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第2章 幼年編
701 デニーホッパー村の会議(後)
しおりを挟む「遅いぞケイト。若いくせにお主が1番遅いわ!」
「老師‥‥『サウザニアに寄る。久しぶりにモンデールと飲みたいから』
こんな言伝を聞いた私は幻聴を聴いたのかしら?」
「あっ!す、すまん‥‥そうじゃった。忘れておった‥‥」
「老師よ。いよいよボケてきたかの。アレクが帝国でわしら年寄りのための終の住処りぞおとを作ってくれとるというが、これは老師が先に行くべきかの」
「フン!わしはまだまだ若いわ!」
わははははは
ワハハハハハ
フフフフフフ
―――――――――――
「これもアレク君かサンデーちゃん?」
「ええ先生」
「カッカッカ。なんとも愉快なことよ。カッカッカ」
デニーホッパー村にはアレクが発現した男子寮そっくりの来客用の宿舎兼集会所がある。
といってもヴィヨルド学園男子寮を見たことがない村人ばかりなので、石造3階建の建屋は村1番の高級な建屋との認識が村人の皆にはあった。
そんなデニーホッパー村の大会議室。
ふだんは隣村から来る多数の仲間などを受け入れる大部屋が、この日、その本来の用途に使用されようとしていた。
デニーホッパー村開村以来、初の大会議の開催である。
◎ デニーホッパー村役員会議
・ 来賓紹介
・ 問題提議(現状報告)
・ 問題解決に向けて
・ 質疑応答
黒板には、白いチョークで会議の議題が書かれ赤いチョークで下線が引かれていた。
黒板とチョーク。この世界で当たり前のように使われているのはこの村と近隣の村、サウザニア学園、ヴィンランド学園と帝都学園であることを村人は知らない。
この日、開拓村デニーホッパー村に縁のある識者を交えて。開村以来初となる会議が開かれようとしていた。
―――――――――――
ひそひそ ざわざわ
ヒソヒソ ザワザワ
「「なんの会議だ?」」
「「こんなの初めてじゃないか?」」
「「エルフの偉い人もいたぞ!?」」
「「私、エルフ見るの初めてよ!」」
大会議室では黒板を背に向かい合う形で、司会進行のディル神父、シスターナターシャ、王都顧問
テンプル老師、マモル神父、シスターサリー、サンデーが並んでいた。
対面に居並ぶのは村長チャンを筆頭、開村以来の農民を中心としたデニーホッパー村役員である。
役員中心の村民50人ほどの最後尾には、派遣されているトマスとマイケルのサウザニア領都騎士団員。
「(お、おい。なんで俺らもいるんだ?)」
「(知らねえよ。村長が来いっていうんだから)」
多くの村民同様に。なぜ自分たちがこの場にいるのか、理解できずにいる2人である。
ひそひそ ざわざわ
ヒソヒソ ザワザワ
「「!」」
「「!」」
「「!」」
室内からざわめきが消え、100余りの目線が司会者に注がれた。
「待たせたの皆の衆。今日集まってもらったのはデニーホッパー村始まって以来の重要な議題を皆と共にしたい。そのために遠方よりお越しいただいた御仁もおられる」
「本来ならばこの村の決めごとの一切は、ここにおる役員の皆でやってもらっていた。
じゃが、今回はことがことだけに、わしらがしゃしゃり出たことをまずは許してほしい」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
戸惑いを隠せない村人たち。
「‥‥では黒板の順に進めていくぞ。よいな?」
こくこく こくこく
コクコク コクコク
こくこく こくこく
「まずは来賓の紹介じゃ。我がサンダー王国の顧問にして、隣領ヴィヨルドの顧問でもあるベルナルド・テンプル老師じゃ」
ガタッ!
ガタッ!
即座に。向かい合う形の村民側の末席。最後方に座るトマト、マイケルの騎士団員が立ち上がり、右手を胸の前におき、片膝をついて恭順の意を示す。
ひそひそ ヒソヒソ
ざわざわ ザワザワ
「(コモン?なんだそれ?)」
「(偉いのか?)」
「どう見ても偉いだろ!ご領主様よりもな!」
「「「ど、ど、どうすれば?」」」
どうして良いかわからず、立ち上がったり、騎士団員の真似をしたりと、ただオロオロする村人たち……。
「よいよい皆の衆。わしはただの通りすがりの年寄りじゃ」
「クックック。そんな偉そうな年寄りがどこにおるか!」
「あーもう神父様ったら冗談は通じてませんよ。それと、あと騎士団のみなさん。村のみんなが驚いてますからね、じっと座っててください」
「「そ、そうか。すまんのぉナターシャちゃん」」
「「は、はいナターシャ様‥‥」」
「改めて皆さんにご紹介するわ。
こちらはベルナルド・テンプル老師。ご覧のようにエルフ族よ。みなさんご存知のあの建国神話、テンプル騎士団の団長。まさにその人よ」
新興国の建国神話。そこに必ず語られるのはテンプル騎士団の活躍。
文字の読めない村人であっても、吟遊詩人の語りに心躍らせた英雄がベルナルド・テンプルである。
「今は老師と呼ばれてるわ。ここにいるサウザニア学園のケイト先生、私、サンデーさんが老師の教え子よ」
「まあそういうわけじゃよ。皆の衆。
この村には旧い友ディルもおるでの。気楽にやってきたわ。
じゃからな、村を護ってくれておる騎士団の若い衆も気にせんと気楽にの」
「「はは老師」」
「もう老師、さっきから話が進まないわ」
「怖い怖い。相変わらずナターシャちゃんは怖いのぉ」
「もう老師ちょっと黙ってて!」
「ワハハハハハ。すまんすまん」
「じゃあ来賓の方々を順に紹介するわよ。
みなさんから見て順にテンプル老師、サウザニア学園のケイト先生、隣のニールセン村のマモル神父、ノッカ村のシスターサリー、サンアレ商会のサンデーさんよ」
「「(サンアレ商会?)」」
「「(サンデー商会じゃないの?)」」
「「「??」」」
「サンデー商会はこの度名前も変わってサンアレ商会になったわ。サンアレのアレはもちろん、この村出身のアレク君のことよ」
ざわざわ
ザワザワ
ざわざわ
「‥‥はいはい、じゃあみなさん来賓の方々に拍手」
ばちばちぱちぱち
パチパチパチパチ
「さて、来賓の紹介も終わったの。ではわしから今日集まってもらった皆に話を‥‥まずは問題提議、現状報告をしていくぞ」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「今この場におる役員の皆、1人残らず全員が真面目に村づくりに励んでくれておることはわしとシスターがよう知っておる。
そして今日お越しいただいた来賓の方々もこの村を良くしたいと願い、わざわざ来てくれておる」
こくこく
コクコク
こくこく
この場にいる村人の誰もが、ディル神父の言葉に頷く。それは誰もが真摯であることの証左。
「じゃが‥‥‥‥ここのおる来賓の方々から、耳を塞ぎたくなる事実を聞いて‥‥‥‥正直、わしは寝れなんだ」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「これから皆にも聞いてもらうが、その苦痛、その恥ずかしさは如何ばかりであるか」
ごくんっ
ゴクンッ
ごくんっ
「シスターナターシャと相談をした結果。敢えてではあるが、来賓の方々から直接皆に話してもらうことにした。
来賓の方々はそんな嫌なことでさえ、わしらの村のために了解してくれた。来賓の方々にはどれだけ感謝しても感謝しきれん」
それはディル神父から発せられる極めて真摯な言葉。村人の誰もが身が引き締まる想いだった。
「皆の衆、心して聞いてくれ」
「ではマモル神父」
「ニールセン村のマモルじや。
デニーホッパー村の皆には、日ごろからわが村と親しくしてくれてありがとう,ありがとう。そんなお前さんたちに嫌なことを告げねばならぬことを許してほしい。それは‥‥」
ごくんっ
ゴクンッ
ごくんっ
ニールセン村のマモル神父から告げられたのは、近年デニーホッパー村に宿泊で訪れると、よく盗難に遭うという話だった。
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「続いてシスターサリー」
「はい。うちののんのん村もねぇ‥‥」
ノッカ村(のんのん村)からも近年デニーホッパー村で度々盗難に遭うようになったと。
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「「‥‥」」
「最後にサンデーさん」
「たいへん言いづらいことですが‥‥」
サンデーも近年のデニーホッパー村の店で起こる事件(婦女子の万引と酒場のツケを払わない等々)を伝えた。
「サンデーさん。ツケを払わん者の最高金額はどのくらいじゃ?」
「最高金額で100万Gほどと聞いております」
「「ひゃ、100万G!?」」
「「うそ!?」」
「「「ひどいな‥‥」」」
「「「‥‥」」」
―――――――――――――――
「ねーシルカさん。サンデーさんはまだ帰ってこないの?」
「もうすぐじゃないっすか」
「だって俺来週から寮の夏合宿だし、そのあとはそのままデニーホッパー村に帰るんだよ?」
「そのうちっすよ」
「えーそうなんだー」
サンデーさん居ないのかよ。なんだか寂しいな。
―――――――――――
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