奴隷とイッショ!~愛欲の加護~

冬生羚那

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No.2

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「それではこちらでお待ちください」

 辿りついたで、奴隷商会!
 デデーンと二階建ての大きな建物を間抜けにもぽかーんと口を開けて見上げていたら、お店の人がちょっと笑いながら声をかけてきた。
 恥ずかしかったわ。
 いやでも、思った以上に大きかったんです。
 それに、この世界……今朝の時間なんだよね。
 時計とかなかったからきちんと確認していないんだけど。
 別にそんなに気にすることじゃないか。

 声をかけてくれた店員さんに奴隷を買いたいんだと言えば、責任者を呼んでくるから部屋でお待ちくださいと言われ、ただ今1人で座り心地が良すぎて逆に落ち着かないソファーに腰掛けて待っています。
 ヤバいってこのソファー、お尻がすっぽり綺麗に包まれてる。
 …………まあいっか、この機会に堪能しておこう。
 きっと普段使いには出来ないような高級なものなんだろう。
 ちょっとお尻の位置を直して脚を組んでゆったりと凭れかかればめちゃくちゃ落ち着いた。
 いいわこれぇ。
 肘置きに肘をついて、体を若干斜めにして頬を乗せてみる。
 くぁ、このソファー欲しい。
 1人まったりしているとノックする音が聞こえた。

「失礼します」

 扉を開いて現れたのは見た目中年太りしたおじさんでした。
 まったりしてたわたしは慌てて顔を上げて座り直す。
 そんなわたしを見ておじさんはちょっと笑ってた。
 しまった、さっきから笑われてばっかりだ。
 恥ずかしさで顔が熱くなったけど、コホンと咳をしておじさんに視線を向ける。
 おじさんはわたしと向かい合うように間にテーブルを挟んでソファーに座った。

「奴隷をお求めにこちらにお越しくださったそうで。ありがとうございます」
「いえ……。それでですね、奴隷を買うのが初めてなので色々教えていただけると助かるんですが……」
「ああ、はい。しっかりとご説明させていただきますので、疑問に思う時は是非お聞きください」

 おじさんは人の良さそうな笑みを浮かべてそう言ってくれた。
 ありがたい。
 まあ、商売人だろうし、上手く誤魔化してくるところもあるんだろうけどね。
 ぼったくられたら困るんだけどなー。
 仕方ない、か。

「ではまず、こちらにはどういった奴隷がいるんでしょうか」

 おじさんはとても丁寧に説明してくれた。
 まず、奴隷には階級がある。
 最(高)級から、高級、中級、低級、無級、そして廃級だ。
 最高級は通称最級と呼ばれ、出来ることも多く能力も高い。
 ついでに貸出料や買取額もべらぼうに高い。
 そこからランクが落ちて高級や中級、低級がある。
 無級は登録したてで出来ることも少ない。
 ただし伸びしろは測れない。
 なんせ若い子が主だから。
 そして廃級。
 廃級に関してはもう仕事が出来ないという状況になった時の階級らしい。
 高齢者、そして大怪我をした等……。
 生きるか死ぬか……むしろもう生きることが難しくなった時の階級だとおじさんは言った。
 話を聞いているだけでちょっと悲しくなったけれど、滅多にいないと聞いて少なからずほっとしたのは事実だ。
 でも、人生何があるかわからないからねぇ。

 そして奴隷は各々出来ることと出来ないことがある。
 まあ、誰しも苦手なことってあるよね……。
 わたし……掃除は苦手だ……。
 片付けも……めんどくさい……。
 いや、わたしのことはいいんだよ。
 戦いが得意な人、家事が得意な人、知識が豊富な人、暗殺が得意な人、性技が上手な人……っておい!
 暗殺とか性技はあたしにはいらないよ!
 おじさんも何だか言いにくそうに言うし、わたしもぷるぷるしてしまったじゃないか!
 くっそはずい……!
 お互い見つめ合った後でコホン、コホンと咳をして微妙な空気を誤魔化す。
 あれ、でもそれだと女神様の言ってたこととちょっと違うんじゃないか?
 ……うーん……詳しく聞くのもなぁ……。
 後で奴隷に聞けばいっか。

「それで、お客様はどういった奴隷をご入用でしょうか?」
「そうですね……。とりあえず最級を」

 いやだって、何もわからない人間が人を育てるとか……ねぇ……?

 無 理 に 決 ま っ て る じ ゃ な い で す か 。

 わたしの言葉におじさんは一瞬目を丸くするもかしこまりました、と言うと懐からベルを取り出しリリーンと鳴らした。
 すると暫くしてドアがノックされる。
 失礼します、と入って来たのは10人の人…………いや、人、人って単位でいいのか?
 狼っぽい人が二足歩行してるし、背中から翼が生えてるらしき人はいるし、耳が尖っている中性的な私エルフです!って人もいるし、あなた人間ですか?ってくらい美しい人はいるし、下半身蛇な人もいるし、角が生えてる人はいるし、美男美女揃い!
 そしてとりあえずとてもカラフルです。
 銀に青に赤に緑にと皆さんきんきんきらきら輝いておりますですよ。

 わ た し が 1 番 平 凡 な 件 に つ い て !

 いや、自分の容姿すら確認してないけどさ?
 目の保養にはうってつけですねぇ。

「こちらが最級奴隷の簡単なステータスになります」

 おじさんの後ろに並んだ人達を呆然と見つめていたら、テーブルに紙の束が置かれた。
 その紙の束、今懐から出しましたよね……どこに入ってたんですか……?
 僅かな疑問を抱きつつ、意識を切り替えてその書類に目を通す。
 文字は見慣れない、この世界のものだった。
 だが安心してください!
 わたしの指にある指輪はこういう時に使うのです!

 いやぁ、ありがたいねぇ。
 さて、書類を読むべし。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~


 書類を読んで気が付いたことがある。
 なんていうか……色々な種族がいるのはわかるんだけど、和風、中華風、西洋風っていうね。
 そして、ふと思うのがまるで妖怪とか神話の名前だね、ってこと。
 まるでそういうゲームみたいだよねぇ、ってしみじみ思ってしまった。

「お気に召された奴隷はおりましたかな?」
「あ、そうですね……」

 おじさんの探るような視線はスルーさせてもらおう。
 今いる中で、わたしに必要なモノを持っていそうなのは…………。

「エイルさん……と、玉藻さんが欲しいんですが」
「……2人、ですか?」
「ええ」
「貸し出しということで宜しいでしょうか?」
「うーん…………出来たら買取りがいいんですが……」
「買取り、ですか?ですがここにいる者は全員最級奴隷なので高額ですよ?」

 わたしの言葉におじさんだけでなく後ろに並んだ人達も驚きに目を丸くしていた。
 そりゃそうだろうね。
 こんなどこにでもいるような年若い女が、最級奴隷を2人も買おうって言うんだから。

「エイルが5億G、玉藻が4億Gになりますので、しめて9億Gになりますが……」
「9億か……でも色々教えてもらったし……じゃあそれで」

 少し悩む素振りを見せつつも素直に提示された金額を払うことを了承すれば、おじさんの目は輝き、後ろに立つ数人からはちょっと恨めしげな視線が送られてきた。
 ど、どういう意味でそういう目をされたんでしょうね……?
 おじさんが懐に手を入れるとまた紙が取り出された。
 だからどこにそんなもの入れてるんですか。
 そうして再び懐からは食堂でも見た水晶がじゃじゃーんと。

 だ か ら ど こ に 入 れ て ん の そ れ !

 差し出されたのは売買契約書と、奴隷を持つに当たっての規約や同意書の束でした。
 …………めっちゃ文字ばっかなんですけど……。
 ペラペラと紙の束を捲って文字を追いかけ…………頭痛くなってきた……。
 もう、いいや。
 飛ばし飛ばしで。
 えー、なになに?
 奴隷は主人が衣食住の面倒を見る?
 理不尽な命令による身体破損の際の回復、返品は受け付けない?
 売買契約済みの奴隷との諍いには商会は関与しない?
 奴隷を無断で遺棄することは認められない?
 うーん、長い。

 よくわかんないけど、とりあえず買ったものは最後まで責任を持て、的なものかな?
 オーケーオーケー。
 紙の束と一緒に差し出されたペンを手に取ると売買契約書にさらりと名前を書き込む。
 そうして左手を水晶に翳す。
 ピロリン、と音が鳴りそれを確認したおじさんが後ろを振り返り目配せすると、エイルさんと玉藻さんがわたしの方に近付いてきた。

「それではこの隷属の紋を」

 そう言っておじさんはエイルさんと玉藻さんに何かを手渡した。
 とりあえずこれで無事奴隷を買うことが出来ました!
 良かったぁ……。
 これでなんとかこの世界の色々も教えてもらえるだろう。
 と、ほっとしたのも束の間、エイルさんが微笑んだままわたしの両肩に手を置くとゆっくりと顔を近付けてきた。

「へ……?」
「んー」

 微笑んだままのエイルさんをぼけーっと見ていたらぶっちゅーっと唇が重なった。

「んむー!?」
「んんー」

 びっくりしすぎてソファーから飛び上がった気がする。
 いや、両肩を上から押さえられてるから飛び上がれてないんだけれども。
 目を限界までかっぴらいてエイルさんを見るけど、視界に入ったのは楽しそうに細められた目だけでした。
 ちゅぽん、と音を立てて唇が離されたけれど、あたしは顔を真っ赤にして金魚のように口をパクパクさせてエイルさんを見上げることしか出来なかった。

「おい、勝手なことをするな」
「いいじゃない、主様可愛いんだもん」
「ったく……」

 玉藻さんが呆れた様子でエイルさんに声をかけるけれど、どこ吹く風なエイルさん。
 口をパクパクさせて玉藻さんの方を見るけど、その目が諦めろと言ってるように見えたのは気のせいだよね?
 呆然とするわたしを放置して、玉藻さんがわたしの手を掬い上げるとその甲に口付けた。

「はひゃ!?」
「……これで契約は完了した」

 ゆっくりと唇を離した玉藻さんの言葉に2人を見ると、その首には茨の模様が浮かんでいた。
 これね、女だったら玉藻さんにキスされた方がびっくりすると思うんだよ?
 なんせ玉藻さんは銀色の髪に、同じ色合いの瞳をした知的な感じの超イケメンだから。
 エイルさんは茶色の髪と茶色の瞳の、綺麗なお姉さんなんだよ。
 確かに綺麗だよ、エイルさんも。
 でも玉藻さんの方が美人度は高い。
 同じ手の甲にキスだったら玉藻さんにされる方がひゃー!ってなった。
 でもエイルさん……唇にぶちゅーって……ぶちゅーって……。
 言っていいかな……。
 わたしのファーストキス……。

 奪 わ れ ち ゃ っ た !
 
 当然イケメンの手の甲にキスより、インパクトはエイルさんに軍配が上がりました。
 もう何も言葉に出来ないわたしの足元に跪き、エイルさんはにっこりと、玉藻さんはどこかぎこちなく微笑んでそっとズボンの裾に口付けを落とした。

 な に し て ん ね ん !

「これから宜しくお願い致します」
「これからは我らに何なりとお申し付けください」

 驚きのあまりショートした脳みそが関西弁になってしまったのはご愛嬌ということで。
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