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一章
再び進め
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オルトゥスとの出会いは美命と燕にとってとても有意義なものとなった。
そんなオルトゥスに手を振って別れ、二人は森へと向かう。
「はぁ……おじさまぁ……」
「もちつけオジ専」
「あの色気、声、佇まい……最高やった……」
「帰ってこいま」
「はぁぁ……」
深い溜め息を吐く燕の足取りは重い。
オルトゥスはそこまで燕の好みだったようだ。
かといってそこに残ることも出来ないのだから、しっかりと歩いてほしいと美命は思う。
半分引き摺るようにして燕を引っ張っているのだ。
オルトゥスも小さな燕を気に掛けてくれていたので、余計離れがたいのかもしれない。
「もぉ、また会うこともあるって」
「かな? かな?」
「ん」
「はぁぁ、おじさまぁ」
未だ砦のオルトゥスに意識を飛ばしたままの燕の手を引いてほてほてと進む。
美命から見てもオルトゥスはいい男だと思ったが、今はどちらかといえば獣人の方が気になっているのだ。
オルトゥスは人間で、いい男ではあるが未知の存在である獣人の方に比重が傾いているので先へ進みたいのだった。
「……で、狩りしてく?」
「ん……そうだね。お金になりそうな物は持っておきたい」
「おk」
漸く意識が戻ってきた燕と共に、近づいてくる魔物たちをぶっ飛ばしていく。
そうしてリュックへと詰め込み、オルトゥスと交流のある獣人の集落へと向かう。
歩いて蹴飛ばして、歩いてぶん殴って、気が付けば日が傾き始めていた。
「んー……このまま進む? それとも野宿の準備する?」
「そうだなぁ……急いでるわけじゃないし、野宿してみようか」
「うえーい」
歩き続けた二人は森の中へと入り、野宿出来そうな場所を探す。
「どんな所がいいんだっけ?」
「えーっと……テントが張れる平坦な所で、水場が近いとなお良し?」
「あー……水場なんてなくない?」
「それな」
「んじゃあ平坦で、拓けた所かな?」
「ん」
草や木を避けて歩き、進みながら探すがなかなか見つからない。
誰も通らない、という程でもないが、広大な森の中でぽつんとあるだろう拓けた場所を探すのは一苦労だ。
オルトゥスもこの辺りを通るのだろうが、野宿をするような時間配分はしないだろう。
こうなると探すよりは作る方が早そうだ、と燕は思う。
暗くなっていく中で行動するよりは、寝て明るい所で行動したい。
「美命」
「ん?」
「もうさ、作った方が早くない?」
燕がぐるりと周囲に顔を向けてそう告げれば、美命も同じように周囲に目を向ける。
周りには木ばかりで隙間にテントを立てるにも、場所が足りない状態だ。
近くに水場もなさそうで、見つけるにはどれだけの時間がかかるかもわからない。
「ほやな。作る方が早いかもしれん。でも作るって言ってもどうやるつもりなん?」
「魔法で出来るかなー?」
「どうやろな?」
二人で地面にしゃがみ込み、掌を土に添えてみる。
掌から何かを感じるが、美命は首を傾げるだけだ。
対して燕はブツブツと何かを呟きつつ、その地面だけでなく近くの木に触れてみたりその根本にしゃがみ込んでみたりと忙しない。
そうして何かを確認しながら周辺をぐるりと回る。
美命はわからないと早々に考えることを止めて、落ちている枝や葉を拾い始める。
「えっと……確か乾いたやつがいいんやがの」
片隅にある知識の引き出しを開けて、幾つかの枝を腕で抱えていると、ゆらりと視界が揺れて地面に視線を落とす。
「え、地震?」
美命は思わず動きを止めて一瞬茫然とするも、慌てて燕へと顔を向ける。
危険があるならば逃げなければ、と思ったが、燕はしゃがみ込んで地面に手をつけたまま動かないでいるのが見えて、震源地は燕かな、とふと思う。
魔法を使えるようになって地面まで揺らすようになったのかと驚けばいいのか、人間から遠ざかってるなと笑えばいいのか悩んだがそれもひと時だけだった。
燕の周囲にぼんやりと目を向けていたらじわじわとおかしなことが起こり始めた。
木々が風もないのにその枝葉を揺らし、幹までもがゆらゆら揺れ始める。
そんな木々を目を丸くして見ていたら、木がずぼっと浮き上がった。
そうして根っこを器用に動かしてゆっさゆっさと何処かへと去っていくではないか。
「え……?」
「ふぃー」
何やら額を腕で拭い満足そうな燕を横目に、去っていく木々を茫然と見送る美命。
魔法ってこんなんだっけ?と少しの疑問を持つが、担いでいたリュックを下ろし野宿の準備を始めた燕に考えることを放棄することにした。
そんなオルトゥスに手を振って別れ、二人は森へと向かう。
「はぁ……おじさまぁ……」
「もちつけオジ専」
「あの色気、声、佇まい……最高やった……」
「帰ってこいま」
「はぁぁ……」
深い溜め息を吐く燕の足取りは重い。
オルトゥスはそこまで燕の好みだったようだ。
かといってそこに残ることも出来ないのだから、しっかりと歩いてほしいと美命は思う。
半分引き摺るようにして燕を引っ張っているのだ。
オルトゥスも小さな燕を気に掛けてくれていたので、余計離れがたいのかもしれない。
「もぉ、また会うこともあるって」
「かな? かな?」
「ん」
「はぁぁ、おじさまぁ」
未だ砦のオルトゥスに意識を飛ばしたままの燕の手を引いてほてほてと進む。
美命から見てもオルトゥスはいい男だと思ったが、今はどちらかといえば獣人の方が気になっているのだ。
オルトゥスは人間で、いい男ではあるが未知の存在である獣人の方に比重が傾いているので先へ進みたいのだった。
「……で、狩りしてく?」
「ん……そうだね。お金になりそうな物は持っておきたい」
「おk」
漸く意識が戻ってきた燕と共に、近づいてくる魔物たちをぶっ飛ばしていく。
そうしてリュックへと詰め込み、オルトゥスと交流のある獣人の集落へと向かう。
歩いて蹴飛ばして、歩いてぶん殴って、気が付けば日が傾き始めていた。
「んー……このまま進む? それとも野宿の準備する?」
「そうだなぁ……急いでるわけじゃないし、野宿してみようか」
「うえーい」
歩き続けた二人は森の中へと入り、野宿出来そうな場所を探す。
「どんな所がいいんだっけ?」
「えーっと……テントが張れる平坦な所で、水場が近いとなお良し?」
「あー……水場なんてなくない?」
「それな」
「んじゃあ平坦で、拓けた所かな?」
「ん」
草や木を避けて歩き、進みながら探すがなかなか見つからない。
誰も通らない、という程でもないが、広大な森の中でぽつんとあるだろう拓けた場所を探すのは一苦労だ。
オルトゥスもこの辺りを通るのだろうが、野宿をするような時間配分はしないだろう。
こうなると探すよりは作る方が早そうだ、と燕は思う。
暗くなっていく中で行動するよりは、寝て明るい所で行動したい。
「美命」
「ん?」
「もうさ、作った方が早くない?」
燕がぐるりと周囲に顔を向けてそう告げれば、美命も同じように周囲に目を向ける。
周りには木ばかりで隙間にテントを立てるにも、場所が足りない状態だ。
近くに水場もなさそうで、見つけるにはどれだけの時間がかかるかもわからない。
「ほやな。作る方が早いかもしれん。でも作るって言ってもどうやるつもりなん?」
「魔法で出来るかなー?」
「どうやろな?」
二人で地面にしゃがみ込み、掌を土に添えてみる。
掌から何かを感じるが、美命は首を傾げるだけだ。
対して燕はブツブツと何かを呟きつつ、その地面だけでなく近くの木に触れてみたりその根本にしゃがみ込んでみたりと忙しない。
そうして何かを確認しながら周辺をぐるりと回る。
美命はわからないと早々に考えることを止めて、落ちている枝や葉を拾い始める。
「えっと……確か乾いたやつがいいんやがの」
片隅にある知識の引き出しを開けて、幾つかの枝を腕で抱えていると、ゆらりと視界が揺れて地面に視線を落とす。
「え、地震?」
美命は思わず動きを止めて一瞬茫然とするも、慌てて燕へと顔を向ける。
危険があるならば逃げなければ、と思ったが、燕はしゃがみ込んで地面に手をつけたまま動かないでいるのが見えて、震源地は燕かな、とふと思う。
魔法を使えるようになって地面まで揺らすようになったのかと驚けばいいのか、人間から遠ざかってるなと笑えばいいのか悩んだがそれもひと時だけだった。
燕の周囲にぼんやりと目を向けていたらじわじわとおかしなことが起こり始めた。
木々が風もないのにその枝葉を揺らし、幹までもがゆらゆら揺れ始める。
そんな木々を目を丸くして見ていたら、木がずぼっと浮き上がった。
そうして根っこを器用に動かしてゆっさゆっさと何処かへと去っていくではないか。
「え……?」
「ふぃー」
何やら額を腕で拭い満足そうな燕を横目に、去っていく木々を茫然と見送る美命。
魔法ってこんなんだっけ?と少しの疑問を持つが、担いでいたリュックを下ろし野宿の準備を始めた燕に考えることを放棄することにした。
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頑張って更新していきますので、よろしくお願いします。
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