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プロローグ的な? 3
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鍛錬をしていたという汗だくのとんでもイケメンの保護者であるクラースと共に裏庭の片隅にある井戸へと向かい、危ないからと数歩離れさせられて太くて逞しい腕がひょいひょいと汲み上げた冷たい水で顔を洗う。
つめたーいとはしゃいでしまうあたしから少し離れた場所で、頭から同じ冷たい水を頭から被っているクラース。
豪快だな、と水に濡れた顔をタオルで拭ってハッとした。
タオルもう一枚持ってくれば良かった。
「これ、つかっちゃったけど……」
一枚しかないタオルに申し訳ないなと思いながら、使ってしまったタオルだけどと差し出せばクラースはそれでも嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとう、アリー」
「ううん」
あたしが使ったタオルでも嫌な顔をすることもなく、むしろ素敵な笑顔で受け取ってくれるなんて……天使かな?
手早く顔を拭い髪をガシガシと拭く姿もイケメンすぎてぽーっと見惚れてしまう。
ホント、ここまでのイケメンなかなかお見掛けすることもなかったから目の保養にも程があるわぁ。
ぽへーっと見ていたらある程度水気を拭ったクラースが笑いながらあたしを宿へと誘う。
身長差で後頭部に手を添えられてだけどね。
アリーというのは、あたしの名前だ。
過去と、現在で似た名前なのはすごい偶然だな、って思う。
……もしかしたら、何か意味があるのかもしれないけれどその辺は聞いてないんだよね。
ま、それで不便があるわけでもないしいいかなって思う。
宿の中へ入り一度部屋へと戻る。
汗で着替えを始めたクラースの素敵な体は視界に入れないようにして忘れ物がないか、一応部屋の中をざっと見渡す。
物を出した記憶はあたしにはないけど一応ね。
そして着替えを終え肩にかばんを引っかけたクラースを追いかけて部屋を出る。
あたしに合わせてくれるクラースに手を引かれて一階に下りれば、さっき見かけた人たちは既に居なくなっていた。
「いつもので良いのかい?」
「ああ、それとスープとパンをこの子用に頼む」
「はいよ!」
クラースに椅子に座らせてもらっていると、女将さんが近づいてきて注文をとっていく。
この宿はクラースがいつも使っていると聞いていたけど、今のやりとりを聞けば注文が『いつもの』で通じる程使っているみたいだ。
二人のやりとりを聞きながらもぞもぞと動いておしりを落ち着ける。
「それじゃ今日の予定だが……覚えているか?」
「うん」
クラースの問いかけにしっかりと頷く。
昨日寝る前に聞いたから、覚えているよ。
「まず、ぼうけんしゃギルドにいって、おはなしする。そのあときょうかいにいって、しらべてもらう」
「ああそうだ、良く覚えていたね」
そう言って笑って頭を撫でて褒めてくれた。
こんな簡単なことで褒められることに居心地の悪さを覚えつつも、久しくなかった褒められるということに喜んでしまう。
そんな複雑な気持ちが顔に出ていたのか、クラースも困ったように眉を八の字にしていた。
素直に喜べなくてごめんね。
でも、こんな見た目でも精神年齢はもう少しあるんだ。
元は成人しているものでね……。
「用事が終わったらアリーの物を買いに行こうか。何もないからな」
「ぁー……うん」
あたし自身のお金がないのが痛い。
今現在、この保護者におんぶに抱っこすぎて居たたまれない。
目を逸らして小さく返事をするとクラースの表情は真面目なものになった。
「いいか? 何度も言うが、子供が遠慮をするんじゃない。……それとも何か? 俺が嫌いなのか?」
「っ、ちがうよ……! クラースすき!」
「ならば俺に任せてくれ。な?」
「……うん」
「いい子だ」
クラースを嫌うことはないと思う。
こんな誰にも言えない秘密を抱えたどこの馬の骨かわからない、みすぼらしい子供を助けてくれて、一緒に行こうと言ってくれて……。
感謝しかないよ。
「……ありがとう、クラース」
「ああ」
わしゃわしゃと少し乱暴に頭を撫でる手にじわりと滲んだ涙も引っ込む。
二人で微笑みあっていると女将さんがドン!とテーブルに料理を置いた。
その量に思わず目を丸くする。
「お待たせだよぉ! 少し多めに盛ってあるから分けてお食べ」
「ありがとう女将。これは旨そうだ」
少し多め……というけど、見た目がデカ盛りなんですけど……。
え、これ朝ごはんだよね?
三人前ぐらいあるんだけど……。
思っていた以上の量に言葉もなく目を瞬かせていると、あたしの前に半分にカットされた丸パンが載せられた小皿、そして温かそうなスープの入ったマグカップが置かれた。
「ほら、パンは切ってあるから半分だけでも食べるんだよ? スープは全部お飲み」
「は、はい……、ありがとう、ございます」
「しっかり食べて大きくおなりよ!」
出会う人みんな、いい人で恵まれてるなぁ、あたし。
小さな手を合わせて、いただきます。
つめたーいとはしゃいでしまうあたしから少し離れた場所で、頭から同じ冷たい水を頭から被っているクラース。
豪快だな、と水に濡れた顔をタオルで拭ってハッとした。
タオルもう一枚持ってくれば良かった。
「これ、つかっちゃったけど……」
一枚しかないタオルに申し訳ないなと思いながら、使ってしまったタオルだけどと差し出せばクラースはそれでも嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとう、アリー」
「ううん」
あたしが使ったタオルでも嫌な顔をすることもなく、むしろ素敵な笑顔で受け取ってくれるなんて……天使かな?
手早く顔を拭い髪をガシガシと拭く姿もイケメンすぎてぽーっと見惚れてしまう。
ホント、ここまでのイケメンなかなかお見掛けすることもなかったから目の保養にも程があるわぁ。
ぽへーっと見ていたらある程度水気を拭ったクラースが笑いながらあたしを宿へと誘う。
身長差で後頭部に手を添えられてだけどね。
アリーというのは、あたしの名前だ。
過去と、現在で似た名前なのはすごい偶然だな、って思う。
……もしかしたら、何か意味があるのかもしれないけれどその辺は聞いてないんだよね。
ま、それで不便があるわけでもないしいいかなって思う。
宿の中へ入り一度部屋へと戻る。
汗で着替えを始めたクラースの素敵な体は視界に入れないようにして忘れ物がないか、一応部屋の中をざっと見渡す。
物を出した記憶はあたしにはないけど一応ね。
そして着替えを終え肩にかばんを引っかけたクラースを追いかけて部屋を出る。
あたしに合わせてくれるクラースに手を引かれて一階に下りれば、さっき見かけた人たちは既に居なくなっていた。
「いつもので良いのかい?」
「ああ、それとスープとパンをこの子用に頼む」
「はいよ!」
クラースに椅子に座らせてもらっていると、女将さんが近づいてきて注文をとっていく。
この宿はクラースがいつも使っていると聞いていたけど、今のやりとりを聞けば注文が『いつもの』で通じる程使っているみたいだ。
二人のやりとりを聞きながらもぞもぞと動いておしりを落ち着ける。
「それじゃ今日の予定だが……覚えているか?」
「うん」
クラースの問いかけにしっかりと頷く。
昨日寝る前に聞いたから、覚えているよ。
「まず、ぼうけんしゃギルドにいって、おはなしする。そのあときょうかいにいって、しらべてもらう」
「ああそうだ、良く覚えていたね」
そう言って笑って頭を撫でて褒めてくれた。
こんな簡単なことで褒められることに居心地の悪さを覚えつつも、久しくなかった褒められるということに喜んでしまう。
そんな複雑な気持ちが顔に出ていたのか、クラースも困ったように眉を八の字にしていた。
素直に喜べなくてごめんね。
でも、こんな見た目でも精神年齢はもう少しあるんだ。
元は成人しているものでね……。
「用事が終わったらアリーの物を買いに行こうか。何もないからな」
「ぁー……うん」
あたし自身のお金がないのが痛い。
今現在、この保護者におんぶに抱っこすぎて居たたまれない。
目を逸らして小さく返事をするとクラースの表情は真面目なものになった。
「いいか? 何度も言うが、子供が遠慮をするんじゃない。……それとも何か? 俺が嫌いなのか?」
「っ、ちがうよ……! クラースすき!」
「ならば俺に任せてくれ。な?」
「……うん」
「いい子だ」
クラースを嫌うことはないと思う。
こんな誰にも言えない秘密を抱えたどこの馬の骨かわからない、みすぼらしい子供を助けてくれて、一緒に行こうと言ってくれて……。
感謝しかないよ。
「……ありがとう、クラース」
「ああ」
わしゃわしゃと少し乱暴に頭を撫でる手にじわりと滲んだ涙も引っ込む。
二人で微笑みあっていると女将さんがドン!とテーブルに料理を置いた。
その量に思わず目を丸くする。
「お待たせだよぉ! 少し多めに盛ってあるから分けてお食べ」
「ありがとう女将。これは旨そうだ」
少し多め……というけど、見た目がデカ盛りなんですけど……。
え、これ朝ごはんだよね?
三人前ぐらいあるんだけど……。
思っていた以上の量に言葉もなく目を瞬かせていると、あたしの前に半分にカットされた丸パンが載せられた小皿、そして温かそうなスープの入ったマグカップが置かれた。
「ほら、パンは切ってあるから半分だけでも食べるんだよ? スープは全部お飲み」
「は、はい……、ありがとう、ございます」
「しっかり食べて大きくおなりよ!」
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小さな手を合わせて、いただきます。
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