上 下
12 / 20
一章

次へ

しおりを挟む
村を出た二人の次の目的地は獣人の住む森に近い所にある砦、というやつである。
地球のような詳しい地図がないため、目安としてその砦に向かうと良いとアドバイスを受けたのだ。
村長もその先である、森や獣人のことは知らないので、その砦で情報を得るという面もある。

村までは急いでいたから二人は魔力を使って身体能力を上げていたが、ここからは急がない旅だと景色を堪能しながらまったりのんびりと道らしきものを歩いている。

「自然満載やねぇ」
「それな」
「荷物重くない?」
「うん、そこは大丈夫」

美命は大きなリュックのような麻袋を担ぎ、燕もそこそこの大きさのカバンを肩から下げている。
これはミミズと交換してもらった野宿用具二人分と食糧に着替えなどが入っていた。

「こういう時の定番はアイテムインベントリとかアイテムバックなんだけどなぁ」
「あー。どういう原理?」
「知らん。でも、時空魔法や空間魔法とかでなんとかかんとかしてる話は見たことあるよ」
「ふーん」
「アイテムインベントリあったら楽やったのになー」

美命はなにやらぶちぶちと文句を言い始めたが、燕はそれを横目にふん、と鼻で嗤った。

「お忘れですか。魔力MAX」
「ほやった! いやーん、燕ちゃん素敵ー!」
「とは言ってもあたしが詳しく知らないから出来るかはわかんないけど」
「うちも詳しくないからなー……。この世界にアイテムバックとかはないんかな? あればそれを調べて、とか」
「ま、今は我慢して」
「ほーい」

さくさくと草を踏みながら歩いていると、徐々に砂漠が視界に入ってきた。
どうも砂漠は日々じわじわと拡大しているらしい。
村ではそこまではわからなかったが、砦の人や商人がそう言っていたそうだ。

「地球でも砂漠が広がってるとか言われてたけど、こっちもそうなんやねぇ」
「みたいだね。植林とかはしてないのかな?」
「どうやろう? でも魔法もあるんやで? 何かしら対策とかしてそうなもんやけどなー?」

二人で会話をしながら歩いていれば、何やらもやっとした気配を感じて二人の足が止まる。
きょろりと周囲に目を向けてみれば、気配を感じるのは砂漠からだった。

「何かくるね」
「それな」

その気配に誘われるように、あちらこちらから何かを感じる。
それは敵意というよりは、探るようなものばかりだった。

「木の陰から何かこっち見てるね」
「とりま、この姿でどこまで出来るか試そう」
「あたしは手加減かな……」
「それな! セーブ出来るようにならんと後で困るで!」
「ドッカンドッカンやりたい……」
「セーブ出来るようになって」
「あい」

お互い荷物を背負ったまま、砂漠から向かってくる存在に目を向ける。
サカサカと砂を踏んで向かってくるのは、地球からみたら巨大な蟻と何かの虫だった。

「あれ何? 蟻、と?」
「わかんない」
「ま、全部しばけばいっか」
「それな」

二人に向かってくる虫たちの数は両手の指を超える程で、美命はフン、と鼻を鳴らす。
燕は独り言を呟きつつ、魔力を体内で動かしていく。

「サイズは小さめ、数は多いけど強くもなさげ。問題なし!」

美命は膝を曲げて重心を下げると、一気に虫に向かって加速する。
その加速のまま集まり始めている虫たちを蹴飛ばして回る。

「巻き込まれないように気をつけてね」
「おk」

地球のと比べて巨大とはいえ、精々云十センチ程の虫たちは、美命と燕によってその姿を空中へと躍らせその命を終えることになる。
それでもどれかが仲間を呼んでいるのか、なかなかその数は減らなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

白花の咲く頃に

夕立
ファンタジー
命を狙われ、七歳で国を出奔した《シレジア》の王子ゼフィール。通りすがりの商隊に拾われ、平民の子として育てられた彼だが、成長するにしたがって一つの願いに駆られるようになった。 《シレジア》に帰りたい、と。 一七になった彼は帰郷を決意し商隊に別れを告げた。そして、《シレジア》へ入国しようと関所を訪れたのだが、入国を断られてしまう。 これは、そんな彼の旅と成長の物語。 ※小説になろうでも公開しています(完結済)。

ぼくらの森

ivi
ファンタジー
かつて、この大陸には魔界軍と戦う二人の英雄がいた。青いドラゴンに乗って空を駆けるドラゴン乗り「空の英雄ジアン・オルティス」と、白黒斑毛の小さな馬に乗る騎士「地上の英雄レイ・ホートモンド」だ。  地上の征服を企む魔界軍に立ち向かう彼らのおかげで、今日もこの国は守られている。  ……誰もがそう信じていた。  しかし、その平和は長く続かなかった。魔界軍に止めを刺すべく出陣した遠征軍が消息を断ち、ついに誰一人として帰って来なかったのだ。  大草原遠征の指揮を取っていた二大英雄はたちまち「逃げ出した英雄」という汚名に染まり、二人を失った地上は、再び魔界軍の脅威にさらされることとなる。  ――あの遠征から四年。  人々の記憶から英雄の存在が薄れつつある今、一人の青年に大陸の運命が託されようとしていた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
マヂカは先の大戦で死力を尽くして戦ったが、破れて七十数年の休眠に入った。 やっと蘇って都立日暮里高校の二年B組に潜り込むマヂカ。今度は普通の人生を願ってやまない。 本人たちは普通と思っている、ちょっと変わった人々に関わっては事件に巻き込まれ、やがてマヂカは抜き差しならない戦いに巻き込まれていく。 マヂカの戦いは人類の未来をも変える……かもしれない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...