腐女子の俺が逝く! ゲームから出られなくなった俺は趣味を堪能するはずが……あれあれ?

冬生羚那

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なかったこと

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「んで? なんかあったのか?」
「いや、ちょうどこっちに用事があったからお前どうしてっかと思ってな」

 背もたれに凭れて問いかければそう答えが返ってきた。
 こっちに来る用事?

「ああ、あの花屋の兄ちゃんに会いに?」
「は? 顔を合わせりゃ挨拶はすっけど別にわざわざ会う必要はねえだろ?」

 ……ん?
 これはどういうことだ?

 レオンは不思議そうに首を傾げていた。
 例えばからかわれるのが恥ずかしいとか、気まずいとか、そういった何かを隠そうとする雰囲気は一切ない。

「あれ、あの兄ちゃんとデキてたんじゃなかったのか?」
「はぁ!? おま、あっちも男だぞ!」
「し、シーシー! 声でけぇよ!」
「あっ、わり……。って、お前がおかしなこと言うからだろうが! なんで花屋のなんだよ」

 思わず零れた疑問に、レオンは心外だ!というか若干怒った様子で声を荒げた。
 内容が内容だけに、声を潜めるように言えば小声になったが、やっぱりちょっとお怒り気味だ。
 これは……俺の今までの努力が泡になったということでいいのだろうか。
 しかも『男』ということに苦言を呈するということは、何かあって別れたとかそういうことでもない感じだな。

 えー、頑張って誘導したのに!

 レオンはこの街が拠点ではない。
 なので、この街に来ている時に出会わせたり色々、そう、色々やってきたのに。
 まさかの『なかったこと』になっているっぽい。
 知り合いの状態ではあるみたいだけど……こいつらくっつけたのついこの前だったのに!

「……いやでも、男でもお前なら……」
「んぇ? なんか言った?」
「なんでもねぇよ!」

 凹んでる俺の前で斜め下を向いてもごもご話すレオンの声は、俺の耳に届かなかった。
 怒んなよ、とは思うけど、ジョッキの中身を一気に飲み干すレオンと、届いたエールに俺の思考はそっちへと向かった。
 今までの頑張りが水泡に帰したのは残念だが、この先一切そういうことがないとは限らないしな。
 レオンもガッツガツ食って飲んでるし、俺もアルコールを染みわたらせて腹を満足させる。
 他愛ない話をしながらいい気分になってきた頃、ふと近くで何やら話し合う人の会話が耳に届いた。
 内容は、とある森で精霊を見かけたという情報に関するものだった。

 俺の家の側の森に精霊が住んでいることは覚えているだろうか。
 この世界では、精霊は尊い存在である。
 魔法を使うには精霊の力を借りるからだ。
 精霊にそっぽを向かれてしまえば、使えることには使えるが、威力が落ちてしまう。
 逆に精霊に愛されれば、効果はアップする。

 そうなると、欲深い奴の中に、一人は現れる。
 精霊を捕まえて、精霊の力を自分のものに、と考える奴だ。
 これはサブクエストでもあったものだ。
 そんな奴に捕まった精霊を救い出すというクエストだ。
 これら精霊に関するものは精霊クエストという形で分類されている。
 それぞれの属性でなにかしらのクエストがあり、全てをクリアすると各属性の精霊王との邂逅があるのだ。
 その邂逅の後も二つだか三つだかのクエストがあり、それを終えれば『精霊王の愛』というアクセサリーが貰える。
 精霊王と纏めてはいるが、そこには精霊王の名前が入る。
 風ならば『シルフィーネの愛』になる。
 それを装備していると、最大MPが増え、魔法の威力が格段にアップするのだ。
 魔法職の人はこなすべきクエストだとサイトにも書いてあった。
 精霊王までいかなくても威力アップは見込めるので俺もいくつかはクリアしている。
 威力だけじゃなく、質も上がるからな。
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