奴隷とイッショ!~愛欲の加護~

冬生羚那

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No.3

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 奴隷商会から出発したあたし達3人はまず、暫く厄介になる宿屋へと足を向けた。
 玉藻さんがオススメした宿屋は少し高級なお宿らしい。
 だけど、宿屋専属の護衛はいるし、部屋の壁も薄くないからいいだろうとのことでした。
 わたしはよくわからないからお任せだし、エイルさんも異存はないようですぐ決まった。
 宿の受け付けでは玉藻さんに交渉をお願いすることになった。
 勿論わたしはわからないからね!
 しかしエイルさんは……なんていうか、玉藻さんをお邪魔虫のように扱うのです。
 女尊男卑とか、男が嫌いとかそういうんじゃなくて……エイルさんの言葉を借りるなら『わたしエイルさん主様わたしの邪魔するんじゃないわよ』ということらしい。
 うん、わたしにはわからん世界がエイルさんにはあるようだ。
 これには玉藻さんは慣れているようだけれど、やっぱりどこか呆れてる風だった。

 案内された部屋はぶっちゃけていい部屋だと思う。
 扉を開いた先にはキッチンや電化製品はないけれど、3人では充分過ぎる程のリビングのような部屋があり、テーブルを囲むようにソファーが部屋の真ん中に置いてあった。
 そして入り口の扉とは別に更に扉が3つあった。
 1つはトイレとお風呂への扉、もう1つは護衛用の3畳程の部屋への扉、そして最後は主寝室への扉だった。
 護衛用の部屋はシンプルなベッドが1つと小さなテーブルと椅子があって、まるで仮眠室のようでなんだか申し訳ない気持ちになったが玉藻さんがこれでいいというので言葉を飲み込もうとした……が。

「でもこの部屋ベッド1つしかないよね?玉藻さんがここ使うとしてエイルさんはどこで寝るの?」
「わたしは別に警備を兼ねてリビングの方で……」
「わたしは主様と一緒に寝るわ!」

 玉藻さんの言葉を遮って力いっぱいエイルさんがそう言えば、玉藻さんの綺麗なかんばせがぐにゅ、と歪んだ。

「馬鹿を言うな」
「なんでよ、その方が主様を守ることも出来るしわたしも嬉しいし一石二鳥でしょ!」
「奴隷が主と同衾など許されん」
「ねぇ主様!一緒に寝てもいいわよねぇ!?」
「えっ!?……ま、まあ女同士だし……別に……」

 エイルさんの勢いに押されつつちょっとしどろもどろになりながらもそう言えば、エイルさんは嬉しそうに、玉藻さんは馬鹿だろ、という目を向けてきた。
 何となく焦って2人の横をすり抜け、わたしの寝室だという6畳程の部屋に向かう。
 その部屋にはクローゼットがあり、テーブルとソファーがちょこんとあった。
 そして天蓋付きのベッドに壁際にはドレッサーがある。
 ベッドはキングサイズかという程大きくて更にふっかふかだった。
 これは気持ち良さそうだと思う。
 多少寝相悪くなっても落ちなさそうだ。
 後で思う存分転がってやろう。

 リビングへ戻れば玉藻さんとエイルさんは向かい合ってソファーに腰掛け、テーブルに広げられた紙を見ながら何かを話し合っていた。

「あ、主様。魔力の受け渡し方法は何がいいかしら?」

 不意に問われてわたしはきょとんとエイルさんを見つめてしまう。
 玉藻さんもわたしの方に向いていて一体何の話だと質問を返してしまえば、2人が目を丸くした。

「書類の確認はしていましたよね?」
「奴隷はねぇ、主人の魔力を一定量受けていないと不調をきたすのよ」
「方法はいくつかありますからご一考ください」

 どうやらわたしが流し読みしてしまったせいで大事な部分の知識がなかったようだ。
 玉藻さんは再び馬鹿を見るような目を向けてきた。
 ほんとすいません。
 奴隷との主従契約には、主側が定期的に奴隷へと魔力を渡さないといけないらしい。
 もしそれを怠ると奴隷は精神的に不安定になり、何をし出すかわからなくなるとか。
 主への直接的な危害を加えることは契約によりないけれど、周囲の人達へ危害を加えたり自分で命を絶ったりと色々宜しくないことがあるらしい。
 もし他者に危害を加えることになれば主である人間も罰せられるし、下手すれば死刑にまで発展するとか。
 やだ怖い。
 奴隷管理はしっかりしてくださいね、と玉藻さんに言われてしまいました。
 気をつけます。

 そうして3人であーだこーだと話し合うこと…………えー、1時間程。
 スマホで時間を確認したけれど、多分それぐらい。
 基本的には手を繋いだりしての受け渡し方法に決まった。
 流石に出会ったばかりの人とキスだとか性行為とかでは落ち着かないよね、とわたしが押したのだ。
 エイルさんが物凄く不満そうにしてたのは見なかったことにしておく。
 キスとか性行為で云々ってどこのエロゲーとはわたしの言葉だ。
 エロゲーってなに?とエイルさんに聞かれ、何故か根掘り葉掘り質問されて答えるはめになってしまったが。
 しかもエイルさんが物凄くいい笑顔で聞いてくるから、こっちはくっそ恥ずかしかったよ。
 別に自分だけが楽しむとかならまだしも、細かく説明させられるって物凄く恥ずかしい!
 何この羞恥プレイは。
 すっごく顔が熱い。

「えー……では本題に入らせてください。わたしとエイルはどういった用途で購入されたのでしょうか」
「えっとですねぇ……」

 コホン、と1つ咳をして話を変えた玉藻さんの疑問は最もです。
 エイルさんも興味深くこちらを見つめている。
 もごもごと口を動かすけれど、どこからどこまで話したらいいんだろう。
 でもこれ説明しておかないと何かあったら困るのはわたしなんだよね……。
 なるようになるか。
 不思議そうな目であたしを見つめる2人と面向かって話すにはわたしの勇気が足りないんだけど。
 チラチラと視線を向けて膝に乗せた手を握り締める。

「主?」
「えっとですねぇ、お2人には色々教えてほしいんです。一般常識を。プラス、玉藻さんには護衛を、エイルさんには病気になったりした時に困らないように、医者として兼任していただきたくて……」

 そう、わたしがこの2人を選んだのには理由があるんです。
 顔の好みだけじゃないんだよ?
 ちゃんと説明しますね!

 玉藻さんの種族は狐族の男性。
 お尻まである銀色の長い髪を持ち、同じ色合いのつり目のイケメンさんだ。
 シャープな顔つきで鼻筋もすっきりしていて、きっと眼鏡が似合います(きりっ)
 身長はわたしがわからないから詳しくはなんとも言えないけど、横に並ぶとわたしの頭が玉藻さんの胸の所ぐらいまでしかない。
 横に並んだりすると顔を上げなきゃいけないから長時間は辛いんじゃないかな、なんて思う。

 狐族は人を化かす──幻術を使って惑わせる──ことが出来るらしい。
 また、相手がもし幻術を使ってきたとしても、玉藻さんより劣る場合見破れるとのこと。
 揉め事にはぶち当たりたくないのでそういうのを回避出来るんじゃないかと、わたしは考えたのだ。
 また玉藻さんは、刀を使った戦闘スタイルの持ち主で、薬草学に詳しいと書いてあったのだ。
 まあ、毒草の方に特に・・詳しいみたいだけど。
 ということで、武力的な用心の為に玉藻さんを買うことにしました。

 エイルさんは女神族の女性。
 茶色の腰より少し上まである少しウェーブのかかった柔らかそうな髪を持ち、同じ色合いのちょっとタレ目な美女だ。
 体つきは肉感的!とまではいかないけれど、全体的にバランスよく、歩いているとたゆんとお胸様が揺れたりしていました。
 身長はわたしより少し高いぐらいなんだけど、黙ってれば癒し系でイケる。
 ちょこちょこ残念な発言があったからね……。
 しっかし、女神が奴隷ってなんか不思議なんだけど、そこんとこどうなってるんだろうね?
 愛欲の女神様とはまた違った存在なのかな?

 そしてエイルさんは戦闘向きではないけれど、女性限定・・・・ながら医療に特化していると書いてあったのだ。
 わたしがもし病気になった場合、エイルさんに治療してもらいたいと思っている。
 もしこの世界で医者にかかる時が来ても、例えば薬が効くかどうかわからないという不安があるから、はっきり言って医療知識や技術は外せなかった。
 そして、そこら辺の医者にかかった場合、問題があるかもしれないから、専属医師になって欲しかったのだ。

「……という理由でお2人を買ったんです」

 ぽつぽつと言葉を並べれば2人はなるほど、と頷いてくれた。
 わたしがここで気を付けるべきものを考えた際、自分が奴隷にならないという大前提プラス、不安要素を埋められる人材が必要だったのだ。
 そして薬草に詳しい人と医療知識豊富な人が2人いれば、問題があっても相乗効果でいい結果も出るんじゃないかと。
 そうしてそこまで用心するのは……。

「わたし……この世界の人間じゃないんです……」

 これを言った時の玉藻さんとエイルさんの顔は鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。
 イケメン、美女はどんな表情しててもイケメン、美女でした。
 この世界の人間といえばそうなんだけど、一概に言い切れない事情もある。
 だけど、女神様とのあれこれを全部説明するのも難しい。
 だから……。

 ひ っ く る め て そ う い う こ と に し て お こ う !

 そっとテーブルにスマホを置くと2人の顔がスマホに向いた。
 テーブルに乗せたままスマホを弄り、アイテムボックスを開く。
 何故ステータス画面じゃないかというと、わたしも見てないから何が書かれているかわからないから。
 都合の悪いことが書かれていたら説明も出来ないしね。
 これでもたし慎重派なんです。
 いずれ見せられると判断出来た時は見せてもいいんだけどね。

「これは……」
「これどうやって動いてるの?」
「わたしにもわからないんです」
「アイテムボックスは指輪や腕輪、鞄等で普及はしているが……これはどう使うんだ?」
「それが……まだ使ったことないんで、わからないんですよ。アイテムを入れるにも持ってないし……」
「ふぅん…………あら?でもここには入って…………」

 頭をぽりぽりと掻いて苦笑いを浮かべていると、エイルさんが見つけなくてもいいものを見つけてしまった。
 そう…………白い文字である。
 その他というカテゴリとは別に、もう一つ白い文字があるのだ。
 それは……『閨事カテゴリ』である。
 キラン、と目を輝かせてエイルさんが画面に触れようと手を伸ばした。

「きゃんっ!?」
「ひゃっ!?」
「なんだ!?」

 エイルさんの白くて細い指が画面に触れた瞬間、バチィッ!とスマホが音を立てて光った。
 弾けるようにしてエイルさんが手を引っ込めたけれど、そのたおやかな指先が真っ赤になっていた。

「エイルさん!大丈夫ですか!?」
「ああ、ええ。びっくりしたけれど大丈夫」

 テーブルに手を付いて勢いよくわたしは立ち上がったけど、エイルさんはそんなわたしに向かって安心させるように優しく微笑んでくれた。
 赤く傷ついた指を反対の手で覆い目を伏せると小さく何かを呟く。
 そうして手を離せば赤く傷ついていた指は何事も無かったかのように、元の白さを取り戻していた。

「……すごい……」
「うふふ、これぐらいは朝飯前、ってね」

 ぽかーんと口を開けてエイルさんを見ていると、パチリとウィンクをされた。
 悪戯っ子を思わせるその顔は可愛かったことをここに記す。

「ふむ……」
「一体どうして」

 口元を手で覆い何かを考え込む玉藻さんを横目に恐る恐るスマホに触ってみる。

「……何も起こらんな」
「主様しか触れないようになっているのかしらね」
「なるほど」
「あ、どこもおかしくなってない」

 難しい顔をしている2人の横でスマホを弄ってみるが、反応もするしエイルさんのように音もしないし静電気みたいなものも起こらなかった。
 良かったぁ。

「ま、まあ、これは誰にも触らせない方向で行きます」
「そうだな」
「じゃあ主様、そこ触って」

 エイルさんは痛い目を見ても閨事カテゴリに興味津々のようだ。
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