アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

694 ハニートラップ 甘々の罠

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 「おっさん今日も来たで。なんかうまいもん食わしてくれよ」

 「おお英雄君今日も来てくれたかい。もちろん、好きなものを頼みなさい」

 「やりぃ!」































 (フッ。たわいもない人族よ)

 元寮生のハイルは着々と「教育」されていった。

 「俺絶対強くなってんねん。けどなぁ‥‥やっぱ模擬戦やりたいなぁ。やってへんけど学級では俺が1番強いもん」

 本人の欲望、本人の意思に適う悪魔の教育はおもしろいほどに成果をあげていた。ハイル本人が喜ぶほどの「成長」となって。

 「フッ。ダメだよ。いいかいハイル君。今はまだ絶対に目立っちゃだめだ。模擬戦なんかはもってのほかだからね」

 「わかってるって。武闘祭までは我慢やろ、おっさん?」

 「そうだよハイル君。英雄には英雄の舞台があるんだからね」

 「うん。わかってるわ」








 「ハイル君、明日は休養日前だろ。今日はこれからおもしろいところに連れていってあげてるよ」

 「おもろいとこ?どこや、おっさん?」

 「フフフ。ちなみにハイル君、君はお酒はどうなんだい?」

 「学園に来る前はたまにこっそり家の酒飲んでたけど、もう長いこと飲んでへんよ。だいたい酒飲むにも金があらへんからなぁ」

 「クックック。そうかい。飲めないわけじゃないんだね。じゃあ酒のあとといえば、お楽しみはなにかわかるかい?」

 「ん?お楽しみ?なんやわからへんなぁ」

 「クックック。大人の男というのはね、酒のあとといえば女なんだよ」

 「お、お、おんなーーー!?」

 「ハイル君、君もあと2年で成人だろ」

 「ま、まあ一応そうやなぁ」
 
 「ハイル君、『英雄色を好む』と言う言葉を知ってるかい?」

 「し、知らんけど‥‥?」

 「英雄に女性はつきものって意味さ」

 「お、女‥‥‥ごくんっ」

 「英雄には自然と女が寄ってくるものさ。英雄がうまい酒や食事を楽しむのも当然だし、いい女を抱くのも当然なんだよハイル君。
 なにせ君は南部の、我がチカワの英雄なんだからね」

 「ま、ま、マジかよおっさん‥‥ごくんっ」

 「今から行く娼館はね、ヴィンランドで1番の店さ」

 「ごくんっ。お、おっさん‥‥お、俺、そ、そんなとこ行ったことあらへんし、さすがにそんなとこに行けるお金も、小銭さえあらへんし‥‥」

 そう言って、ズボンの空のポケットを広げてみせるハイル。

 「ワハハハハハ。なんだそんなことを気にしてたのか。君は英雄なんだぞ。金も女も思うがまま。逆らう奴は斬ってしまえばいいだけのことさ」

 「き、斬る?人を?そんな大そうな!?」

 「何が大そうなものか!英雄の言うことを聞けない奴は正義に反する奴だろう?それは悪魔なんだよ。斬っていいんだよ」

 「そ、そうなんや‥‥。俺、実は人斬ったことあらへんねん。魔獣も人型のゴブリンさえあらへんねん。
 でもな、ちょうど休養日に先輩が獣人の奴隷を斬らしてくれる、言うてはんねんけど‥‥」

 「それはいい機会じゃないか。英雄のハイル君も役にも立たない奴隷を斬って練習をしなくちゃね。
 君が英雄になるための練習に人を斬ることも大事だよ。戦争で悪者を成敗しなきゃいけないんだから」

 「うん!わかったわおっさん!」

 「さあそんなことより早くいこう英雄君。今日は君に初めての味を知ってもらうための日だよ」

 「‥‥‥‥ごくんっ。わかったわ」







 どこをどう進んだのか。いつのまにか。迎えの馬車で領都ヴィンランドの歓楽街に連れられてきたハイルである。

 「おっさん、俺馬車に乗るの初めてやわ」

 「そうかい。そのうち当たり前になるよ。なにせ君は英雄なんだから」

 「そ、そうやな‥‥」

 道中の乗車中も降車後も。行き交う酔客、呼びこみの男も飯盛り女も、2人にはまるで気がつかないことをハイルもまるで気がつかなかった。
 そこに認識阻害の魔法が使われていたことも理解できないハイルである。


 「あら?お久しぶりですね旦那様。いらっしゃーい。ようこそおいでくださいました」

 「やあ女将さん。今日はね、僕の田舎の英雄を連れてきたよ」

 ガタガタガタガタガタガタ‥‥

 産まれたての仔鹿のように。紳士の後ろに隠れるように立ちくむハイル。
 歓楽街に来るのも初めて。もちろん娼館に来るのも初めてである。

 「ごくんっ‥‥」
 
 贅を凝らした門扉から。この屋敷の外観が尋常でない豪奢なことに度肝を抜かれた。そして、その店の格が付近の娼館よりもはるかに高いことはハイルでさえもわかった。

 もちろん今寄宿しているカーマンの屋敷の比ではない……。

 それは一見客が屋敷内を踏み入れることさえあり得ない、高級な娼館……。

 「女将、この子はね僕の町出身なんだよ。いずれ英雄になるハイル君だ」

 「まあ英雄に!素敵ですわ。お初にお目にかかりますハイル様」

 豪奢な娼館で。煌びやかな宝飾で着飾った女将と呼ばれる女性がカーテーシーをしてハイルに礼をとった。暴力的なまでの大きな胸元が強調された衣装で。

 「あうあうあう‥‥」

 どう接していいのかわからないハイル。それでも目線は礼をする女将の豊満な胸元にのみ注がれていた。

 「フフフ。それではハイル様、我が館で1番の娘に案内させますね」

 こくこく  こくこく  こくこく‥‥

 「ジュディ。ハイル様よ」

 「はい女将さん」

 「!!!!!」












































 「フフフ。いらっしゃいませハイル様」

 螺旋階段の階上から。ハイルに向けて妖艶な笑みを浮かべた女性。

 黒いロングドレスを纏ったその女性ジュディ。ハイルには紛うことなく絶世の美女に映った。

 ストレートの長い黒髪はこの世界の男性の憧れを象徴する海洋諸国人のそれ。(といっても妙齢の海洋諸国人の女性自体見たことのないハイルではあるが)

 衣擦れの黒いロングドレスのスリットから覗く艶かしい美脚。目を奪われた女将の胸元にも負けず劣らずの豊満な胸元。切れ長の黒い瞳と血を塗ったかのような真っ赤な唇。

 すっっ  すっっ  すっっ  すっっ

 今か今かと待ちわびる。螺旋階段を1歩1歩降りてくること自体が最高の演出。

 動線すべてがハイルの欲望を具現化した娼妓がジュディであった。



―――――――――――


 「なぁさっき、あそこの空き地に人が入ってかなかったか?」

 「見間違いだろ。あそこは出す店出す店が潰れる呪われた土地だからな。どうせチューラットだろ」

 「そっか」

 「んじゃ次いくぞ次!」

 「「おぉー!」」



―――――――――――


 「なあハイル先輩って最近あんまり見ないよな?」

 「「そういやそうだな」」

 「いいんじゃねぇか。あの人がいない方が俺たちのメシも確保されるし」

 「俺、あのハイルって先輩嫌いなんだよな。いつも文句ばっかり言ってるし」

 「「俺も嫌いだ」」

 「メシが不味い不味いって言いつつ、1番食うしな」

 ワハハハハハ
 わははははは

 「カーマン先輩もよくあんな変な奴誘ったよな」

 「「だな」」

 「突貫使えるから足だけは速いらしいぜ」

 「でもそんだけだろ」

 「まあいいじゃん。なんにせよカーマン先輩の言うこと聞いてたら、俺らも卒業後にはヴィンサンダーの貴族にしてもらえるんだからよ」

 「そういやよ、今度の休養日は度胸試しするって言ってたな」

 「ああ俺も聞いた」

 「獣人の奴隷を斬るんだってよ」

 「獣人だから罪悪感ねぇしってことか」

 「斬るほど強くなるってカーマン先輩も言ってたよな」

 「楽しみだな」

 「「おおよ」」

 ワハハハハハ
 わははははは
 ギャハハハハ


―――――――――――


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