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第2章 幼年編
696 対善性潜伏の術式
しおりを挟むもうすぐ夏休み。
ハイルがそんなことになってるとはまったく知らない俺は、充実した学園生活を過ごしていたんだ。
今日も放課後の教室で、少しみんなでダベってたんだ。
「もうすぐ夏休みだろ。みんなどうするんだ?」
「今年も同じよ」
「うちも」
「俺も同じだな」
「僕も変わらないよ」
「アレクも今年は寮の合宿に参加できるんでしょ?」
「おぉ、俺も今年は行けるぞ。楽しみだなぁアリシア、キャロル」
「「ねー」」
そうだよ。今年は恒例の男子寮女子寮合同合宿に参加できるんだ。夏の海辺でみんなで楽しく過ごすんだ。
「ずるいにゃアリシア、キャロル」
「「ニシシッ」」
「じゃあ俺らは帰るわ」
「またなモーリス、セバス」
「また明日な」
「俺も狂犬団の部活行くわ」
「キャロルは?」
「先行っててアレク」
「おお」
俺も含めて三々五々、みんなが学園を出たと思ってたんだよね。
でも女子の3人。セーラ、アリシア、キャロルが最後に残ってたんだ。
【 セーラ、アリシア、キャロルside 】
「私も帰りますね」
「待ってセーラ。前から聞きたかったことがあるの」
「キャロル?」
「なんですか?」
意を決して。キャロルがセーラに訊ねた。
「ねぇセーラもアレクのことが好きなの?それとも‥‥ひょっとして、もう付き合ってるの?」
「アレクのことは‥‥もちろん好きですよ。ただ私は女神様に仕える身ですのでアレクと付き合うことはありません」
「そうなんだ……」
セーラの言葉にアリシアとキャロルがホッとする。
「それで聞きたいことはなんですかキャロル?」
「ねぇ‥‥どうしてセーラはアレクと浮いた話もしてないのにあんなに‥‥その‥‥私たち2人よりもシナモンよりも仲がいいの?」
「それは‥‥‥‥そうですね」
少し考えてからセーラが答えた。
「アレクも私も‥‥お互いを家族のような信頼関係にある、と思っているんだと思いますよ」
「どうして?」
「家族?だってアレクはヴィンサンダー領でしょ?」
「違いますアリシア。本当の血族じゃなくって家族みたいな感じっていう意味です」
「そうなんだ‥‥」
「‥‥ってかセーラ、これもずっと思ってたんだけど、あなたたち1年のダンジョンから帰ってきてから変わったわ」
「あっ!それは私も思ってたわ」
「変わった?どういうことですかキャロル?」
これには逆にセーラがキャロルに聞いたの。
「アレクもセーラも2人とも性格からなんか変わった気がするの。自然っていうか、隠し事をしないって言うか……。
でも相変わらずアレクは私たちには言ってない、なんかの隠しごとがあるとは思うわ。
でもねアレクはセーラに、セーラはアレクに話すとき、目で話せてるみたいに思うの。2人だけの世界で」
こくこく
なるほどとセーラが頷いた。
「だから私は1年のときから思ってたの。アレクもセーラもダンジョンで何かあったんだって」
こくこく
「何かあったのセーラ?」
「フフフ。どうでしょうか。ごめんなさい、ダンジョンの話は10傑の仲間にしか話せませんので。
ただキャロルやアリシアも一緒にダンジョンに行けばわかるかもしれませんね」
「「‥‥」」
もうこれ以上はなにを聞いても話さない、そんな雰囲気が2人に伝わった。
「じゃあねセーラ」
「また明日アリシア、キャロル」
ばいばい
バイバイ
―――――――――――
「ハイル様これはね私からハイル様へのプレゼントなの。会えないときはこのペンダントを見て私を思い出して」
そう言ったジュディがハイルの首にネックレスをつけた。
革製の紐の先になにかのコインがぶら下げられている。コインは古銭だろうか。細かな魔法陣のようなものが描かれているが、ハイルは魔法陣そのものを知らなかった。
「おおきになジュディ」
「私だと思って、いつも肌身離さず付けていてね」
「もちろんや」
ジュディ(=サキュバス)がハイルの身につけさせたもの。
それは対精霊、対女神教聖職者など敵対する反悪魔の存在からその存在を隠す、潜伏の術式が魔法陣として描かれたコインだった。
この日以降、ハイルの身から漂う邪悪な悪魔の気配は完璧に消されることとなる。
―――――――――――
「シルカさん久しぶり!ようやく来てくれたね!」
「アレク君久しぶりっす!あっ、違ったっす!アレク会頭これからよろしくお願いするっす!」
「もうやめてくれよシルカさん。俺は昔のまんま、デニーホッパー村の農民の子どもなんだから」
「そうっすね。ちょっぴりえっちな子どもっすよね」
「あわわわっ!」
「それにしてもアレク君、背が伸びたっすよねー‥‥」
―――――――――――
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