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旅立ち
キナコ
しおりを挟む【 鮭とかえる 】5
◎ 第2章 夏
第3話 猫のキナコ・後編
川を下る鮭くんとかえるくん。
トカゲに襲われて、あわや絶体絶命のピンチを猫に救われます。
片目のない、大きなきな粉色のねこ。
隻眼ねこのキナコです。
真っ赤な太陽がきれいな夕ぐれ。
水辺の石の上と下。
姿かたちに大きさも違う3匹の生きものが集います。
「おれにも仲の良い兄弟がいたんだがなぁ。」
キナコが語りはじめました。
ここからもっと川下。
海に近い町でキナコは生まれたそうです。
兄弟は真っ白ねこのシロ。
夕焼け空の色のようなキナコに、雪のように真っ白なシロ。
人間の家族と仲良く暮らしていたそうです。
「人間の女の子がキナコと名前をつけてくれたんだ」
「キナコ?」
きな粉もちのきな粉とお餅から、その名前が付けられたとキナコは言います。
ですが、鮭くんとかえるくんには、きな粉もちが何のことだかよくわかりませんでした。
ある日。
いつものようにキナコとシロのふたりで遊んでいたとき。
とつぜん空から襲ってきたカラス。
連れ去られそうになったシロをかばい、カラスに体当たりをして闘うキナコ。
カラスの鋭い嘴につつかれ、片目を失くしてしまったそうです。
そんなことがあり、ふたりの仲はさらに深くなったそうです。
それが原因ではないんだけど、家では大きくなっていく2匹を飼えないことになり。
女の子のお婆ちゃんの家にキナコはもらわれていったそうです。
以来、シロには会っていません。
「ほんとうに仲がよかったんだよなぁ」
キナコがしみじみと語りました。
いつのまにか夜になっていました。
明るい夜。
空にはまんまるの大きな月。
満月に照らされたキナコの顔もまんまるです。
川面に映るのは、まんまるの月とキナコの顔。
「お月さまみたい」
かえるくんがキナコに言いました。
「ほんとだ。お月さまみたい」
鮭くんも言いました。
わはは~
わはは~
わはは~
3匹の笑い声が響きます。
鮭くんもかえるくんもキナコのほっぺをスリスリ。
かえるくんが言いました。
「またシロさんに会えたらいいね」
「ああ・・・」
「ちょっと話し過ぎたな。話を聞いてくれてありがとう
今日はもう寝るんだよ」
「明日の朝。出発を見送るよ」
「ありがとう」
「ありがとう」
そしてキナコは家に帰っていきました。
ふたりも岩陰で寝ることに。
翌朝
朝日がキラキラと水面に映ります。
「気をつけてなー」
「ありがとうキナコさん。また会おうね」
「ああ、元気でな」
ほっぺをスリスリ、スリスリ。
鮭くんはキナコの右の頬。
かえるくんはキナコの左の頬。
お別れです。
「がんばれよー」
「ありがとう」
「さよならー」
しばらくは川の流れに沿ってキナコも走っていましたが、だんだんと離れていくように。
いつしかキナコも見えなくなりました。
ふたたび川を下る日々。
鮭くんとかえるくん。
このころから、ふたりに新しい違いが現れます。
鮭くんの身体はますます細くなりました。
そして水の中でより早く泳げるように。
かえるくんの身体はしっぽが無くなり、手足が完全に生えそろいました。
もう早くは泳げませんが、水の中で止まったり、ジャンプをしたりと小回りがきくように。
また、水の外でもふつうに息ができるようになりました。
そんな手足の生えたかえるくん。
鮭くんの背中に乗って川を下っていくようになりました。
川はだんだんと大きくなってきました。
川が大きく、深くなるにつれて。
再びたくさんの鮭くんの仲間を見るように。
みんなが海をめざして川を下っていきます。
すると。
メスの鮭が近寄って言いました。
「また会ったわね」
「まだ鮭がかえると一緒にいるの?変なの。」
鮭ちゃんです。
鮭くんがこたえます。
「ぜんぜん変じゃないよ。だってぼくらは家族だから」
「ふーん。でもやっぱり変なの」
メスの鮭は不思議そうにふたりを見ました。
それでもいっしょに川を下っていくうちに、かえるくんとも仲良くなっていきました。
いつしかさんにんでいっしょにいるように。
川がますます大きくなってきたこの日。
水の流れも穏やかに。
そしてなんだか、水の味が変わったような気もします。
「海が近いみたいだね」
鮭くんが言います。
「そうみたいだね」
かえるくんも言いました。
海が近くなったら。
かえるくんは亀じいさんの言葉を思い出します。
「よいか、かえるよ。
おまえは海では生きられないんじゃ。
海の水は川の水とは違う。
川が大きくなり、流れがおだやかになるころ。
水の味が変わったなぁと思ったら、その先が海じゃ。
海の水はかえるには生きられん。
だからそこで鮭とはお別れじゃぞ」
鮭くんとかえるくんのお別れの日が近づいてきました。
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