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お嬢と美乃梨の夏休み
美乃梨の感性
しおりを挟む「なに女子高生泣かせてんの……オヤジ」
僕は横目でオヤジを見た。
「う~ん。女子高生泣かせのピアノかぁ……ワシも罪深い男やのぉ……」
とまんざらでもないような表情でオヤジは笑った。食えんオヤジだ。
その顔を見ているとあまりにもアホ臭くなったので、僕はそれ以上突っ込むことをやめた。
「しっかし……ホンマに感性強い子やなぁ……」
オヤジは美乃梨が出て行った扉を見つめて言った。もう笑っていなかった。
「え? もしかして美乃梨の事?」
「ああ、そうや。今ここで宏美ちゃんや冴子の事を言ってどうする」
オヤジは僕の愚問をなじる様にそういった。迂闊な一言はオヤジのツッコミの餌食となる。
「まあ、それはそうやけど……」
「あれはお嬢の手に負えんぐらい強い感性というか霊感持ってんなぁ……それだけはお前よりも強いかもしれん」
「え? そうなん?」
「ああ、ホンマに強い……強すぎる。今日じっくりと見て分かったわ。あれが本家筋に生まれていたら守人になったかもしれんな……そりゃあ、いくらお嬢が抑えても見える訳や」
オヤジは納得したように何度も頷いた。
「え? そうなん? そんなに強いんやぁ……」
オヤジがここまで言うぐらいなんだから相当なもんなんだろうとは思うが、あの美乃梨とオヤジの表現が一致せずに僕は不思議な感情にとらわれていた。
「多分な。だから見えても仕方ないっていう事やな」
「女性でも守人になれんの?」
「ああ、本家筋に生まれていたらな……多くはないが今まで無かった訳ではない」
「そうなんやぁ……」
僕はオヤジの言葉に驚いた。美乃梨の感性は鋭く繊細でそして僕よりも強い。薄々僕もそんな感じはしていたが、僕が思っていた以上に美乃梨の感性は鋭いようだった。
「じゃあ、美乃梨はこれからどうするの?」
「どうしようかなぁ……」
オヤジも答えが見つからないようだった。天井を見上げてふぅとため息をついた。
「また同じ事が起きる事は?」
「ああ、あるやろうなぁ……」
オヤジは目の前の鍵盤に視線を戻して何かを考えているようだった。鍵盤の上で指がカタカタと小さな音を立てていた。何かをオヤジは弾いていた様だが、音には出さなかった。
「ところで、亮平? 飯はどうする? 腹、減っとるやろ?」
オヤジは自分が空腹であった事を思い出したようだ。オヤジにとって今最重要な事は昼飯を食う事だった。
その意見には僕も激しく同意した。
僕達は楽譜をテーブルの上に散乱させたまま、食事に出かけることにした。
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