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NO.15
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街中を歩き回ったのに、脚の疲れ具合が思った程じゃないって凄くない!?
いやぁ、これが若さか……!
なんて阿呆なこと言ってないで、買った物を確認してみよう。
今回買ったのは色々な布地や糸、その他手芸材料です。
反物買いですね。
何メートルあるんだろうね……。聞かずに買ったからわかんないや、あはは。
特に必要だったのが絹!
昔から絹織物って高級品だよね。
そう……わたしは高級品を作ろうと思っているのです!
ま、それは館に帰ってから追々ね。
次は月兎さんにいい卸し売りの業者さんがいないか聞いてみることにします。
作る物が売れたら、だけどね。
さて……皆の買い物具合はどうだろうね。
渡したあれこれがどれぐらいの金額になったのか……そこは少し不安だけど、館に帰ったらわかるか。
「あ、何か飲み物買いましょうよ、玉藻さんも喉乾いたでしょう?」
「そうですね……」
わたしの言葉に玉藻さんがきょろりと周囲を確認してくれる。
わたしも一緒に探しますとも。
玉藻さんにも休んでもらわないとね。
そして見つけたのは昼は食堂、夜は酒場なお店だ。
こういうお店入っちゃうと玉藻さんが一緒に座ってくれなくなっちゃうのが嫌なんだよねぇ。
と、ちょっと考え込んだら玉藻さんはわたしを席に座らせると、自分も何も言わず席についた。
あの玉藻さんが素直に座ったよ……!
「何を飲みますか?」
「あ、はい!そうですね……」
一体どうしたのかと玉藻さんを凝視した後、お店の中をきょろきょろしていたら、苦笑いの玉藻さんにそう言われた。
このお店の中では護衛が後ろに控えている、というような姿が見られない。
多分わたしが言った『目立ちたくない』を覚えていてくれたんだろうな。
このお店で後ろに控えたら目立つもんね。
これからは高級そうなお店じゃなくてこういう一般的なお店に入ろう!
2人分の飲み物とわたしはおかしパンを注文することに。
この世界だと、甘いものは蜂蜜や果物が一般的らしい。
砂糖は高級品で、貴族や王様みたいなお金持ちしか口に出来ないんだって。
……砂糖を定期的に量産出来たら稼げそうだなぁ。
そうなるとサトウキビだっけ?
それを生産してる所を探さないとダメか……。
うん、今はそこまで出来ないな。
でも覚えておこう。
「今日は色々付き合ってくれてありがとうございました」
「いえ、当然のことです」
「えへへ、それでも有り難いです」
「……そうですか」
「はい、これからも宜しくお願いしますね」
「……はい」
玉藻さんとまったりと休憩したら、お店を出る。
さあ帰ろう、と2人で歩き始めたら……何かを並べているお店の前に見知った姿が見えた。
「あれ?あの後ろ姿って双子ですかね?」
「ああ、そうですね」
どうやら夜刀が何かを物色していて、八智が暇そうに立っているみたいだ。
何をしているのかな、と思いつつ悪戯心がむくむくと湧き上がってくる。
そーっと双子の後ろに近付いてみる。
そんなわたしを玉藻さんが不思議そうに見ている。
人差し指を唇に当てて、しーっと静かにするように伝えると、わたしは八智の後ろに立つ。
「えい」
「おわっ!?」
隙だらけの八智に間抜けな掛け声と共に膝カックンを食らわせてやったぜ!
ささっと距離を取れば、八智が崩れた体勢をたたらを踏んで堪えると、物凄くビックリした顔で振り向いた。
八智の声にビックリしたらしい夜刀も、こちらを振り向く。
「何してるのー?」
「いや、何してるのじゃなくて、何するんだよ!」
「え、だってそこにいたから」
「危ねえだろ!」
「ちゃんと避けたもん」
どやぁっとドヤ顔を決めて八智を見上げるわたし。
怒ってるわー、八智。
だってさ、隙だらけだったんだもん。
膝カックンしたくなるじゃないか。
「ビックリしましたよ、サツキ様。もう買い物は終わりました?」
「うん、終わったよー」
「なぁなぁ、今の何?」
「どーやんのー?」
夜刀と話していたら周りに子供が集まってきてしまった。
膝カックンを見られていたらしい。
皆膝カックンを知らないの?
「今のは膝カックンだよー」
「膝カックン?」
「そうそう、膝の後ろをちょっと押すだけでカクッてなるの」
「えー?ホントかよー」
「ホントだよ、でもこれ気を付けないと膝カックンした相手が倒れてくるんだよね」
集まった子供達が凄く不思議そうに自分の膝裏や、友達の膝裏をベシベシ叩き出した。
そのせいで痛いとかで喧嘩になりそうになってきたよ。
加減しようよ!
「八智、ちょっとこっちで立って」
お店の前から少し離れて八智を呼ぶ。
物凄く嫌そうだ。
でもほら……。
見本がいるじゃん。
「あのね、力いっぱいしなくてもいいんだよ。これは隙をつく技だからね」
「隙をつく?」
「うん、油断してる相手に効果があるんだよー、これ」
「へえー!」
「力が入ってるとカクってならないから、そーっと近付いて……ここね、ここをしっかり狙うの」
八智を見本にしゃがみ込んで八智の膝裏を指さす。
皆 真 剣 な 件 に つ い て 。
遊びに真剣なのは子供ならではだよねー。
「どっちの足に体重をかけてるかも見るといいよ。体重かけてない方の足に食らわせてても効果薄いからね。で、相手が膝に力を入れてたらなかなか倒れてくれないんだよー」
「なるほど。不意打ち以外は効果が薄い、と」
「うん、そう。膝裏をつくことで相手の体勢を崩すことが出来るから、足払いと似たようなもの……でいいのかな、認識としては」
「なるほど」
「ただ、これやると相手が後ろに倒れるから、周囲には気を付けないといけないし、逃げ遅れると自分も巻き込まれるんだよね」
「経験者は語る、か」
「ナンノコトカナ」
こうして道端で膝カックンをし合う子供の集団が出来ました。
更にそんなわたし達を見た子供が集まり、最終的には10人を超えてたよ。
膝カックン出来た子も出来なかった子も楽しそうだったから、わたしも楽しかったです。
こうして子供達の間で膝カックンが広まっていくのでした……。
~~~~~~~~~~
こうして双子と一緒に館に帰ってきたわたし達。
館に入ると玄関で月兎さんが誰かと一緒にいるのが目に入った。
「おかえりなさいませ、皆さん」
「ただいまです、月兎さん」
わたし達に気付いた月兎さんに迎えられたけど、一緒にいる人……いや、熊さん、熊さんでっかい。
月兎さんが小さいから余計大きく見える。
この熊さんは寝具店の店長さんらしい。
ここまで運んで来てくれたとか。
お礼を言えばつぶらな瞳を細めて笑ってくれた。
話も終わっていたらしく、熊さんはそのまま帰っていったんだけど、ちょっともふらせて欲しかったかもしれない。
「エイル殿がサツキ様のベッドで良い物をみつけましてね。それを設置に来てくださったのですよ」
「ベッド?」
「ええ」
玄関で各自別れて買ってきたものを設置や片付けに回る。
わたしは月兎さんと一緒にわたしの部屋へ。
中に入ると様変わりしていました。
な ん と い う こ と で し ょ う 。
今まではシンプルで重厚感溢れていたその部屋は、壁紙も淡いクリーム色に変えられ、ごつい木の机も可愛い猫脚の真っ白なテーブルになり、お揃いの椅子。
更に大きなソファーがあって、そこにはふかふかのクッションが。
絨毯も毛足の長いピンク色のものになっていて、そのまま座れそうだ。
スタンドライトのカバーもカーテンも可愛らしいものに変えられていて、物凄く女の子の部屋になっていた。
「ほぁぁ……」
「いかがでしょう」
「凄くいいですね!ここ、本当にわたしが使っていいんですか!?」
「勿論でございます」
「あらぁ、おかえりなさい、サツキちゃん」
「あ、ただいまです、エイルさん!」
わたしと月兎さんの声が聞こえたのか、エイルさんが2階から降りてきた。
するとエイルさんはわたしに駆け寄り、そのまま手を取るとぐいぐいと引っ張って2階へと連れて行く。
「家具屋にねぇ、可愛いベッドがあったのよぉ。サツキちゃんが気に入ってくれるといいんだけど……」
そう言って見せてくれたのは、天蓋付きのベッドでした。
天蓋は前に置いてあったベッドにもついてたんだけど、このエイルさんが選んでくれたというベッドは……うん、お姫様のみたいだった。
ベッドの四隅から柱が伸びていて、上からカーテンのように白くて薄い布が床まで垂れている。
その上に重ねてピンク色の布が掛かっていた。
「ふわぁ……可愛い……!」
「うふふ、可愛いでしょぉ」
「ありがとう、エイルさん!」
得意気なエイルさんに嬉しくて飛びつくと、ぎゅうっと抱き締められた。
わたしも抱き返して頬を擦り寄せる。
「本当にありがとうございます!すっごく嬉しい!」
「うふふ、喜んで貰えて良かったわぁ」
「えへへー、こんな可愛いベッド初めてだし嬉し恥ずかしー!」
嬉しくてハイテンションである。
だけどエイルさんも満更でもなさそうだし、月兎さんも微笑んでくれている。
うへへ、まるでお姫様みたい!
内面?
そ こ は 気 に す る な 。
ひとしきりお姫様ベッドを眺め、ぼよよんとベッドに飛び込み、満足した所でふと気が付いた。
「そういえば、ここにあったベッドとかってどうしました?」
「ああ、そちらでしたら今空いている部屋に全て収めてありますよ」
「あ、良かったぁ。あの家具、萌黄にあげようと思ってて……。思い出沢山あるだろうから」
「そう言うと思ったのよぉ。大事に仕舞ってあるから安心してねぇ」
「ありがとうございます、エイルさん、月兎さん!」
いい仕事してくれるね、エイルさんに月兎さん!
萌黄がいつ姿を見せてくれるかわからないけどね。
喜んでくれたら嬉しいな。
わたしが帰ってくるまでに宿屋に置いてあった荷物も仕舞っておいてくれたらしい。
わたしの仕事ないね!
そう言ったら月兎さんがよろしいのですよ、と笑って言った。
いやぁ、ホント皆ありがとー!!
エイルさんと月兎さんは他の皆の手伝いの為に部屋を出ていった。
わたしも、と申し出たら休んでてくださいって言われちゃった。
ぽつんと残されたわたしだけど、わたしには他にやれることがあるからね!
そっちに取り掛かるとしようじゃないか。
部屋の1階には、廊下に出る扉とは別に、もう1つ扉がある。
そこを開くと更に部屋があった。
ここは夫人の部屋だった場所だ。
夫人が病気になってからは主人が2階へと夫人を移していたみたいなんだけどね。
2階には女性のものが色々あったから。
萌黄がそう言ってたし。
こちらの部屋は、置いてあったベッドや服とかを片付けただけでほぼ変わっていなかった。
うむ、棚はあるし問題なし!
さ あ や る ぞ !
いやぁ、これが若さか……!
なんて阿呆なこと言ってないで、買った物を確認してみよう。
今回買ったのは色々な布地や糸、その他手芸材料です。
反物買いですね。
何メートルあるんだろうね……。聞かずに買ったからわかんないや、あはは。
特に必要だったのが絹!
昔から絹織物って高級品だよね。
そう……わたしは高級品を作ろうと思っているのです!
ま、それは館に帰ってから追々ね。
次は月兎さんにいい卸し売りの業者さんがいないか聞いてみることにします。
作る物が売れたら、だけどね。
さて……皆の買い物具合はどうだろうね。
渡したあれこれがどれぐらいの金額になったのか……そこは少し不安だけど、館に帰ったらわかるか。
「あ、何か飲み物買いましょうよ、玉藻さんも喉乾いたでしょう?」
「そうですね……」
わたしの言葉に玉藻さんがきょろりと周囲を確認してくれる。
わたしも一緒に探しますとも。
玉藻さんにも休んでもらわないとね。
そして見つけたのは昼は食堂、夜は酒場なお店だ。
こういうお店入っちゃうと玉藻さんが一緒に座ってくれなくなっちゃうのが嫌なんだよねぇ。
と、ちょっと考え込んだら玉藻さんはわたしを席に座らせると、自分も何も言わず席についた。
あの玉藻さんが素直に座ったよ……!
「何を飲みますか?」
「あ、はい!そうですね……」
一体どうしたのかと玉藻さんを凝視した後、お店の中をきょろきょろしていたら、苦笑いの玉藻さんにそう言われた。
このお店の中では護衛が後ろに控えている、というような姿が見られない。
多分わたしが言った『目立ちたくない』を覚えていてくれたんだろうな。
このお店で後ろに控えたら目立つもんね。
これからは高級そうなお店じゃなくてこういう一般的なお店に入ろう!
2人分の飲み物とわたしはおかしパンを注文することに。
この世界だと、甘いものは蜂蜜や果物が一般的らしい。
砂糖は高級品で、貴族や王様みたいなお金持ちしか口に出来ないんだって。
……砂糖を定期的に量産出来たら稼げそうだなぁ。
そうなるとサトウキビだっけ?
それを生産してる所を探さないとダメか……。
うん、今はそこまで出来ないな。
でも覚えておこう。
「今日は色々付き合ってくれてありがとうございました」
「いえ、当然のことです」
「えへへ、それでも有り難いです」
「……そうですか」
「はい、これからも宜しくお願いしますね」
「……はい」
玉藻さんとまったりと休憩したら、お店を出る。
さあ帰ろう、と2人で歩き始めたら……何かを並べているお店の前に見知った姿が見えた。
「あれ?あの後ろ姿って双子ですかね?」
「ああ、そうですね」
どうやら夜刀が何かを物色していて、八智が暇そうに立っているみたいだ。
何をしているのかな、と思いつつ悪戯心がむくむくと湧き上がってくる。
そーっと双子の後ろに近付いてみる。
そんなわたしを玉藻さんが不思議そうに見ている。
人差し指を唇に当てて、しーっと静かにするように伝えると、わたしは八智の後ろに立つ。
「えい」
「おわっ!?」
隙だらけの八智に間抜けな掛け声と共に膝カックンを食らわせてやったぜ!
ささっと距離を取れば、八智が崩れた体勢をたたらを踏んで堪えると、物凄くビックリした顔で振り向いた。
八智の声にビックリしたらしい夜刀も、こちらを振り向く。
「何してるのー?」
「いや、何してるのじゃなくて、何するんだよ!」
「え、だってそこにいたから」
「危ねえだろ!」
「ちゃんと避けたもん」
どやぁっとドヤ顔を決めて八智を見上げるわたし。
怒ってるわー、八智。
だってさ、隙だらけだったんだもん。
膝カックンしたくなるじゃないか。
「ビックリしましたよ、サツキ様。もう買い物は終わりました?」
「うん、終わったよー」
「なぁなぁ、今の何?」
「どーやんのー?」
夜刀と話していたら周りに子供が集まってきてしまった。
膝カックンを見られていたらしい。
皆膝カックンを知らないの?
「今のは膝カックンだよー」
「膝カックン?」
「そうそう、膝の後ろをちょっと押すだけでカクッてなるの」
「えー?ホントかよー」
「ホントだよ、でもこれ気を付けないと膝カックンした相手が倒れてくるんだよね」
集まった子供達が凄く不思議そうに自分の膝裏や、友達の膝裏をベシベシ叩き出した。
そのせいで痛いとかで喧嘩になりそうになってきたよ。
加減しようよ!
「八智、ちょっとこっちで立って」
お店の前から少し離れて八智を呼ぶ。
物凄く嫌そうだ。
でもほら……。
見本がいるじゃん。
「あのね、力いっぱいしなくてもいいんだよ。これは隙をつく技だからね」
「隙をつく?」
「うん、油断してる相手に効果があるんだよー、これ」
「へえー!」
「力が入ってるとカクってならないから、そーっと近付いて……ここね、ここをしっかり狙うの」
八智を見本にしゃがみ込んで八智の膝裏を指さす。
皆 真 剣 な 件 に つ い て 。
遊びに真剣なのは子供ならではだよねー。
「どっちの足に体重をかけてるかも見るといいよ。体重かけてない方の足に食らわせてても効果薄いからね。で、相手が膝に力を入れてたらなかなか倒れてくれないんだよー」
「なるほど。不意打ち以外は効果が薄い、と」
「うん、そう。膝裏をつくことで相手の体勢を崩すことが出来るから、足払いと似たようなもの……でいいのかな、認識としては」
「なるほど」
「ただ、これやると相手が後ろに倒れるから、周囲には気を付けないといけないし、逃げ遅れると自分も巻き込まれるんだよね」
「経験者は語る、か」
「ナンノコトカナ」
こうして道端で膝カックンをし合う子供の集団が出来ました。
更にそんなわたし達を見た子供が集まり、最終的には10人を超えてたよ。
膝カックン出来た子も出来なかった子も楽しそうだったから、わたしも楽しかったです。
こうして子供達の間で膝カックンが広まっていくのでした……。
~~~~~~~~~~
こうして双子と一緒に館に帰ってきたわたし達。
館に入ると玄関で月兎さんが誰かと一緒にいるのが目に入った。
「おかえりなさいませ、皆さん」
「ただいまです、月兎さん」
わたし達に気付いた月兎さんに迎えられたけど、一緒にいる人……いや、熊さん、熊さんでっかい。
月兎さんが小さいから余計大きく見える。
この熊さんは寝具店の店長さんらしい。
ここまで運んで来てくれたとか。
お礼を言えばつぶらな瞳を細めて笑ってくれた。
話も終わっていたらしく、熊さんはそのまま帰っていったんだけど、ちょっともふらせて欲しかったかもしれない。
「エイル殿がサツキ様のベッドで良い物をみつけましてね。それを設置に来てくださったのですよ」
「ベッド?」
「ええ」
玄関で各自別れて買ってきたものを設置や片付けに回る。
わたしは月兎さんと一緒にわたしの部屋へ。
中に入ると様変わりしていました。
な ん と い う こ と で し ょ う 。
今まではシンプルで重厚感溢れていたその部屋は、壁紙も淡いクリーム色に変えられ、ごつい木の机も可愛い猫脚の真っ白なテーブルになり、お揃いの椅子。
更に大きなソファーがあって、そこにはふかふかのクッションが。
絨毯も毛足の長いピンク色のものになっていて、そのまま座れそうだ。
スタンドライトのカバーもカーテンも可愛らしいものに変えられていて、物凄く女の子の部屋になっていた。
「ほぁぁ……」
「いかがでしょう」
「凄くいいですね!ここ、本当にわたしが使っていいんですか!?」
「勿論でございます」
「あらぁ、おかえりなさい、サツキちゃん」
「あ、ただいまです、エイルさん!」
わたしと月兎さんの声が聞こえたのか、エイルさんが2階から降りてきた。
するとエイルさんはわたしに駆け寄り、そのまま手を取るとぐいぐいと引っ張って2階へと連れて行く。
「家具屋にねぇ、可愛いベッドがあったのよぉ。サツキちゃんが気に入ってくれるといいんだけど……」
そう言って見せてくれたのは、天蓋付きのベッドでした。
天蓋は前に置いてあったベッドにもついてたんだけど、このエイルさんが選んでくれたというベッドは……うん、お姫様のみたいだった。
ベッドの四隅から柱が伸びていて、上からカーテンのように白くて薄い布が床まで垂れている。
その上に重ねてピンク色の布が掛かっていた。
「ふわぁ……可愛い……!」
「うふふ、可愛いでしょぉ」
「ありがとう、エイルさん!」
得意気なエイルさんに嬉しくて飛びつくと、ぎゅうっと抱き締められた。
わたしも抱き返して頬を擦り寄せる。
「本当にありがとうございます!すっごく嬉しい!」
「うふふ、喜んで貰えて良かったわぁ」
「えへへー、こんな可愛いベッド初めてだし嬉し恥ずかしー!」
嬉しくてハイテンションである。
だけどエイルさんも満更でもなさそうだし、月兎さんも微笑んでくれている。
うへへ、まるでお姫様みたい!
内面?
そ こ は 気 に す る な 。
ひとしきりお姫様ベッドを眺め、ぼよよんとベッドに飛び込み、満足した所でふと気が付いた。
「そういえば、ここにあったベッドとかってどうしました?」
「ああ、そちらでしたら今空いている部屋に全て収めてありますよ」
「あ、良かったぁ。あの家具、萌黄にあげようと思ってて……。思い出沢山あるだろうから」
「そう言うと思ったのよぉ。大事に仕舞ってあるから安心してねぇ」
「ありがとうございます、エイルさん、月兎さん!」
いい仕事してくれるね、エイルさんに月兎さん!
萌黄がいつ姿を見せてくれるかわからないけどね。
喜んでくれたら嬉しいな。
わたしが帰ってくるまでに宿屋に置いてあった荷物も仕舞っておいてくれたらしい。
わたしの仕事ないね!
そう言ったら月兎さんがよろしいのですよ、と笑って言った。
いやぁ、ホント皆ありがとー!!
エイルさんと月兎さんは他の皆の手伝いの為に部屋を出ていった。
わたしも、と申し出たら休んでてくださいって言われちゃった。
ぽつんと残されたわたしだけど、わたしには他にやれることがあるからね!
そっちに取り掛かるとしようじゃないか。
部屋の1階には、廊下に出る扉とは別に、もう1つ扉がある。
そこを開くと更に部屋があった。
ここは夫人の部屋だった場所だ。
夫人が病気になってからは主人が2階へと夫人を移していたみたいなんだけどね。
2階には女性のものが色々あったから。
萌黄がそう言ってたし。
こちらの部屋は、置いてあったベッドや服とかを片付けただけでほぼ変わっていなかった。
うむ、棚はあるし問題なし!
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