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一章

入り口

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目安として定めていたらしき砦が見えてきた。
村長の話では草地に作られた建物だったはずだが、どうやら時の流れによって砂漠が広がっていき今目の前にある砦はどう見ても砂漠の中に建っている。
そして縦に長い砦の、上の方から人が話しているらしい声や、人の存在する空気を感じた。

「えーっと、ここで間違いなさそうやね」
「それな。とりあえず少し休憩させてもらおうか」

砦の入り口を探して壁伝いに移動する。
土だかコンクリートだかはわからないが頑丈そうではある壁に、鉄らしき扉という物々しい砦の入り口には二人程の鎧姿の人が立っていた。

「こんなとこで鎧とか……熱中症になったりせんのかな?」
「あの兜……毛根に悪そう」
「もしかしたら剃ってるかもな」
「つるぴかか……」
「つんつるてん」

砦の入り口に近付きつつ、二人でぽそぽそと会話を続ける。
聞かれたら余計なお世話だと怒られそうな内容だ。
近付くにつれそんなことは口の端には乗せないのだから、バレたりはしないかもしれないが。

「止まれ! ……この砦に何の用だ?」

そして美命と燕を上から下まで眺めると、訝しげな顔を兜の隙間から覗かせてきた。
美命と燕はこの砂漠から旅が始まったが、この世界の人間からすれば、この辺りは辺境だったり、ある意味で人が寄り付かない場所なのだ。
そんな場所にひょろい人間と子供が現れれば、多少は訝しくも思うだろう。

「えっと、わたしたちは旅をしてまして。少し休憩させていただけないかな、と」
「……そんな子連れで旅だと? しかもそんな軽装で、か?」

二人を止めた男性がじろじろと美命と燕を睨むようにして見てくる。
その視線は決して気持ちの良いものではないが、場所が場所なのでこの視線も仕方ないか、と二人は心の中で思う。
そうしてちらりと視線を交わし、美命は困ったような顔で微笑みを浮かべる。

「この子が産まれてすぐ、両親を亡くしましてね……。そこでちょっと色々あって安住の地を求めて旅をしてるんですよ」
「……あのね、ままとぱぱ、いないの……」

美命のマントの裾を持ったままその後ろに半身を隠した燕が、俯きながらそうぽつりと零す。
ただ、その声はどこか棒読みだ。

「……そうか」

しかし男性たちへの効果はバツグンだったらしい。
決してガタイのいいわけではない、下手したらまだ大人の年齢にも届いていなさそうな人間と小さな子供がどのようにして生きているのか、その生活がどれぐらい大変なのかは想像しやすかったのだろう。
訝しげな視線から同情の籠った眼へと変わった。
美命は燕の言葉を聞いて口元を手で覆い俯きがちに顔を逸らし、肩を震わせる。
男性たちはその心境を思って更に眉を下げた。

「……まあ、休憩ぐらいなら構わないだろう」
「そうだな」

男性たちは顔を見合わせてそう言葉を交わすと、砦の鉄の扉を開けて二人を迎え入れてくれた。

実際のところ、美命が肩を震わせたのは燕の演技力のなさに対してだった。
門番らしい男性たちは騙されてくれたが、棒読みな上、表情も作り損ねていたのだ。
その微妙な表情が信憑性をもたせたり、それに笑いを堪える姿を勘違いされただけで、二人からすれば助かったのだが。
美命の反応に唇を尖らせた燕は、そっとそのお尻を抓ってやった。
自分でも大根な自覚はあるが、笑うんじゃない、とばかりだ。

そんな内情を知らない男性たちは、何やら神妙な面持ちで門扉の中を簡単に説明してくれる。
この砦は観測地であり、防衛線の目安であり、左遷先だそうだ。
今暫くは争いもなく、ここに集められた人たちのやる気のなさが良く見えた。
緊張感は感じられない上に、こうして異分子である美命と燕を見ても反応は薄い。
ただ不思議そうにするだけに見えた。

「あっちの方は一般人は立ち入り禁止区域だから行かないように。で、こっちに簡易の休憩所があるから、そこで休憩すればいいよ」
「ありがとうございます」
「ありがとーございます」

中へと案内してくれた男性が指差しながらそう教えてくれる。
二人もそれに素直に従い、簡易休憩所だという場所へと移動する。
そこはテーブルと椅子が置かれた、会議室というかロビーみたいな所だった。
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