アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

711 キャロルの覚悟

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 【  キャロルside  】

 アレク、キャロル、アリシア
 キャロルの養父母
 

 「つい3点鍾ほど前。冒険者に襲われて馬車を燃やされている商人を助けました」

 「‥‥馬車の積荷を見ましたか?」

 「ええ。サンアレ商会のタグが貼られた見た目正品の制服がたくさんありました。まあ精巧に作られた偽造の制服ですが」

 「そうか。アレク君はあれを見たのか‥‥」

 そう言ったキャロルのお父さんのデイ・エックスさんは天を仰いだんだ。お母さんのアイシャさんは両手で顔を覆っていた。

 「その直後に。推し量ったかのように20騎ほどの野盗が襲ってきました」

 「「えっ!?」」

 「「まさか‥‥」」

 「おとうさん、お母さん、アレクは銀級の冒険者なの。アレクがいなかったら私たちの誰かが怪我をしてたいへんなことになっていたわ」

 「「ぎ、銀級?!本当かいキャロル!?」」

 こくこく

 「エックスさん、賊の格好した冒険者が偽造品を襲ったのは初めてじゃないんですよね?
 待ち構えていた野盗がいたってことは」

 こくこく
 コクコク

 「賊の格好をした冒険者は俺が逃しました。顔見知りでしたから。
 助けた商人と冒険者はサカスまで馬車で連れてきました。
 ですが彼らは、最期まで俺たちをただの学園生と思ってるようでした」

 「「‥‥」」
























 「冒険者のフォックスたちを賊に扮しさせて模造品の輸送を阻止。商人たちの生命は奪わないよう指示。

 この依頼を出したのはエックスさんですよね?」

 「はい。フォックスさんたちはこれまでも何度か護衛を引き受けてもらい、顔見知りでしたので」

 キャロルのお父さんは大きくため息をついたんだ。

 「そうですか‥‥アレク会頭は‥‥もうそこまで知っているんですね」

 こくこく

 「フォックスたちはヴィンランドの冒険者ギルドの顔馴染みですから」

 「‥‥そうですか。それでトロイ商会関係の商人はどうなりましたか?」

 「仲間にはヴィヨルド領主の次男モーリスもいますので。今モーリスが騎士団さんのところへ行って、商人たちの尋問に立ち会っています。もう主犯は判明してるころです」

 事のあらましを包み隠さず話したんだ。キャロルの今のご両親デイ・エックスさんとアイシャさんは偽造品の製造販売には一切関わりのない、シロだって思ったから。

 「あなた‥‥イレヴンさんは‥‥」

 「アイシャ‥‥もうどうしようもない‥‥」






 【  モーリスside  】

 モーリス、セバス
 サカス所属ヴィヨルド領騎士団
 グラシア在住の商人


 「で‥‥お前はこちらのお方を傷つけようとしたんだな?」

 「こちらのお方?なんでガキに敬語なんか使うんだよ。そんなんだからお前ら騎士団はふ抜けなんだよ!」

 「‥‥お前は本当に知らないのか?それでよくヴィヨルドで商売ができたもんだな?」

 「なにがだ!このガキがなんぼのもんじゃい!」

 「こちらにおわすお方はモーリス・ヴィヨルド様だ。ご領主様の次男にあたられる」

 「う、うそだ‥‥」





 「せめて真実を話すことだな。拷問はもとより‥‥お前だけではなく、お前の妻子、親族、すべての家族諸々2度と自由に出歩けることはないぞ」

 「はい。失礼致しましたモーリス様‥‥」





 【  ハンスside  】

 ハンス、シナモン、トール、セーラ、セバス


 セーラに付き添ってサカスの教会に来たんだ。セーラは神父様やシスターたちに挨拶に行ったよ。

 セロは教会のモンク僧に会いに行った。稽古をつけてもらうんだって。

 「ハンスもう落ち着いたかにゃ?」

 シナモンが俺を気遣ってくれたんだ。

 「ハンス君もう大丈夫だよね?」

 トールも気遣ってくれた。

 「ああ、もう大丈夫だ。悪かったな。取り乱して」

 「いいんだよ。だって僕たち子どものころからの仲間じやないか」

 「そうにゃ。ハンスは大事な仲間にゃ」

 「あははは。取り乱してみんなにも迷惑かけたよな俺。
 じゃあ教会学校の子どもたちに会いに行くか。遊んでやろうぜ」

 「「そうだね(そうするにゃ)」」




 クンクン  クンクン  クンクン‥‥

 なんだろうな。
 サカスに来てから、やたらと緊張した人の臭いがするんだよな。人族なら脇汗っていうのかな。

 さっきも家族揃った獣人が笑って歩いてたけど、緊張の汗の臭いがしてたし。「もう大丈夫だ」とか言ってたな。

 「なあトール、シナモン。変な臭いがしないか?」

 「するにゃ」

 「うん。サカスに来てから緊張した人の汗の臭いがするよ。まるで魔獣から逃げてきた人の臭いだね」

 やっぱり……。俺たち獣人は人の何倍も嗅覚に優れているからな。熊獣人のトールは獣人屈指の嗅覚を持っているんだ。

 「なにかにゃ?」

 「街は異常ないみたいだね」

 2人が言うように、サカスの街自体からは嫌な雰囲気はないんだよな。
 
 なんかあったのかな。





 【   再びキャロルside  】

 アレク、キャロル、アリシア
 キャロルの養父母

 
 「キャロル、少し外してくれるかい?」

 「嫌よおとうさん!」

 「ここからはキャロルには辛い話になるんだよ。おとうさんはキャロルを辛い目に遭わせたくないんだよ」

 「キャロル、あなたのお部屋に行ってお母さんとお茶でも飲みましょう。学園の話を聞かせてくれるかしら?」

 ぶるんぶるん。

 キャロルが強く首を左右に振ったんだ。

 「私もアレクと一緒に聞きたいの。
 おとうさんとお母さんの娘としてちゃんと聞きたいの。
 だっておとうさんとお母さんは私にとってかけがけのない両親だもの。

 うちのサンヨー商会は悪事に一切加担してない。たとえトロイ商会が悪事に加担してても、うちは信用第一、噂だってあっちゃいけないことだから。私の尊敬するおとうさんが下した決断を私も理解したいの!」

 「「キャロル‥‥」」

 「私の大好きなおとうさん、お母さん。私にも聞かせて!
 だってお父さんはいつも言ってるもの。『従業員さんも家族だって』。
 そんな家族を路頭に迷わすことなんてあっちゃいけないわ!」
















 「「「キャロル!(おとうさん!お母さん!)」」」

 「「「う、うっ、うっ‥‥」」」

 抱き合った3人の嗚咽はいつまでも止まなかったんだ。




 ▼




 しばらくして3人が落ち着いてから。キャロルのお父さんデイ・エックスさんが語り出した。

 「サンヨー商会は、元はグラシアの小さな商会でした。
 本来は10男の私が継ぐこともなかったんです。もちろん弟も。末っ子のレイヴン、キャロルの産みの親ですが、彼も商会主になることもなかったでしょう」


 「ところでアレク会頭はブッシュウルフをご存じですか?」

 「はい。弱い魔獣ですがゴブリンと同じで多頭になれば危険だといわれている、あのブッシュウルフのことですよね?」

 「ええ。会頭の仰るとおりです。
 グラシアは元々7の月の終わりの満月の夜。産後明けのブッシュウルフの群れが徘徊しているのが歳時記とまで謂れている街でした」

 「30年前の7の月の末。満月の夜のことです。
 グラシアをこれまでにない大群のブッシュウルフが襲いました。その数10,000頭‥‥」

 「10,000!?」

 なんだそれ?スタンピードみたいじゃないかよ!

 「グラシアの多くの街の人間が亡くなりました。
 うちの家族も私と末っ子のレイヴン以外は皆ブッシュウルフに‥‥。

 そしてサンヨー商会を私が継ぐことになりました。おかげさまで商売は順調となり、人も増えていきました」


 「そのころです。私にサカスで商いをしないかとお誘いがあったのは。
 そこでサンヨー商会として私がサカスに行き、グラシアにはたった一人の弟イレヴンを、新たにトロイ商会として任せることにしたんです」


 「キャロルの前では言いづらいことなんですが、弟のイレヴンは賭け事が好きで仕事を疎かにすることも多々あったんです。
 ですが従業員も入れ、家族もできたことから心を入れ替えて働いてくれるかと‥‥」

 「結果、トロイ商会はあっという間に多額の借金を抱え‥‥。
 私と妻には子どももなく、このキャロルを本当の娘のように可愛く思っていましが‥‥‥‥弟のイレヴンは当時グラシアで評判になりつつあったキャロルの魔法の才に目をつけたんです。あろうことか実の娘まで賭け事で作った借金の形に‥‥‥‥。

 そこで私たち夫婦がレイヴンの借金をすべて肩替わりし、キャロルを養女として迎え入れたのです。あのとき、そのままにしていてはキャロルの身が心配でなりませんでしたので」

 ここまで一気に語り終えたデイ・エックスさんはキャロルに向かって詫びたんだ。

 「ごめんよキャロル。これまで黙っていて」

 「うううん。本当のことがわかって良かった‥‥おとうさん。お母さん‥‥」

 そこからのデイ・エックスさんの話は想定どおりだったんだ。

 再び、賭け事に狂うようになったキャロルの実父は膨らみに膨らんだ借金を穴埋めするべく、偽造品の製造と販売に手を染めて……。


 「せめて偽造品が世に出回らないようにと、私は護衛を通して顔見知りになったフォックスさんに冒険者ギルドの仕事を依頼しました。
 これが事の真相です‥‥」


 ヴィヨルド第3の都市グラシアはカミール・ミョクマル商業ギルド長の出身地なんだ。サカスが製紙業で栄えるようになったのと同じ、グラシアも紡績の街として名高いものになったんだよね。

 活況の街で、必ず現れる不心得者。


 「わかりました。エックスさん、今後ともサンアレ商会をご贔屓にお願いします」

 もう俺からは何も言うまい。あとはモーリスを通じて騎士団さんの判断を仰ごう。

 「アレク会頭!私は‥」
 
 「行くぞアリシア」

 「うん」

 「キャロル、夜ご飯までには帰ってこいよ。でなきゃメシ抜きだからな」

 「うん!」

 深々と頭を下げるキャロルのご両親と別れを告げてホテルに戻ったんだ。

 「アレク、あんたカッコよかったわよ!」

 ひしっ。

 そう言いながらアリシアが俺の腕に身体を預けてきたんだ。

 えへへへっ‥‥

 「もうこの変態!鼻が膨らんでるって!」



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