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第2章 幼年編
708 夏の大冒険 ⑤ キャロルの覚悟
しおりを挟む「「「どういうこと?」」」
「そのまんまの話なの。サカスのサンヨー商会は今の私の育ての両親。グラシアのトロイ商会は産みの両親なの」
「「「???」」」
「私、グラシア生まれでね。風魔法を早くから発現できたから町では割と有名だったんだ」
こくこく
コクコク
「教会学校のあと、今のヴィンランド学園に進学したかったんだけど、お父さんが仕事に失敗してね。たくさん借金を作ったの。お金もないから弟の教会学校も続けられないくらいになって。
だから私は学園進学も諦めていたんだ」
こくこく
コクコク
「お父さんにはお金持ちのお兄さんがサカスにいてね。前からずっと私を養子にほしいって言ってたんだって。お兄さん夫婦には子どもがいなかったから。
それで借金を返したいお父さんがお兄さんに頼んで……。
借金をなくしたいお父さんの思いと、私の学園に行きたい思いが一致したっていうのかな?
それとも私が貧乏が嫌だったのと、お父さんには女の私より弟2人のほうが大事だったのかな?」
「「そんな‥‥」」
「とにかくそんな理由もあって私は今の家の養女になったの」
「「「‥‥」」」
「でもね、今のお父さんとお母さんは本当の子どもみたいに私に優しくしてくれる。なんの不満もないわ。
でも結局私は‥‥‥‥学園に行きたいために弟たちを裏切ったんだよね‥」
「「「‥‥」」」
「なあキャロル‥‥お前のその話、前に俺に聞かせてくれたよな?」
「うん‥‥」
「それ以来、元の家族には会ってないし、連絡も取ってないんだよな?」
「うん‥‥」
「勝手なこと言うぞ」
こくこく
「あのときから俺は、お前のどっちの親もとっても良い人みたいな印象を持ってたんだよ」
こくこく
「でもな、今回の件‥‥あの冒険者たちが俺に嘘をつくとは思えないんだよ。それと、今見た制服は間違いなく偽物だ。あれは俺の名前で俺が責任持って売ってもらってるからな」
こくこく
「言いたくはないけど、どっちかの親、あるいは両方の親が悪いことをしてるってことがあるかもしれないぞ?」
「うん‥‥」
「偽物を作ってたのがバレたら‥‥とんでもない賠償金の話になるぞ?しかも金だけで済んだらいいけど、なあモーリス?」
「ああアレク。よくて奴隷、下手すりゃ死刑だな」
「なキャロル。もう、このままにしたほうがいいんじゃないか?あの人たちをサカスまで届けてさ?」
「うううん。アレクには申し訳ないけど私は真実が知りたい。もし‥‥それが最悪な話になっても後悔しない。
だって、私もあと2年で成人だもん。これからは‥‥今もだけどもっとちゃんと生きていきたいもん。
10傑のみんなとこれからもずっとずっと仲良くしていたいもん。
最悪‥‥学園にいられなくなっても‥‥」
「「「キャロル‥‥」」」
「おい‥‥?」
「おい‥‥‥‥馬鹿アレク?」
「「セーラ言い方!?」」
「「「あっ!‥‥‥‥ホントだ」」」
「ダーリン鼻水出てるよ!涙も!」
「うっ、うっ、うっ‥‥」
「なんでアレクが泣いてるのよ!」
「だって、だってなぁアリシア。ズビビビビビーーーーーッッ!」
「あんた汚いわね!なんで制服の袖で涙を拭くのよ!」
「うわっ!アレク君制服から鼻水垂れてよ!」
「ダーリンばっちいにゃ‥‥」
わははははは
ワハハハハハ
フフフフフフ
「みんなごめんね。心配かけて。でも私は大丈夫よ」
「「「キャロル!」」」
キャロルを囲むようにセーラ、アリシア、シナモンが抱き合った。
「あのね、私みんながいてくれてよかった。今、この旅行もね、とってもとっても楽しいわ!」
こくこく
コクコク
こくこく
「俺も楽しい!」
「私も楽しい!」
「「俺も!」」
「「私も!」」
みんなが、8人がキャロルを囲んだんだ。
「お、俺も入れてくれよー」
「「寄るな1号機!」」
「「ばっちいぞ1号機!」」
「「あっちいけ1号機!」」
「くっ‥‥」
わははははは
ワハハハハハ
フフフフフフ
「じゃあ、今解決するのはあの人たちのことだな」
「どういうことにゃ?」
「あのなシナモン、あの襲ってきた冒険者が実はまともで、そこにいるあの人たちが悪者の可能性があるんだよ」
「どういうことにゃモーリス?」
「少なくとも、偽物の制服をいっぱい積んで運んでる商人と、偽物の廃棄依頼を受けて襲ってきたけど、アレクにちゃんとわけを話して誰も殺していない冒険者。
どっちが正しいのかっていえば、やっぱ後者だろ」
「私もそう思います」
「俺もそう思う」
「でもなアレク、そこの商人が運んでた制服が偽物だってことを知らなかったんなら話はさらに違うぞ」
「だよな。わかった。あの人たちもバス馬車に乗せてサカスまで行くからな。じゃあみんなはサカスに着くまで適当に話も合わせてくれよ」
「「「わかった」」」
「なんにせよ尋問は俺らガキよりサカスの騎士団さんに任かせるしかないじゃん。それとキャロルももう1つ持ってきた猫仮面を被っとけよ」
「わかった‥‥」
1年のとき。キャロルの出自は、初めての夏の寮の合宿で教えてもらったんだよな。
キャロルはヴィヨルド第3の都市グラシア生まれで、今は第2の都市サカス住まい。グラシアには大好きだった弟が2人いるんだよな。
さて。どうするかな。
俺はフォックスたちが嘘をついてるとはとても思えない。ってことはやっぱりキャロルの産みの親がやった不正……。
ダッダダ‥‥
ダッダダ‥‥
ダッダッダッダ‥‥
「ハンス!トール!シナモン!」
「「「騎馬がたくさんくる(にゃ)!」」」
「セーラ!」
こくこく
「全員密集陣形!」
「「「おぉ!」」」
ダッダダ ダッダダ ダッダダ ダッダダ ダッダダ‥‥
森に隠れていたのか、20騎を超える輩が向かってきていたんだ。
身体から臭う悪臭と人の血の匂い。
間違いない。こいつらは野盗の類いだ。
「アリシア!赤以上のファイアボールを人に当てたことは?」
「も、もちろんないわよ!」
「キャロル!エアカッターで人を切断したことは?」
「な、ないに決まってるわよ!」
「シナモン!全力の鉄爪を人に向けたことは?」
「な、ないにゃ!」
「ハンス、トール、セロはいけるな?」
「「「大丈夫だ」」」
「モーリスとセバスもいけるな?」
こくこく
コクコク
「さっきと一緒だ。全員仲間と背中合わせ、自分と仲間だけを守れ!
セーラはいざとなったは聖壁を頼む!」
「わかりました」
「今から仲間のみんなには俺の本当の姿をみせる。辛かったら目を瞑っててくれ」
こくこく
コクコク
がしっ!
ガシっ!
「今さらだろ」
「気にすんな」
俺の左右の肩をモーリスとハンスが掴んで微笑んでくれた。
「ありがとな。お前ら」
「来るぞ!」
ダッダダ ダッダダ ダッダダ ダッダダ‥‥
野盗20騎の顔までくっきり見えてきたんだ。野盗からも俺らを視認したみたいだ。馬の脚もゆっくりになったんだ。コイツら勘違いしてるよ。
「くそっ!アイツら遅いんじゃ!大切な商品が台無しになったわい!」
「「「えっ?」」」
「ああ、お前たち、学園生か。あれはわしの仲間だ。心配するな」
保護した商人が言ったんだ。続いて冒険者も言葉を発したんだ。
「くそーっ!殴られ損じゃねぇかよ。もっと早く来るんじゃなかったのかよ!」
「ホントだぞ。なあ商人の旦那さんよ、こりゃ痛くてたまらんぞ。割増賃金をくれよ。ギャハハハハハ」
「仕方ないのぉ。まあいいじゃろ。では、この学園生さんの乗ってきた馬車をもらうか。なにやら初めて見る馬車じゃしの」
「それはいい。見たことのない馬車じゃからな。こりゃ高く売れるわい」
わははははは
アハハハハハ
ギャハハハハ
「ガキは10人いるからな。燃えた制服の分はガキの奴隷代すればなんとか元はとれるだろ」
「商人のダンナ、俺にこの学園生の女の子をくれよ。赤い髪の子かな」
「俺は獣人の娘な」
「俺は猫の仮面、どっちでもいいや。どんな顔がわからんのをひん剥くのもそそるだろ」
「好きにせい」
ギャハハハハハ
わはははははは
ギャハハハハハ
「はい確定。じゃあセロ、トール、アリシア、キャロル、シナモン、ハンスはそこの悪徳商人たちと冒険者たちを逃げないように確保な。縄あったら縛っといていいぞ」
「「「了解(にゃ)」」」
「な、なにをする!」
「「触るな!やめろガキ!」」
「2号機と3号機は御者さんを頼む」
「「わかった1号機」」
ダッダダ ダッダダ ダッダダ ダッダダ‥‥
ダッダダ ダッダダ ダッダダ ダッダダ‥‥
ダッダダ ダッダダ ダッダダ ダッダダ‥‥
ダッダダ ダッダダ ダッダダ ダッダダ‥‥
ダッダダ ダッダダ ダッダダ ダッダダ‥‥
総勢20人の野盗が来た。
「「なんだよ?ガキにやられたのか?」」
「「情けねぇーな」」
「遅いぞお前たち!」
「すまんすまん。いやー旦那、ちょっと飲み過ぎちまって遅れたわ」
「「わりいわりい」」
ギャハハハハハ
あはははははは
アハハハハハハ
「「「アレク‥‥」」」
「そんじゃあ冒険者の本気を見せてやるよ」
―――――――――――
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