
夏休みボケでまだ眠い。朝練の時の方がまだ目が覚めていたような気がする。
これからのこの規則正しい生活に身体が馴染む頃には冬休みが訪れるであろう。
嗚呼、だるい……朝からかったるい。どうせならピアノの前に座りたい。ラジオ体操第一を弾きたい……。
朝一から僕にこんな思いをさせている誰かを呪いたい気分で一杯だった。同時にこのまま机に突っ伏して寝たい……と思いながら実は既に突っ伏していた……。
そんな気怠さの中で約一か月ぶりの始業のチャイムを聞いた。
程なくしてクラス担任の先生が教室に入って来た。
――うちの担任はこんな顔だったな――
僕は机から頭を上げた。久しぶりに担任を見たような気がした。
夏休みボケした頭は、このクラスの担任が三十代半ばの男の先生だという事を思い出すのに少しばかり時間が必要だった。気さくな人柄がクラスの生徒からも慕われていた事もついでの様に思い出した。
そして僕の視線はその後に教室に入ってきた女子高生の姿を捉えた。
勿論クラス全員の視線が彼女に集中していた。
「ああ、転校生か……」
と思った瞬間、僕は目が点になった。驚いて開いた口がふさがらなかった……と言うか呼吸をする事さえ忘れる。予想もしないものを見ると人はこんな事になるのかと言うのを身をもって体験した。
先生の後ろからついて入ってきたのは、美乃梨だった。うちの学校の制服姿と顔が結びつかずにいたので、一瞬誰か分からなかった。どこかで見たような気がするが……なんて間の抜けた事を考えていたが間違いなくあれは美乃梨だ。
そう、本家のある山奥にいるはずの美乃梨が、今僕と同じ教室にいる。一気に気怠さは消し飛び、目が覚めた。
「あぁ、今日からこの学校に転向してきた藤崎美乃梨さんだ。そこで間抜け面を晒している藤崎の従妹だ」
と先生は僕を見て、ついでに顎で指して言った。
クラス全員の視線が僕に集まった。僕は慌てて開けっ放しになっていた口を両手で抑えて閉じたが、見事なまでの間抜け面をクラスメイトに晒していた。
思わず隣の席に座っている宏美の顔を僕は見たが、宏美はこのことを知らなかった僕を不思議そうに見ていた。
「お前知らんかったんか?」
と哲也が後ろの席から肩越しに声を掛けて来た。
「う、うん」
と僕は頷いた。
まだ状況を飲み込めていない。
「始めまして。藤崎美乃梨です。今日からお世話になります。そこの間抜け面を指摘された藤崎亮平の従妹です。田舎者ですが、これからよろしくお願いします」
と美乃梨ははっきりとした言葉でよどみなく挨拶をした。
教室に入ってきた山奥から来た田舎者は、オドオドした表情を見せる事もなく、胸を張って挨拶を済ませた。本人は『田舎者』と言っていたが、東京の進学校からやってきたと言われても違和感ないほど堂々としていた。僕は美乃梨のその姿にまた驚いていた。
美乃梨の挨拶はクラスの笑いを少しさらった。つかみとしては及第点だ……と冷静に分析している場合ではない。何故、美乃梨、お前がここにいる?
「じゃあ、席は立花! お前の隣な」
と先生は教室の一番後ろの席に座っている哲也の顔を見て言った。
そして
「それと藤崎! ちゃんと後で学校を案内してやれよ」
と付け足すように僕にも声を掛けた。
「あ、はい」
と慌てて哲也と僕は返事をかえした。
美乃梨はそれを確認すると先生に促(うなが)されてこちらに歩き出した。
ゆっくりと歩いてきた美乃梨は僕の目の前で立ち止まると
「亮ちゃんよろしく」
と声を掛けてから哲也の隣の席に着席した。
宏美は後ろを振り向くと
「上田です。よろしくね」
と笑顔で短く挨拶を交わした。
「よろしく」
と美乃梨もどこで覚えたのか爽やかな笑顔でそれを返していた。
夏休みボケでまだ眠い。朝練の時の方がまだ目が覚めていたような気がする。
これからのこの規則正しい生活に身体が馴染む頃には冬休みが訪れるであろう。
嗚呼、だるい……朝からかったるい。どうせならピアノの前に座りたい。ラジオ体操第一を弾きたい……。
朝一から僕にこんな思いをさせている誰かを呪いたい気分で一杯だった。同時にこのまま机に突っ伏して寝たい……と思いながら実は既に突っ伏していた……。
そんな気怠さの中で約一か月ぶりの始業のチャイムを聞いた。
程なくしてクラス担任の先生が教室に入って来た。
――うちの担任はこんな顔だったな――
僕は机から頭を上げた。久しぶりに担任を見たような気がした。
夏休みボケした頭は、このクラスの担任が三十代半ばの男の先生だという事を思い出すのに少しばかり時間が必要だった。気さくな人柄がクラスの生徒からも慕われていた事もついでの様に思い出した。
そして僕の視線はその後に教室に入ってきた女子高生の姿を捉えた。
勿論クラス全員の視線が彼女に集中していた。
「ああ、転校生か……」
と思った瞬間、僕は目が点になった。驚いて開いた口がふさがらなかった……と言うか呼吸をする事さえ忘れる。予想もしないものを見ると人はこんな事になるのかと言うのを身をもって体験した。
先生の後ろからついて入ってきたのは、美乃梨だった。うちの学校の制服姿と顔が結びつかずにいたので、一瞬誰か分からなかった。どこかで見たような気がするが……なんて間の抜けた事を考えていたが間違いなくあれは美乃梨だ。
そう、本家のある山奥にいるはずの美乃梨が、今僕と同じ教室にいる。一気に気怠さは消し飛び、目が覚めた。
「あぁ、今日からこの学校に転向してきた藤崎美乃梨さんだ。そこで間抜け面を晒している藤崎の従妹だ」
と先生は僕を見て、ついでに顎で指して言った。
クラス全員の視線が僕に集まった。僕は慌てて開けっ放しになっていた口を両手で抑えて閉じたが、見事なまでの間抜け面をクラスメイトに晒していた。
思わず隣の席に座っている宏美の顔を僕は見たが、宏美はこのことを知らなかった僕を不思議そうに見ていた。
「お前知らんかったんか?」
と哲也が後ろの席から肩越しに声を掛けて来た。
「う、うん」
と僕は頷いた。
まだ状況を飲み込めていない。
「始めまして。藤崎美乃梨です。今日からお世話になります。そこの間抜け面を指摘された藤崎亮平の従妹です。田舎者ですが、これからよろしくお願いします」
と美乃梨ははっきりとした言葉でよどみなく挨拶をした。
教室に入ってきた山奥から来た田舎者は、オドオドした表情を見せる事もなく、胸を張って挨拶を済ませた。本人は『田舎者』と言っていたが、東京の進学校からやってきたと言われても違和感ないほど堂々としていた。僕は美乃梨のその姿にまた驚いていた。
美乃梨の挨拶はクラスの笑いを少しさらった。つかみとしては及第点だ……と冷静に分析している場合ではない。何故、美乃梨、お前がここにいる?
「じゃあ、席は立花! お前の隣な」
と先生は教室の一番後ろの席に座っている哲也の顔を見て言った。
そして
「それと藤崎! ちゃんと後で学校を案内してやれよ」
と付け足すように僕にも声を掛けた。
「あ、はい」
と慌てて哲也と僕は返事をかえした。
美乃梨はそれを確認すると先生に促(うなが)されてこちらに歩き出した。
ゆっくりと歩いてきた美乃梨は僕の目の前で立ち止まると
「亮ちゃんよろしく」
と声を掛けてから哲也の隣の席に着席した。
宏美は後ろを振り向くと
「上田です。よろしくね」
と笑顔で短く挨拶を交わした。
「よろしく」
と美乃梨もどこで覚えたのか爽やかな笑顔でそれを返していた。
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