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第2章 幼年編
712 修学旅行の楽しい夜
しおりを挟むこの日はサカス1の高級ホテルに泊まったんだ。気分はまんま修学旅行の夜だよ!美味しいものをみんなでわいわい言いながら食べるんだ。やっと修学旅行に参加できるよ!
「「ただいまー」」
「「「おかえりー」」」
ホテル1階のロビーにはみんなが待っててくれたんだ。
「あれ?キャロルは?」
「キャロルは父ちゃんと母ちゃんの3人でもう少し話してから戻るってさ」
「「そっか‥‥」」
「で、どうだったんだアレク?」
「まあ予想通りだな。キャロルの養父母のサンヨー商会はシロ。
今回の悪事は、その弟でキャロルの産みの親のトロイ商会がやったことだよ。なあアリシア」
「ええ。アレクの言うとおりよ」
「「「酷い父親だな‥‥」」」
俺もアリシアも、キャロルの実父がギャンブルで身を崩したって話はみんなにはしなかったんだ。だってそこまで言う必要はないじゃん。
「で、モーリスのほうはどうだった?」
「これも予想通りだよ。あの商人を動かしていたのはグラシアのトロイ商会。やっぱりキャロルの実父だよ」
「「「‥‥」」」
「モーリス、騎士団はどうするんだ?キャロルの産みの親はどんな裁きを受けるんだ?」
「誰かを襲ってたら問答無用で死罪だな」
「俺ら誰も襲われてないよな?なあみんな?」
「「「???」」」
「アレクがそう言うなら、そうなんでしょう。それは女神様もお認めになるでしょうね」
「「だな」」
「「そうだよ(そうよ)」」
「そうにゃ」
「ってことで俺らは何も知らない。ただの悪徳商人を騎士団さんに引き渡しただけだ。な、モーリス?」
「お前がそう言うと思ったよ。サカスの騎士団にはなにも言ってないぞ。
野盗が襲ってきたけど、連れ帰った商人とは別だってな。だがアレク、これまでやってきたことは別だぞ」
「さすがモーリス!ってことはキャロルの産みの親が死刑ってことはないよな?」
こくこく
「くどいが、これまでなにもしてなければな」
「じゃあ‥‥」
「誰も殺したり襲ってないなら、死罪は免れるだろうな。ただ‥‥偽造の罪は免れないぞ。初犯ならいいが、どうも結構手広く犯罪行為に手を染めてたみたいだからな。
よくて有期、悪けりゃ無期の奴隷落ちだろうな」
「まああれだ。俺たちはキャロルさえ納得してくれるんならいいんだよ」
こくこく
コクコク
こくこく
「キャロルももうすぐ帰ってくるだろうから、いつも通りに迎えようぜ」
「「「おお(そうだな)」」」
「そうだアレク。ちょっと厨房まで付き合ってくれよ。お前、サカスじゃ何食えるのか興味あるだろ?」
唐突にモーリスがそんなことを言ったんだ。
「食い物?うーん、あんまりないぞ。サカスは帝国とグランドに行くときに何度か来てるからな。だけど、ここは食べ物はふつうだったし‥‥」
「まあそう言うなよ。ほらちょっとだけだ。ついてこい」
「ん?モーリス?」
―――――――――――
半ば強引にモーリスに連れられるまま、ホテルの厨房まで来たんだ。
厨房には‥‥‥‥たくさんの料理人が待ち構えていたよ。
「「まさか!?本当にヴィンランドのシェフですか?」」
「い、いえ。俺はただの‥」
「はい。こいつがシェフです」
「「おぉーーー!」」
「「やったーー!」」
「「うおおぉぉぉーーっ!ついにサカスにもシェフが降臨だーー!」」
「「すげぇ、すげぇ!」」
「(モーリス、お前裏切ったな!)」
「(フッ。なんのことだかなーー)」
「くっ‥‥」
「「さあシェフどうぞどうぞ。厨房にお越しください」」
「「ささっ、こちらでございます」」
「(チクショー!モーリス覚えてやがれ!)」
▼
厨房にはホテル専属の調理人を始めたくさんの料理人がつめかけていたんだ。
くそっ!今さら逃げられないじゃねぇか!
「アレクシェフ。領都でこれから流行るものを我々にもご伝授いただけませんか?お願いします」
やっぱりこうなるよな……。
「「アレクシェフ!お願いします!」」
「「アレクシェフ!」」
くそーっ!モーリスの裏切り者め!覚えてろよ!
「それでしたらパンを改めて覚えられてはどうですか?領都でもこれからパンは間違いなくきますよ」
「「パンですか?」」
「「パンねぇー?」」
「「「なんで???」」」
そうなんだ。この世界でのパンは冒険者にもおなじみのバゲットがほとんどなんだよね。
小麦を外皮も取らず、茶色いまま適当にまとめて挽いて、塩と水だけで焼いたもの。味は2の次。とにかく保存を最優先にしたパン(バゲット)だから、塩味強めの堅いだけのパン……。これを疑問も感じず口に運ぶ。
「小麦粉は細かく挽いてください。外皮もちゃんと取ること。
小麦粉に加える塩の量、加える水の量、発酵させる時間で、ちゃんと計ること。それだけでまるで違ったパンになりますよ」
「「へぇーなるほど‥‥」」
みんなが鉛筆を走らせてるよ。
「今から焼くパン。これは水を小麦粉の量と同量加えて、発酵させてます。俺は風魔法を使いますが、魔法をつかわなければ1晩しっかり発酵させてみてください。慣れるまでちょっと難しいですけどね。
そしてできたパンがこれです」
話をしながら発酵時間も風魔法で短縮させる。これぞ魔法万歳の調理法。
「どうぞ。食べてみてください」
「「柔らかい!」」
「「手で千切れるぞ!」」
「「香りも甘い!」」
もぐもぐもぐ‥‥
モグモグモグ‥‥
「「なんだこれ!」」
「「うまい!」」
「「柔らかい!」」
「「「うま~~~~~いっ!」」」
「次いきますよ。同じ細かく挽いた小麦粉でも、コッケーの卵とカウカウのミルクと甘味を加えて、じっくりじっくり熱を通していけば‥‥‥‥カスタードクリームができます」
「これもご試食ください」
「「俺も!」」
「「私も!」」
「「俺も俺も!(私も私も!)」」
なんだよこの人たち。めちゃくちゃ勉強熱心じゃん。
ぺろっ‥‥
ペロッ‥‥
「「なんだこれ!」」
「「うまい!」」
「「舌の上で溶けたよ!」」
「「甘~~~~~い!」」
「「「うま~~~~~いっ!」」」
「このカスタードクリームをサクサクのパイ皮に詰めたものがシュークリーム。今、帝都で大流行りのお菓子です。それと、このカスタードクリームを詰めて焼いたパンがクリームパンです。どちらも領都で始まったばがりのパンです。召し上がれ」
「「うおおおぉぉぉぉぉーーーっ!」」
「「これだあああぁぉぁぁぁーーーっ!」」
「「サカスの調理界の革命だあああぁぉぁぁぁーーーっ!」」
「じゃあ失礼します」
俺はみんなとわいわい楽しみたかっただけなのに……。くそー!モーリスのやつ、ぜったいあとで懲らしめてやる!
―――――――――――
「「「キャロルおかえりー!」」」
「ただいまーーみんな!」
それからしばらくしてキャロルも戻ってきたんだ。
「「メシいこうぜ!」」
「「腹減ったよ!」」
「「もうぺこぺこだよ!」」
サカス料理に変わったものはなかったよ。でもみんなで食べるサカスの食事はおいしかったし、めちゃくちゃ楽しかったんだ。
「なんか修学旅行みたいだな‥‥」
「しゅうがくりよこう?なんにゃダーリン?」
「あはは。みんなと一緒だから楽しい旅行だなっていう意味だよ!」
「うちも楽しい!」
「だろ!」
ワハハハハハ
フフフフフフ
そういや俺、修学旅行って行ってないんだよね。
向こうの世界じゃ、そのころは身体中にいっぱい線や点滴みたいなものを付けられて、ただ痛くて死ぬのを待つだけだったから。
▼
「さて、風呂でも行くか?」
「「風呂?」」
「「えっ!?ここお風呂があるの?」」
「そりゃあるよ。なんせサカス1のホテルだからな」
キタキタキタキターーーーー!
ついに来たよ。このときが!ここには天敵の寮長もいない。ついに見れるのか!?
―――――――――――
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