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第2章 幼年編
718 グラシア動乱⑤
しおりを挟む【 ここまでのあらすじ 】
7の月。満月の夜。ヴィヨルドの主要都市グラシア。人口15万。
例年ならば夏の良くない風物詩の1つとして、出産期のブッシュウルフに気をつけましょうとの話で済むのだが。
今年は何十年、下手すれば百年に1度の規模といわれるブッシュウルフの襲撃が危惧される年となった。それは官民の有力者のグラシアからの一斉避難という形で如実に現れていた。
限られた人員でブッシュウルフの大群を迎え撃つというアレクの奇想天外な作戦。想定されるグラシアに残る住民は30,000人。
ヴィヨルド史に残る攻防戦がいよいよ始まる。
―――――――――――
机一面に広がったグラシアの地図上に、1号機(アレク)がブッシュウルフのキン消し型フィギュアと長い蛇をのせた。長い蛇。それは地図の両端にまで広がる紐にしか見えなかった。
「「なんだこれ?」」
「「ピ、ピーちゃん?」」
「「めちゃくちゃデカい‥‥紐?」」
「「蛇?いや紐だろ?」」
「「こんな蛇がいるかよ?」」
「「いたら神話の世界だぞ」」
「「「なんだこれ?」」」
「明日。ロナウ河に捨てるブッシュウルフの掃除を頼むピーちゃんだ。見た目は‥‥めちゃくちゃに怖いけど心優しい女の子だ。
絶対に、絶対に間違っても怒らせるな。ピーちゃんには明後日の朝までいてくれるように頼んどくから。
ピーちゃんがいてくれるからロナウ河沿いからブッシュウルフが襲って来ることは絶対にないからな。あとあのお貴族様がなんか悪さしようにもできないからな」
「見かけたらピーちゃんに声をかけろ。お礼も言えよ。ピーちゃんは人の言葉をもちろん理解できるんだからな」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「えっ!?」」
「「まさかホントに大蛇?」」
「「本当にこんな蛇なのか?」」
「ああピーちゃんだ」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「なによアレク!?まさか神話の世界の住人とも知り合いになったの!?」
「あははははは。神話の世界かどうかは知んないけどな。まあとにかくだ。ピーちゃんさえいれば、ロナウ河に関しての問題はすべて解決するだろ。あと、あのお偉い貴族様にはピーちゃんのことを内緒で頼むわ」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
わははははは
ワハハハハハ
がははははは
フフフフフフ
あははははは
「2号機君。1号機君といると退屈しないことばかりですな!」
「ちょっぴり迷惑なんですけどねボイス団長」
「「ホントよ」」
「「違いない!」」
「ひどい!お前ら友だちじゃねぇのか!」
わははははは
ワハハハハハ
がははははは
フフフフフフ
あははははは
ギュッギュッ
狐仮面を改めて被り直して。俺はみんなに宣言したんだ。
「では1点鍾後。サカス東門から出発だ。グラシアで会おうぜ」
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!
▼
「先導の騎士団は途中のブッシュウルフに一切構うな。早駆け3点鍾でグラシアに向かうぞ」
「「了解した1号機君!」」
ダッダッダ ダッダッダ ダッダッダ‥‥
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥‥
御者さんの横に仁王立ちして矢を番える俺をバス馬車から眺める10傑の仲間たち。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥‥
「いつのまにかアレクが隊長さんになっちゃったね。すごいことだけど」
「違うにゃ。ダーリンは元から団長にゃ」
「そうだよな。アレクは狂犬団の変態団長だ」
「僕もそう思う」
わははははは
ワハハハハハ
フフフフフフ
「でもよ。今もあいつだけブッシュウルフ射かけてて、俺らただ座ってるだけなんだよな」
「セロそれは違うぞ」
「モーリス?」
「俺たち10傑も、俺たちにやれることをやるんだよ。だから今の休憩も仕事だろ」
「はい。モーリス様の仰るとおりです!なにせこのあと、1号機にこき使われるんですから」
「「「それもそうだな」」」
わははははは
ワハハハハハ
フフフフフフ
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥‥
「みんなにお願いがあります」
「「なにセーラ?」」
「「どうしたセーラ?」」
「「「?」」」
「絶対に。誰1人大きな怪我をしてはだめですよ」
「どういうことにゃ?」
「みんなが取り返しのつかない怪我を負ったら‥‥‥‥」
「アレクが泣きますよ」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「うんセーラさん。僕たちみんな誰も傷つかないからね。だってアレク君の楽しみにしてる‥‥なんだっけ‥‥しゅーがくりょこうだもん」
「「そうだな」」
「「そうよ」」
こくこく
コクコク
こくこく
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥‥
「「それにしても‥‥」」
「「なによこれ‥‥」」
「「まさかこれって‥‥」」
ごくんっ‥‥
ゴクンッ‥‥
ごくんっ‥‥
夜半。
バス馬車の車窓から見えるのは、街道から不自然に外れた位置にある馬車や壊れた木製の輪。あるいは鍬やハンマー。おそらく人が着けていたであろう宝飾品や帽子……。
夜半故、血が滲んだ街道がどこまでも赤黒くなっていたのには誰も気づかなかった。
が。
10傑獣人の3人はひそひそ と語り合った。
「「(トール‥‥)」」
「「(シナモン‥‥)」」
「「(ハンス‥‥)」」
(((血の匂いしか残ってない‥‥)))
ダッダッダ ダッダッダ ダッダッダ‥‥
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥‥
松明を片手の騎士団員さんに先導されて俺たちのバス馬車も快速特急でグラシアに向かったんだ。
本来ならブッシュウルフの襲撃は明日の満月の夜だけのはずなのに。
グラシアに近づくにつれて頻繁に襲ってくるようになっんだ。道中には不幸にして物言わぬ骸のようなものが何百、下手すりゃ何千もいたんだ。骸といってもブッシュウルフのエサにならない物ばかりだったけど。
カチッ!
カチッ!
実はこのとき。青い陶製のペンダントを2つ、バス馬車が踏みつけていったんだけど‥‥‥‥俺たち10傑は誰もそれに気づかなかったんだ。
それがキャロルの産みの母親と長男の身につけられていたアクセサリーであることに。今回の件が終わってから、遺留品の中からキャロルが見つけるんだ。
ダッダッダ ダッダッダ ダッダッダ‥‥
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥‥
無意識のうちに。胸元の青い陶製のペンダントに手を遣るキャロル。
(大丈夫。みんな大丈夫よ‥‥)
▼
「ガァァァッッッ!」
ダッダッダ‥‥
「ガァァァッッッ!」
ダッダッダ‥‥
「ガァァァッッッ!」
ダッダッダ‥‥
従来のブッシュウルフなら、騎馬隊には決して近づかないはずなのに。ダンジョン内の魔物みたく、真っ赤な目で向かってくるんだ。
シュッッッ!
「ガァァッッ!」
ダウゥゥッッ!
シュッッッ!
「ギャンッッ!」
ダウンッッッ!
駆け寄ってくるブッシュウルフは全方位200メルたどり着く前に一矢で屠り去っていく。俺の魔力探索にシルフィの補正があるから100発100中だよ。
ダッダッダ ダッダッダ ダッダッダ‥‥
「ボイス団長、1号機君を見ていると楽しくなってきますな」
「はっはっは‥‥私たちは死地に向かってるはずなんだけどね」
「仰るとおりです」
わははははは
ワハハハハハ
「しかし‥‥」
「異常ですな‥‥」
ダッダッダ ダッダッダ ダッダッダ‥‥
「シルフィやっぱおかしいよな」
「ええ。本当に10,000体くらいになるんじゃない?下手すりゃそれ以上‥」
「せめて初動で数を減らしたいな」
「そうね‥‥」
誰か応援が来てくれないかな。でなきゃ圧倒的な数の暴力の前に流石に守りきれないぞ……。
ダッダッダ ダッダッダ ダッダッダ‥‥
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥‥
―――――――――――
不定期更新ではありますが、できるだけ間隔を空けずに更新できればとがんばっています。
更新時間は従来どおりの午後9時を予定しています。
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