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一章

魔石から

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燕の掌にぴったりのサイズの魔石が太陽の光を反射して鈍く光る。
それを日に翳し燕が小さく口を開く。

「……コーヒー……ううん、カフェオレ飲みたい」
「あー、コーヒーっぽい色だけど……それよりも透明感あるな」
「そうだね。あ、コーヒーゼリーかも」
「コーヒーから離れや」

翳した魔石を今にも舐めそうな燕の横で美命が呆れたように溜め息を零す。
燕は失礼な、と言わんばかりの顔をするが、内心舐めたらもしかしたらコーヒーの味がするかも、なんて考える。

「そんなことより、その魔石でアイテムバック作るんやろ?」
「あ、そうだった」

そう、商人から交換という形で手に入れた魔石で、アイテムバックと同等の物を作ろうと言う話になったのだ。
そうすれば道中何かを倒したとして、持ち運びに悩む必要が無くなる。
商人に簡単にやり方を教えてもらい、商人は美命と燕が倒したあれそれをリュックに詰めてどこぞへと去って行った。

商人が言うには、この魔石ならそこそこのものが作れるだろう、とのことだ。
それがどれだけなのかは二人にはわからないが、商人が終始ニヤニヤとしていたので、いまいち信じていいのか悩んだが、この世界に関する情報はほぼない状態なので、乗せられてみよう、となって交換することを決めたのだった。
そうして交換された魔石が、現在燕が持つ掌サイズのコーヒー色の魔石だ。

「あの商人が言ってたようにやってみる」
「よろ」

燕は魔石を胸の辺りまで下ろすと掌に包み、目を閉じる。
そうして商人が言っていたように石の持つ力とやらを探る。
それは己の体の中で感じた魔力に似て、けれどちょっと違うものだった。

「……あ、力っていうのはわかった」
「お、出来そう?」
「ん」

燕は石の力を感じながら、商人の言葉を思い出す。
込められる量の最大まで入れて問題ない、大丈夫だと言う商人の言葉に従い、迷わずその量まで注いでいく。
すると自転車のタイヤに空気を入れた時のように押し返されるような、これ以上は入らないとわかる時があった。
その瞬間に力を込めるのを止めて、維持する。
その次に鞄の形を想像する。
ここで大事なのは入れるものの最大の大きさを想定して入り口のサイズを決めることだ。
その入り口に入らなければ仕舞うことが出来なくなる。
そこさえ決めてしまえば、後は形だけである。
言われてみれば簡単な作りのものだが、これはかなり想像力がモノを言うな、と燕は思った。

うぬぬ、と燕が小さく唸りながら出来上がっていくのはやたらと物の入る謎の鞄だ。
ちなみに鞄と言うが、これは燕の担げるリュックになった。
美命はどちらかと言えば接近戦を主体にした、肉体派のような戦い方をすることが理由の一つ。
そうなるとこの鞄を持つのは燕になる。
燕の身長は120センチ程しかない上に、もし戦闘となれば両手を掲げたりと動かすことが多いため、背負うリュックがいいだろうと話し合った結果だ。

目立たない程度にはシンプルなリュックが出来上がり、燕は地面にしゃがみ込んで確認していく。
隣で美命もしゃがみ、燕とリュックを見つめる。
入り口を覆う蓋部分の布を持ち上げれば、リボン結びされた紐に閉じられた口が現れる。
紐を解けば直径30センチ程の口がぽっかりと開いた。
その中を覗き込んだ二人の目には虚無が映る。

「これどうやって使うん?」
「さあ? 試しに何か入れてみないことにはわかんない」
「ほか。じゃあ何か狩ろうか?」
「んー……そだね。無くなったりしたら困らないもので試したい」

燕は既にある荷物をちらりと見てから頷く。
それを受けて美命は立ち上がり、周囲へと目を向けた。

「あんまり小さいとわからなかったらあれやし……あ、これでいっか」

そうして少しの距離を歩き、ボキィッと木の枝を折ると燕の元へと戻り、それを差し出した。
燕はそれを受け取るとリュックの口へと刺す。
するとするるとその枝がリュックの中へと吸い込まれ、そうして視界に残ったのは虚無だった。

「何も見えんやん……」

肩を竦める美命を尻目に燕がリュックへとその腕を突っ込んだ。
そうしてごそごそと腕を動かし引き抜けばずるーんと枝も出てきた。

「ん、問題なかった」
「お、ほんなら良かった」

アイテムを入れておける物が出来たことで、美命と燕は魔物を持ち運びを気にせず倒しても大丈夫になり、意気揚々と対峙する。
魔物だろうが獣だろうが入れ物が出来たことで、自重という単語は二人から消えた。

「金ぇぇぇ!」
「魔物であってお金じゃないんだけど……いっか」
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